山形県学校改善支援プラン-やまがた教育「C」改革の推進と少人数教育の再構築を目指して-

山形県検証改善委員会

はじめに

 山形県では、「いのち」そして「まなび」と「かかわり」をテーマに、第5次山形県教育振興計画を平成17年度にスタートさせた。本計画では、知徳体が調和し、「いのち」輝く人間の育成」を目標にし、各学校において創意工夫あふれる教育活動を展開してきた。
 また、本県が平成14年度から段階的に導入してきた少人数教育のよさを生かした教育活動を展開してきた。
 これまでは、全国標準学力検査(NRT)や学習に対する意識調査の結果をもとに、本県の児童生徒の実態を把握してきたが、今回の全国学力・学習状況調査の実施を機に、その結果を本県学校教育のさらなる推進や少人数教育の制度設計に反映し、学校を支援する体制を充実したいと考えている。

1 検証改善委員会の体制について

 山形県検証改善委員会は、山形県教育庁義務教育課長である鈴木弘康を委員長として、東京大学大学院教授、国立教育政策研究所研究員、山形大学地域教育文化学部教授、山形県連合小学校長会長、山形県中学校長会長、県PTA連合会長、心理相談室代表、義務教育課長補佐の9名から構成される委員会である。
 8月に第1回検証改善委員会を開催し、2月まで3回の会合を行った。
 第1回委員会では、これまでの資料や取組をもとに本県の現状を把握した上で、委員会の役割と今後の協議の進め方を確認した。第2回委員会では、全国学力・学習状況調査の結果をもとに、本県の課題を明らかにする協議を行った。第3回の委員会では、それまでの協議を受けて本県教育充実のためのプランの検討と、制度としての少人数教育のあり方について考え方をまとめた。

2 学校改善支援プランの概要

 山形県検証改善委員会では、本県の全国学力・学習状況調査の結果について、小中何れの教科においても無解答率が低いというよさがある反面、A問題に比べてB問題の正答率が低いという傾向が見られた。
 これらの結果を受けて、山形県検証改善委員会としては、以下の2点を中心に学校改善支援プランを検討した。

  • 1児童生徒の人間力を高める第5次山形県教育振興計画をいっそう推進するための、コミュニケーションを軸とした教育の在り方
  • 2本県少人数教育の在り方及び制度の再構築

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 前項の概要でも言及したが、本県の全国学力・学習状況調査の結果について、検証改善委員会で分析を行ったところ以下の点が明らかになった。
 教科に関する分析では、小中学校の何れの教科においてもA問題よりもB問題の正答率が低いという課題が見られた。
 また、個別の教科については以下のような特徴と課題が見られた。

【小学校】<国語>

 「司会者として発言者の提案を聞き、内容を整理する」の正答率が、59.1ポイントで、全国と比較して、3.8ポイント低かった。これは、どちらかというと「話すこと」中心の活動が多く、対話的な学習が十分ではない現状がある。また、「文章とグラフを関係付けて読む」の正答率が、全国と比較して1.9ポイント低くなっており、「情報の中から必要な事柄を取りだし適切な表現で書き換える」の正答率も、全国と比べて2.2ポイント低い。多様な情報を関連付けて読んだり、必要な情報を取り出し、表現様式に合わせて再構成したりする学習活動に日常的に取り組む必要性が高いと考えられる。

【小学校】<算数>

 「長方形の周りの長さを求める設問」では、全国より8.3ポイント低くなっている。また、「長方形の縦横の長さ変化を表にまとめる設問」は、全国より6.7ポイント低く、「長方形の縦横の長さの変化の規則性をもとめる設問」は、全国より6.4ポイント低くなっている。単元の系統性と領域の内容を意識した指導計画を立て、今後も児童一人一人にきめ細かな指導を行ったり、理解を深めるために、個に応じて具体物や半具体物を用いた操作活動を取り入れることが重要であると考えられる。

【中学校】<国語>

 「グラフから読み取ったことを文章で書く」という問題については、正答率が高い反面、他の問題に比べると比較的無解答率が高い。また、「広告カードを比較して、共通して書かれている情報を読み取ること」「資料に表れているものの見方や考え方をとらえ、伝えたい事柄や考えを明確にして書くこと」の無解答率が高くなっている。今行っている指導が、子どもたちの実生活のどのような場面でどのように生きていくのかを意識した授業づくりが重要になる。また、個の学びが集団の学習にいきるような、言葉によるコミュニケーションを一層重視し、一人一人が達成感を感じられる授業を展開していきたい。具体的には、「根拠を明らかにして、論理的な展開を意識して記述」したり「複数の情報(連続型テキスト及び非連続型テキスト)を比較して読み取ったことを目的に応じて発信したりする学習活動を取り入れていく必要性が一層高まっている。

【中学校】<数学>

 「複数の条件を満たすメニューの組み合わせを考えること」の正答率が、全国と比較して0.7ポイント低くなっており、正答率も5割以下となっている。また、「自然数の性質に関する説明を読み、説明を振り返って考えること」の正答率が、全国と比較して0.4ポイント低くなっている。生徒の実態を的確に把握し、それをもとに反応やつまずきを予想し、個に応じた支援策を準備することで、生徒自身が何らかの方法で問題解決できるような学習活動を重視する必要がある。さらに、一人一人の定着度を評価しながら繰り返し指導したい。その際、教え込みだけではなく、生徒自身に理解が定着するような学習活動を工夫することも課題になると考えられる。
 学習状況調査からは、携帯電話の所持率や通塾率が低く、復習を中心に適度に家庭学習に取り組んでいる様子がわかった。また、規範意識が強く規則正しい生活習慣が崩れていない点や、地域に関心を持ち、行事等にも積極的に参加しているといった本県の児童生徒の特徴を把握することができた。さらに、総合的な学習の時間や読書活動、運動部活動等にも懸命に取り組んでいる。
 地域間の比較では、通塾率などにおいて都市部とそうでない地域に差が見られたが、学力面では大きな課題となるような差は見られなかった。

4 学校改善支援プランについて

 3で述べた分析結果や、既存のデータを総合的に検討し、1児童生徒の人間力を高める第5次山形県教育振興計画を一層推進するための、コミュニケーションを軸とした教育の在り方、2本県少人数教育の在り方及び制度の再構築についてまとめ、提言を行った。

1児童生徒の人間力を高める第5次山形県教育振興計画を一層推進するための、コミュニケーションを軸とした教育の在り方

 先に述べたとおり、本県では「知徳体が調和し『いのち』輝く人間の育成」を目標に、「いのち」そして「まなび」と「かかわり」をテーマとして第5次山形県教育振興計画を推進している。
 本県として、第5次山形県教育振興計画を一層推進し、子どもたちの学力を向上させ人間力を確かなものにするためには、授業における指導方法の改善はもとより、子どもたちが身の回りの人やものや事象と心を通わすことのできる教育を実現する必要があると考えた。そのため、コミュニケーションを核にすえて、学校経営、授業、家庭・地域との関わりにおける教育活動全般を見直し、改善することにより心を通わす教育が実現できるものと考え、以下のような提言を行った。

【あすへの学校】

 学力向上は重要な課題だが、それが人間形成の全てではない。知識や技能をどれだけ習得したかという量的な部分ばかりではなく、それを生活の中で相互作用的に活用したり、体験や対話を通して考えたり感じたり、郷土の自然と存分にかかわったりすることを通して行われる人間形成を大切にしなければならない。
 本県の学校は、そういった人間形成の場としての役割を存分に果たすものでありたい。

【あすへの教師】

 教師と子どものかかわりを考えた時、「教える」ことを抜きにして教師は存在し得ない。だからこそ、「何を」「なぜ」「どのように」教えるのかを考え続けなければならない。そして、その結果「子どもに何が残り、その子にとってどんな意味があるのか」をつきつめて考えてみる必要がある。また、教師と子どもの相互作用による「問いかけ」とそれをきっかけとする「対話」を充実させることにより、一人一人の子どもが発言したり活動したりする機会が増える。それによって、子どもたちは、相互感化によって力を高めていくことになる。
 本県の教師は、子どもの話を最後まで聴き、一人一人のよさを生かし、伸ばす役割を果たしたい。

【あすへの家庭・地域】

 子どもたちは家族や友人との日々の生活の中で、考え方やふるまい方を身につけていくことになる。家族からは、無償の愛に支えられ、それを拠り所として様々な体験を積み重ねていくことになる。また、地域の大人との関わりを通して、その体験が子どもにとってさらに価値のあるものになる。
 本県の教育は、そういった家庭や地域と深く関わったものでありたい。

2本県少人数教育の在り方及び制度の再構築について

 本県では、平成14年度から段階的に少人数学級編制(21~33人学級)を導入してきた。全国学力・学習状況調査の結果等を活用して、その成果を確認しつつ、よりよい制度を再構築し、本県教育の充実を図りたいと考えている。

【少人数教育の教育効果】

 本県では、この度の全国学力・学習状況調査の結果において、全ての学年及び分野で全国平均と同じかそれを上回る結果であった。また、分布図で見るとわずかにではあるが上位層に厚みがあることもわかった。さらに、学習に向かう姿勢や生活規律、家庭学習等においても全国平均を上回る結果となっている。こうした成果は、本県が取り組んできた少人数教育の制度を生かして、各学校において、子どもたち一人一人に目を配り、学習・生活の両面において手厚い支援を積み重ねてきたことによるものであると評価することができる。
 その反面、A問題に比べてB問題の正答率が低いという傾向が見られ、集団での学習に厚みを持たせることができるような指導方法の改善に積極的に取り組む必要があるという課題も明らかになった。

【子どもの発達段階とのかかわり】

 この度の全国学力・学習状況調査の対象は、小学校6年生と中学校3年生であった。各校種における学力の定着状況を把握するという点では価値があるが、子どもたちの成長の全体像まで把握できるものではない。本県では、小学校高学年から中学校1年生にかけて学力格差が拡大する傾向があることや、不登校が増加する傾向が見られることを考慮し、全国学力・学習状況調査の結果に至る背景にも目を向け、今後の少人数教育の方向性を示す必要があるものと考えている。

【現在の課題への対応】

 各市町村、学校においては、学校が抱えている課題を解決するために、複数の極小規模校が合同授業を行う等、独自の取組が進められている。どちらかといえば、多人数解消できめ細かい指導に重点化してきた本県の少人数教育制度を、極小規模校への配慮や新たな学校課題に取り組む支援等、本県教育の土壌をさらに豊かなものにする配慮も必要である。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 本県の、学校改善支援プランに向けた取組は、前述の2点を中心に進められる息の長いものになる。具体的には、平成19年度内に基本的な考え方をまとめ、平成20年度から本格的に取組を進めることになる。
 直接本事業にかかわるものとしてではないが、県教育委員会主催の全県的または教育事務所単位の研修会において、今年度は、今後の方向性を示す「C」改革の考え方に関する説明会を行ったり、国立教育政策研究所の学力調査官を研修会の講師とし、問題作成の趣旨や結果の活用の仕方について研修する機会を持ったりすることができた。
 また、各学校における実践事例集を作成しており、実践を通して全調査の結果を生かしていく取り組みも進められている。
 このように、全国学力・学習状況調査の結果は、既存の取組の中に無理なく組み入れられている。

6 おわりに

 全国学力・学習状況調査は、今後求められる学力が、目に見える形で示されたという点で非常に価値があるものであり、授業改善に大きな影響を与えるものになる。調査で測れるのは学力の一部であり、データは多元的に読み取れるということを踏まえて、関わった全ての人が、各々の立場でその結果を子どもたちに還元する息の長い取組を大切にしたい。

(参考)

  • 「C」改革:コミュニケーション改革

-- 登録:平成21年以前 --