はじめに-調査研究の目的と方法-

1. 調査研究の目的
   公立学校は特色ある学校および魅力ある学校となるために、その運営において、自主性・自律性を高め、保護者や地域と連携協力することが求められている。すなわち、「自律的な学校運営」と「開かれた学校づくり」を推進することが必要とされている。
 こうした学校運営にかかわる改革は、中教審答申「今後の地方教育行政の在り方について」(平成10年9月)によって提言されたものであり、その後も、教育改革国民会議報告(平成12年12月)において同趣旨の提言が行われた。さらに平成16年3月の中教審への諮問「地方分権時代における教育委員会の在り方について」では、学校の自主性・自律性を確立するために、校長のリーダーシップ、学校の組織運営体制、学校評価などの在り方について改めて具体的に検討するよう求めている。また、平成16年8月に出された「義務教育の改革案」と同年9月の「第一次まとめ」も学校評議員・学校運営協議会の全国化による学校運営面での開かれた学校づくりと学校評価システムの確立を提言している。
 そのために、国(文部科学省)は、教育特区と研究開発学校において通常の基準の適用されない、自由度の高い学校運営を認めたり、学校運営の研究指定校(「新しいタイプの学校運営実践研究校」)を設けることによって、パイロット的に自律的学校経営づくりと開かれた学校づくりを先導し、新しい学校運営のモデルの開発を試みている。これらパイロット校の学校運営実践における特別な取り組みや成果、見出された課題は、今後の施策づくりや教育行政の支援の仕方を考える上で、またこれからそうした学校運営に着手しようとする他の公立学校にとっても一定の参考になることは言うまでもない。
 しかし、パイロット校の学校運営は、通常の規制が外されて異種の仕組みが適用されたり、その学校のみへの人的・物的支援を受けるなどして行われているものでもある。他の一般の公立学校にはこうした「特別な条件」は用意されていない。特別な条件下にない、つまりそのための推進資源をとくに与えられていない公立学校にとって、パイロット校の学校運営の取り組みや成果・課題は即座に応用することはむずかしく、少なくとも「直接的に」参考にすることはできない。
 保護者や地域に学校の教育活動や運営を開き、自主的・自律的な運営を試みている事例は、何もこれら教育特区の学校や研究開発学校でなければ発見することができないわけではない。最近、各地におけるそうした事例が、教育雑誌や研究者の掘り起こしなどを通して知られるようになってきている。これらの学校は、特別な仕組みや支援を与えられることなく、いわば自助努力で自律的な運営や保護者・地域との連携協力関係をつくり、推進しているのである。それらをこれから導入しようとする一般の公立学校にとっては、「直接的には」むしろ、これら自助努力で行っている学校の運営実践の方法や、成果、課題の方が有用と考えられる。
 そこで、本調査研究は、通常の規制を緩和されたり、特別の仕組みを適用されたり、その学校に対してのみの支援を受けていたりしていない公立学校、つまり「特別な条件下にない」公立学校であって、自助努力で開かれた学校づくりや自律的学校運営づくりを志向し、推進して、一定の成果をあげている「有効な学校運営」の事例を全国の小学校、中学校、高等学校から収集して調査分析し、そして、そうした学校運営の事例集を作成して、それを、これからそうした学校運営に取り組もうとする学校や、それを支援しようとする教育委員会に提供することにより、自律的な学校運営づくりと開かれた学校づくりに貢献することを目的とする。また、併せて、そうした学校運営を導入・推進し、有効に機能させるのに必要な、管理職やミドルリーダーの意識改革や組織マネジメント能力の育成・向上を図る研修プログラムの開発への視点を示す。

2. 調査研究の方法
  (1) 事例校選定の観点
「有効な学校運営」を行っている事例校は、次のような観点をもとに選定された。

    1) 評判の高い成功事例
a 次のいずれかにおいて一定の成果がみられた学校。
  1 教育課程経営への組織的取り組み
  2 生徒指導経営への組織的取り組み
  3 校内研修への組織的取り組み
  4 学校評価への組織的取り組み
  5 危機管理への組織的取り組み(いずれも校内組織づくりを伴う)
  6 学校文化(教師文化)の改善
b 保護者、地域や教職員のあいだで評判の高い学校。ただし、教育委員会、教職員、保護者、地域等のあいだで評判に偏りのある学校は除く。

    2) 「有効な学校運営」の行われている時点
a 原則として、「現在」成果をあげている学校を取り上げる。
b ただし、校長の転出等で変化のあった学校でも、2年前までの成功事例であれば取り上げてよい。

    3) 「一般的公立学校」
a 教育特区、研究開発学校や、学校運営に関する研究指定(「新しいタイプの学校運営実践研究校」など)をとくに受けていない一般の公立学校(「特別な条件下にない学校」)。
b ただし、学力向上フロンティアスクールは含めてよい。
c 「民間人校長」の登用されている学校も除く。
d 要するに、他の学校でも自校の努力で創意工夫をすれば、そのような運営ができると実感できる事例。

    4) 連携校の扱い
a 中等教育学校、併設型中高一貫校は除く。
b 連携型中高一貫校は取り上げてよい。
c 幼小、小中、高大の連携を導入している学校は取り上げてよい。

    5) 「組織マネジメント」手法の採用
a 文科省「学校組織マネジメント研修」で提案した手法(類似のものを含む)を用いて「有効な学校運営」を行っている学校。
b 文科省「学校組織マネジメント研修」で提案した手法以外の組織マネジメント手法を工夫して用いることにより、「有効な学校運営」を行っている学校。

  (2) 事例校選定の方法
    1) 事例校選定のための情報の収集方法
a 各地における教育委員会関係者、校長、研究者等へのヒヤリング
b 教職員の研究会などを通して複数の教職員からの評判を収集
c 調査研究担当者各自の見聞・経験

    2) 事例校選定の手順
a 各調査研究担当者が、居住地域の学校を中心に、事例候補校を2~3校推薦。
b 推薦された学校から、校種、地域、学校規模のバランスを考慮して事例校を決定。

  (3) 選定された事例校数
    小学校11、中学校7、高校6の計24校

  (4) 調査事項
    1 学校の基本特性(児童生徒数、教職員構成、地域性、学科構成など)
    2 校長のリーダーシップ
    3 学校内部組織
      主任制、主幹制
職員会議、運営委員会
校務分掌
教授-学習組織(学習集団)
    4 意思決定の方法
    5 教育委員会との関係(教育委員会の支援など)
    6 保護者・地域との関係
    7 運営管理
人事管理
予算管理・執行
危機管理
    8 学校評価システム
    9 学校文化(教師文化)
    10 組織マネジメント意識や採用されている組織マネジメント手法

  (5) 調査の時期と方法
2004年9~12月に各事例校を訪問して校長等にインタビューし、関係資料を収集した。

  (6) 調査研究担当者
役職等 氏名 勤務先
教授
(代表)
加治佐 哲也 兵庫教育大学学校教育学部
教授 古賀 一博 広島大学大学院教育学研究科
助教授 竺沙 知章 兵庫教育大学学校教育学部
助教授 雲尾 周 新潟大学大学院現代社会文化研究科
助教授 武井 敦史 兵庫教育大学学校教育学部
助教授 別惣 淳二 兵庫教育大学
学校教育研究センター
講師 加藤 崇英 山形大学教育学部
附属教育実践総合センター
助教授 榊原 禎宏 山梨大学教育人間科学部
助教授 南部 初世 名古屋大学大学院教育発達科学研究科
講師 湯藤 定宗 岡山学院大学人間生活学部
助教授 山下 晃一 和歌山大学教育学部
助教授 平井 貴美代 高知大学教育学部
附属教育実践総合センター

3. 報告書の構成
  (1) 事例校の配列
 調査された各事例校はいずれも、それぞれの有する、児童生徒、教職員、保護者、地域の実態・特性、課題やニーズなどの環境条件に応じた学校運営を創造し、推進することによって一定の成果をあげている。成果の見られるそうした学校運営には、校長の強力なリーダーシップ、教職員間の協働、校内組織の活性化、教職員の職能の育成・向上、学校組織マネジメントの発想、学校自己評価システムの構築、教育課程開発、授業づくり、生徒による授業評価、保護者・地域連携の構築、開かれた学校づくり、ポジティブな教師文化の形成などのファクターが共通に見出された。共通に見出されるとはいえ、各章の副題と見出しに表現されているように、力点のおかれたファクターの種類はそれぞれの学校運営によって異なる。
 そこで、本報告書では、見出されたファクターを次の4種類に分類し、各事例校を、どのファクターにウェイトをおいているかによって、いずれかに位置づけて提示することにする。繰り返しになるが、この位置づけはあくまで、各学校運営における相対的なウェイトのおきかたによるものであり、すべての事例校の学校運営にはこうしたファクターのほとんどが共通に含まれていることを強調しておきたい。
 なお、調査した事例校は24校であるが、うち2校は諸般の事情により本報告書に掲載するにいたらなかったので、以下に取り上げるのは、小学校10校、中学校6校、高等学校6校の計22校である。

    1 教育課程開発・授業づくりや生徒による授業評価に力点をおいた学校づくり
神奈川県A小学校
大阪府A小学校
和歌山県A高等学校

    2 教育課程開発・授業づくりや生徒による授業評価に力点をおいた学校づくり
三重県B小学校
和歌山県A小・中学校
和歌山県B中学校
鳥取県A中学校
大阪府A高等学校

    3 学校組織マネジメントの導入や学校自己評価システムの構築に力点をおいた学校づくり
鳥取県A小学校
新潟県B小学校
広島県A小学校
香川県S小学校
兵庫県B小学校
宮崎県B高等学校

    4 開かれた学校づくりや保護者・地域連携づくりに力点をおいた学校づくり
京都府A小学校
山形県A中学校
京都府B中学校
高知県N中学校
宮崎県A中学校
北海道A工業高等学校
山形県A高等学校
愛知県C高等学校

  (2) 各事例校についての記述内容
 各事例校についての記述がそれぞれ1つの章を構成する。
 タイトルや本文記述において、都道府県名は出すが、市町村名、学校名、学校長名、教職員名などの固有名詞は示さない。これらは、A市、B小学校、C校長、D教務主任などと表記される。
 各章の、匿名の学校名の主題の後に、事例校の学校運営の特色を1行で簡潔に表現した副題と、特色を200字程度で表現した見出しが付けられる。
 本文では、1調査の方法(調査時期、インタビュー対象者、収集資料等)と、2学校の概要(学校の基本特性、教育目標・教育課程、学校内部組織と運営方法、運営管理、教委との関係、保護者・地域との関係、学校評価などについての簡単な説明)、の2項目が最初に共通に記される。各章の本体部分である、その後の構成と内容は、各校の特色に合わせて自由につくられる。

  注: 第11章広島県A小学校と第20章北海道A工業高等学校は、文部科学省の「研究開発学校」の指定を受けた学校である。既述のように、本調査研究の本来の対象校は、研究開発学校などではない「特別な条件下にない学校」であるが、これら2校の研究開発学校も含めて調査したので、それらの調査結果も掲載した。この2校については、研究開発学校であることに留意して、お読みいただきたい。

お詫び
 図表中の小文字の判読の難しいところ、図表のずれ、段落の不表示が所々に見られます。これらは、各執筆者の原稿を編集する過程におけるワープロソフトの違いから生じた不具合と点検不足によるものであり、各執筆者と読者の皆さんにご迷惑をおかけすることをお詫び申し上げます。
学校運営改善調査研究会
代表 加治佐 哲也


 

-- 登録:平成21年以前 --