第2章 調査研究結果(1)

(1)木製家具導入の考え方と体制について

1)導入の考え方

 地球環境の問題が社会的に大きく取り上げられている今日、学校教育においても環境教育への取り組みが重要な課題となっている。「森林資源の保全」「循環型社会の構築」といった難しい問題を、身近な学校施設そのものが実践していることは、子どもたちが学習を進めるきっかけとして重要なことである。本調査の対象となった学校からは、学校用家具に木材を活用することは、このような教材として、まさに適当であるという声が多く聞かれた。特に地域の間伐材などを利用した家具を地元で製作することは、地場産業の育成が、延いては地域の教育力を高めることにもつながるという新たな視点が示唆されている。
 一方で、学校用家具に木材を活用することの大きな妨げになっている問題としては、多くの教育委員会や学校の声として、製品が高価であることが挙げられている。実際、教室用机・いすについて、今日の大多数の学校で導入されているスチール製品と比較した場合、その価格が倍以上する製品も少なくない。しかし、大規模な工場で大量に生産される工業製品と手作りに近い工程で制作される木製家具を価格面のみで比較することには、基本的に無理があるという見方もできる。
 本調査時において、全国の約半数の都道府県が、学校用家具に適用できる補助金制度が有るとの回答があった。本報告書で取り上げた事例においても、3割近くがその適用を受けたと回答しており、特に現地調査を行った事例の半数は助成金等の適用を受けていた。これらの制度の内容は、公立学校の家具に対象を特定した制度から、公共的な施設全般の木材使用を対象とする制度まで多岐に亘っているが、上述したように、価格面においてやや他製品に比べて弱みがある木製家具を、その教育的効果の重要性という観点から普及を図っていくためには、今後ともこのような補助制度の継続と全国的な創設が望まれていると考えられる。

2)導入の体制

 本報告書で取り上げた事例では、強度や耐久性、座り心地といった機能面において、必ずしも学校用家具として万全とはいえない木製家具が散見されることもあったことは残念である。主要な要因の一つとして、地域における従前の工法に頼った家具製作が行われていた点が挙げられる。伝統的な工法を継承することは、それ自体が教育的な意味をもつこともあり、一概に否定することは出来ない。しかし導入においては、その伝統工法が成立していた時代の社会環境が、現在および将来においても持続しているのか(たとえば、部材の結合部の緩みなどを日常的に補修できる人が学校内や学校の近くにいるのか等)という観点からの考察も必要となる。
 家具の導入にあたっては、教育委員会や学校が中心になって検討が行われるが、本調査の1割の事例においては、第三者の意見をも聴取していた。特に現地調査を行った事例においては、半数(校舎の設計と一体となった計画を含む)がそれを行っていたことが注目される。
 意見を聴取する形態については、検討委員会の設置、アドバイザーの登用、ワークショップの開催などがあり、聴取する対象者としては、校舎の建築設計者や学識経験者などの専門家、保護者をはじめとする地域住民、児童・生徒などがあった。これらの活動を通して、当該の学校用家具に必要な要望を明確化したり、それを実現するために必要な解決策の情報を全国的に収集したりすることが行われている。また複数の業者から企画提案方式で試作品の提供を受け、審査委員会で採用を決定した事例もある(群馬県 県立中央中等教育学校)。

3)購入規格書の作成

 木製の学校用家具を購入するにあたって、規格書あるいは仕様書のような形で独自の基準を設けた事例もあった。本調査の対象事例全体では1割に満たないが、現地調査を行った事例の半数では、何らかの独自基準を作成していた(島根県 松江市立母衣小学校など)。
 通常、規格書においては、ホルムアルデヒド放散量に関するJIS/JAS規格やJIS規格 S1021「学校用家具-教室用机・いす」に適合する能力・強度を備えていることのほか、使用するべき材質(県産材あるいは地域産材とすること)などが記されている。しかし同時に、独自基準としては、学校教育において要求される性能も明確にされていることが望ましい。

 例としては、次のような項目が挙げられる。

  • 教育・学習の方法に適合する机の天板等の寸法
  • 姿勢維持に適したいすの形状や加工
  • 使用時の耐久性に配慮した塗装等の仕上げ
  • 児童・生徒が家具を移動させることを考えた重量や細部の形状
  • 児童・生徒の安全性に配慮した細部の形状や部品の取り付け
  • 収納物に配慮した棚の寸法やフック等の取り付け
  • 品質保持に適した部品交換の方法や分別廃棄が容易な構造であること
  • 机をすき間なく並べられるように配慮されていること。

 など。

 木製家具に使用される樹種は地域によって異なり、材質の特性も多様であることから、全国的に共通な規格・仕様を設けることは難しい。しかし、特に教室用机・いすに関しての要求性能に関しては、全国的に共通する事柄が多い。このような規格書の内容が全国的に情報交換されることで、さまざまな樹種に対応する解決策や具体的な仕様の工夫・開発が行われていくことが、今後、学校用家具における木材活用の普及にとって欠かせないことであると考えられる。

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