第2章 調査研究結果(2)

(2)木製家具の基本機能と維持管理について

1)机の天板サイズ

 普通教室用机の天板サイズをみると、今回の調査事例のうち8割以上が新JIS規格(幅65センチメートル×奥行き45センチメートル以上)に対応している。(表2‐1)。この結果は、木製家具の導入時期が、新JIS規格への改正年(1999年)以降である事例が多かったことが主要因であるが、新JIS規格の天板寸法は確実に普及していると考えられる。とはいえ、幅65センチメートル×奥行き45センチメートルの最小寸法の天板が過半数(69例)を占めており、これより大きい多様なサイズの机が普及しているわけではない。
 旧JISの天板(幅60センチメートル×奥行き40センチメートル)に比べると、大きめの天板は「ノートパソコンや教科書・ノートが置きやすい」と好評である(群馬県 県立中央中等教育学校、埼玉県都幾川村立明覚小学校、高知県 高知市立大津小学校)。また、「ノートのサイズがB5からA4に移行したので机の更新を検討した」など、広めの机への要求が木製家具の導入契機となっている事例もある(宮崎県 日南市吾田東小学校)。

表2‐1 普通教室用机の天板寸法(小中学校)

幅(センチメートル) 奥行(センチメートル) 事例数
60 39.5 2
40 5
60 45 7
46 1
64 43 1
44 1
64.5 43.5 1
45 1
65 44 3
45 69
45.5 2
65.5 41.5 1
66 46 1
48 1
68 45 2
70 40 1
45 4
46 1
48 1
49.5 1
50 7
74 44 1
75 50 1
合計 115

※ 書面調査による各都道府県からの回答結果より(有効回答のみ)

2)机・いすの高さ調節機能

 机・いすの高さ調節方法には、1.上下にスライドする脚部を水平ボルトで留める方法、2高さ調節板を脚部下端に垂直ボルトで留める方法の2種類がある。1.は、ボルト部分に緩みが生じやすいこと、総重量が重くなりがちであることが欠点である。その一方で、1種類の机・いすを用意すればよいこと、同じ机を6年間使い続けることにより愛着がもてるなどの利点がある。2.は、構造が単純であるため、ボルト部分の緩みが生じにくいこと、総重量が比較的軽いことが利点である。しかし、高さ調整板による調整幅には限界があるため、大・中・小など複数サイズの机・いすを用意する必要がある。
 高さ調節方法は、細かく見ると製品によって様々な工夫がなされているが、全体的には製品開発の試行段階にあると思われる。座面を高くすると、背もたれが相対的に低くなりすぎて腰椎を支持できないなどの問題もみられた。導入に際しては、実際に高さ調整をして、全ての高さ段階において不具合がないか否かを入念にチェックする必要がある。
 高さ調節は、児童・生徒の成長にあわせて、学期はじめに教員により行われることが多いが、PTAにより高さ調節が行われるという取り組み例もある(宮崎県 日南市吾田東小学校)。高さ調節は、概して「手間と時間がかかる」という意見もあり、調節機能の簡易化が望まれる。児童・生徒が自らの手で身辺の環境を調節するという体験は、自分の身体を含めて環境を理解するための教育機会としても有効であろう。
 また、教室内において、複数のサイズの机・いすが混在してくると、やがて同サイズの机といすのセットが判別できなくなるなどの不具合が指摘されていた。適正な姿勢を保つ高さの机といすのセットを使用することは、児童・生徒の健康面で配慮すべき点である。こうした混乱を避けるために、机の幕板にサイズを示す小さなカラープレートを添付する事例などは、有効な工夫といえる(島根県 松江市母衣小学校)。

3)机・いすの形状および重量

 木製家具は、その材質上、曲面を成型しにくい。集成材や合板においてはその限りではないが、スチール家具に比べると製材コストもかかることから、直線的あるいは平滑面から構成される家具形状になりがちである。このため、今回の調査事例でも、いすの座面と背もたれに適度なアールがないことによる座り心地の悪さが課題との指摘もあった。
 今回の調査では、木製机・いすはスチール製のそれに比べて重く、特に低学年の児童には持ち運びがしにくいという指摘が散見された。木製の机・いすは、強度や高さ調整機能を確保するとなると、どうしても重くなりがちである。調査結果をみると、机の重さは8~10キログラムが最も多い(表2‐2)。 しかし、購入規格書において「机は8キログラム以下、いすは4.5キログラム以下」とする条件を提示して、軽量な木製家具を導入することができている事例もある(島根県 松江市立母衣小学校)。今後、学校用木製家具の市場拡大とともに、強度がありかつ軽量な製品が普及する可能性はあるであろう。
 また一方で、木製家具の「重厚さ」と「落ち着き」を評価する意見もある。木製家具の導入にあたっては、移動を頻繁にするのか否かなど、現場での使い方を考慮した上で、多面的な価値判断のもとに検討がなされるべきであろう。

表2‐2 普通教室用机の重量(小中学校)

重量(キログラム) 事例数
~6 2
6~7 1
7~8 6
8~9 29
9~10 23
10~11 10
11~12 3
12~13 10
13~14 3
14~15 2
15~16 5
16~17 1
17~18 1
18~19 0
19~ 5
合計 101

※ 書面調査による各都道府県からの回答結果より(有効回答のみ)

4)樹種と強度

 木製机の天板については、「柔らかくて傷つきやすい」「デスクマットを敷いて傷がつかないようにめ部分で「割れ」が生じたり、集成材を使ったいすが転倒した結果、突出している座面前縁や背もたれ上端が割れる事例がみられた。傷や割れは木製家具の特徴でもある。机・いすに使われる地場産材の樹種は地域によって多様であるが、今回の調査では、桧や杉の間伐材が多用されている(表2‐3)。杉は、軽くて柔らかいため、加工性はよいが、比較的傷つきやすく、木目に沿って割れやすい性質を持つ。一方、硬くて傷つきにくい樹種は、重くて加工性も劣るものが多い。一般に、如何なる樹種にも長所・短所があるので、どの樹種が最適であるとは一概に言えない。樹種の性質を理解した上で、どのような性能を重視するのかを考慮して導入検討がなされるべきであろう。
 卒業する6年生の机・いすを新1年生が利用する際に、天板を磨いて再生させるなど、メンテナンスの工夫によって傷への対処をしている事例もある(三重県 大宮町立大宮小学校)。また、木製家具を「ものを傷つけないように大切に扱う心」を育てる教材としてとらえている例や、木製家具の傷に「使い込まれたよさ」を感じるなどの指摘もあった。「傷がつきにくい素材こそが最良のものである」という一元的価値とは異なる、多様な価値観が存在することも事実である。循環型社会を志向する今日的社会状況において、木製家具の新たな価値が教育現場において発見されつつある。木製家具のこうした多面的教育効果については、次節で詳述する。

表2‐3 木製家具の樹種

樹種 事例数
59
41
ナラ 11
カラマツ 10
タモ 7
ブナ 5
4
赤松 3
2
ミズナラ 1
カバザクラ 1
アテ 1
セン 1
カエデ 1
ウラジロエノキ 1
その他合板等 7
合計 155

※ 書面調査による各都道府県からの回答結果より(有効回答・複数回答)

5)多様な使われ方に対する性能

 木製のいすを校庭に持ち出して使うと「脚部の汚れをとるのに手間がかかる」という意見が散見された。こうした事情から、木製のいすは教室内専用として、屋外用としては別のいすを用意しているという事例も少なからずあった。また、いすの脚部が床とこすれて傷をつけたり、音を立てたりすることを防止するために、フェルト地の緩衝材を脚部裏に後づけで貼り付けている事例もある。机・いすの脚部は、傷みや汚れの多い部分なので、傷からの保護処置や清掃のしやすさも導入にあたって事前検討されるべき観点である。
 机の持ち運びがしづらいという評価がなされている事例をみると、重さだけが原因ではないことがわかる。例えば、天板の両側が側板で塞がれているために手掛がかりがないなど、机の両側面の形状に課題がある例もみられた。同じく、机の両側面に設けられた荷物掛けフックが邪魔をして、机を横に並べると隙間が開いてしまう例もあった。多様な学習形態や使われ方に対応できる性能を備えているか否かという検討も必要であろう。

6)環境に対する配慮

 スチール家具に代えて木製家具を導入する動機として、「分別廃棄が容易であるから」という回答を挙げた学校も多かった。また、シックハウスの原因化学物質に配慮して、ウレタンクリア塗装とすることを導入の条件としている事例もあった(高知県 高知市立大津小学校)。環境負荷や室内空気環境を重視する考え方は、教育現場にも広く普及してきているといえる。

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