○ 弱視児童生徒の多くは、通常の検定教科書の活用が困難であることから、学校現場では、検定教科書の文字や図形等を拡大して複製した「拡大教科書」を用いたり、視覚補助具等を活用したりして指導を行っている。
○ 文部科学省では、特別支援学校(視覚障害)小中学部や小中学校の特別支援学級(弱視学級)で使用される拡大教科書に加え、平成16年度から、小中学校の通常の学級に在籍する視覚に障害のある児童生徒に対しても拡大教科書の無償給与を行っている。平成18年度の実績では、小中学校の通常の学級に通う弱視児童生徒634人に対して、11,298冊の給与を行っており、その製作者別内訳をみると、ボランティア団体が81%、民間発行者が14%、教科書発行者が5%となっている。
○ 一方、高等学校段階については、文部科学省が小中学校に対して行った全国調査の結果(※1)や、全国盲学校長会が行った中学校から特別支援学校(視覚障害)高等部へ進学する生徒数の調査結果(※2)などから、特別支援学校の高等部に在籍する生徒を除いて、3学年で約400名程度の弱視生徒が在籍していると推定される。
高等学校段階においては、教科書発行者や民間事業者から発行された拡大教科書は未だなく、現在利用されているものはすべて、ボランティア団体の製作によるものである。なお、一部の地方自治体では、独自の公費負担により、ボランティア団体が製作した拡大教科書を高等学校の生徒に給与しているケースもある。
また、高等学校において実際に拡大教科書を使用している弱視生徒においても、ボランティア団体が製作する分量に限界があるため、依頼していても2、3教科程度しか利用できないケースが見られる。
○また、全国盲学校長会が平成20年11月に実施したアンケート調査の結果によると、特別支援学校(視覚障害)の高等部普通科については、弱視の生徒が3学年で337名在籍しており、そのうち高等学校の学習内容に準ずる内容を履修している生徒は254名である。なお、それ以外の83名については、中学校用教科書や一般図書等を利用していると考えられる。(※3)また、高等学校に準ずる内容を履修している254名のうち、ボランティア団体等が製作した拡大教科書を使用している生徒は21名、教員等が検定教科書を拡大コピーしたものを使用している生徒は61名、目を近づけて検定教科書をそのまま使用している生徒は118名、ルーペや拡大読書器等の視覚補助具を活用している生徒は116名である。現状では、特別支援学校(視覚障害)高等部での拡大教科書の利用頻度は必ずしも高くない状況にあるが、その背景には、高等学校段階において発行されている拡大教科書は未だ無いこと、ボランティアに製作を依頼しても、高等学校と同様に入手困難なケースが少なからず見受けられること等もあると考えられる。
なお、特別支援学校(視覚障害)高等部においては、就学奨励費により教科書購入費が公費で支弁されており、ボランティアが製作した拡大教科書にも適用されている。
更に、特別支援学校(視覚障害)では、小学部段階からルーペや拡大読書器等の使用に習熟できるよう、自立活動(※4)の時間にこれらの機器の活用に係る指導を行うとともに、教科学習の場では児童生徒が主体的にルーペ等を使用して教科書等を読むことができるよう留意した指導を行っていることから、高等部段階においては、ルーペ等の使用に習熟している生徒もおり、これらを活用することによって検定教科書を使用しているケースも多い。しかしながら、ルーペ等を使用して検定教科書を読むときに読書効率が下がったり、身体的疲労を訴えたりする生徒も見られる。
※1 平成17年1月に実施した文部科学省調査では、小中学校(中等教育学校の前期課程を含む)の通常の学級に在籍する弱視児童生徒数(調査時の定義は「眼鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度のもの」)は小学校1,255名、中学校484名の計1,739名である。
※2 全国盲学校長会の調査(毎年4月実施)によれば、中学校から特別支援学校(視覚障害)高等部本科へ入学した生徒は、平成17年度42名、平成18年度61名、平成19年度54名であり、上記※1のように中学校に484名弱視生徒が在籍していることや中学校の特別支援学級(弱視学級)の生徒数などから、高等学校には約400名程度の弱視生徒が在籍していると推定できる。
※3 学校教育法附則第9条で、特別支援学校においては、検定教科書や文部科学省著作教科書以外の教科用図書を文部科学大臣の定めるところにより、使用することができる旨が、規定されている。
※4 特別支援学校に設けられている独自の領域。幼児児童生徒が、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要とされる知識、技能、態度、習慣を養い、心身の調和的発達の基盤を培うことによって、自立を目指すことを目標としている。
○拡大教科書など、障害のある児童生徒が検定教科書に代えて使用する「教科用特定図書等(※5)」の普及促進を図るため、平成20年6月10日、「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」(以下「教科用特定図書等普及促進法」という。)が国会において成立し、同年9月17日に施行された。
同法は、教育の機会均等の趣旨にのっとり、障害のある児童生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等を図り、児童生徒が障害その他の特性の有無にかかわらず十分な教育が受けられる学校教育の推進に資することを目的としており、その主な内容として、以下の事項が規定され、平成21年度において使用される教科書から適用することとされている。
また、同法の附則においては、国は、高等学校における拡大教科書等の普及のあり方等について検討を行い、その結果に基づいて所要の措置を講じることとされており、更に同法の国会附帯決議においても、高等学校における拡大教科書等の普及のあり方の検討に当たっては、その購入費の自己負担の軽減などについて検討し、適切な措置を講じることが決議されている。
○ 同法の成立により、拡大教科書の普及促進に関しては、文部科学大臣がその標準的な規格を策定・公表することとし、各教科書発行者は、それに適合する標準的な拡大教科書(以下「標準拡大教科書」という。)を発行する努力義務を負うこととなった。
さらに、教科書デジタルデータの提供については、教科書発行者に文部科学大臣等へのデータ提供義務が課され、当該提供されたデータをボランティア団体等へ円滑に提供する仕組みを構築することとなった。
※5 教科用特定図書等普及促進法において、「視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため文字、図形等を拡大して検定教科用図書等を複製した図書、点字により検定教科用図書等を複製した図書その他障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため作成した教材であって検定教科用図書等に代えて使用し得るもの」と定義されている。
※6 なお、同法において著作権法の改正も行われ、教科用特定図書等普及促進法に基づき教科書デジタルデータの提供を行う者は、その提供のために必要と認められる限度において、当該著作物を利用できることが規定された(目的外使用の防止についても規定)。
これにより、従来から可能であった、弱視の児童又は生徒の学習の用に供するための教科書の単純な複製に加えて、当該複製のために図や写真等も含めて教科書デジタルデータを提供することについても、著作権侵害とならないことが明らかにされた。
○ これと並行して、平成20年4月21日、文部科学省に、本「拡大教科書普及推進会議」が設置された。
本会議は、視覚障害教育の専門家や教科書発行者、ボランティア団体の関係者等の各委員により構成され、「拡大教科書標準規格」「教科書デジタルデータ提供促進」「高校における弱視生徒への教育方法・教材のあり方」の3つのワーキンググループを設置し、以下の事項について拡大教科書を普及充実するための具体的方策の検討を行ってきた。
また、「拡大教科書標準規格」「教科書デジタルデータ提供促進」の2つのワーキンググループで検討された内容を中心に、平成20年12月5日には、主に小中学校段階を対象とした具体的方策の内容について「第一次報告」を公表したところである。
○ また、「高校における弱視生徒への教育方法・教材のあり方」ワーキンググループにおいては、教科用特定図書等普及促進法の附則に規定された高等学校における拡大教科書等の普及のあり方の検討に加えて、特別支援学校(視覚障害)高等部の弱視生徒に対する教育のあり方も含め、広く高等学校段階における弱視生徒への教育方法・教材のあり方について検討を行ってきたところである。
初等中等教育局教科書課
-- 登録:平成21年以前 --