こんにちは。みんなの元気な顔が見られて、ちょっと元気が出てきました。僕は自分でいろいろなものを考えてつくるのが好きだけど、人前でしゃべるのはあんまりとくいじゃないんです。それで、そういうときは、しゃべれる人間に変身しないとしゃべれない。みんな、僕が変身できるように協力してくれる?
(子ども「はい」)
よし。じゃ、「いちにのさん」と言ったら、「へんしーん」と思いっ切りでっかい声で言ってください。では、いきます。「いちにのさん」。
(子ども「へんしーん」)
はい。元気になりました! みんなは、僕の本を読んだことあるのかな?
(子ども「はい」)
そうか。ありがとう。きょうは、後でみんなの質問を受け付けようと思います。元気だから、いっぱい質問が出そうだね。
さて、それではまず『あらしのよるに』シリーズについてはなします。1巻目を思い出してほしいんだけど、読んでいるときに、オオカミのガブの気持ちになって読んだ人と、ヤギのメイの気持ちになって読んだ人と、ガブとメイの2匹を見ている人の気持ちになって読んだ人といると思うんだ。じぶんがどれだったか思い出してくれる?
では、メイの気持ちになって読んだ人。
(子ども、挙手)
じゃあ、ガブの気持ちになって読んだ人。
(子ども、挙手)
同じぐらいだね。では、2匹を見ている人の気持ちになって読んだ人。
(子ども、挙手)
これが一番多いね。
ふつうのお話は主人公の気持ちになって、難しい言葉で言うと感情移入して読むんです。でも、このお話は、ガブは相手のことをオオカミだとかんちがいしているんだね。メイは相手のことをヤギだとかんちがいしていて、その真実を知っているのは読んでいる読者だけなんだ。
「読んでいる人が、2匹の真実を知ったらどうなるのかな?」と、そういうドキドキする本があってもいいかなと思ってつくりました。
ほんとうに、本を読んでいると、いろいろな人の気持ちになります。みんな本を読むのは好きかな?
(子ども「好き」)
この間、僕は「ドラえもん」のジャイアンの声をやっている人に会いました。その人に、「ドラえもんのどうぐの中でどれが好きですか?」と聞いたんです。そうしたら「実は『どこでもドア』を、みんな持っているんだ。みんなに経験があるんだよ」と言ったので、僕は「え、なんだろう?」と思いました。「みんなが読んでいる絵本や本は、そのとびらを開くといろいろな世界に行ける。本のとびらは『どこでもドア』のドアなんだ」と言ったので、僕は「ああ、なるほどな」と思いました。
僕が想像して書いたものと
みんなが読んで想像したものはちがうんだよ
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先生の変身(その1)

先生の変身(その2)

先生の変身(その3)

先生の変身(その4) |
みんな、本を読んでいろいろなことを想像してくれるといいんだけど、僕の場合は、頭の中でいろいろ想像します。僕が頭で想像して字をいっぱい書いて、それが本になってみんなが読むわけ。
僕が想像したものと、読んだみんなが想像したものが同じかというと、違うんだよね。だって僕が、「近所の八百屋さんに行って大根を買ったら、おばさんが50円まけてくれました」という文章を書いたとします。僕は、近所に3階建ての建物の1階が八百屋さんになっているところに、65歳のおばさんが出てきて大根を売ってくれたことを頭に浮かべながら書く。でも、みんなのうちの近所に、木造平屋で、50歳のおばさんが出てくる八百屋さんがあったら、それを想像しちゃうじゃない? みんな自分の周りにあるもので、この文章を想像するから、みんな違うんだよ。
さて、『あらしのよるに』のガブはオスです。メイは、メスですか、オスですか? じゃあ、オスだと思う人。
(子ども、挙手)
じゃあ、メスだと思う人。
(子ども、挙手)
メスだと思った人のほうが多いんだね。映画では男の人が声をやっていたのに。実は、オスだと思った人にはオスです。メスだと思った人にはメスなんです。だから、自由に想像できるように、一番最初は本の中にどっちかわかるところがあったんだけど、僕はそれを取っちゃって、自由に想像できるようにしたの。そんなものもつくってみたかったんだ。
いろいろな本を書いていますが、これから絵本『シチューはさめたけど…』を一冊読んでみようと思います。僕が絵本を読むということは、作者が頭の中に浮かべたものが自然に出ちゃうから、自分で読んだときとイメージが違うかもしれないね。
ほかの本もかんたんに紹介します。『風切る翼』は、この間テレビの5分ぐらいの短い番組で紹介されました。モンゴルにアネハヅルというツルがいます。世界で一番高いヒマラヤを命がけで越えていく渡り鳥なんだ。渡らないと、零下40度の寒さで死んじゃう。その中に、みんなにいじめられて、飛びたくても飛べなくなっちゃうツルがいるんだ。最後に飛べるようになるんだけど、どうして飛べるようになったんだろうというお話。
『あしたのねこ』は、ねこが捨てられて、きょうだいはどんどんもらわれるのに、一匹だけもらわれないで、どんどん知らない町に連れていかれたりするんだ。最後は、雨の中ずぶぬれになって、ドブにも落ちてね。でも、このねこは、強く生きていこうと思う。どうしてそう思ったんだろう? そう考えながら読むとおもしろいと思います。
では、『シチューはさめたけど』を読みます。
(きむらゆういちさん『シチューはさめたけど…』朗読。子ども、拍手)
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先生の読み聞かせ |
ありがとう。実は、読み聞かせはずっと苦手で、絶対に人前でやらないできました。でも最近、スタッフにピアノを弾ける人が来たので、ピアノをバックに読めば、ちょっとはよく聞こえるかなと思って始めました。
あと2つだけ紹介しようかな。『あしたのねこ』は、さっきも言った、ねこの話なんだ。このねこのお話をかいたのは、エムナマエさんという人です。この人は、何と慶應大学の法学部を出て、絵かきさんをやっているの。文章を書いたのは僕なんだけど、僕は、実は多摩美術大学の絵画科を出て文章を書いているんだよね。さらにこの人は、実は全盲なんだね。まったく目が見えなくなっちゃって、前は見えてイラストレーターだったんだけど、全く目が見えないでかいている人なんだ。どんなときでも、こうやってあきらめないでいると、目が見えなくても、また絵本が出せたりします。
次に『よーするに医学えほん』は、ほんとうのことを言うと医学のことってなかなかわからなくて、でも考えていろいろ聞いてみると、実は、みんなの体の中にも絵本と同じようなドラマがあることがわかりました。こうやって体の中をドラマにしたのには意味があって、世界じゅうでいろいろなことが起こっているけれども、どんな人間にも、体の中に一人ひとりこんなすごいドラマがあるということを自然にわかってもらいたいなと思ってつくりました。
それでは、時間が来たので、最後に、恒例の記念写真を撮ります。このカメラで撮るよ。一番いい顔をしてください。「チーズ」とか、「1足す1は2」というのがあるけど、きょうは特別に、「あらしのよるに」にしたいと思います。
「いちにのさん」でいくよ。「いちにのさん」。
(子ども「あらしのよるに」)
はい、みんなの顔が写りました。今日はどうもありがとう。
(拍手) |
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先生への質問タイム

笑顔でお別れ |