新潟市教育委員会学校支援課
全国学力調査の結果を、新潟市検証改善委員会で分析、検討しました。その結果、新潟市の算数科の課題は、次の5点であることが分かりました。
この課題を受け、算数科では、学習指導の改善に向けて次のことに取り組むことが大切であることを、報告書として各校に示しました。
併せて、これらのことを具体的に示すために、「授業改善フォーラム2008」を開催し、指導主事自らが提案授業を通して、課題解決の方法を示しました。
(当日提示した指導案は、新潟市教育委員会学校支援課のHP掲載されています。)
新潟市が目指している「思考力・判断力・表現力等」を育てるために必要な授業像を、普段各学校をまわって授業の指導をしている指導主事自らが、実際に提案授業をすることで、これからの授業の在り方を示したいと考えたのです。
その日はじめて出会った5年生の児童たちに、まず次のような課題を提示しました。
手作りクッキーで有名なお店が、こんな広告を出していました。 まわりが30センチメートルになっている、いろいろな型を用意しました。 ゆうきさんは早速100円を持ってお店に行きました。クッキーが大好きなゆうきさんは、なるべくたくさん食べたいのです。でも、ゆうきさんは迷ってしまいました。 |
提示した課題は、まさに新潟市で課題として挙がった「まわりの長さ」を扱ったものです。また、「既習の知識を結び付け、問いが連続する」課題となっています。
算数の問題というと、すぐに「求めましょう」という求答文が頭に浮かびますが、ここでは、「ゆうきさんの迷い」を全員で共有し、そこから算数の課題を導かせたかったのです。これまでのような与えられる課題では、活用する力がなかなか身につきません。
まず、児童たちに起立したまま一斉音読させた後、「ゆうきさんがどんなことに迷っていたのか、分かる人はすわりなさい」と指示しました。
全員がすわりました。これは、どの児童もこれだけの状況を読み取り、ゆうきさんの迷いを共有できたということです。
何人かの児童に聞くと、「どんな形のクッキーを買おうか迷っていた」とか、「どのクッキーの面積が一番広いか迷ったと思う」という反応がありました。面積のことなど一言も言っていないのに、児童たちは自ら、クッキーの形や面積について問題意識をもち、算数の課題を設定しているのです。
提示した四つの形(正方形、正三角形、円、長方形)は、実測値ではありません。そのため、「どの形が一番面積が広そうか」と問うと、「長方形が一番広い」という反応が多く聞かれました。
次に、実測値で自作した四つの図形を提示し、「この他にも考えられる図形はあるのかな」と問いました。提示されている四つの図形以外にも、イメージできる図形を、もれなくあげさせたかったのです。
こうした活動が、「問題解決に必要な条件をそろえ、見通しをもたせること」につながります。
児童たちは、初めに提示した四つの図形(正方形、正三角形、円、長方形)以外に、次の図形をあげました。
平行四辺形 六角形 台形 ひし形 五角形
事前に準備してきた「直角三角形」「二等辺三角形」「一般三角形」も加え、それらをすべてホワイトボードに貼りました。
これらの中で、一番面積が広くなりそうな図形を問うと、「円」や「正方形」という声が聞こえました。確かに並べてみると、そのような感じはします。
「すぐに面積を求められそうな図形はどれかな」と聞くと、「正方形」「平行四辺形」という声、そして逆に「簡単には面積を求められない」図形を聞くと、「円」という声が挙がりました。それぞれについて、どのように求めていけばよいのか、簡単に図を使って説明させました。
普通なら、課題が示された後、すぐに自力解決となるのが常だと思いますが、対象となる図形をたくさんあげさせること、そしてどのように求積するのか、ある程度の見通しをもたせることが必要だと考えたのです。
その後、一番広くなりそうな図形と少し気になる図形の2つを選ばせ取り組ませました。ある程度解決が終わってから、児童が求めた様々な図形の面積をまとめました。
三角形 | 正三角形 42.5平方センチメートル 直角二等辺三角形 50平方センチメートル |
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四角形 | 正方形 56.25平方センチメートル |
五角形 | 求積せず |
六角形 | (正六角形 64.5平方センチメートル) |
円 | 円 71平方センチメートルから72平方センチメートルくらい |
最後に、「これを見て、どんなことが分かるかな」と聞きました。ある児童は、「円の面積が一番広い」と言いました。その考えを認めつつ、他の児童は「だけど、このままだとまだ確実じゃないよね」と切り返しました。
つまり、今調べているのはあくまでサンプルでしかないことを印象付けたかったのです。「同じ三角形でも面積が違う」という反応もありました。
ここで、正六角形の面積を求めていた児童に、結果を発表させました。
「正六角形は64.5平方センチメートルでした」という発言後、「みんなはまだやっていないようだけど、正五角形の面積がどのくらいになりそうかな」と問いました。
「六角形より小さくなると思う。なぜかというと、三角形は四角形より面積が小さいから、五角形は六角形よりも面積が小さいと思う」と発言しました。
表を見て、何かしらの規則性に気付いたのです。
この学習をやってみると分かりますが、まさに総合的な算数的活動です。
例えば、円の直径を303.14と計算しても、当然そこでは答えを四捨五入していくこと、つまり「まるめていく」思考が必要になります。面積の比較という目的からすれば、計算のささいな結果などは、実はどうでもいいことなのです。
そして、図形の中には、実際に作図してみないと求積できなかったり、そもそも作図自体が難しい図形もあったりします。
さらには、まわりの長さから、求積に必要な辺などを求めていく逆思考を促す課題となっています。
このようなことを体験させることこそ、実は全国学力調査B問題に対応する思考力・判断力・表現力を付けさせていくためには必要なことなのです。
指導主事からの提案授業後、市内すべての小学校(114校)において、提案を踏まえた授業を全教職員(保護者の授業参観で行った学校もある)に公開したり、当日撮影したDVDの授業映像を見て校内研修をしたりして、そのときの様子を報告書として提出していただきました。
参観者の声として自由記述してもらった中には、次のような記述がありました。
また、実際に授業を受けた児童からは、次のような声が届きました。
今年度(平成19年度)、新潟市内の各学校においては、教育委員会と連携した個別的な取組はしていません。しかし、報告書の「今後、どのようなことを改善していくか」の内容(次に紹介)を見ると、これからの方向性が垣間見えてきます。
平成19年度は、特にB問題に対する問題点を明らかにして、新潟市検証改善委員会が中心となって、授業改善に取組みました。指導主事の提案授業を研究主任等に公開し、その後、各校の実態に合わせた公開授業を他の教職員や保護者、地域の人々にも見ていただきました。
各校の声の中には、「基礎ができていないと難しい授業」というものもありました。こうした意見に対しては、次のような指導を行っていくつもりです。
平成20年度、検証改善委員会では、今回提案した内容と同様な「思考力・判断力・表現力を育てる授業」プランを、他の学年でもできないかを探っていきます。
また、各学校においても、これまで以上に、思考力・判断力・表現力等の育成に結び付いた研究主題が多くなっていくことが予想されます。
新潟市では、平成20年度も全小中学校に指導主事が学校訪問を行います。
その中で、思考力・判断力・表現力等の育成に結び付いた授業が提案されていくことを、大いに期待したいと思います。
-- 登録:平成21年以前 --