「検証改善サイクル」の確立を目指して-「分かる授業」づくりの推進-

新潟県検証改善委員会

はじめに

 新潟県教育委員会では、平成16年度と平成18年度に、県独自の「全県学力調査」を実施し、児童生徒の基礎・基本の定着状況を把握し、県及び市町村ごとの学力実態を明らかにした上で、問題点とその改善策を報告書にまとめた。
 これを受けて、市町村教育委員会や各学校においては、自校の学習内容の定着度を把握し、特徴的な傾向を分析するなどして、児童生徒にとって「分かる授業」づくりに努めてきた。
 このような流れの中、平成19年度は、新潟県検証改善委員会を組織し、全国学力・学習状況調査結果を分析し、授業改善のための支援プランを作成した。

1 検証改善委員会の体制について

 新潟県検証改善委員会は、教育庁義務教育課長を委員長とし、県教育委員会の指導主事など行政関係者7名、県内の公立小・中学校の校長及び教諭14名、大学教官2名の計23名から構成される。
 本委員会の中に、文部科学省から当検証改善委員会に提供されたデータを統計的に分析するため、特に大学教官を中心としたワーキンググループを設け、4回にわたりデータ分析とその検討を行った。
 10月10日に第1回会合を行い、2月まで計3回の委員会を開催し、学校改善支援プランをまとめた。

2 学校改善支援プランの概要

 まず、教科に関する調査結果については、小・中学校とも、全国の平均正答率と同一、もしくはやや上回っていることから、本県児童生徒の国語と算数・数学の学力は、全国水準を確保できているものと受け止めている。また、記述問題に対する無解答率についても、ほぼすべての項目で全国平均より低くなっていることから、各問題に対して粘り強く取り組もうとする児童生徒の姿がうかがえる。
 しかしながら、全国の傾向と同様に、知識・技能を活用する力がまだ十分に身に付いていないことなどが課題として明らかになった。

教科ごとの平均正答率
  小学校・国語 中学校・国語
新潟県 全国 新潟県 全国
A問題 82.8パーセント 81.7パーセント 83.0パーセント 81.6パーセント
B問題 64.0パーセント 62.0パーセント 73.0パーセント 72.0パーセント

  小学校・算数 中学校・数学
新潟県 全国 新潟県 全国
A問題 82.1パーセント 82.1パーセント 72.2パーセント 71.9パーセント
B問題 63.6パーセント 63.6パーセント 60.6パーセント 60.6パーセント
記述問題の無解答率
  小学校 中学校
全項目数 61 100
無解答率が全国を下回る項目数 61 96

 次に、児童生徒質問紙調査結果については、「朝食を毎日食べる」等の回答率が全国を上回り、基本的生活習慣についてはほぼ望ましい状況にあることが分かる。

朝食を毎日食べている(小学校6年生)

 一方、国語や算数・数学の勉強が「好き」と答えた児童生徒の割合は全国平均を下回っており、児童生徒の学習への興味・関心を高める授業づくりのため、今後、一層努力していく必要があると言える。

国語の勉強が好き(小学校6年生)

 これらを受けて、学校改善支援プランは、教科ごとに課題を三つずつ挙げ、学習指導改善のための指導のポイント、改善に向けた指導例を掲載した。また、質問紙調査結果について、全国と比較して、新潟県の特徴を明らかにした。

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 調査結果の分析にあたっては、次のような視点で行った。

  • (1) 教科に関する調査に関して
    • 1 全国の結果と比較して大きく落ち込んでいる調査項目
    • 2 大きな落ち込みは見られないものの、本来、教科として達成率が高くあってほしい調査項目
  • (2) 児童生徒質問紙調査結果に関して
    • 1 全国の結果と比較して、より望ましい傾向が見られるもの、あるいは望ましくない傾向が見られる調査項目と、正答率との関係
    • 2 全国の結果と比較して大きな違いは見られないものの、本来あるべき望ましい児童生徒の姿が見られる調査項目と正答率との関係

 調査分析の方法は以下のとおりである。

  • (1) 教科に関する調査に関して
    • 1 正答率、正答数分布グラフ、設問別正答率と無解答率・プロフィールの分析
    • 2 教科全体の正答率と設問ごとの正答率からの全体分析
  • (2) 児童生徒質問紙調査結果に関して
    • 1 すべての質問項目と正答率との相関係数による分析
    • 2 調査項目ごとの全国との比較分析

教科調査に関する課題

 教科に関する調査結果において、本県児童生徒には次の点に課題が見られた。

<小学校・国語>

  •  話の要点を聞き取り、効率よくメモを取ること
  •  情報から必要な事柄を取り出し、注意点として書き換えること
  •  二つの文章を比べて読み、共通する書き方の良さや工夫を評価すること

<中学校・国語>

  •  効果的なインタビューの仕方について理解していること。
  •  文学作品を評価しながら読み、作品の展開や心情の変化に着目して朗読すること
  •  複数の資料を比較しながら読み、資料に表れているものの見方や考え方をとらえ、伝えたい事柄や考え方を明確にして書くこと

<小学校・算数>

  •  伴って変わる二つの数量の関係を表にまとめ、変化の規則をよみとること
  •  よみとった計算の工夫を異なる数値の問題の解決に適用して説明すること
  •  買い物の場面から情報をよみとり、百分率を用いて問題を解決すること

<中学校・数学>

  •  具体的な場面で、連立二元一次方程式を立式すること
  •  自然数の性質に関する説明を基に発展的に考え、その結果を説明すること
  •  日常的な事象の特徴を理想化や単純化してとらえ、数学的に説明すること

質問紙調査に関する課題

 一方、質問紙調査結果において、本県児童生徒に次の特徴が見られた。

  •  国語や算数・数学の授業内容がよく分かる児童生徒の割合は全国平均を上回っているが、国語や算数・数学の勉強が好きな児童生徒の割合は、全国平均を下回っている。
  •  国語や算数・数学の勉強が好きな児童生徒、よく分かると答えた児童生徒の方が国語や算数の正答率が高い傾向が見られる。
  •  授業時間以外に2時間以上勉強する児童生徒の割合は、全国平均を下回っている。
  •  1日当たり2時間以上、テレビやビデオを視聴する児童生徒の割合は、全国平均を上回っているが、テレビやゲーム時間について家の人とルールを決めている児童生徒の割合は全国平均を下回っている。
  •  全国の傾向と同様に、家でも学校の宿題をする児童生徒、平日の学習時間が多い児童生徒の正答率が高くなる傾向が見られる。
  •  新潟県の児童生徒は「朝食を毎日食べる」「毎日、同じ時刻に寝る」「毎日、同じ時刻に起きる」の各項目で、全国平均を上回っている。
  •  「総合的な学習の時間」で、新しいことを発見できると思う児童生徒の割合は、全国平均を上回っている。「総合的な学習の時間」で学習したことは、役に立つと思う児童生徒の割合は、全国平均を上回っている。
  •  学習塾に通っている児童生徒の割合は全国平均を大きく下回っている。
  •  全国の傾向と異なり、学習塾に通うことと正答率との間には、はっきりした関係は見られない。

4 学校改善支援プランについて

 教科に関する調査結果から見られた特徴的な課題に対して、指導のポイントを明らかにし、具体的な改善事例を示した。

<小学校・国語 指導のポイント>

  •  目的を明確にして、メモの特性や方法を理解させるとともに、メモを基に発表したり書いたりする具体的な言語活動を充実させる。
  •  聞き手を意識して分かりやすく話すことを大切にした指導をする。
  •  資料を基に文章を書く活動などを行う際に、目的や相手を明確にして、条件に応じて適切に書き換えることを大切にする。
  •  資料を基にそこから情報を取り出して自分の考えを表現するために、資料を正しく読み取る指導を十分行う。
  •  観点を設定し、複数の文章や資料を比較して読み取る指導を大切にする。
  •  複数の文章や資料を比較し、共通点や相違点などを見付けるとともに、その内容や表現を評価したり、建設的に批判したりして読むことを大切にする。

<中学校・国語 指導のポイント>

  •  複数の問いを分類し、順番を検討する活動を通して、質を吟味し、より質の高い問いを設定する指導を行う。
  •  教育活動全体を見通した意図的・計画的な指導計画の作成を大切にする。
  •  教師やプロの朗読を聞かせることによって、朗読のよさや醍醐味を実感させ、間の長さや音の高低・テンポ等の朗読技術を身に付けさせる指導をする。
  •  「読むこと」の領域において、文学的文章のみならず、様々な文種で文と文との関係を正確にとらえさせる指導を大切にする。
  •  図やグラフなどの資料や文章を、読む目的や読み取りの観点を明確にして読み取らせる指導を大切にする。
  •  伝える必要があることを落とさずに表現に盛り込むことや、それが相手によく伝わるような表現の工夫を繰り返し指導する。

<小学校・算数 指導のポイント>

  •  身の回りの事象から伴って変わる量と変わらない量を発見したり、確かめたりする指導を大切にする。
  •  関数の指導では、児童が集めたデータを表やグラフに表す活動を充実させる。
  •  表を縦や横に見ながら数値を関係付けてみる経験の充実を図る。
  •  表で見つけた変化が事象のどの部分なのかを考え、グラフのどこに表れているのかを考えさせる指導を行う。
  •  100のかたまりを利用した計算を発見し、体験させる指導を大切にする。
  •  位を意識させ、計算の仕組みに目がいくようにする指導の充実を図る。
  •  問題文の数量を絵や図、表で表し、その関係を考えさせる指導を繰り返す。
  •  具体的な数の計算で多様な見方や考え方を広げる指導を大切にする。
  •  いきなり式をかかせるのではなく、問題場面を絵や図に表して整理し、その意味を正しく理解させる指導を、低学年から計画的に行う。
  •  割合が使われている問題場面において線分図を活用して具体的にイメージさせる指導の充実を図る。

<中学校・数学 指導のポイント>

  •  文章題の中から数量関係をよみとり、数学的に表現する場を段階的に繰り返す指導を大切にする。
  •  方程式に表された数量や数量関係を、文章問題として表現する場を設定する。
  •  文字式を用いて数の性質や数量の関係を表すことについての理解を深める指導を大切にする。
  •  問題の条件を変えて、発展的に考える視点を示し、生徒が新たな性質を発見できるような指導を工夫する。
  •  表や式などを用い、具体的な事象を扱いながら、未知の部分はどうなるのかを考えさせる指導を大切にする。
  •  答えを導き出す際に、与えられた情報を基に、未知の部分を予想し、その根拠を述べさせる指導を重視する。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 学校改善支援プランは、その周知・活用を図るため、報告書を作成した。また、報告書の活用を図るため、報告書の内容の抄録を掲載したリーフレットもあわせて作成した。
 報告書及びリーフレットは各市町村教育委員会及び全小・中学校に配付し、活用を図るよう指導した。
 平成20年度は、学校改善支援プランの実践と、成果の普及を行うモデル校として小学校3校、中学校6校を指定し、支援プランを活用した学校改善に取り組むこととしている。
 なお、この活用、普及事業は、新潟県小学校教育研究会、新潟県中学校教育研究会に再委託し、同研究会の組織を活用して、公開研究発表会を開催するなど、その取組の成果の普及を図ることとしている。

作成したリーフレット

6 おわりに

 新潟県教育委員会は、これまでも独自の全県学力調査結果の客観的データに基づいて基礎・基本の定着状況を把握し、問題点や課題を明らかにして「分かる授業」づくりを進めてきた。今後は、更に、全国学力・学習状況調査結果を分析し、各市町村教育委員会や各小・中学校が、自校の児童生徒の状況を把握し、学校改善のサイクルの確立に向けて、一層充実した取組を進めるよう教育事務所等の学校訪問を活用して指導していくこととしている。

(参考)

 検証改善委員会で作成した報告書は、新潟県教育庁義務教育課のホームページに掲載している。

-- 登録:平成21年以前 --