学力の一層の伸長を目指して-学校・市町村教育委員会・県教育委員会への七つの提言-

秋田県検証改善委員会

はじめに

 本県教育委員会は、学校教育が目指すものとして「豊かな人間性をはぐくむ学校教育」を掲げている。「基礎学力の向上を図る」ことは、大きな柱の一つとして位置付けられ、少人数学習推進事業等の学力向上施策が積極的に展開されてきている。
 秋田県検証改善委員会では、全国学力・学習状況調査を、児童生徒の学力や学習状況における成果と課題を把握する機会ととらえ、その結果を一層の学力向上に結び付けることをねらいとして、教科ごとの授業改善の方向性を示すとともに、学校等に対する提言をとりまとめた。

1 検証改善委員会の体制について

 秋田県検証改善委員会は、秋田大学教育文化学部の阿部昇教授を委員長として、同大学教授3名、小・中校長会代表2名、県PTA連合会代表1名、県教育庁生涯学習課長、義務教育課長、県総合教育センター副所長、指導主事等10名、計20名から構成されている。
 7月に準備委員会を行い、その後、2月までに委員会を3回、全体部会及び教科部会をそれぞれ2回ずつ開催した。
 また、児童生徒の学力向上に成果をあげていると判断した小・中学校を訪問し、児童生徒や授業改善の状況を確認するとともに、貴重な実践資料の提供を受けた。

2 学校改善支援プランの概要

 今年度の調査では、全国と比較した場合、本県の小学校6年生と中学校3年生の国語と算数・数学における学習状況はおおむね良好である一方、「活用」に関する問題に着目すると、今後一層力を付けていく必要があることが明らかになった。
 この結果を受け、本検証改善委員会では、それぞれの教科で目指す授業の具体を、「分かる授業」「「活用する力」を育成する授業」「児童生徒をさらに伸ばす授業」の三つの視点から示すとともに、学校・市町村教育委員会・県教育委員会に対して次の七点を提言した。

  • 学校への提言
    • 1授業改善に結び付く研修の充実と「活用」する力の育成
    • 2基礎・基本が定着している児童生徒の学力をさらに伸ばす取組
  • 市町村教育委員会への提言
    • 3小・中連携や同一校種間連携を促す手立ての実施
    • 4学校と家庭・地域との連携の支援
  • 県教育委員会への提言
    • 5成果を上げている施策等の充実・発展
    • 6中・高連携や高校の授業改善を促す手立ての実施
    • 7課題を抱えている地域や学校への重点的な支援

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 本検証改善委員会は、本県の学力や学習状況における成果と課題を次のようにまとめた。

【成果】

1落ち着いて熱心に学習する児童生徒

 学校と家庭・地域との良好な関係を基盤としながら、児童生徒の主体性を重視する学校や教師の姿勢が、児童生徒の授業に対する姿勢を高めている。

2補充的な学習および少人数指導・個別指導

 放課後や長期休業での補充的な学習、個に応じた指導等が積極的に行われており、学力の底上げにつながっている。

3話し合ったり、自分の考えを書いたりする学習の充実

 自分の思いや考えを書いたり、意見交換をしたりする授業が多く行われており、意見表明を求められる記述式問題の正答率が全国平均を大きく上回ったことや記述式問題での無解答率が低かったことと相関があると考えられる。

【中学校】

「書く」「話し合う」などを位置付けた学習過程の例

4評価を生かした授業改善

 各学校では、学力調査や単元テスト等の結果を分析して授業改善に結び付けるPDCAサイクルが確立している。

5家庭での学習習慣

 家で授業の復習をしている児童生徒の割合が全国平均と比較して極めて高く、小学校で75パーセント(プラス34パーセント)、中学校で63パーセント(プラス24パーセント)となっている。この割合は、通塾率が同程度の3県と比較しても有意に高く、本県の大きな特徴である。家庭学習時間は、30分未満か全くしない児童生徒の割合が低い。家庭の状況が安定していることや学校が全校をあげてその定着や活性化に取り組んでいることなどが、家庭学習の習慣化につながっている。

【小学校】
  • 「3県」は通塾率が本県と同程度の3県の平均

6学校を支援する施策や事業

 少人数学習推進事業や学習状況調査のほかに、算数・数学学力向上推進事業での推進班による学校訪問指導や単元評価問題の配信、学校大学パートナーシップ事業等での大学との連携、国語力向上モデル事業の充実などが効果を上げていると考えられる。

7学力の定着の支えとなっている家庭や地域

 本県の児童生徒は、家族と一緒に比較的規則正しい家庭生活を送っており、地域行事への参加や地域への関心も高い。児童生徒が、家庭や地域で安心して豊かに学んでいる姿が見られる。

【課題】

1構造・論理・表現を重視して「活用」にかかわる学力の定着を図る。

 各教科では、主としてB問題の中に課題が見られ、今後、重点的に身に付けさせたい力を次のようにまとめた。

重点的に身に付けさせたい力

  • 【国語】
    • 表現の役割や書き手の意図等を解釈する力
    • 表現や構成を評価する力
    • 条件にしたがって書く力
  • 【算数・数学】
    • 必要な情報を取り出し、整理する力
    • 関連付けたり、逆向きに考えたりする力
    • 数学的に表現する力

2学年進行とともに学力を一層伸ばす。

 平均正答率が本県と同程度の4県を抽出し正答数の分布を比較したところ、本県では中学校になると最も正答数の多い層が、相対的に薄くなっていることが分かった。この傾向は、特に算数・数学において顕著である。
 また、質問紙調査の「授業が分かるか」への回答も小学校から中学校にかけて低下しており、数学においては、全国平均を下回る結果となっている。小学校から中学校にかけて、児童生徒の教科に対する意識が変化する傾向は本県が実施している学習状況調査にも表れており、小学校から中学校にかけて、一人一人がその力を十分に伸ばしていくことができるよう、配慮していくことが必要である。

4 学校改善支援プランについて

 ここでは、教科の「目指す授業」については割愛し、全体的な提言のみを示す。

学校への提言

1授業改善に結び付く研修の充実と「活用」する力の育成

 事例研究として授業が構造的に分析され、その成果と課題を明確に焦点化できることが必要である。例えば、数人からなるチームを作って、そのチームの責任で授業を研究し公開するというシステムを作り出すこと。小学校であれば、教科や学年を超えた研究チームを、中学校ではあえて教科を超えた研究チームで共同研究を進めていくことなどを提案する。
 また、全国学力・学習状況調査や県の学習状況調査等の調査結果の分析・活用を踏まえた研修計画が必要である。研修の目的は、学校全体の授業改善と児童生徒の学力向上にあることを再確認し、その目的を意識した研修内容や方法の見直しが急務である。

2基礎・基本が定着している児童生徒の学力をさらに伸ばす取組

 二つの視点からの取組が必要である。
 一つは、より魅力ある授業によりその教科を学ぶ価値を実感させ、学年進行とともに、自らより高い目標をもって学ぼうとする意欲やたくましさを醸成していくことが肝要である。
 もう一つは、単元や1時間での学習過程を基礎・基本が定着している児童生徒の視点に立って見直し、必要に応じてその改善を図ることである。

市町村教育委員会への提言

3小・中連携や同一校種間の連携を促す手立ての実施

 学年進行とともに学力を一層伸ばしていくためには、学力向上に関する小・中連携が大きな鍵を握っている。市町村教育委員会には、モデル地区の指定や合同の研修会の開催といった具体的な取り組みを期待する。
 また、小規模校が多い地域で研修の質を上げるためには、複数の学校が連携して研修を進める必要があり、その環境を整えることも市町村教育委員会の重要な役割である。

4学校と家庭・地域との連携の支援

 本調査の結果、家庭や地域が学力の定着の支えとなっていることが明らかになった。学力向上拠点形成事業等での取り組みを参考にしながら、学校と家庭・地域との連携を支援する役割を積極的に果たすことを期待する。

県教育委員会への提言

5成果を上げている施策等の充実・発展

 県教育委員会が効果が大きいと判断している「少人数学習推進事業」「学習状況調査」については、他のほとんどの都道府県でも実施されている。このため、本県の事業を他の都道府県と比較し、その特色を明確にするとともに、特色と成果や課題がどのようにかかわっているかをさらに検証することが必要である。

6中・高連携と高校の授業改善を促す手立ての実施

 本県の学習状況を小・中・高のスパンで眺めると、課題は、小・中学校で良好な状況である基礎学力を、高等学校段階でさらに伸長させることにある。そのため、授業改善を核とした中・高の連携や高校の授業改善は喫緊の課題である。現在、行われている中・高学習指導研究協議会の充実もそのきっかけとして重要である。また、県立中高一貫校を中核とした近隣の中・高を巻き込んだ共同の授業研修なども考えられる。

7課題を抱えている地域や学校への重点的な支援

 県全体として、秋田県のすべての児童生徒の学力を保障するという責務を果たしていく必要がある。そのため、学習の達成状況が比較的良好とは言えない地域や学校の状況を分析し、戦略的な授業改善の取り組みを実施していくことが求められる。ここでいう「県全体」とは、県教委、地教委、各学校、各先生方、大学教員のみならず、県行政、県議会、関係諸機関、さらには地域の大人たちすべてを含むが、県教委は、その中核としての役割を果たすことが求められている。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 検証改善委員会と県教育委員会は、調査結果を生かした取組を支援するため、密接な連携を図ってきた。県教育研究発表会における発表や県教育委員会ホームページへの資料の掲載はその一端である。
 直接的な支援としては、調査結果に基づく市町村教育委員会や学校の要請に応じて、教育事務所や算数・数学学力向上推進班が60校ほどを訪問して、直接指導や支援をしている。年度当初の計画にない学校訪問を行うことは、様々な障害が伴うものであるが、課題に即時対応することは非常に重要である。
 次年度については、県教育委員会が学力向上にかかわる事業を総合的に推進するため、「学力向上推進協議会」を立ち上げる。このことに関連して、本検証改善委員会もその位置付けや役割を見直される。全国学力・学習状況調査を活用した学力向上対策や県単独で行われる学力向上カウンセラーの派遣等が、より大きな成果を上げるよう、大学等との連携を一層強化していく。

6 おわりに

 本検証改善委員会は、今年度、主として秋田県全体の状況を全国や他の都道府県と比較し、学力や学習状況に関する成果と課題を取りまとめた。
 来年度は、今年度の提言がどのように受け止められ、児童生徒の学力向上にどのように結び付いていくのかを検証するとともに、新たな視点での分析が必要であると考えている。

(参考)

秋田県教育委員会
(※美の国あきたネットホームページへリンク)

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