「かながわの学びづくり」-学校・家庭・地域で育てよう子どもたち-

神奈川県検証改善委員会

はじめに

 全国学力・学習状況調査の結果等を分析・活用することで、教育委員会や学校における効果的な取組みや課題を明らかにし、改善につなげるため、教員養成大学等と連携して詳細な分析を行った。
 そして、学力調査の結果を踏まえて、課題を改善するための具体的な手立てを示すために、学校改善支援プランを作成した。

1 検証改善委員会の体制について

 神奈川県検証改善委員会は、横浜国立大学准教授である池田敏和を委員長、同大学准教授である青山浩之を副委員長として、神奈川県教育委員会の指導主事等を中心とした行政関係者9名、県内の公立小学校の校長1名、中学校の校長1名の計13名の検証改善委員から構成される委員会である。
 9月に検証改善委員会の第1回会合を行い、1月までに5回の委員会を開催し、学校支援プランをまとめた。

2 学校改善支援プランの概要

 神奈川県検証改善委員会では、全国学力・学習状況調査の目的を踏まえ、定量的な面だけでなく、全体的な視野に立ち、総括的な提言ではなく、指導内容の改善に役立つ提言をすることを基本認識とし、神奈川県(横浜市、川崎市を除く)の結果について、次の3点に焦点を当てて分析を行った。

  • (1) 教科に関する調査(以下「学力調査」とする)に関して、基礎・基本の定着を意図したA問題、活用力を意図したB問題に分け、国語、算数・数学において、どのような設問の正答率が低く、今後どのような指導の工夫・改善が求められるか。
  • (2) 質問紙調査に関して、全国の結果を踏まえ、神奈川県の特徴はどういう点にあるのか、また、今後改善すべき点は何か。
  • (3) 質問紙調査と学力調査との相関について分析し、家庭での学習、学校での学習において、今後、どのような点に焦点を当てて指導することが必要か。

 こうした分析から、教科の今後の指導への示唆を中心に、児童・生徒への指導、並びに、家庭への働きかけ、学校運営等について、次のような提言をまとめた。

1 教科等の今後の指導への示唆について

1 国語

  • 生活に生きる言語の能力を支える観点を大切にする
  • 「話す・聞く」学習を通して、自ら「発信できる」子どもをはぐくむ
  • 「書く」学習を通して、自ら「考えて表現できる」子どもをはぐくむ
  • 「読む」学習を通して、「論理的に考える」子どもをはぐくむ
  • 表現や理解の基礎として、言葉や文字の学習を大切にする
  • 自ら情報を活用し、発信できる子どもをはぐくむ

2 算数・数学

  • 形式的な知識でなく、知識を獲得するプロセスを大切にする
  • 進みながら戻ることで、基礎・基本の繰り返し学習を行う
  • 学び合いの質を高める工夫を大切にする
  • 実生活と関連を図った指導で、考える力に焦点を当てる

2 質問紙調査の結果から得られる示唆について

1 児童・生徒への指導、家庭への働きかけについて

  • きまりを守ること等の指導の充実を図る。
  • 望ましい生活習慣を身に付けることの大切さについて指導の充実を図る。
  • 個に応じた家庭学習の在り方を家庭と連携して検討を行う。

2 学校運営について

  • 教員同士の学び合いに焦点を当てた研修の充実を図る。
  • 考える力と学び合いを中心に据えた少人数指導の充実を図る。
  • 児童・生徒の授業評価を取り入れた授業研究を推進させる。
  • 地域と連携した指導のさらなる充実を図る。

3 その他特徴がみられた内容について

  • 教員の年齢構成別割合、教職経験年数別割合を生かした研修の在り方を検討する。
  • 支援教育の推進と充実を図る。

 この提言について、平成20年1月に「かながわ学力向上シンポジウム」を開催し、研究成果の普及を図るとともに、学力向上に向けた情報交換を行った。
 また、成果を学校改善支援プラン(教職員向けリーフレット及び保護者向けちらし)にまとめ、今後の学力向上への指針を提言をすることができた。

<課題>

 本調査結果の発表等については、シンポジウムが平成20年1月、学校改善支援プランが3月と時期が遅いため、まだ十分に周知が図られていない。したがって、平成20年度の全国学力・学習状況調査の調査結果への反映は困難であり、今後の普及・展開が待たれる。この学校改善支援プランを活用し、各学校・市町村教育委員会等がどのように学力向上への具体的な取組を推進していくか、また、経年変化がどのようになるかに注目していくことが肝要である。
 また、本調査は学力の一部であることから、他の学習状況調査等の結果を含め、総合的な分析を基に学力向上を図っていくことが大切と考える。

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 各調査の領域ごとの平均正答率は、小・中学校の国語(話すこと・聞くこと、書くこと、読むこと、言語事項)、算数(数と計算、量と測定、図形、数量関係)、数学(数と式、図形、数量関係)のすべての領域で、全国公立学校の平均正答率と比較して、ほぼ同程度の結果であった。

(小学校・国語A)

 児童の平均正答率が81.1パーセントであり、相当数の児童が今回出題している学習内容を概ね理解していると考える。全国公立学校の平均正答率と比べ、ほぼ同程度の結果であった。

(小学校・国語B)

 児童の平均正答率が63.0パーセントであり、知識や技能を活用する問題の正答率は知識に関する問題の正答率より低い。全国公立学校の平均正答率と比べ、ほぼ同程度の結果であった。

(小学校・算数A)

 児童の平均正答率が81.1パーセントであり、相当数の児童が今回出題している学習内容を概ね理解していると考える。全国公立学校の平均正答率と比べ、ほぼ同程度の結果であった。

(小学校・算数B)

 児童の平均正答率が63.6パーセントであり、知識や技能を活用する問題の正答率は知識に関する問題の正答率より低い。全国公立学校の平均正答率と比べ、ほぼ同程度の結果であった。

(中学校・国語A)

 生徒の平均正答率が81.1パーセントであり、相当数の生徒が今回出題している学習内容を概ね理解していると考える。全国公立学校の平均正答率と比べ、ほぼ同程度の結果であった。

(中学校・国語B)

 生徒の平均正答率が72.0パーセントであり、知識や技能を活用する問題の正答率は知識に関する問題の正答率より低い。全国公立学校の平均正答率と比べ、ほぼ同程度の結果であった。

(中学校・数学A)

 生徒の平均正答率が70.3パーセントであり、基礎的、基本的な知識や技能を更に身に付けさせる必要がある。全国公立学校の平均正答率と比べ、ほぼ同程度の結果であった

(中学校・数学B)

 生徒の平均正答率が60.6パーセントであり、知識や技能を活用する問題の正答率は知識に関する問題の正答率より低い。全国公立学校の平均正答率と比べ、ほぼ同程度の結果であった。

 神奈川県として特徴的な結果が出た問題は次のとおりである。

  • 正答率が全国公立学校の正答率よりやや高かった問題(計1問)
    • 中学校・国語A 漢字を読む(草木が繁茂している)
  • 正答率が全国公立学校の正答率よりやや低かった問題(計4問)
    • 中学校・国語A 「枕草子」の冒頭を書く(春は__。)
    • 中学校・数学A 直方体において、与えられた面に垂直な辺を書く
    • 中学校・数学A 直方体において、与えられた辺とねじれの位置にある辺を書く
    • 中学校・数学A 反比例の表を完成する

4 学校改善支援プランについて

 3で述べた分析結果を受け、子どもたちの「学ぶ力」を育てるために、期待される指導や働きかけを、2で示したような項目にまとめた。
 また、「指導の工夫・改善のポイント例」を掲載することで、より具体的な取組を示すとともに、「児童・生徒の授業評価を取り入れた授業研究の推進」「地域と連携した指導の充実」を図ることが大切であることも示した。
 保護者向けのリーフレットでは、子どもたちの学びをより確かなものとするための次のとおり提言をまとめた。

  • (提言1)
     望ましい生活習慣を身に付けることが大切
  • (提言2)
     規範意識を育てることが大切
  • (提言3)
     家庭学習を習慣付けることが大切

 その上で、「家庭へのワンポイントアドバイス」を示して、具体的な取組を促した。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 平成20年1月16日に「かながわ学力向上シンポジウム」を開催し、基調提案、パネルディスカッションを通し研究成果の普及を図るとともに情報交換を行った。参加者は約350名であった。また、同日に行われた全県指導主事会議で、調査結果に関する解説を行い、学校改善支援プランの趣旨についての理解を図った。
 報告書(概要版)については、同シンポジウム資料とするとともに、1月に県内全小・中学校及び特別支援学校に配付した。また、政令市を除く全教職員に配付した。
 学校改善支援プラン教職員用については、県内全小・中学校及び特別支援学校並びに政令市を除く全教職員に配付した。また、学校改善支援プラン保護者用については、県内全小・中学校及び特別支援学校並びに、政令市を除く全小・中学校及び特別支援学校の全家庭並びに全教職員に配付した。
 さらに、学校改善支援プランの趣旨については県内全小・中学校及び特別支援学校教職員に配付している「平成20年度学校教育指導の重点」にも反映させるなど、県と連携して調査結果の普及・展開を図っている。
 なお、神奈川県では平成20年度の新規事業として「かながわ学びづくり推進事業」を立ち上げ、学校改善支援プランの普及と検証のための学力向上支援連絡協議会の設置、学校・家庭・地域の教育力の向上に向けた「学びづくりシンポジウム(仮称)」の実施、学校と家庭の連携による実践研究を行う「かながわ学びづくり推進地域研究委託」が計画されている。

6 おわりに

 「教育実践の検証改善のために『RPDCAサイクル』が有効だと考えます。」「学力向上には『知・徳・体』のバランスのよい育成が大切です。」「望ましい生活習慣、学習習慣が身に付けられるよう、様々な経験・体験活動の充実が求められます。」「魅力ある授業づくり、学校づくりのために、学校、児童・生徒、家庭、地域が一体となった取組が重要だと考えます。」ということを、学校改善支援プランのまとめとして示している。
 各学校において、これらの理念を学習活動をはじめ学校運営の充実に生かすことができるよう、具体的な実践研究を続けていくことが大切である。

<かながわの学びづくり>
(教職員用)
(保護者用)

http://www.pref.kanagawa.jp/sosiki/kyouiku/4012/index.html(※神奈川県ホームページへリンク)参照

-- 登録:平成21年以前 --