学校改善支援事業における取組例;香川県検証改善委員会学力調査を指導改善、学力の向上に活かすためのサイクルの確立-学力向上推進委員会による市内の各校の成果と課題の共有を通して-

香川県 丸亀市教育委員会

本校の概要

 丸亀市は、香川県の海岸線側ほぼ中央部に位置し、北は瀬戸内海に面し、塩飽の島々が点在し、陸地部には讃岐平野が広がっています。人口は約11万人であり、県内2番目の規模です。平成17年3月に、1市2町が合併し、市域・人口とも拡大しました。
 市内には18の小学校(児童数:6,911人)と8つの中学校(生徒数:3,135人)があります。市街地、近郊地区、農村地区、島しょ部など、自然的・社会的環境により、学校の規模・生徒数・校区の様子も多様です。道路の整備、それに伴う大規模店舗等の増加により、全体的に児童生徒数は増加傾向にあります。
香川県丸亀市

丸亀市における学力調査の結果に対する分析と課題

 10月の結果の提供を受け、学力調査については、各教科の平均正答率を領域ごとに全国および県と比較するとともに、文部科学省から示されている結果の概要を基に、市全体の概要を教科ごとにまとめました。次に、市の各教科設問別調査結果より、平均正答率が70パーセントを下回る設問を抽出し、その出題の趣旨から学習指導の改善につながる学習活動や思考の類型を整理しました。
 また文部科学省の課題と指導改善のポイントと比較しながら、市全体の課題を整理しました。結果、計算をしたり自分の考えを書いたりすることなど、知識・技能については概ね理解していることが明らかになりました。しかしながら、与えられた条件に即して文章を書いたり、必要な情報を選択して考えをまとめたり説明したりするなど知識・技能を活用する力に課題があることが明らかになりました。
 以上の内容を下表のように整理し、11月の校長会で説明しました。併せて各校で各校の結果を分析し、学習指導改善への活用を指示しました。

 児童生徒質問紙調査結果については、望ましい回答と見なした2つの選択肢の割合について全国比プラスマイナスに整理し、丸亀市の概要を分析しました。小学校では、読書・国語の授業における学習の仕方・総合的な学習の時間についての意識などがよい傾向として出てきていましたが、家庭での学習習慣・地域での活動・体験活動などには課題が見られました。中学校では、生活習慣・学校での学習習慣・学習に対する期待度などについてはよい傾向として出てきていましたが、家庭での学習習慣・学習意欲・地域との関わりなどについては課題が見られました。
 また丸亀市の結果から、項目と学力調査結果との相関が明らかに見られる項目を小学校37項目、中学校30項目抽出し、さらにその内容を「生活・生活習慣」「学習習慣」「学習意欲・学習志向」「態度・志向」「学校生活」に分類・整理し、今後の教育実践の参考資料として12月の校長会で報告しました

児童質問紙学力との相関(小学校)の一部

丸亀市における学力調査の結果に対する分析と課題

 丸亀市では、平成17年度より市の学力調査を実施しており、県の学習状況調査も併せて、それらの結果をどのように分析・活用し、指導改善と学力の向上につなげていくかが大きな課題でした。そこで、19年度は、全国学力・学習状況調査の実施にあたり、県の香川県検証改善委員会による学校改善支援チームの派遣を受け、『学力・学習状況調査を指導改善、学力の向上に生かすためのサイクルの確立』をテーマとして取組ました。
 取組みの経過は、次のとおりです。
取組みの経過

実践1 学力向上推進委員会について

 丸亀市教育委員会主催により、年2回学力向上推進委員会を実施し、学力向上についての研修および情報交換を実施しています。対象は、各校の現職教育主任(研究推進委員)や教頭等です。
 平成18年度、学力の向上に成果を上げている学校は、1学力の客観的な把握(県の学習状況調査・丸亀市学力調査)→2自校の課題の明確化→3目標の設定→4方法の設定→5実践→6評価・分析→次のサイクル、というサイクルで実践していることが明らかになりました。つまり、市や県の学力調査を児童生徒の学力の現状把握の指標として活用し、課題を明確にしていると同時に、取組の検証の指標として活用していくことが重要であるということです。
 そこで、平成19年度は特に学校での学力調査の分析・活用方法に焦点を当てて実施しました。
 1回目(8月)は、市学力調査結果および県学習状況調査結果からみた学校の課題と結果の活用方法について情報交換を行いました。各校とも学力調査結果から自校の課題を焦点化し、その解決に向けて取り組んでおり、お互いの実践に学ぶことができ、今後の実践につなげるよい機会となりました。しかし、調査結果を指導改善につなげるための効果的なデータの分析方法という点では、課題が残りました。
 2回目(1月)は、県の香川県検証改善委員会による学校改善支援チームの派遣を受け、1全国学力・学習状況調査結果の多くのデータをどう分析し活用するか、2市全体の課題である知識・技能を活用する授業の在り方、の2点について研修・情報交換しました。
 データ分析については、学校改善支援チームから、専門的な方法の教示をいただきました。また、各校の現状を【課題】【分析】【共有】【活用】の点から情報交換し、よりよい実践を共有しました。

以下が、各校の取組みのうち、参考となる実践をまとめたものです。

【課題】

  • ◆全職員の課題意識の共有化。
  • ◆全職員で検討・見直し、共通理解すること、またそれを速やかに行える体制づくり。
  • ◆「知識・技能の活用力」を高める指導。
  • ◆習熟度の低い層への指導が「教師の指導の工夫」ではなく、「大量の学習プリントを与える」にならず、学習意欲につながるものとならなければならない。
  • ◆提供が早くなれば、十分に分析し、活用する時間が確保できる。
  • ◆仮説に基づいた調査が有効であるので、期待正答率等が示される必要がある。
  • ◆生徒質問紙の個人データがないため、教科との関連した指導ができない。

【分析】

  • 正答率、設問別、領域別の分析。
  • 設問別に県や全国と比較し、低正答率の問題を洗い出し、分析。
  • 県学習状況調査、市学力調査、定期試験等、他のデータとの比較し分析。
  • 正答数分布グラフから傾向分析。
  • 個の誤答分析から個の課題分析。
  • 正答率60パーセント以下、無答率20パーセントを上回る問題を抽出し、分析。

【共有】

  • 担任、現職教育主任、管理職で、観点別に分析し、全体で共有。
  • 課題のあった問題を全員で解く。
  • 学年ごと、教科ごとの指導の重点を明確にし、共有。
  • 担当の分析に基づき、担任・少人数が、課題と授業の方向性について検討。
  • 課題を明確にし、指導改善のポイントを教科のねらいに沿って明確にする。
  • 自校の分析結果の総括的な内容と指導改善の方向を文章で保護者に通知。
  • 個票送付→指導方針の周知→学級PTAで説明。
  • 他の調査や学校評価の視点とも併せてチームで検討し、本年度の取組の妥当性の評価と、今後の重点の確認。

【活用】

  • 分析し課題と重点指導ポイントをまとめる。
  • 課題から、教科ごとのつけなければいけない力を明確にし、重点指導ポイント表にまとめる。
  • 重点指導すべきところを年間指導上に明記する。
  • 6年だけでなく、全ての学年段階で「付けなければならない具体的な力」→「その力を育てる単元名」→「力をつけるための取組」を明確にし、まとめる。
  • 課題→研究授業→研究・共有。
  • 課題のある「読む」について習熟度別指導や授業モデルを活用した実践を行う。
  • 「活用」に関する問題集等の収集。
  • 分析結果から一人一人に対して「これからの学習へのアドバイス」を作成し、個人へフィードバックする。
  • 学習規律徹底のルールづくり。
  • 学習習慣育成のための学び合いモデルの見直し。

 2回目は、各校の結果の分析・活用における課題や優れた取組を共有できたと同時に、市全体の課題である知識・技能を活用する力をつけるための授業へ意識を向ける点で、有意義でした。

学力向上についての研修および情報交換

実践2 全国学力・学習状況調査結果の分析活用事例 -丸亀市立城西小学校-

 第2回学力向上推進委員会での情報交換のうち、全国学力・学習状況調査の分析・活用例として、丸亀市立城西小学校の事例を紹介します。

【分析・共有】

城西小学校では、結果の受領を受け、

  • 1問題の抽出と領域の分析・・・〔現職教育主任(研究主任)〕
  • 2結果からの課題と今後つけなければならない学力の明確化・・・〔学力部会〕
  • 32を受け、全ての学年での単元の洗い出し・・・〔全員〕

という手順で、分析・共有を行いました。

 学力向上推進委員会では、多くの学校の課題として、調査結果の学校全体での共有が挙げられていました。つまり、課題意識が小学校では小学校6年生担任に、中学校では国語と数学の教科担当教員に限られがちになるということです。
 そこで城西小学校では、対象である6学年だけでなく、調査結果をすべての学年にフィードバックし、それぞれの学年でのつけたい力を明確にし、単元の洗い出しを行いました。
 具体的な分析と今後の取組例を、次に紹介します。

全国学力状況調査からの本校の課題分析(国語)

国語の課題3「目的や課題に応じて情報を取り出し、文章の内容を的確に押さえながら要旨をとらえる力」を受けての今後の取組

全国学力状況調査からの各学年の取組(国語)

算数の課題2「問題文での数量の関係をとらえて立式する力」を受けての今後の取組

学力部会 全国学力・学習状況調査からの各学年の今後の取組(算数)

【活用サイクルの確立】

 また、城西小学校では、全国学力・学習状況調査を契機として、市と県の学力調査等も含め、学力調査を実態の把握および指導の検証として位置づけ、活用のサイクルを計画しています。

実践3 全国学力・学習状況調査結果の活用事例 -丸亀市立飯山中学校-

 第2回学力向上推進委員会においては、市全体の課題である知識・技能を活用する授業の在り方についても情報交換を行いました。
 各学校のそれまでの授業実践の中においても、思考力や表現力の育成をねらって、知識・技能を活用する授業に取り組んでいました。そこで、その中から知識・技能を活用する授業を持ち寄り、今後の授業改善のポイントの焦点化を図りました。
 丸亀市立飯山中学校においては、『生徒の学ぶ意欲を高める「新たな発見と感動」のある授業づくり -習得型と探究型のバランスのとれた指導法の開発を通して-』を研究主題として、授業改善に取り組んでいます。生徒が獲得した知識を活用することによって、新たな知識を生み出し、他者と交流する経験をくり返す、いわゆる「探究型」の授業をバランスよく取り入れることで、「新たな発見と感動」のある授業づくりを目指し、生徒の学ぶ意欲を高めたいと考え、上記の研究主題を設定しています。そして、すべての教科が「習得型」と「探究型」の授業を意識し、1時間の授業あるいは単元の中に取り入れたり、くり返したりする指導が行われています。数学科では、「習得型」と「探究型」をつなぐ「活用型」の授業も実践されており、その実践例が紹介されました。
 3年数学「図形の相似」の授業では、既習事項を活用して校舎の高さを測定しました。生徒が既習の知識・技能をもとに次の4つの測定方法を考え、グループごとに実際に計算します。その後、互いのグループの方法のよさを認め合いました。

  • A:三角定規(直角二等辺三角形)と縮図を利用
  • B:分度器と縮図を利用
  • C:写真と比の性質を利用
  • D:校舎と人の影を利用

 実生活に即した課題に対して、学んだ知識・技能を活用し解決する中で、活用する力の育成を図ることをねらっています。さらに活用する中で、知識技能の習得にフィードバックすることにもつながります。

  • ◆題材;図形の相似
  • ◆本時の学習指導
    • (1) 目標
      • 縮図や比の性質などを利用して、校舎の高さを求めることができる。
      • グループごとの求め方を比較し、他のグループの求め方の良さをまとめることができる。
    • (2) 準備物 定規、三角定規、分度器、方眼紙、電卓
    • (3) 学習指導過程

実践の成果と課題について

【成果】

  • 各学校においては、市・県の学力調査の活用が課題であったが、全国学力・学習状況調査の実施にあたり、学力向上推進委員会を調査結果の分析と活用に絞ったため、各学校の取組も焦点化したものとなった。
  • 各校の課題と成果を共有する中で、課題は「全学年・全教科での共通理解」等、どの学校もほぼ共通していることが明らかになった。そのため、課題解決のためにどのような取組が効果的であるかが明確になり、共有することができた。
  • 各校へ返却された全国学力・学習状況調査のデータは膨大であったが、学校支援チームにより具体的なデータ分析の手法の教示を受け、今後の活用に向け参考になった。
  • 学力調査を状況の把握、学習指導の検証として活用するSPDCAサイクルへの意識が高まった。

【課題】

  • 全国学力・学習状況調査(4月)の実施にあたり、県学習状況調査(4月)、市学力調査(1月)の3つを実施している。実施そのものの検討を含め、学校や児童生徒の負担になることなく、それぞれが補完しあい効果的に学力の向上と学習指導の改善につなげられるようなサイクルの確立が必要である。
  • 知識・技能を活用する授業については、各校の取組を持ち寄り情報交換したが、共通理解を図ることはできなかった。今後各学校での実践を進めていく必要があるが、同時に、これまでの実践を知識・技能を活用する授業という観点から見直し、整理する作業も必要になってくると考える。
  • 同時に「活用する力」という言葉に踊らされ、自校の児童生徒の実態を見誤った指導に陥ることがないよう、まずは児童生徒の実態をしっかり見取り、指導することが重要である。そのためには、自校の学力調査結果をしっかり分析し活用していくことである。

-- 登録:平成21年以前 --