「確かな学力」を身に付けさせる教育の推進

茨城県検証改善委員会

はじめに

 茨城県では,「いばらきの未来を拓くたくましい人づくり」を基本テーマに,子どもたちに基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせ,自ら考える力などをはぐくむこと等をねらいとして,児童生徒の読書活動を一層活性化させる「みんなにすすめたい一冊の本推進事業」や「国語力」を育成する「ことばであそぼう推進事業」,学習指導上の課題を把握し改善を行う「学力アッププロジェクト事業」,児童・生徒にきめ細かな指導を行う「のびのびいばらきっ子プラン」などを実施し,学力の向上に努めてきた。

1 検証改善委員会の体制について

 茨城県検証改善委員会(委員長:茨城大学教育学部根本博教授)は,県教育委員会の指導主事等の行政関係者,県内の公立小中学校の教諭,校長,茨城大学教授等の学識経験者の計24名の検証改善委員から構成される委員会である。
 本委員会の他に,支援プランの作成準備や指導事例集の作成を行う計36名のワーキングチーム(行政関係者16名,公立小中学校の教諭20名)による検討を行った。
 5月から10月まで6回の作成準備会議を開催し,10月と11月の2回の検証改善委員会において,学校改善支援プランをまとめ,県内全公立小中学校に配付した。その後2月の検証改善委員会において,改善に向けての効果的な取組の検討や学校改善支援プランの効果の検討を行った。

2 学校改善支援プランの概要

 本県の全国学力・学習状況調査の結果としては,次の点が明らかになった。

  •  中学校の国語のA(知識)とB(活用)については,全国平均を上回っているものの,その他については下回っている。(教科に関する調査結果)
  •  本県の児童生徒は,学習に対して意欲的であることや,自尊意識,規範意識が全国平均に比べて高い。(児童生徒質問紙調査)
  •  自分の学校の児童生徒を「礼儀正しい」「授業中私語が少なく,落ち着いている」「熱意を持って勉強している」と思っている割合や「朝の読書」など一斉読書の時間を設けている学校の割合などが,全国平均に比べて高い。(学校質問紙調査)

 これらを受けて,茨城県検証改善委員会としては,各学校において,授業改善に活かすことができるように,茨城県全体の調査結果をもとに,課題や授業改善のポイント,各設問に関連した具体的な授業の展開例及び評価問題などを,2部構成(1部「学校改善プラン」,2部「指導事例集」)の茨城県学校改善支援プラン(小学校編,中学校編)としてまとめた。

学校改善支援プランの構成

  • 1部 学校改善プラン
    • 1 学校の改善
       改善策,学校改善のポイント,学校独自の改善プラン,学校改善チェックリスト
    • 2 国語の学習指導の改善
       学習指導と評価,調査結果,改善ポイント
    • 3 算数(数学)の学習指導の改善
       学習指導と評価,調査結果,改善ポイント
    • 4 生活・意識の改善
       結果の概要,改善ポイント,家庭学習のポイント
  • 2部 指導事例集
     各設問に関連した具体的な授業の展開例及び評価問題,学習の展開例や授業改善の視点,視点にせまるためのポイントなどを示した。そのまま複写しても使えるようにするとともに,考え方のヒントも掲載した。
    • 小学校
      (国語A13事例,B7事例)
      (算数A14事例,B10事例)
    • 中学校
      (国語A16事例,B7事例)
      (数学A29事例,B7事例)

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 本県の全国学力・学習状況調査の結果について,個別の教科や質問紙調査については,具体的に見ると以下のような特徴と課題が見られた。

(小学校・国語)

  •  Aについては全国の平均正答率と同程度であるが,Bについては全国平均正答率をやや下回っている。その要因は,「活用」に関する問題における「話し合いを計画的にすすめること」など,話すこと・聞くことの領域にあると考えられる。
  •  国語の勉強が「好き」,読書が「好き」等と答えている児童の割合が全国平均より高い。
  •  県内のほとんどの学校が「朝の読書」などの一斉読書の時間を設けており,その割合は全国平均を上回っている。

(小学校・算数)

  •  Aは,全国平均正答率より低い。その一因は,全国平均より大きく下回っている問題が3題あり,数量関係の領域や数と式の領域の特定の問題ができなかったためであると考えられる。
  •  Bの平均正答率は,全国平均と同程度である。棒グラフや帯グラフから変化の様子をよみとる問題では,全国平均正答率を上回った。しかし,図と関連づけて式を用いて説明したり,式を工夫して計算する問題に課題がある。
  •  「算数の勉強が好きですか」の設問では,そう思うと答えた児童は,全国平均より低い。
  •  算数の指導として補充的な学習を行っているという学校の割合,発展的な学習を行っているという学校の割合は全国平均を大きく上回っており,個に応じた指導が行われていると考えられる。

(中学校・国語)

  •  A,Bともに全国の平均正答率を上回っている。特に,「活用」に関する問題については,全ての領域において全国平均を上回っている。
  •  国語の勉強が「好き」,読書が「好き」と答えている児童の割合が全国平均より高い。
  •  国語の授業では,自分の思いや考えを書くことが多いと思っている生徒の割合が全国平均より高い。
  •  「朝の読書」などの一斉読書の時間を設けている学校の割合は,全国平均より大きく上回っている。

(中学校・数学)

  •  Aは,全国の平均正答率より低い。その一因は,比例に関する問題は全国平均を上回っているが,反比例に関する問題や場合の数を求める問題では大きく下回るなど,数量関係の領域の学習に課題があると考えられる。
  •  Bは,全国の平均正答率より低い。その一因は,図形の証明に関する問題で全国平均を下回るなど,図形の領域の学習に課題があると考えられる。
  •  「数学の授業で学習したことを普段の生活の中で活用できないか考えますか」という質問に,「当てはまる」と回答した生徒の割合が低く,生活と関連させる指導を重視していく必要があると考えられる。
  •  数学の指導として補充的な学習を行っている,発展的な学習を行っているという学校の割合は全国平均を大きく上回っている。

4 学校改善支援プランについて

 3で述べたの分析結果を受け,次の課題について,改善のポイント及びそれぞれに対応した指導事例・評価問題を学校改善支援プランとしてまとめ,提言を行った。

【明らかになった課題】

(小学校・国語)

  • 1 人の提案を聞き,内容を整理したりすること
  • 2 文章の内容と資料の情報とを関係付けて正しく読むこと

(小学校・算数)

  • 1 数(分数と整数,小数)の意味を理解すること
  • 2 式をよんだり式で表現したりすること
  • 3 様々な事象の考察に,関数の考えを用いること

(中学校・国語)

  • 1 文脈に即して漢字を正しく読んだり書いたりすること
  • 2 代表的な古典に親しむこと

(中学校・数学)

  • 1 図形の学習において論理的に筋道立てて推論していくこと
  • 2 様々な事象の考察に,関数の考えを用いること
  • 3 確率の意味の理解や起こり得る場合の数を求めること

【改善のポイント】

(小学校・国語)

  •  全員が司会を経験したり,様々な学習活動の中で話し合ったりする学習を充実させること。
  •  要点をまとめたり,決められた字数で表現したりする学習を取り入れること。
     また,書いたり,読んだりすることと関連付けた学習を行うこと。
  •  状況に応じて活用できるような会話例を示した学習を取り入れること。
  •  文章と図表,グラフなどを複合したり,関連付けたりした題材を取り上げるとともに,読み取ったことを文章で表記する時間を設けること。
  •  各教科等や生活の場面と関連付けた題材を取り上げること。
  •  資料や文章中の内容・情報の妥当性を吟味する言語活動を充実させること。

(小学校・算数)

  •  分数を数直線に表す活動を通して,異分母の分数に大きさの等しい分数があることを理解させること。
  •  整数や小数を分数に表したり,分数を整数や小数に表したりする活動をさせること。
  •  言葉や式で表現する場を多く設けるようにすること。
  •  相手の立てた式をよみ,どのように考えたかを予想させるようにすること。
  •  式を変形したり工夫したりすると計算が簡単になることに気付けるようにすること。

(中学校・国語)

  •  話すこと・聞くことや書くこと,読むことといった他の領域の学習と関連付けた学習を設定すること。
  •  学習した漢字やこれから学習する漢字を意識的に使用するなど各教科や生活の場面と関連付けた学習を設定すること。
  •  古文や漢文のもつ独特のリズムを感じ取ることができるよう,音読したり,朗読したり,好きな部分を暗唱したりするような学習を取り入れること。
  •  古典の原文だけでなく,現代語訳されたものや映像メディアを活用する学習を取り入れること。

(中学校・数学)

  •  初めは生徒なりの説明に耳を傾け,論理の進め方の指導に力点を置き,これを筋道立てて説明できるようにして,最終的にきちんとした形で数学的に表現できるように指導すること。
  •  演繹的な推論による証明は,自分はもちろん相手をも納得させるために必要なものであることに気付けるようにすること。
  •  仮定と結論を区別し,全体の構想を立てながら証明させるようにすること。
  •  比例,反比例,一次関数,二次関数を表,式,グラフなどを用いて,グラフの特徴や変化の割合などの性質を理解させるようにすること。その際,同じところや違うところに着目させること。
  •  はじめからともなって変わる2量を与えるのではなく,日常の事柄の中から,関数関係にあるものを見いだし,関係を調べる学習をさせること。
  •  発見した規則性を式やグラフに表すと,大きな数の場合でも求めることができることや,未知の事柄について予測できることに気付けるようにすること。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 4で述べた学校改善支援プランについては,その周知を図るため12月始めに県内全市町村教育委員会の指導主事44名を集めた学校改善支援プラン説明会を開催するとともに,12月中には,冊子(学校改善支援プラン)を市町村教育委員会を通じて,全公立小中学校に対して配付した。
 また,指導法の具体の改善に生かすべく,市町村教育委員会に対しては,1月末までに,各市町村の具体的な取組や優れた取組を行っている学校について報告を求めた。
 さらに,その報告を踏まえ,2月には,県教育研修センターにおける,各市町村の全指導主事を対象とした研究協議会において,協議を行った。
 研究協議会においる市町村教育委員会からの発表において,特に注目を集めた取組は,次のとおりである。

  • 1 市町村や学校ごとの分析結果をホームページで公表する方法
  • 2 市町村独自の「活用に関する問題集」等の作成・提供
  • 3 「具体的な改善ポイント」を指導するための指導主事の訪問
  • 4 県独自の学力調査「学力診断のためのテスト」の再活用の方法
  • 5 改善策を保護者に呼びかけるを学校便りの在り方

 その後,2月後半には,市町村教育委員会の指導主事の希望者等を交え,検証改善委員会を開き,学力向上拠点形成事業等の成果も反映し,検証を行った。
 3月には,分析システムを各学校等に配付し,電子データの有効活用を支援した。

分析システム

学校診断レーダーチャート 全学校

 茨城県教育委員会としても平成20年度事業として,学校改善支援プランを踏まえ,算数・数学に関する2つの取組を行うこととしている。
 1つは学力調査等の結果を分析・活用し,学校改善支援プランの推進を通して,各学校の学習指導の改善を行い,本県児童生徒の学力向上を図る「学力向上推進プロジェクト事業であり,もう1つは,理数に対する興味・関心を高めたり,理解を確かにしたりするため,科学大好きスタンプラリーや算数・数学博士チャレンジ道場,理数博士教室を実施し,理数に対する学ぶ楽しさと充実感を味わわせていく「未来の科学者育成プロジェクト事業」である。

学力向上推進プロジェクト事業

未来の科学者育成プロジェクト

【学力向上推進プロジェクト事業】

  • 1 学校改善支援プランの推進
     算数・数学学力アッププロジェクトチームによる学校訪問の実施
  • 2 学校改善支援プラン推進研修会の実施
     模範授業および授業研究会等の実施
  • 3 学力調査結果の分析・活用
     全国学力・学習状況調査結果の分析・活用
     県学力調査結果の分析・活用

【未来の科学者育成プロジェクト】

  • 1 科学大好きスタンプラリーの実施
     県内の博物館や科学館等を紹介し,体験や見学を行うスタンプラリーの実施
  • 2 算数・数学博士チャレンジ道場
     児童生徒の興味・関心を喚起する算数・数学のパズル的問題等からなるチャレンジ道場をホームページに掲載する。
  • 3 理数博士教室
     算数・数学博士チャレンジ道場をクリアした者や科学研究作品展等の出品者を対象に,夏休みに3泊4日の日程で,大学の教授等やつくば市の研究機関の研究者,茨城県自然博物館の学芸員,小・中学校教員を指導者として,探究的な活動を行う。

6 おわりに

 今後,「知識や技能を実生活で活用する能力が十分ではない」などの明らかになった課題について,早急に改善が図れるよう,「読書が好きである」とか「人の気持ちがわかる人間になりたいと思う」などの茨城のよい面を伸ばしながら,教員一人一人が,課題をしっかりと受け止め,児童生徒の学力の向上に取り組んでいきたい。

(参考)

-- 登録:平成21年以前 --