第3章 教科書発行者等による拡大教科書の発行量の確保

1.基本的な考え方

(1)拡大教科書の必要性

○ 高等学校段階においても、弱視生徒が拡大教科書を使用できるような環境を準備することは、教育の機会均等の観点からも極めて重要であり、必要とする生徒に拡大教科書が速やかに、また、確実に給与されるよう措置することが求められる。

○ 多くの弱視生徒に拡大教科書を提供するためには、弱視生徒のニーズをカバーできる拡大教科書が、教科書発行者からできるだけ多く発行されることが求められる。

○ また、一方で、弱視生徒の見え方は多様であるため、教科書発行者から発行される拡大教科書だけでは、すべての弱視生徒に対応することは困難である。したがって、これらの生徒に対しては、学校やボランティア団体等が個々の生徒の見え方などに配慮した個別の拡大教科書の製作が求められる。

(2)拡大教科書の作成

○ 高等学校段階においては、教科書発行者が作成した拡大教科書は未だ発行されておらず、ボランティア団体も小中学校段階の拡大教科書製作に追われている状況にあることなどから、拡大教科書の利用実績も少なく、小中学校段階に比べて、どのように拡大したらよいかの条件や有効性の分析・検証等は十分に行われていない状況にある。
 したがって、高等学校段階において、どのような拡大教科書を作成すべきかについては、本会議においても多角的な方面から議論が行われた。

○高等学校段階において、弱視生徒に提供する拡大教科書は、以下に示す理由から、教科書発行者から発行された原本教科書を単純拡大した拡大教科書(文字の大きさは14~18ポイント程度、以下、「単純拡大教科書」という。)とし、その実現に取り組むべきとする意見があった。

(理由)
  • レイアウトの変更を行うとページ数が増加して、分冊にせざるを得ないが、高等学校の教科書は内容も多いため、小中学校段階に比して分冊数が増えることが予想されること。
  • 高等学校段階の授業展開においては、教科書の章・節や分冊をまたがって使用するなど、その活用方法は多様であり、教員の指示で必要なページや箇所を速やかに探す必要があるため、レイアウト変更した拡大教科書では扱いにくく、単純拡大したものの方が有効な場合があること。
  • 特別支援学校(視覚障害)高等部保健理療科及び理療科(※11)において、使用されている教科書は、文字の大きさが14~16ポイント程度であること。
  • 前述した全国盲学校長会のアンケート調査において、「仮に拡大教科書を提供する場合、どのような教科書が適当か」という設問に対して、文字の大きさが14~16ポイントになるように単純拡大したものがよいとする回答が多数を占めたこと。(※12)

○ また、一方で、以下に示す理由から、小中学校段階と同様に標準規格を策定し、レイアウト変更した標準拡大教科書を発行すべきとの意見があった。

(理由)
  • 単純拡大教科書による14~18ポイントの文字では、例えば、中学校3年生まで(義務教育段階の標準規格の1つである)26ポイントの文字で学習してきたような強度の弱視生徒に対応できないこと。また、文字間や行間も比例して拡大されるため、読書効率が下がるおそれがあること。
  • 本文より小さな文字で書かれている注釈や新出語句、添え字などの文字は読みづらいと考えられること。また、字体がゴシック体に変えられない場合、明朝体では横画が細く誤読の可能性が高まること。
  • 平成12年に行われた、全国の特別支援学校(視覚障害)の中学部・高等部の弱視生徒に対する英語の拡大教材の調査においては、22ポイント、28ポイントのものを希望する生徒が多かったこと。
  • 小中学校の標準的な規格として示された18ポイント、22ポイント、26ポイントの文字サイズは、高等学校段階の弱視生徒にも有効であると考えられること。
  • 単純拡大教科書のうち、B4やA3に拡大したものは判が大きく、持ち運びが不便であること。また、学習の際、机上を占める教科書の面積が広くなり、かなり眼を近付けて読書する弱視生徒の場合、顔の移動距離が大きくなってしまうこと。
  • 複雑にレイアウトされている検定教科書を単純に拡大しただけでは、弱視生徒が教員の指示に沿って必要な箇所を速やかに探すことは困難な場合があること。

○本会議としては、これらの意見及び第2章1.に示した基本的な考え方を踏まえ、高等学校段階における拡大教科書は、標準規格に適合する標準拡大教科書を小中学校段階と同様に提供するとともに、高等学校段階のより一層多様化したニーズにも応えられるように、単純拡大教科書も選択肢として、提供していくことが適当と考える。その上で、希望する生徒に対して教科書発行者等が作成する拡大教科書を提供することを基本とし、高等学校段階における標準規格の策定に向け、実証的な研究に早期に取り組むべきと考える。基本的な進め方としては、小中学校の標準規格に準じた拡大教科書を試行的に発行・供給するとともに、単純拡大教科書についても積極的に活用することにより、高等学校段階のより望ましい拡大教科書のあり方について、実証的な調査研究を行う必要がある。

○ より具体的には、高等学校段階における弱視生徒の最も広範なニーズに対応するため、特別支援学校(視覚障害)高等部で一括採択している普通教科の検定教科書について、小中学校の標準規格に準じた拡大教科書を、必修教科等の需要の高いものを中心に試行的に発行・供給し、高等学校段階における拡大教科書の望ましい体様等の実証データの収集等を行い、これらの成果を踏まえ、文部科学省において、高等学校段階の標準規格を策定する必要がある。

○ また、この場合においては、単純拡大教科書についても積極的に活用することとし、小中学校の標準規格に準じた拡大教科書を使用した場合と単純拡大教科書を使用した場合、視覚補助具等を活用した場合との比較検討なども行い、文字サイズや字体、レイアウトのあり方などについて、研究を進めることが大切である。
 なお、単純拡大教科書については、特別支援学校(視覚障害)以外の高等学校も含め、希望する弱視生徒のニーズに応じて発行される必要があり、これらの高等学校における拡大教科書の教育効果等についても、実証的に調査研究を進め検証を行う必要がある。


※11 特別支援学校(視覚障害)高等部には、専門教育を行う学科として保健理療科や理療科があり、これらの学科は卒業によってあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家試験の受験資格が得られる。ここで使用される教科書については、全国盲学校長会が中心となって「盲学校理療教科用図書編纂委員会」を設け、教科書の基本的仕様を定めている。

※12 「文字の大きさ(14~16ポイント)になるように、検定教科書を単純拡大した教科書を3種類用意」が特別支援学校(視覚障害)69校中37校、「レイアウト変更した18、22、26ポイント程度の拡大教科書」を選択した学校が17校であった。

2.拡大教科書の作成に際し留意すべき点

○ レイアウト変更した教科書を教科書発行者が作成する場合においては、高等学校段階における標準規格の策定に資するものとなるよう、小中学校段階の拡大教科書に係る標準規格を適宜参照することが求められる。また、単純拡大教科書においても、紙質等、可能な範囲で、小中学校段階の拡大教科書に係る標準規格を参考とすることが望ましい。

○ なお、単純拡大教科書に用いる文字の種類は、小中学校段階の標準拡大教科書と同様、ゴシック体が適切であるが、ゴシック体の導入によってレイアウト等が大きく崩れるおそれのある場合には、字体の変更は行わないことも考えられる。この観点からは、今後、文字幅の変わらないフォントの開発が期待される。

○ また、単純拡大教科書の判の大きさとしては、例えば、A5判やB5判の教科書をA4判に拡大したものなどが考えられ、更にこの他に、B4判に拡大したものを作成するような場合には、生徒の持ち運びや実際に支障なく使用できるものとなっているかについて留意する必要がある。

○ 拡大教科書の提供に当たっては、できるだけ効率的にこれを行うため、拡大教科書を必要とする生徒の把握、把握した情報の集約と教科書発行者への提示、教科書発行者からの拡大教科書の提供等に関して、いつ、どのように行うのかを明確にすることが必要である。

○ なお、高等学校段階の新2、3年生については、必要な拡大教科書の把握が秋頃までに可能であり、翌年4月までに提供することができると考えられる。一方で、新1年生については、実態上、需要数の把握が3月頃になる場合があり、4月の入学までに拡大教科書を提供することは極めて難しいケースが考えられる。これについては、拡大教科書を使用している中学校3年生の弱視生徒の状況について、各中学校や市町村教育委員会、都道府県教育委員会等が密に連携して対応するなどして、弱視生徒の学業に支障を来さないように努めることが重要である。

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