新潟市教育委員会学校支援課
全国学力調査(中学校の国語B問題)を新潟市検証改善委員会で分析したところ、特に注目すべき新潟市の生徒の実態は以下のとおりでした。
新潟市検証改善委員会では、新潟市内の全学校・園の研究主任等を集めて「授業改善フォーラム」を実施し、全国学力・学習状況調査の結果に基づいた授業改善の在り方を考える機会を作りました。その際、指導主事自らが地域の小・中学生に対して提案授業を行いました。
新潟市立西川中学校の1年生と行った授業は、次の単元です。
読み取ったことをもとに自分の考えをもとう
教材;「クジラの飲み水」
教科書の本文と原文との比べ読みにより、教科書の本文には腎臓に関する記述が抜けていることを読み取り、それを載せるべきかについての自分の考えをもつことができる。
単元の概略
提案授業では、まず教科書の本文と原文を比較させ、違いを問うことで、二つの文章の相違点を読み取らせました。前時に原文「クジラは海水を飲むことができるのか」と教科書の本文との相違点を記述させておき、本時では、「教科書の本文と原文では、内容面でどこが大きく違いましたか。」と問い、二つの文章の違いを発表させました。
原文と教科書教材では表現上のものも含めれば、膨大な数の相違点があります。そのため、「腎臓」の記述部分が出るようにと、発問に「内容面で」「大きく」という条件を入れました。ここでは、ある程度の分量がある文章を読み比べて、その違いを読み取る力を高めたいと考え、原文のままを教材としました。
授業の中では、生徒から次の5点が挙げられました。
そのうち、19人の生徒がプリントに相違点として記述した「腎臓についての説明」について考えることにしました。
続いて、原文から省かれた記述の必要性を問うことで、段落相互の関係や筆者の意図、要旨など関連させながら記述の意味を考えさせました。教科書の本文から腎臓に関する記述を省いたことの妥当性を問うことで、思考力を高めようと考えたからです。
授業では「あなたが編集者なら、「腎臓」に関する記述を教科書の本文に残すべきだと思いますか。」という発問で原文から省かれた「腎臓」の記述が必要かを考えさせました。
検討の必然性を生徒にもたせるために、「編集者として」という仮定での検討を促す問いとしました。ここでは、具体的な根拠に基づいた考えをもたせることをねらっているため、その根拠は、内容面からでも形式面からでも構いません。
その後、グループで各自の判断とその理由との整合性を検討させます。具体的には「理由が判断した理由として適切か」を次の点から指摘し合わせました。
グループでの検討を経て、全体での話し合いでそれぞれの思考を深め、最終判断へとつなげていきました。生徒は、次のような発言をしてきました。
「残すべきだ」と考えた生徒は、「クジラにとって大事なことが書かれている。」「腎臓のことが詳しく説明されていて分かりやすい。」「クジラの飲み水のことをもっと詳しく理解できるから。」等の理由をあげていましたが、グループでの話し合いを経て、次のような理由を出してきました。
(理由)
また、「残すべきではない」と考えた生徒は、「腎臓の説明がなくても、内容を理解できる。」「難しい言葉がたくさんあるから必要ない。」等の理由をあげていましたが、グループでの話し合いを経て、次のような理由を出してきました。
(理由)
このように、「腎臓」の記述の必要性を、教材文の中心的な話題や問いかけ文、題名などに基づいて、筆者の意図から考えていきました。
ここまで話し合ったことをもとに、「『編集者なら腎臓に関する記述を教科書の本文に残すべきか』についての自分の考えを書きなさい。」という指示で原文の一部を抜いたことがよかったのかを判断させ、プリントに記述させました。
自分の立場を明確にするとともに、その根拠を書くように指示しました。これにより、挙げられた複数の理由から最善の理由を見付けて、どちらがよいか判断する力と自分の考えを表現する力を高めたいと考えたからです。
授業の最後に書いた生徒の記述をいくつか紹介します。
このように、生徒たちは、教科書の本文と原文との比べ読みによって読み取った腎臓に関する記述を載せるべきかについて決め、自分の考えを書いていきました。これが、授業で目指した「思考力・判断力・表現力」を働かせた生徒たちの姿です。
指導主事の提案授業後、市内の中学校では提案授業の様子を紹介したり、提案を踏まえた授業を実施したりしました。その様子を報告書として提出してまとめました。その記述の一部を紹介します。
前述の各中学校の報告書から、今後の各校の取組予定が見えてきます。その一部を紹介します。
平成20年度に向けて、新潟市内の各学校から研究主題の報告が届いています。その中で、校内研修で「思考力・判断力・表現力等の育成」に取り組む学校が着実に増えてきました。
新潟市では全小・中学校への学校訪問を実施し、授業改善の在り方を考えています。20年度の訪問の際には、その学校では「思考力・判断力・表現力等」をどのようにとらえているのか、その一単位時間の中で「思考力・判断力・表現力等」がどのような具体的な姿として表出されるのかを明らかにし、さらにその力を育成するにはどのような働き掛けが必要なのかを考えていきます。
-- 登録:平成21年以前 --