千葉県検証改善委員会
千葉県検証改善委員会は、東京大学教育学部に本部を設置し、千葉県教育委員会の指定を受けて、研究者グループによる「全国学力・学習状況調査」の分析を行っている。分析の主な目的は、児童・生徒の学力向上のための方策を、データに基づいて明らかにすることであるが、児童・生徒の生活習慣や学校の取り組みと学力の関連を見るだけでなく、児童・生徒および学校・市町村が置かれている社会経済的な状況を考慮し、それらと学力の関連についても分析を行っている。
千葉県検証改善委員会は、これまで学力の規定要因について、多種多様な分析を行ってきたが、本報告の中心となるのは、「社会経済的に恵まれない状況にいる児童・生徒の学力を底上げするためにはどのような方策が有効であるか」「学習塾に通っておらず、学習を主に学校教育に依存している児童・生徒の学力を保証するためにはどのような方策が有効であるか」というテーマである。前者は義務教育の機会均等のために重要であるし、後者は学校教育の存在意義を高めるためにも重要である。
千葉県検証改善委員会は、東京大学教授である苅谷剛彦を委員長として、名古屋大学准教授の石井秀宗、東京理科大学准教授の清水睦美、早稲田大学専任講師の篠崎武久、東京大学助教の大多和直樹、東京大学大学院の安藤理、須藤康介などの計11名から構成される任意団体である。分析は、文部科学省との委託契約の中で行われている。
11月に検証改善委員会の第1回会合を行い、3月までに5回の委員会を開催し、分析結果の検討と、学校改善支援プランの策定を進めた。千葉県教育委員会との協力体制は、以下の図に示したとおりである。
千葉県検証改善委員会が提案する、学校改善支援プランは、以下の3項目である。詳細は以下で説明する。
ここでは、千葉県検証改善委員会が行った分析結果の一部を示す。なお、「全国学力・学習状況調査」に含まれないデータについては、千葉県教育委員会から既存データの提供を受け、調査データとのマッチングを行った。
分析結果の検討に進む前に、一つ留意しなければならない点がある。それは、今回の調査データは一時点のものであるため、因果関係の推論が困難であるということである。たとえば小学生の国語について「発展的な学習の指導を行っている学校ほど、児童の学力が高い」という分析結果が得られているが、このことから、発展的指導が児童の学力を高めると断定することはできない。なぜなら、児童の学力がもともと高い学校において、それに合わせるように発展的指導が行われている可能性があるからである。教育の効果を正確に測定するためには、同一個人を一定期間追跡して調査することが必要となる。
このことが、今回の調査・分析の最大の課題である。千葉県検証改善委員会では、この課題に対処すべく、分析の際に「他の変数の統制」を行った。「他の変数の統制」とは、各学校の種々の条件が同一であると仮定したときの、教育の効果を分析する統計手法のことである。この方法は万能ではないが、分析結果が擬似相関(見かけだけの関連)である可能性を小さくし、学力に影響を及ぼしうる要因それぞれの独自の効果に接近することを可能にする。分析結果は以下に示すとおりである。
詳細は省略するが、以上の3点の他にも、次のような知見が得られている。まず、平日の睡眠時間に注目した場合、小学生では8時間前後、中学生では7時間前後の睡眠時間をとっている児童・生徒の学力が最も高い。睡眠不足だけでなく睡眠過剰も、学力に負の影響を与えていることが示唆される。
中学生を対象に、部活動と学力の関係を見てみると、部活動に参加している生徒のほうが、参加していない生徒よりも学力が高い傾向がある。また、平日に運動をしている生徒ほど、早寝早起きの生活リズムが保てている。日々の部活動やスポーツは教科学習以外の活動ではあるが、軽視することができない存在である。
国語の「書くこと」「読むこと」の正答率は、算数・数学の各問題の正答率と関連している。さらに、「書くこと」「読むこと」の最下位群は、他群に比べて、各問題の正答率が顕著に低く、記述問題に対して無解答となることも多くなっている。この知見は、特に学力の低い層が、様々な学習の側面で困難を抱えていることを示唆している。
分析によって得られた知見をふまえた具体的な学校改善支援プランとして、以下の3項目を提案する。
千葉県検証改善委員会は、前項に示した学校改善支援プランを、千葉県教育委員会に提案する。千葉県教育委員会は、本提言も加味した全国学力・学習状況調査の分析とそれを踏まえた改善策を公表することとしている。
また、本プランの実現にあたっては、各学校や自治体における努力もさることながら、教職員定数の充実などの条件整備については、国レベルでの取り組みが必要である。
学力調査は、その結果を詳細に分析することによって、初めて意義をもつと考えられる。そして、詳細な分析を行うためには、分析課題に見合った質問紙の設計が不可欠である。今回の調査の質問紙には、各学級の取り組みについての質問項目がほとんど含まれておらず、学級単位の教育方法の効果を分析できない設計となっていた。児童・生徒が所属している学級において、どのような教育が行われているかを把えることができれば、より具体的な次元で教育方法の効果を分析することが可能になるはずである。次年度以降の調査に期待をしたい。
-- 登録:平成21年以前 --