学校改善支援事業における取組例;香川県検証改善委員会全国学力・学習状況調査の結果公表後の観音寺市の取組について

香川県 観音寺市教育委員会

本校の概要

 現在の観音寺市は、平成17年10月に旧観音寺市、大野原町、豊浜町の1市2町が合併して新しくスタートしたものです。南は讃岐山脈を境に徳島県、愛媛県と接し、西は瀬戸内海の燧灘に面し、北東部は三豊市と接している香川県西端の小都市であり、西讃における産業、経済、文化の中心地域となっています。(図1)
 かつては、漁業、水産加工業、農業等が盛んで、学校周辺には田園が広がっていました。しかし、近年は大型量販店の進出や工業団地への各種工場の誘致に伴う校区外への住宅移動、市外からの転入、大規模な県営団地の新設等による住民の転出入が目立つようになりました。そして、このことに起因する地域住民の人間関係の希薄化が地域の教育力の低下等につながり、本市の教育課題となっています。
 そこで、新観音寺市がスタートして以来、市教育委員会では、新しい時代を切り拓く心豊かでたくましい子どもを育成してくために、「ふるさとを誇りとし、夢と大志をもって、より良く生きようとする力」を学校教育の重点目標に掲げています。地域住民の力を借りて実践するふるさと教育やキャリア教育を学校教育の基盤の一つとしてとらえながら、地域から信頼される学校づくりと児童生徒の「生きる力(確かな学力・豊かな心・健やかな体)」の育成に取り組んでいます。
図1 本市の位置

学力調査の結果に対する分析

 全国学力・学習状況調査については、10月末の調査結果の提供を受けて、市教育委員会が独自に調査結果の分析を行ったところ、次のような課題があることがわかりました。

(1)学力調査の結果分析から

  • 1 県に比べて個別の支援が必要な下位集団の割合がやや多いこと。
  • 2 小学校では無解答率が低いが、中学校では高くなる傾向があること。

(2)質問紙調査の結果分析から

  • 1 学校で好きな授業がある子どもの割合が国や県に比べて低いこと。
  • 2 家庭学習の時間が不足していること、また、身の回りのことを自分でする児童の割合や家の手伝いをする児童生徒の割合に課題が見られることから、家庭での生活習慣を見直す必要があること。
  • 3 地域が好きで、地域の行事に積極的に参加していますが、普段、近所の人にあいさつする児童生徒の割合が小さいこと。

検証改善サイクル事業について

(1)本市の改善計画

 上記の分析結果とこれまでの各種調査研究の課題から、本市では特に学習意欲の向上と基礎基本の確実な定着をめざした取り組みの必要性を強く感じました。そこで、まず学校における指導方法の改善と家庭学習の習慣化をねらい、次のことに取り組むことにしました。

  • 1 調査結果の分析、検証の方法を、市内の小中学校で統一することにより、それぞれの学校が、自校の課題をより明確に把握できるようにすること。
  • 2 テーマに迫る具体的かつ効果的な取組を市内の小中学校で共有すること。
  • 3 観音寺市教育センターの中学校区教育開発研究委員会で、家庭学習の習慣化のための家庭との連携の在り方について、就学前(保・幼)、小、中の一貫した研究を推進すること。
  • 4 各学校が独自に作成している家庭学習の手引きを収集、集約し、市として「家庭学習の手引き」を作成した上で、家庭への普及・啓発に努めること。

 これらの取組をすべて年度中に実施するには期間が短いために、検証改善サイクルに基づく研修計画(図2)を作成し、年度末までに12の取組を行うことにしました。その中で、香川県検証改善委員会に対して、専門的な知識や技能を有する学校改善支援チームの派遣を依頼し、より正確な調査結果の分析・検証方法の習得と各学校が行った改善策や次年度の方向性についての指導、助言を受けることにしました。
図2 本市の検証改善サイクルに基づく研修計画

(2)学校改善支援チームの支援

【研修1】 平成20年1月15日(火曜日) 市内小中学校教頭研修会

 すでに各学校では、それぞれ独自に調査結果を分析し改善に取り組んでいる時期ではありましたが、自校の課題をより明確に把握することを目的として、分析、検証方法について改めて研修しました。参加対象者を教頭としたのは、市内のほとんどの学校で、全国学力・学習状況調査の学校担当者が教頭であったこと、各学校で検証改善サイクルを強力に推進することをねらってのことです。
 学校改善支援チームの香川県教育委員会義務教育課主任指導主事からは、まず、県が行う学習状況調査の結果の分析と活用の方法から、全国学力・学習状況調査の結果分析の視点について説明がありました。点数や数値ではなく、分析の観点ごとに結果を考察し、解釈することが必要であること、提供されたデータを組み合わせることにより、どのような子どもがどのような学力を形成しているかを実測値で知ることができ、分析を進めることで、子どもの姿が明らかになってくること等がわかりました。また、表計算ソフトの機能を効果的に活用した分析方法を紹介していただきました。何より個々の子どもたちの姿が分かるのは学校だけであり、その姿から学校として指導の改善に取り組むことの必要性を示唆していただいたことは、本市のねらいと合致しており、意義深い研修となりました。

【研修2】 2回目 平成20年2月15日(金曜日) 市内小中学校現職教育主任研修会

 全国及び香川県の学力・学習状況調査の結果等を各学校がどのように分析し、どう改善したか、また本年度の現職教育の取組の成果と課題、次年度の現職教育の計画等を、互いに交流及び協議することで、各学校の今後の指導の改善に寄与することを目的として、現職教育主任を対象に次のような日程及び内容で研修会を開催しました。

時刻 内容 備考
15時~15時10分 趣旨説明 観音寺市教育委員会学校教育課
15時10分~16時15分 グループ別協議
  •   1グループ5~6校(司会1名、記録及び報告1名)
  •   指導者(学校改善支援チーム)
    • Aグループ 香川大学教育学部教授
    • Bグループ 県教委義務教育課主任指導主事
    • Cグループ 県教委義務教育課主任指導主事
【進行】
  • 1  グループ内での自己紹介(5分)
  • 2  各学校の取組状況について口頭で説明(各校5分程度)
  • 3  グループ内での自己紹介(5分)
  • 4  各学校の取組状況について口頭で説明(各校5分程度)
    •   全国学力・学習状況調査の結果をどう分析し、どう活かしたか。
    •   本年度の現職教育の成果と課題
    •   次年度構想
  • 5  質疑応答、情報交換(20分)
  • 6  指導・助言(10分)
16時15分~16時25分 グループ別協議の報告
  •   1グループ3分程度
16時25分~16時40分 学校改善支援チームからの指導・助言
  •   調査結果の活用について
  •   学習状況調査結果等の分析・検証に基づいた指導方法を改善するサイクルの確立について

 中学校区を考慮してグループを編成したことにより、中学校の現職教育主任が校区内の小学校の取組を知るよい機会となりました。また、小グループによる討議を中心とした研修にしたことで、活発な情報交換、意見交流ができました。
 学校改善支援チームからは3名の指導者の派遣を受け、グループ討議で各学校の取組や悩み等に対して、丁寧に指導・助言をしていただくとともに、全体指導では資料や掲示物を用いて、調査結果の活用方法や検証改善サイクルの確立に向けた具体的な計画の立て方等、分かりやすく説明していただきました。参加者からは「各学校の取組が分かってよかった。参考になるものもあったので次年度の取組に生かしたい」、「次年度はPDCAサイクルをしっかり意識して計画を立て、職員会で提案したい」等の感想を聞くことができました。

小中学校における取組事例

(1)学校における指導方法の改善の取組(観音寺市立一ノ谷小学校)

1 授業改善の取り組み(学び合う場の充実)

 関わり合いながら学ぶ学習過程(主体的な思考の場である『ひとり学び』、他者との関係を結ぶ『二人のタイム』、自己認識の変革の場となる『みんなのタイム』)を日常の授業実践に意図的に組み込み、友達の発言に関わる力や学習内容にかかわる力の育成を図りました。
 学び合う場で培いたい力を「友だちの発言に関わる力(たずねる・確かめる・認める・促す・整理する)」「学習内容に関わる力(意見と事実を区別する・理由づける等)」に焦点化し、関わりを深めるための文型等を例示することで、児童相互の学び合いが確立しつつあります。また、学習意欲を高める教師の関わりやより考えが深まるような支援のあり方を明確にしたこと、また学びの技術を次の学習に活用させるよう意識したことにより、児童生徒が課題解決をめざして、より積極的に活動する様子がみられるようになりました。

2 学びの素地をつくる教育課程外の活動(文化的学校風土の醸成)

 児童の学習意欲の高まりを持続させるためには、文化的な学校風土を醸成することが効果的であると考え、教育課程外の活動として次のようなことに取り組んでいます。

ア 百人一首(図3)

 百人一首の暗唱に意欲的に取り組む児童を育成するために、6年生が全校朝礼や校内放送で季節の百人一首を紹介したり、校内掲示等で環境整備などを行いました。その結果、6年生は50パーセント以上の児童が100首、全校生では50パーセント以上の児童が20首以上暗唱できるまでになりました。

イ インド式計算法(図4)

 インド式計算法は、今、世界的にも注目を浴びており、その独特な計算法で簡単に答えを導き出すことで、算数学習が本来もつ、規則性を見出す楽しさやできた喜びを味わいながら、算数好きな子どもに育てることを目的としています。3~6年生は、インド式計算法のなかの10台の九九の計算法に取り組んでいます。校内掲示をしたり、全校集会で計算法を説明したりしました。冬休み明けには、全校で約20名の児童が11の段~19の段までの九九を3分以内で暗唱できるようになりました。習得できると日常生活のなかでも数に関する見通しがもてるのではないかと期待しています。

ウ 音読発表会(図5)

 表現力を高めたり、子どもたちの声を鍛えたりするために行っている音読発表会では、発表者だけでなく、聞き手を育てる場にもなっています。
 上記ア~ウのような活動を通して、学校の中に、目的に向かって自分を高めていこうとする学校風土が醸成されようとしています。
図3 下級生に百人一首を教える6年
図4 掲示物を見て九九を暗唱する児童
図5 2年生の音読発表

3 基礎学力を補填する教育活動

 一人一人の学習進度に応じた支援をするために、次のような取り組みを行っています。

ア 生き生き学習

 1~4年生の全児童を対象にして、週に2回(火曜日・木曜日)、朝登校した児童から算数プリント、かたかな、ローマ字等学年に応じた問題を解き、担当教師が丸付けをしています。まちがえた問題は、その場で解き方を教え、つまずきの早期発見と対応で基礎学力の定着を支えています。
 5、6年生は希望者を対象にして、週4回(月曜日・火曜日・木曜日・金曜日)、放課後(15時30分~16時30分)に生き生き教室で児童の実態に応じた内容の学習を行っています。「いきいきファイル」(図6)を利用することで担任との連携を図るとともに、児童が達成感や成就感を感じられるように工夫しています。
図6 いきいきファイル

イ 繰り返し取り組む月末テスト

 単元ごとの基礎的な学力がどれくらい定着しているかを把握するとともに、目標をもって粘り強く学習に取り組む態度を育成することをねらいとして、毎月末に漢字と算数のテストを実施しています。児童には3回のチャンスを設けるなど、繰り返し取り組めるように工夫しており、全児童を合格させるという気持ちで教師集団も児童を支援しています。さらに、結果を集計してデータを残し、個のがんばりや伸びを把握し、指導に生かせるようにしています。今ではどの学年も達成率はほぼ90パーセントをこえています。

(2)望ましい生活習慣や家庭学習の習慣の確立をめざした取組(観音寺市立紀伊小学校)

1 「家庭学習の手引き」等の利用を通して

ア 「家庭学習の手引き」の利用

 家庭学習に何をしたらいいかという家庭からの声に答え、学習意欲と質の向上を目指すために低、中、高学年の発達段階に応じた「家庭学習の手引き」(図7)を作成しました。よりよいものを目指し、必要に応じて見直し、修正しています。
図7 家庭学習の手引き

イ 「自主勉強コーナー」の設置

 児童玄関前に「自主勉強コーナー」を設置し、児童の家庭学習ノートを提示しています。児童が自由に閲覧できる環境をつくることで、個々の家庭学習の工夫を全体に広め、家庭学習に対する意欲を高めることをねらっています。

ウ 「家庭学習がんばりカード」の活用

 毎月1回家庭学習がんばり週間を設定し、1週間の家庭学習の様子をカードに記入させています。このがんばりカードを活用することで、児童の家庭学習に対する保護者の関心を高めたいと考え、全学年で取り組んでいます。

エ 全校で取り組む「全校九九カード」・「全校たし算・ひき算カード」

 基礎基本の確実な定着をねらって、2年生以上の学年が、「九九カード」と「くり上がりのあるたし算・くり下がりのあるひき算カード」に取り組んでいます。児童は家庭で練習した後、校長先生や学級担任にテストをしてもらいます。低学年の内容で取り組みやすいことと教師が意図的に励ましの言葉を継続してかけることによって、算数が苦手な高学年の児童でも一生懸命になってがんばる姿がみられるようになりました。

2 保護者への啓発

ア 「ステップアップ通信」による情報発信

 これまで発行していた「学校だより」や「学級だより」の他に、保護者に対して児童の家庭学習のさせ方をアドバイスするために、新たに「ステップアップ通信」(図8)を発行することにしました。家庭での親子の話題として、学校でのできごと以外に家庭学習の内容を取り上げてほしいという学校の願いを込めています。
図8 ステップアップ通信

イ 学級PTAでの学年の目標づくり

 家庭学習の習慣化のためには、生活リズムの安定が不可欠です。そこで、生活習慣調べを通して実態を把握し、その結果をもとに学級PTAで、話し合ってもらい学年の生活目標を設定していただきました。これにより、児童や保護者に望ましい生活習慣について意識づけを図ることができました。

  •   学級PTAで決めた学年の目標
    1年 親子で時間を決めて寝る準備をする
    2年 お風呂は午後8時までに済ませる
    3年 寝るときには読み聞かせをする。
    4年 午後9時30分には布団に入るよう声をかける。
    5年 親子でスケジュールを決めて計画的に過ごす。
    6年 早めに布団を敷き、時間が来たら消灯する。

成果と今後の課題について

(1)成果

  • 1 学校が自校の取組をよりよいものに改善していくためには、それまでの取組を正しく評価することが必要になります。これまでは、県が行っていた学習状況調査の結果を、それぞれの学校が独自の方法で分析し、自校の取組を検証していました。今回、全国学力・学習状況調査の結果の提供をきっかけにして、香川県検証改善委員会から学校改善支援チームを派遣していただいたことにより、より効果的な分析、検証の方法を知ることができ、かつ市内の小中学校でそれを共有することができました。このことは、今後の本市の教育改革を推進していく上で大きな成果の一つと考えています。
  • 2 今回、現職教育主任を対象にした研修会を学校改善支援チームの力を借りながら、市教育委員会としてはじめて実施することができました。現職教育主任は各学校の研究を推進する中心となる教師であり、その教師が互いの取組や推進する上での課題等について情報交換や意見交流することは大変有意義であることがわかりました。次年度も継続して開催したいと考えています。
  • 3 本市では、全国及び香川県の学力・学習状況調査をそれまでの学校の取組を評価する一つの指標としてとらえ、PDCAサイクルに基づく教育内容の改善に各学校が主体的に取り組んでいこうとする機運が高まりつつあります。

(2)課題

  • 1 全国及び香川県の学力・学習状況調査の結果を経年比較することにより、本市の児童生徒の学力や生活の実態をより正確に把握し、今後の教育施策を講じていく必要があります。
  • 2 全国及び香川県の学力・学習状況調査の結果によって明らかになった課題を、調査対象の学年及び教科だけの課題としてとらえることがないよう、学校や教員への指導を継続して行う必要があります。結果を地域の課題としてとらえ、就学前(保・幼)、小、中、高の一貫した教育を研究実践することが、やがては大きな成果につながるだろうと考えています。
  • 3 児童生徒質問紙調査で明らかになった課題を改善するためには、家庭の協力や地域の支援が不可欠なものもあります。そこで、今後さらに市教育委員会として、広報やホームページ、教育講演会等あらゆる手段を講じながら学校、家庭、地域の役割と責任を明確にするとともに、互いに協力して子育てができるような環境づくりを推進していく必要があります。

-- 登録:平成21年以前 --