東京都 筑波大学附属視覚特別支援学校高等部 片岡亮太 先生

筑波大学附属視覚特別支援学校高等部 勤務
片岡亮太 先生

プロフィール

1984年生まれ。静岡県三島市出身。 11歳の時に盲学校の授業で和太鼓と出会う。
2007年 上智大学文学部社会福祉学科首席卒業、社会福祉士の資格取得。
同年よりプロ奏者としての活動を開始。
2011年 ダスキン愛の輪基金「障害者リーダー育成海外研修派遣事業」
第30期研修生として1年間単身ニューヨークで暮らし、ライブ、イベントへの出演や、コロンビア大学内の教育学専攻大学院ティーチャーズ・カレッジにてノン・ディグリー・スチューデントとして障害学を学ぶなど研鑽を積む。

邦楽打楽器(和太鼓、小鼓他)を邦楽打楽器奏者仙堂新太郎、大太鼓を太鼓奏者はせみきた、パーカッションをドラマー・パーカッショニストのヴァンダレイ・ペレイラ各師に師事。

国内外での演奏、指導、講演、執筆、メディア出演など多岐にわたる活動を展開。

■主な出演歴■
2014年6月 沼津ライオンズ主催「献眼運動50周年記念講演・コンサート」に出演
(沼津市民文化センター小ホール)。
2017年1月 共栄印刷株式会社主催「世界遺産薬師寺 健康祈願バリアフリーイベント」
(内閣官房オリンピック・パラリンピック推進本部事務局の委託により、平成28年度オリンピック・パラリンピック基本方針推進調査として実施)にジャズホルン奏者・作曲家の山村優子とのユニットAjarria(アジャーリア)で出演。

2017年 テレビ朝日福祉文化事業団創立40周年記念 「LIVE TOGETHER!」
【品川区立総合区民会館】にジャズホルン奏者・作曲家の山村優子とのユニットAjarria(アジャーリア)で出演。


2018年 藝大21藝大アーツ・スペシャル2018障がいとアーツコンサート
「聞こえる色、見える音」【東京藝術大学奏楽堂】
(東京藝術大学、東京藝術大学演奏藝術センター、東京藝術大学COI拠点主催)に出演。
指揮者梅田俊明氏、藝大フィルハーモニア管弦楽団、太鼓奏者林英哲氏との共演で、松下功作曲〈飛天遊〉を演奏。
その他、各種コンサート、自治体・企業主催のイベント、学校での演奏・講演を交えた舞台等を全国で多数実施。

■主な国際的な活動歴■
2011年6月、カリフォルニア州サンノゼで開催されたアメリカ障害学会
(Society for Disabilities Studies)のオープニングレセプションにて演奏。
2014年5月 日本国内では初の開催となった、世界27か国83の盲導犬育成団体が加盟する国際盲導犬連盟(International Guide Dogs Federation)セミナーのオープニングセレモニーにて演奏。

2016年 初の渡欧となるスペイン、バルセロナでのツアーをジャズホルン奏者・作曲家の山村優子と実施。
スペイン、バルセロナの世界遺産サン・パウ病院内カサ・アジアでの単独コンサートを含む複数のコンサートを開催。
2017年 IBSA Ten pin bowling World Championship 2017のオープニングとレセプションでの演奏。
2018年2月 アメリカ東海岸で活動する和太鼓サークルが一堂に会す「イースト・コースト・タイコ・カンファレンス2018」(ニューヨーク州立ストニーブルック大学にて開催)に講師として招聘されワークショップと講演を実施。
2019年~2020年 在ドミニカ共和国日本大使館を通じて、現地日本人会へ和太鼓3台を寄贈。
2023年 大手スポーツ用品メーカーの世界26か国の代理店関係者が出席するレセプションにて演奏。

■主なメディア出演■
2017年~現在 NHKラジオ第2「視覚障害ナビラジオ」にて、体験リポート企画「亮太が行く!」担当。
2022年4月、NHK総合『阿佐ヶ谷アパートメント』にて、ボディビルダー坂本陽斗氏との一泊二日のキャンプの様子が放送。
2023年5月、NHK総合『阿佐ヶ谷アパートメント』に「筋肉部屋」住人としてタレント・モデル・シンガーの當間ローズ氏と共に出演。

■主な受賞歴■
2007年 和太鼓&篠笛ユニット
「The J.B.'f(ジェービーフ)」で「第4回ゴールドコンサート」グランプリ。
2008年 ソロ演奏で「第4回桂座音楽賞」グランプリ。
2011年 ジャズホルン奏者・作曲家の山村優子とのデュオ「Ajarria(アジャーリア)」で
「第9回Japan Arts Matsuri」タレントナイトにてグランプリ。
2016年 今後の活躍が期待される若手視覚障害者に贈られる「第14回チャレンジ賞」
(社会福祉法人視覚障害者支援総合センター主催)を受賞。
2019年 今後の活躍が期待される若手障害者に送られる「第13回塙保己一(はなわ ほきいち)賞奨励賞」(埼玉県主催)等を受賞。

■指導・教育に関連した活動
2008年~現在 静岡県立沼津聴覚特別支援学校中学部に向けて演奏楽曲の提供及び指導。
2012年~現在 筑波大学附属視覚特別支援学校小学部にて課外活動として和太鼓の指導。
2014年~現在 静岡県立沼津視覚特別支援学校にて、学校評議員(現、学校運営協議員)として学校経営、授業等についての助言、また卒業生として、和太鼓等の指導や講演を実施。
その他、学校・保育園等でのワークショップ開催、和太鼓グループへの楽曲提供や指導を多数実施。

特別非常勤講師として勤務されている先生より

Q:特別非常勤講師として採用されたきっかけ

A:同授業を担当していた前任者が退任するにあたり後任としてご紹介くださり、学校よりご依頼をいただきました。

Q:授業を行うにあたって、特に工夫している点など

A:
1 視覚特別支援学校で学ぶ生徒たちは、「全盲」、「弱視」という言葉だけでは語りきることのできない、実に幅広い、それぞれの見え方の特徴を有しています。そのような生徒たちが、全身を連動させた、躍動的な身体の動きが一つの特徴となる和太鼓の演奏に取り組むうえで、奏法を理解しやすいよう、単に楽器演奏の実践のみの授業を行うのではなく、身体操法を細かく言語化して伝えることや、関連したストレッチ、エクササイズの実施、(可能な範囲で)私が生徒たちの身体に触れること、あるいは生徒たちが私の身体に触れたり、見やすい位置から観察することなどを積極的に行っています。

2 私が指導している筑波大学附属視覚特別支援学校の音楽科で学ぶ生徒の中には、視覚障害と共に生きながら、音楽家として身を立てていくことを目標とする子が少なくありません。そのような生徒たちにとって、全盲の視覚障害者であり、和太鼓奏者/パーカッショニストとして10余年にわたる活動を積み重ねている私の存在は、一つのロールモデルであると認識しています。そのため、私自身の過去の経験、とりわけ失敗や、苦悩から導き出した考えや表現を仕事にするうえで、障害がもたらすネガティブな側面、ポジティブな側面など、
当事者だからこそ共有できることをできうる限り語って伝え、生徒たちの未来に貢献したいと考えています。

3 日本の伝統楽器である和太鼓は、今日、世界中に愛好家がいる、グローバルな打楽器として認識されています。それほどまでに多くの人を魅了し得る和太鼓の魅力はどこにあるのか、私なりに考え、実感してきたものを生徒たちと共有できるよう、それにふさわしい楽曲を生徒たちと共に創作することや、適した既存の楽曲、あるいは私自身が作曲した作品を各年度ごと取り上げること、また、和太鼓を使用した伝統音楽の中で用いられるリズムを紹介することを通じ、古くは各地のお祭りを盛り上げる役割を果たす「祭具」の一部であり、
現在は各種コンサートなどで披露される「楽器」となった和太鼓の様々な側面を体験できる授業を心がけています。

Q:実際に教師として勤務した感想・やりがいや、採用前のイメージとの違いなど

A:
1 様々な生徒たちと関わっていると、演奏技術にたけており、器用に様々なことをこなせる子から、一つ一つの動作に時間がかかり、演奏楽曲の暗譜も得意ではない子など、一人一人の得意不得意に大きな差があることを常に感じます。ですが、一見するとスローペースで取り組んでいる子が、合奏の質を向上させるうえで大切な指摘をしたり、楽曲の分析を鋭く行い、それを言語化して伝えてくれること、また、次年度に向けた曲の捜索の際に、他の生徒を圧倒するほどに活躍してくれることがあったり、あるいは、いち早く曲を覚えた生徒が、
休み時間に他の子のサポートをしている姿を見たりと、学校の現場に入ってみなければわからなかった、生徒一人一人の様々な様子を知ることができ、それは私にとって新鮮な感動をいつも与えてくれます。

2 採用以前から、前任者の授業をアシスタントとして手伝わせていただく経験を、多数重ねてきましたが、実際に指導者として生徒の前に立った時、年に一度の発表の場である演奏会で、生徒たち全員の出しえる力を最大限引き出せるような舞台にすることへの重圧や責任、指導者としての自らの至らなさなど、それまでは感じることのなかった感情を多く味わうことがあり、それは苦しくもありますが、同時に大きなやりがいにもつながっていると考えています。

Q:授業における印象的なエピソード(生徒の反応、出来事、成果など)

A:
1 2020年度、コロナ禍により、授業はもちろん、学校生活における様々な制限の中で窮屈な思いを感じながら日々を暮らしていた生徒たちが、私の授業の際、全力で和太鼓を打ち、汗をかく中で、しきりに「スカッとした!」と語っていたことがありました。また、それ以前の授業の中でも、沈んだ様子で教室に入ってきた生徒が、和太鼓の演奏のために身体を動かし、他の生徒たちと共に合奏する中で、いつしか笑い声を発するようになり、終業時に、「なんだか元気になった」と口にしていたこともあります。パンデミックがもたらした激動はもちろん、思春期ゆえの悩みや、将来への漠然とした不安など、十代特有の心のざわつきを感じているであろう生徒たちにとって、思い切り全身を使って和太鼓を打ち、掛け声を出すことのできる授業は、一種の「発散の場」として、メンタルのバランスを整える機能も果たし得ることに気づかされました。

2 視覚障害のある生徒たちの中には、
成長の中で十分な運動経験を持ってこなかった子も多くいます。そのような生徒たちにとって和太鼓は、安心、安全、かつ独力で全身を大きく動かす経験を得られるツールです。私の授業を通じて、当初と比べて大幅に体力を増進させることができた生徒、試行錯誤をしながら、これまでに経験したことのない身体の動かし方を習得しようと努力を重ねる生徒が多くおり、そんな彼らが年一回の演奏会で成果を披露する姿を見て、他の授業で彼らと関わっている職員の先生方から、「○○さんがあんなに身体を動かせるとは思わなかった」と反応してくださる時、私は大きな達成感を得ています。そう言われるまでに身体を鍛え、工夫を続けた経験は、一人一人の生徒にとって、きっと大きな財産になると確信しています。

Q:学校現場との関わりを持つことにより、ご自身に良い影響を与えたことなど

A:
1 私は弱視で生まれ、10歳の時に失明しました。全盲という障害と共に生きる中で、苦しんだこと、悔しさを抱いたことは枚挙にいとまがありません。それらの経験は、かつての私にとっては痛みであり、振り返りたくない出来事でしたが、「障害者」としての後輩ともいうべき、生徒たちに向けて、私の過去について語ることを通じ、それらの経験が、彼らの未来に貢献し得る、一つの教訓のようなものになり得ると気付いた時、私の中で、あらゆる痛みを意味あるものだったと考えられるようになり、そう感じさせてくれる生徒たちと出会えたことや、指導の場をいただけていることに、大きな感謝を抱きました。だからこそ、今、目の前にいる生徒たちはもちろんのこと、かつての教え子たちに対しても恥じることのない歩みを重ねていかねばと、自らを律する思いを強く抱いています。

2 表現を生業としている者として、活動が安定せず、未来に対する不安を感じる瞬間は多々あります。特に、コロナ禍により、あらゆるコンサートやイベントが行えなかった時期、どのように生活を成り立たせればよいのか、焦りを感じると共に、日本の社会において、文化芸術が果たせる役割はないのだろうかと自身が歩む道に対する存在意義を信じられなくなりそうな瞬間もありました。しかしながら、そのような状況下でも継続させていただいていた授業の際に、教え子たちと会い、彼らが私との時間を楽しみにしてくれている様子に触れたことで、先の見えないコロナ禍であっても、やりがいを失うことなく、その瞬間にできることへ注力していこうと、大いに励まされました。

特別非常勤講師の方の授業を受けた生徒より

生徒A

Q:現在の学年、または御職業

A:高等部音楽科1~3年

Q:特別非常勤講師の先生が、通常の教科担任の先生と違うと思うところ

A:
・先生ご自身の演奏経験から、実践的な練習の方法を教えていただける。
・良い意味で先生らしくなくて人間くさいので(先生方の前では話せないような学生時代のエピソードなどを聞ける)生きる上でのヒントを得られる。
・学校ではないところで過ごす時間が多い方なので、常勤の先生とは違う視点から話してくださるし、刺激を受けられる。
・身体の使い方については、ご自身が全盲なので、全盲ならではの説明が分かりやすい。

Q:その先生についての印象的なエピソードや印象に残った言葉など

A:
・今でも師匠のところに行って全身筋肉痛になったという話を聞くと、「プロ感」が半端ないなと思う。
・「動いていれば生きていける」と言われた事。日常生活で色々とあっても、身体を動かしていれば何とかなると言われて、考えさせられた。

特別非常勤講師の勤務先の先生より

Q:貴校における教育の特徴やアピールポイントなど

A:視覚障害に配慮しながら音楽の専門教育(知識・技能共に)を受けられる事。

Q:特別非常勤講師を採用したきっかけ(特別非常勤講師が必要となった背景や人材をどのように見つけたかなど)

A:
・本校の卒業生でプロの演奏家である。
・前任者の推薦。

Q:特別非常勤講師を採用することで得られたよい効果など

A:
・視覚障害当事者として、ご自分の経験を基に指導していただける事。
※生徒からのコメント参照

Q:今後、特別非常勤講師に期待する役割など

A:
・専門的な知識や技術を持って指導していただくこと。
・生涯に渡って何らかの形で音楽と関わっていくうえでの心構え等を、生徒達に伝えていただけること。
・特別非常勤の先生のネットワークを使って、一流の音楽家に演奏していただける機会を作れること。