現在、職場体験は、全国の公立中学校の約90パーセントの学校が実施しており(平成16年度国立教育政策研究所生徒指導研究センター)、ほとんどの学校では、教育課程上、特別活動、総合的な学習の時間に位置付けて実施している。各学校において、職場体験を円滑に実施し、教育効果を上げるためには、教育課程に適切に位置付けるとともに、校内体制の整備、校外との連携協力を進める推進体制の確立が極めて重要である。
職場体験の特別活動での実施率は、18.3パーセント(平成16年度)で、減少傾向である。一方、総合的な学習の時間での実施率は、79.6パーセント(平成16年度)で、特別活動と総合的な学習の時間の実施率は、ほぼ28となっているのが現状である(表1)。
教育課程上の位置付け | |
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1.特別活動での実施 | 18.3%(22.2%) |
2.総合的な学習の時間での実施 | 79.6%(75.2%) |
3.教科の授業での実施 | 2.3%(2.0%) |
4.教育課程に位置付けない(長期休業期間等に実施) | 10.7%(11.1%) |
(国立教育政策研究所生徒指導研究センター 平成17年5月)
※( )は15年度の実施率
今、学校教育に求められている力とは、生涯にわたり実社会を主体的に生きていくための力であり、キャリア教育が求められている意味もここにある。このような中で職場体験は、子どもたちと実社会とのかかわりという観点から、生徒の勤労観、職業観を育成するとともに、学びを支え、生き方を考えさせる極めて有効な学習活動である。
このため、今後、職場体験を一層充実していくためには、以下のような点に留意し、教育課程に適切に位置付け、積極的に推進することが重要である。
現行の学習指導要領とその解説では、特別活動及び総合的な学習の時間について職場体験と関連した事項は、表2、表3のように示されている。各学校において職場体験を特別活動、総合的な学習の時間など教育課程に位置付け、適切に実施していくためには、ここに示されているそれぞれの目標やねらいを十分に踏まえるとともに、それぞれの相互環流を図ることにより大きな教育効果が期待できる。
さらに、キャリア教育の視点を踏まえ、入学当初からの3年間を通して事前学習や事後学習等の充実を図る観点から、各教科等、教育活動全体とのかかわりにおいて計画的、系統的に実施することが重要である。
中学校学習指導要領「第4章 特別活動」から(※) | 中学校学習指導要領 解説−特別活動編−から(※) | |
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第2内容 | A 学級活動 学級活動においては、学級を単位として、学級や学校の生活への適応を図るとともに、その充実と向上、生徒が当面する諸課題への対応及び健全な生活態度の育成に資する活動を行うこと。 (2) 個人及び社会の一員としての在り方、健康や安全に関すること。 |
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ア 青年期の不安や悩みとその解決、自己及び他者の個性の理解と尊重、社会の一員としての自覚と責任、男女相互の理解と協力、望ましい人間関係の確立、ボランティア活動の意義の理解など |
(ウ)社会の一員としての自覚と責任
(エ)男女相互の理解と協力
(オ)望ましい人間関係の確立
(カ)ボランティア活動の意義の理解
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イ 心身ともに健康で安全な生活態度や習慣の形成、性的な発達への適応、学校給食と望ましい食習慣の形成など | ||
(3) 学業生活の充実、将来の生き方と進路の適切な選択に関すること。 学ぶことの意義の理解、自主的な学習態度の形成と学校図書館の利用、選択教科等の適切な選択、進路適性の吟味と進路情報の活用、望ましい職業観・勤労観の形成、主体的な進路の選択と将来設計など |
(ア)学ぶことの意義の理解
(エ)進路適性の吟味と進路情報の活用
(オ)望ましい職業観・勤労観の形成
(カ)主体的な進路の選択と将来設計
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C 学校行事 学校行事においては、全校又は学年を単位として、学校生活に秩序と変化を与え、集団への所属感を深め、学校生活の充実と発展に資する体験的な活動を行うこと。 (4) 旅行・集団宿泊的行事 平素と異なる生活環境にあって、見聞を広め、自然や文化などに親しむとともに、集団生活の在り方や公衆道徳などについての望ましい体験を積むことができるような活動を行うこと。 |
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(5) 勤労生産・奉仕的行事 勤労の尊さや創造することの喜びを体得し、職業や進路にかかわる啓発的な体験が得られるようにするとともに、ボランティア活動など社会奉仕の精神を養う体験が得られるような活動を行うこと。 |
(5)勤労生産・奉仕的行事 …勤労や生産にかかわる体験的な活動をはじめ、職業や進路にかかわる啓発的な体験、ボランティア活動など社会奉仕の精神を養う体験を重視し、学校や地域社会の実態及び生徒の発達段階に基づいて、創意工夫に富んだ活動を積極的に展開する必要がある。 |
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第3 指導計画の作成と内容の取扱い | 1 指導計画の作成に当たっては、次の事項に配慮するものとする。 (1) 学校の創意工夫を生かすと共に、学校の実態や生徒の発達段階などを考慮し、教師の適切な指導の下に、生徒による自主的、実践的な活動が助長されるようにすること。また、家庭や地域の人々との連携、社会教育施設等の活用を工夫すること。 (2) 生徒指導の機能を十分に生かすとともに、教育相談(進路相談を含む)についても、生徒の家庭との連絡を密にし、適切に実施できるようにすること。 (3) 学校生活への適応や人間関係の形成、選択教科や進路の選択などの指導に当たっては、ガイダンスの機能を充実するよう学級活動等の指導を工夫すること。 |
※「中学校学習指導要領」及び「学習指導要領解説−特別活動編−」の関係する部分から一部抜粋
中学校学習指導要領「第1章 総則」から(※) | 中学校学習指導要領解説−総則編−から(※) | |
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第4 総合な学習の時間の取扱い | 2 総合的な学習の時間においては、次のようなねらいをもって指導を行うものとする。 (1) 自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。 |
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(2) 学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにすること。 (3) 各教科、道徳及び特別活動で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け、学習や生活において生かし、それらが総合的に働くようにすること。 |
4 総合的な学習の時間のねらい
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3 各学校においては、1及び2に示す趣旨及びねらいを踏まえ、総合的な学習の時間の目標及び内容を定め、例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題、生徒の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題などについて、学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。 |
5 総合的な学習の時間の学習活動
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4 各学校においては、学校における全教育活動との関連の下に、目標及び内容、育てようとする資質や能力及び態度、学習活動、指導方法や指導体制、学習の評価の計画などを示す総合的な学習の時間の全体計画を作成するものとする。 |
6 総合的な学習の時間の全体計画
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6 総合的な学習の時間の学習活動を行うに当たっては、次の事項に配慮するものとする。 | ||
(1) 目標及び内容に基づき、生徒の学習状況に応じて教師が適切な指導を行うこと。 (2) 自然体験やボランティア活動などの社会体験、観察・実験、見学や調査、発表や討論、ものづくりや生産活動など体験的な学習、問題解決的な学習を積極的に取り入れること。 (3) グループ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態、地域の人々の協力も得つつ全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制について工夫すること。 (4) 学校図書館の活用、他の学校との連携、公民館、図書館、博物館等の社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携、地域の教材や学習環境の積極的活用などについて工夫する必要があること。 |
8 総合的な学習の時間の学習活動に当たっての配慮事項(1) …教師が自らの役割と責任を明確にした上で、…、生徒を主体とした創意工夫を生かした学習活動を展開しながら、学習の場面や状況に応じて教師が適切な指導を行う必要がある。生徒一人一人の学習が成り立つよう、教師の専門性を生かした行き届いた指導を行うことが必要である。 |
※「中学校学習指導要領」及び「学習指導要領解説−総則編−」の関係する部分から一部抜粋
「職場体験の運営にかかわる学校内の組織」について、国立教育政策研究所の調査(表4)によると、「職場体験を実施する学年会」が約86パーセントとその運営の中心となっている。ちなみに、高等学校では校務分掌「進路指導部」を中心とするのが約半数となっているのと比較しても特徴的なことである。
このことは、直接的に生徒とのかかわりを持つ学年・担任団が実施主体となるという利点はあるとしても、学校の教育活動全体としての位置付けや取組について計画的、系統的になされているか、また、指導と評価の一体化の観点から次年度への継続性はどうかなどの課題も指摘されている。
中学校 | 高等学校 | |
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1 進路指導部 | 21.7% | 52.7% |
2 特別活動部 | 4.4% | 0.8% |
3 教務部 | 13.9% | 12.4% |
4 職場体験・インターンシップを実施する学年会 | 85.9% | 37.5% |
5 授業担当者 | 6.9% | 19.7% |
6 「総合的な学習の時間」委員会 | 24.3% | 7.1% |
7 校内に設置する職場体験推進委員会 | 7.8% | 22.3% |
8 その他 | 5.6% | 23.4% |
(国立教育政策研究所生徒指導研究センター 平成17年5月)
職場体験は、キャリア教育を推進していくための極めて重要な学習活動である。このため、各学校では、より効果的な全校的体制・組織づくりが必要である。
今後、中学校の職場体験を一層充実するためには、事前指導において生徒に職場体験の意義をしっかりと理解させるとともに、職業調べ等と組み合わせたり、事後にまとめの話し合いや討論会、発表会等を実施したりするなど、周到な準備と計画のもとに実施することが大切である。また、事前・事後の指導の中において、受入事業所・企業、関係機関、PTA等の参加や講師派遣などの協力が、より効果的にしている事例も多い。このようなことから、体験に伴う準備や生徒の指導をより効率的、また継続的、系統的に進めるための体制・組織づくりが重要である。
次の図は、職場体験推進委員会を設置した推進体制を例示したものである。また、同時に、受入事業所の開拓、連絡、打ち合わせ、また広報宣伝活動等を担うようにするための学校外における職場体験連絡協議会の設置なども効果的である。
さらに、各学校においては、実施状況を積極的に公表し、保護者や地域等へ説明を行うなど、十分に説明責任を果たし、保護者・地域等の協力を求めていくことが大切である。
【図 職場体験を進める全校推進体制の例】
初等中等教育局児童生徒課
-- 登録:平成21年以前 --