【ポイント解説】【整備手法】利用しやすい教室等

【目次】

1.聞き取りやすい音環境
2.居心地の良い学習空間


1.聞き取りやすい音環境

 児童は音声の聴取能力が発達段階にあり、聴覚障害や聴覚過敏の場合に限らず、全ての児童にとって音環境への配慮が重要です。教室やオープンスペース等においては、音声情報を明瞭に聞き取れるよう、騒音の低減や響きの抑制について検討することが大切です。

(聞き取りやすい音環境のポイント)

  • 反響等による聴こえづらさを低減するため、適正な吸音性能を持つ天井、壁材を採用することが重要である。
  • 一定の静寂さを必要とする空間については、適度な遮音性を持つ仕様とすることが重要である。
 

天井に吸音材を貼ることで、音が響きやすい木質仕上げの校舎でも響きを軽減(左)
グラスウールとパンチングメタルの組み合わせで壁面の吸音を工夫(右)



「日本建築学会環境基準 AIJES-S0001-2020 学校施設の音環境保全基準・設計指針」に示された主な観点(抜粋)
  • 学校施設において教育・学習活動を効果的に行うためには、教師と生徒および生徒間のコミュニケーションが容易に行えること、また、落ち着きのある空間を実現することが必要である。そのための室の条件としては、あらゆる学校について、諸室における活動内容とそれによる発生音の程度に応じて、静けさ(室内騒音)と残響の推奨値を満たす必要がある。
  • 静けさの推奨値は、室間の遮音性能、床衝撃音の遮断性能の推奨値を満たすことによって得られる。
  • 残響の推奨値を満たすことで、音声の明瞭性(聞き取りやすさ)や騒がしさの抑制効果が得られる。このためには、天井材に岩綿吸音板などの吸音材を用いる必要がある。
  • オープンプラン型教室の場合には、天井材に吸音性能の高いグラスウールなどを使用するとともに、壁面での吸音や、教室の配置についても工夫して、隣接教室への音の伝搬を抑える。
  • 教室内で少人数グループで分かれた学習を行う際も、吸音性能が高い教室では、音の混在、騒がしさが軽減され、グループ内の音声の聞き取りやすさが高まる。

「ウェルビーイング向上のための学校施設づくりのアイディア集」
(令和6年9月 学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議)より

 

 

有識者(音環境)からのコメント

グループ学習やアクティブな活動をする部屋では様々な音が混在しやすく、インクルーシブな環境を実現するためには吸音が重要です。教室に温かみを与えるために木材を取り入れても、木の吸音性能は低いため、音環境への配慮がなければ快適で落ち着いた空間にすることは難しいです。天井に吸音材を貼るだけでも大きな効果があり、既存校舎でも比較的簡単な工事で設置できるものもあります。

当事者からのコメント(感覚過敏)

学校の中でも階段は音の反響が大きい場所です。また、屋内通路、教室の出入口にかかわらず、校舎全体の音環境として、反響を抑える工夫が必要です。体育館の壁を有孔ボードにした学校では、反響が抑えられており、落ち着いて過ごすことができました。反響音を抑えることは、聴覚過敏の児童だけでなく、聴覚処理障害や補聴器具を利用する人にとっても必要な環境の工夫だと思います。

2.居心地の良い学習空間

(居心地の良い学習空間のポイント)

  • 障害のある児童生徒の学習方法に配慮して、教室内に教材・教具等が適切に配置できるスペースを確保したり、障害に応じた専用の学習空間、障害のある児童生徒が落ち着きを取り戻すことのできるカームダウンスペース等を設置できるように計画することが有効である。
  • オープン型の教室については、必要に応じて、空間を小空間に区切れるような工夫をすることが有効である。
  • 運営面での対応と連携し、障害の状態等に応じて、多様な学習形態による活動を可能とする観点から、教室内の動線を確保したり、騒音や雑音、視覚的な刺激を避けるように計画することが有効である。


(廊下・オープンスペースに一人にもなれる場所を整備)

[千葉県千葉市立美浜打瀬小学校]
  • 普通教室の横にあるオープンスペースへ、可動式の家具等を使用して囲まれた場所を整備し、居場所としての機能を高めた。
  • 学習面での困難や、行動面での多動性などが見られる児童が使用できる小空間を、パイプユニットを使用して設けている。
  • 担任教師は、児童がカームダウンスペースで過ごす様子を、普通教室から確認することができる。

教室平面図

 

可動式家具でつくられたスペースにマット・クッションを設置(左)
パイプユニットによる小空間(右)



[千葉県柏市立田中北小学校]
  • 校舎内の廊下へ、色やベンチの形状が異なる7か所の小さな居場所「DEN」を整備した。
  • DENの色は、開校前に児童にアンケートを取り決定した。
  • DENでは、休憩時間に少し座って一人で休んだり、友達とおしゃべりを楽しんだりと、自由な過ごし方ができる。

廊下に並行したベンチ(左)、有機的な形状のベンチ(中)、向かい合っておしゃべりできるベンチ(右)




[広島県福山市立想青学園]
  • 普通教室前のオープンスペースへ、音を遮ることのできる壁に囲まれた一人用のソファを設置し、児童生徒が静かに過ごすことができる。

壁に囲まれた一人掛けソファ
 


 

(普通教室へカームダウンにも利用できる空間を設置)

[東京都立川市立若葉台小学校]
  • 各普通教室に、カームダウンにも利用できる空間を設けている。
  • 教室との境界にはカーテンを設け、必要に応じて教室からの視線を遮ることができる。

教室平面図(左)、教室内側からカームダウンスペースを見た様子(右)


 

(余裕教室へ騒音・雑音・視覚的な刺激を避ける部屋を整備)

[埼玉県さいたま市立与野本町小学校]
  • カームダウンスペースを兼ねたプレイルームを余裕教室に整備。
  • 特別支援学級の児童が気持ちを落ち着かせたり、集中力を取り戻すために活用しており、プレイルームは教員に声をかけることでいつでも利用することができる運用となっている。
  • 廊下からの視線を防ぐために模造紙等で扉の窓を塞ぎ、室内にはあえて掲示物を設けないことで児童への刺激を減らしている。

廊下に面する扉の窓を模造紙で塞ぐことで廊下からの視線を防ぐ

 

室内に掲示物を設けないことで児童への刺激を減らす工夫
 

有識者からのコメント(学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議委員)

カームダウンスペースは、どの場所に設けるのかが重要です。カームダウンは、教室の中から、校舎の外の屋外部分まで段階的なグラデーションがあり、それぞれの場に応じた適切な整備をすることで、児童生徒等にとって利用しやすい空間となります。

当事者からのコメント(感覚過敏)

校舎へのカームダウンスペースの設置など、感覚に配慮のある環境が必要です。どの教室にも、少しの間、人の視線などを気にせずに落ち着けるスペースがあると安心できる子供も多いです。校舎内に複数あることが望まれますが、安全面から教職員の目の届く範囲に設置されることが適切だと思います。


(オープン型の教室を小空間に区切る工夫)

[千葉県千葉市立美浜打瀬小学校]
  • 教室と隣接したオープンスペースは、家具や遮音壁を配置することで空間を仕切っている。
  • 学習に合わせた空間のレイアウト変更が可能なほか、教室同士の音の干渉も防いでいる。

校舎平面図(左)、家具と防音壁を使用してオープンスペースを仕切る(右)