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埼玉県検証改善委員会

はじめに

 埼玉県では、市町村教育委員会と連携し「教育に関する3つの達成目標」(学力・規律ある態度・体力)の取組を通して、基礎・基本の定着を推進し、すべての児童生徒を対象とした効果の検証を、学力達成目標(「読む・書く」「計算」)についてはペーパーテストで、毎年1月を中心に実施している。
 また、小5と中2の全児童生徒を対象に、小学校は国社算理の4教科、中学校は国社数理英の5教科について県独自に学習状況調査を毎年実施してきた。
 これらの調査結果については、それぞれ分析し、改善事例も併せて報告書にまとめ、県内全小中学校に配付している。

1 検証改善委員会の体制について

 埼玉県検証改善委員会は、埼玉大学教育学部の清水誠教授を代表として、「教育に関する3つの達成目標」の効果の検証を進めているプロジェクトチームから2名、県独自の埼玉県小中学校学習状況調査の分析委員会から2名(国語、算数・数学担当)、教育事務所の学力向上担当指導主事5名、県義務教育指導課の課長及び指導主事3名の合計13名の委員で構成している。
 また、本委員会の他に、分析結果をもとにした改善事例を作成するため、小中学校の教諭で構成するワーキンググループを設けた。
 代表の助言のもとで義務教育指導課指導主事が基本方針案を作成し、10月に第1回検証改善委員会を開催した。その後2月までの5回の委員会で、分析と学校改善支援プランをまとめた。ワーキンググループは11月から1月までに5回開催し、検証改善委員会の方針に基づいた詳細な分析と改善事例を作成した。

2 学校改善支援プランの概要

 埼玉県検証改善委員会で作成した学校改善支援プランの概要は、以下の3点である。

  • (1) 全国学力・学習状況調査結果を分析し、全国的な状況との比較から把握した埼玉県の小・中学生の学力等の実態
  • (2) 分析結果をもとにした、「教育に関する3つの達成目標」への取組等の埼玉県教育委員会の施策の検証
  • (3) 各小中学校における改善に向けた具体策(PDCAサイクルの構築)

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 埼玉県の全国学力・学習状況調査の結果について、全国的な状況との比較及び県独自調査の結果との相関等から、以下のように分析した。

(1)全国学力・学習状況調査結果から

  • 全体としてみると、平均点だけでなく、正答数の分布も全国平均とほぼ同様であった。
  • 問題形式で類別してみると、選択式の設問の正答率は高いが、記述式の設問で正答率が低い。
  • 設問ごとに無答率をみると、小学校では全体の15パーセント程度の設問で、中学校ではほぼ全問で、全国平均より高い。

(2)全国調査と県の「学力」達成目標効果検証のクロス集計から

  • 「計算」達成目標と算数・数学Aとの相関が強い。他の達成目標についても、達成目標を身に付けていることが全国調査のA・B問題で問われているような、基礎的・基本的な知識・技能の習得やその活用に関する学力の向上に必要である

(3)全国調査と県学習状況調査のクロス集計から

  • 全国調査で問われている基礎的・基本的な知識・技能やその活用に関する学力は、様々な教科との相関が見られる。特に表現に関わる項目で相関が見られる。

(4)県の「学力」達成目標と県学習状況調査のクロス集計から

  • 読み・書き、計算に関する「学力」達成目標の達成率は、県学習状況調査における他教科の正答率との間に相関関係がある。特に関心・意欲・態度や数学的・科学的思考、英語の表現の能力との間に強い相関が見られる。

(1)~(4)の分析から、埼玉県全体としての課題を、大きく次の2点ととらえた。

  • 子どもたちの学力の土台づくりとして、「教育に関する3つの達成目標」への取組を一層充実させていくこと
  • 各教科等における計画的・組織的な取組をとおして、「資料から読み取ったことを書いたり説明したりする力」を育成すること

4 学校改善支援プランについて

 上記の2点の課題を、各小中学校において解決・改善していくためには、教員一人一人の取組の改善と併せて、学校全体としての取組の改善が必要である。教員の日々の取組を子どもたちの学力向上に一層結びつけ、子どもたち一人一人に確かな学力を身に付けさせるため、様々なデータを活用して教育活動の成果と課題を把握し、それに基づいた改善を進める「PDCA(検証改善)サイクル」を各小中学校に構築することが求められる。
 県内の各小中学校に「PDCA(検証改善)サイクル」を構築することが学校改善を支援すると考え、そのための学校改善支援プランを以下のように作成した。

(1)学校用分析支援プログラムの開発と県内各学校への配付

 各学校に届けられた全国学力・学習状況調査結果を分かりやすく提示するとともに、複数のデータの関連から学習集団の課題を把握したり検証したりしやすくするプログラムソフトを開発し、県内各小中学校に配付する。
 今回の全国調査や県の調査の結果を関連させ、総合的に学校や学年等の課題を把握しやすくする。また、各学校で行われている通常のテストやアンケートのデータも活用できるようにする。
 別々に実施されている様々な調査のデータを関連させることは、それぞれの取組が一つの方向性をもった実践となり、学校の組織性を高めることになると考える。個々の取組を生かしつつ、組織としての学校力を高めることにつながると考える。

(2)教員用リーフレットの作成と全教員への配付

 今回の全国学力学習状況調査の実施を一つの契機として、教員一人一人に、学習状況に関する調査結果(例えば、各種学力調査や学校での定期テストやアンケートの結果)等の「データを子どもの学力向上につなげる」ことを意識した取組を推進するために配付する。

  • 教員用リーフレットより

(3)改善事例集の作成と配付

 リーフレットで示した考え方に沿って国語、算数・数学の授業を具体的にどう改善していったらよいかの事例を、今回の全国学力・学習状況調査問題に照らして作成する。各学校に1冊ずつ配付するとともに、教育委員会のHPに掲載する。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

(1)埼玉県検証改善委員会としての取組

1 学校用分析支援プログラムの配付

 1月に、県内の各小中学校に配付した。

2 教員用リーフレットの配付

 2月に、県内の全小中学校教員にリーフレットを配付した。リーフレットで具体的に示したことは、次の4点である。

  • 「資料から読み取ったことを書いたり説明したりする力」を育成することが大切であること。
  • これまで以上に、小・中が連携して学力向上に取り組んでいくことが必要であること(国語、算数・数学について、小・中の連携・継続した取組を例示している)。
  • 各小中学校に配付している「学校用分析支援プログラム」ソフトを活用した、学校における課題やその解決に向けた取組の手立て(下図)。
  • 調査結果を反映させた指導計画等見直しの事例。

 また全体として、調査対象となった小6、中3の国語と算数・数学に関係する教員だけでなく、全教員が、今回の調査結果から分析できることをもとに、日々の教育実践を振り返り、改善していくことが大切であることを示した。

  • 教員用リーフレットより

3 改善事例集の配付

 3月に、改善事例集を県内の各小中学校に1冊ずつ配付した。分析した課題と指導改善のポイント、リーフレットの考え方に沿った改善事例を示した。

(2)埼玉県教育委員会としての取組

 埼玉県教育委員会では、埼玉県教育行政重点施策の全体目標「21世紀を担うたくましく心豊かな人づくり」の実現に向け「創造性と確かな学力をはぐくむ学校教育の推進」を大きな柱としている。その中で、「教育に関する3つの達成目標」に学校・家庭・地域が連携して取り組むとともに、学力の質的向上を図り、教育内容・教育方法の改善に努め、分かる授業・伸ばす授業を進めていく。
 具体的には、これまで取り組んできた「教育に関する3つの達成目標」の推進(ペーパーテスト・質問紙調査、新体力テストによる効果の検証の実施を含む)と学習状況調査を引き続き実施し一層の充実を図ることと併せて、「学力を伸ばす総合推進事業」を新たに展開する。
 「学力を伸ばす総合推進事業」(下図)は、国や県で実施する学習状況調査等の結果を総合的に検証し、各学校における課題を明らかにして、学校の実態に即した課題解決を図ることにより、基礎・基本の徹底や児童生徒の学力をさらに伸ばす教育の充実を図るものである。今年度検証改善委員会で作成し、各学校に配付された学校用分析支援プログラムを活用し、データを活用した指導改善を進めるとともに、授業設計や学校経営に検証改善サイクルを位置付け、児童生徒一人一人に確かな学力を身に付けさせていくことを目指す。
 この事業は、二つの柱で推進する。
 一つめとして、全国学力・学習状況調査や県の調査結果を基にした学校における課題の把握から解決までの改善計画のモデルを作成し、各小中学校に配付する。
 二つめとして、教育事務所を単位とした4地区から改善研究推進校を小中1校ずつ合計8校委嘱する。改善研究推進校を中心に地区で研究実践を進め、地区内の学校に実践モデルを示す。各地区の研究成果を集約するとともに情報の交換や共有をするための全県の研究協議会も併せて開催する。
学力向上総合プロジェクト

6 おわりに

 埼玉県検証改善委員会と埼玉県教育委員会では、全国学力・学習状況調査の目的に照らし、全国的な状況との関係から、埼玉県の小中学生の学力の実態や県の教育施策検証の視点から分析を進めた。そこから得られた成果や課題を踏まえ、施策への反映を進めることができた。この取組が、各小中学校で構築を進めようとするPDCAサイクルの一つのモデルとなった。今年度の取組を基盤として、各小中学校にPDCAサイクルの構築を進めていきたい。

(参考)

埼玉県教育委員会義務教育課
(※埼玉県ホームページへリンク)

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