○ 高等学校段階における弱視生徒への教育方法・教材のあり方については、後述するように、小中学校段階とは異なる特徴や、各種調査結果等を踏まえ、弱視生徒に対し、教科書に記載された情報を実質的に保障するという基本的スタンスに立ち、弱視生徒への拡大教科書の提供や学校への教科書デジタルデータの提供、視覚補助具や情報機器等の活用を適切に組み合わせることにより、各学校等において様々な工夫が可能となるような柔軟な仕組みを構築する必要がある。
○ 高等学校段階においても、必要とする生徒に拡大教科書を速やかに、かつ、確実に提供することは極めて重要である。しかしながら、拡大教科書の使用効果の検証等が長年にわたり行われている小中学校段階と異なり、高等学校段階については、教科書発行者による拡大教科書の発行が行われていなかったり、ボランティアによる拡大教科書の製作も需要に追いついていないという状態があるため、その分析・検証等が十分に行われていない状況にある。
なお、発達の段階が進むと、読書効率が最大となる文字サイズは徐々に小さくなるという調査結果が見られる。しかしながら一方で、進行性の眼疾患等によって、必要とする文字サイズが大きくなっていく者も見られる点に留意する必要がある。
○ これらの点も踏まえ、本会議としては、学校現場のニーズが高い事項について第一に優先して取り組むとともに、更なる充実に向けた取組については、高等学校段階での実証的研究を積み重ね、教育効果の検証等を早急に行うことが重要であると考える。
○ 弱視生徒の見え方は多様であり、同じ視力値であっても見やすい条件や視野、色覚等の視機能は一人一人異なっており、教科書を用いた学習においても、拡大教科書の使用を必要とする生徒、必要な箇所だけの部分拡大を希望する生徒、ルーペや拡大読書器を有効に活用する生徒、白黒反転した教科書を希望する生徒、通常の検定教科書をそのまま使用する生徒など、生徒のニーズは小中学校段階に比べてより一層多様化する。
○ また、国立特別支援教育総合研究所の調査結果(平成19年8月)によれば、小学校から中学校へと学年が上がるにしたがって、拡大教科書を使わずに原本教科書だけを使ったり、原本教科書と拡大教科書を併用する弱視児童生徒の数が増加する実態がある。この理由としては、中学校段階において当該生徒自身が視覚補助具等の利用の仕方に習熟し、拡大教科書に限られない多様な形での学習が可能になっていることなどが考えられる。
○ 高等学校段階においては、小中学校段階に比べ、生徒が履修する教科・科目等が増加し、検定教科書の種類も更に多種・多様となる。(小学校:293点、中学校:134点、高等学校:926点(※7))
○ さらに、高等学校段階においては、教科・科目の学習内容や教科書に記載された情報量も小中学校段階に比べて大幅に増大し、学習内容も高度化するほか、授業展開も格段に速くなることから、生徒に対しては小中学校段階以上に教科書に記載された情報の読み取りを素早く行うことなどが求められる。したがって、このような学習環境にも耐えうるような拡大教科書等が必要となる。
○ 高等学校や特別支援学校(視覚障害)高等部等の卒業後の社会生活や職業生活においては、様々な視覚補助具や情報機器等を活用するなどして、自らの力で効率的に文字処理等を行うことが求められる。したがって、これらの視覚補助具等を活用して、生徒が主体的に必要な文字等の情報に触れていくことができるような指導が、小中学校段階に比べてより一層必要となる。
○ 高等学校段階においては、義務教育段階と異なり、教科書の無償給与制度が適用されないため、特に高等学校においては、拡大教科書の購入費にかかる生徒や保護者の負担軽減策の検討が必要となる。
○ 平成10年6月、全国盲学校普通教育連絡協議会が実施した調査結果(※8)によれば、特別支援学校(視覚障害)高等部普通科に在籍する弱視生徒の約6割が拡大教科書を希望した。
○ また、平成20年11月、全国盲学校長会が、全国の特別支援学校(視覚障害)の校長に対してアンケート調査を実施した(※9)結果によれば、高等部普通科段階の弱視生徒へ教科書に記載された情報を伝える方策として、現段階で優先して行うべきことは、「ルーペや拡大読書器等を有効に活用して検定教科書を読み取らせること」、「学校に教科書デジタルデータを提供、それを元に学校で教材作成すること」の2つに対する回答が特に多く、次いで「教科書デジタルデータを生徒に提供、生徒がパソコンを使って見ること」についての要望も強かった。
※7なお、検定教科書以外に、文部科学省著作教科書を含めると、983点である。
※8特別支援学校(視覚障害)高等部普通科で弱視生徒377名中、拡大教科書を希望する生徒が215名(57.0%)であった。なお、検定教科書をそのまま利用している生徒225名、教員やボランティアに拡大してもらったものを利用している生徒93名であった。
※9 「学校に教科書デジタルデータを提供、それを元に学校で教材作成すること」が特別支援学校(視覚障害)69校中48校、「ルーペや拡大読書器等を有効に活用して検定教科書を読み取らせること」が47校、「教科書デジタルデータを生徒に提供、生徒がパソコンを使って見ること」を選択した学校が38校あった。(複数選択可)
○ これまでに示した内容を踏まえつつ、高等学校段階の弱視生徒に対する教育方法・教材のあり方については、次の方策を適切に組み合わせて、拡大教科書等の普及充実に向けた実効性のある具体的施策を実施する必要がある。(※10)
○ 上記の3点を中心に、本「拡大教科書普及推進会議」における審議結果を以下に述べる。
※10 また、これらの具体的施策の実施と並行して、高等学校において使用される拡大教科書等に係る財政支援等の検討が必要である。
初等中等教育局教科書課
-- 登録:平成21年以前 --