【当事者参画】学校のバリアフリー化で進める当事者参画
令和8年2月19日に開催した「学校施設のバリアフリー化講習会」にて、高橋儀平 東洋大学名誉教授より、「学校のバリアフリー化で進める当事者参画」として、講演をいただきました。本ページは講演内容の要点をまとめたものになります。なお、講演の様子は、下記リンクからご覧いただけます。
https://youtu.be/pXsrH-xdVWM
【東洋大学名誉教授 高橋儀平】
- 文部科学省の検討部会である「学校施設のバリアフリー化の推進に関する検討部会」の部会長として、「学校施設バリアフリー化推進指針」(令和7年8月22日改訂 文部科学省大臣官房文教施設企画・防災部)の改訂や、令和8年度以降の公立小中学校等施設のバリアフリー化に関する整備目標の策定等の検討を取りまとめた。
- 国土交通省の検討会である「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準に関するフォローアップ会議」の座長を務め、「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」(令和7年5月 国土交通省)の改訂や「建築プロジェクトの当事者参画ガイドライン」(令和7年5月 国土交通省)の策定にも携わる。
1. 当事者参画のキーワード
(当事者)当事者参画における「当事者」の対象は、高齢者や障害者、外国人といった利用者に限らず、学校や公共施設を利用する地域住民や児童生徒、教職員等幅広い関係者を含みます。その中でも、施設利用に当たっての困りごとを抱える人たちとの対話的・包摂的なプロセスが当事者参画においては重要な観点となります。
(対話)
当事者参画においては関係者における「対話」が重要となりますが、「対話」は立場や意見が異なる者の相互尊重を前提とし、意見が異なっていたとしても、より良い解決策を探る建設的な話し合いのプロセスと捉えることができます。
(公平性・透明性)
当事者参画においては、参加者の人選や運営の「公平性」、検討プロセスを早い段階で市民、地域、あるいは学校関係者に周知していくといった「透明性」を確保することが、プロジェクトの検討の場の信頼性に繋がることが期待できます。
(“Nothing about us without us”)
2006年の障害者権利条約の理念、スローガンとして、“Nothing about us without us”(私たちのことは私たち抜きで決めないで)というものがあります。これは、障害がある人たちの人権と尊厳を示しています。これは、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の際の国際オリンピック委員会(IPC)アクセシビリティガイドにも継承されています。
(ユニバーサルデザイン)
「ユニバーサルデザイン」については、現在では、誰もが公平で差別のない社会をつくるインクルーシブデザインという言葉も出てきていますが、ほぼ同義語で可能な限り多くの人が利用できるハード、ソフトのデザインを意味しています。ユニバーサルデザインを実現していくためには、利用者、当事者の参画が不可欠で、当事者の参画により隠れている様々なニーズを掘り起こすことが必要です。
(バリアフリー法)
バリアフリー法では当事者参画を推進しています。法律による基準やガイドラインは標準的な基準ですが、この基準の遵守とともに、当事者参画により、基準等に含まれない多様なニーズに気づき、整備を進めることが必要です。
2. 学校バリアフリーにおける当事者参画の意義
当事者参画により、設計者も気づかない当事者の困りごとや、見落としがちな日常、非日常の生活動線や機能を確認することができます。また、当事者自身にとっては、自分たちの地域での役割や自分自身の存在感の確認ができます。またこのことが地域全体での活性化にもつながっていきます。
設計者や行政の方々にとっては、バリアフリー法や福祉のまちづくり条例における基準、そしてガイドライン(「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」等)では解決できないニーズを知ることになります。また、基準やガイドラインの成り立ちを知ることにもつながっていきます。
また、当事者の心理的負担、例えば、先生の手を借りなければいけない、友達の手を借りなければ移動できないという負担、これが例えば小学校だと6年間続いていくことは当事者を含む関係者にとって大変な心の負担となります。このような関係者間でのバリアを当事者参画により軽減していきます。
差別のない公平な社会を作るためには、小さい時からの教育が重要であり、そういう教育の場を作るためには、教育環境が少なくともまずバリアフリーになっていなければいけません。様々な人たちが出会い、意見を出し合うことで、助け合うことの重要性を体現できます。そのことが、「心のバリアフリー」を進めることにもつながっていきます。
当事者参画の中では、すべての意見が通ることは難しいかもしれません。それでも、そのプロセスを経験することによって、当事者はもちろん、児童生徒や地域住民の自信と納得感、あるいは“みんなで学校をつくる”という地域の誇りにもつながっていきます。
3. 国土交通省「建築プロジェクトの当事者参画ガイドライン」
国土交通省では、2030年を目標年度とし、今後5年間において、都道府県・政令市等の特別特定建築物である公共建築物において、設計段階における当事者参画の実施率を100%にすることを目標とし、当事者参画を実施する際のガイドラインとして「建築プロジェクトの当事者参画ガイドライン」を策定しています。
特に大事なポイントとしては、公平性、透明性、そして当事者参画における効果の検証を行うことが挙げられています。また、当事者参画を行うフェーズについては、建築プロジェクトの基本構想・計画の段階、設計段階、施工段階、供用開始後の維持管理・運用段階等、各段階での当事者参画の進め方等が示されています。更にこれらの取組の共有も大事になります。他のプロジェクトにもそれぞれの取組の経験をつなげていくこと、また、これに関わる設計者、発注者、そして当事者の人材育成にもつなげていくことが期待されています。学校施設のバリアフリー化においても、当事者参画の推進が位置付けられ、このことは非常に大切なことだと考えています。
4. 学校施設整備における当事者参画の進め方
児童生徒、地域住民、障害のある児童生徒、専門家とともに、教職員も主体的に参画していくことが重要です。1日の生活の過半を学校で過ごす教職員あるいは児童生徒がまず当事者の主体になって、そして、関係する地域の方々、地域の障害者等が参画する形になっていくかと思います。
参画のフェーズは、方針・目的の確認段階、基本構想・計画段階、設計段階、施工段階、運用段階の5段階にまとめられます。方針・目的の確認の段階では、まずゴールを明確に決めていくことが必要です。また、重要なフェーズである設計段階では、多様な人たちの意見を聞いて、新たな気付きを発見していくことが大事です。もうひとつ重要なフェーズが施工段階で、工事進捗の中で当事者参画の機会がなくなってしまったり、設計どおり進められないということがみられることもあります。最後の運用段階では、実際に建築された施設におけるバリアフリー化の効果、経験をフォローアップし、他のプロジェクトに展開していくことができると理想的な取組となります。
また、各フェーズに共通して、当事者参画を進めるに当たって心得ておくべき姿勢としては以下のとおりです。これらを頭に置きながら、当事者参画を進めていくことが必要となります。
- 参加者がお互いをリスペクトしながらも、遠慮せず意見を表明できる運営を心がける
- 相違点があったり、既存のバリアフリー化が好ましくない場合は、事例にとらわれない新たな解決策にチャレンジする
- 当事者参画の背後にいる、多くの児童生徒、職員、市民、利用者の存在を常に意識する
- 空間や設備のバリアフリー化だけでなく、新たな教育方法の変更や、障害のある児童生徒の学び方、関係性、また、児童生徒、教職員の居場所がどう変わるのか等の議論も平行することが大切
- ワークショップや意見交換では、小グループで模型や付箋を使い、意見や修正点の可視化と論点を共有し、合意形成に努める
- 校内ではクラス、教職員単位で、校区では保護者間で意見をまとめ、当事者参画の場で提案することもあり得る
5. 当事者参画事例
これまでに携わった当事者参画の事例をもとに、当事者参画の実施のパターンを5つに分類しました(事例の詳細な説明については、講演動画(14:29~21:59)をご参照ください)。パターンA 構想、基本計画の段階から行政が主体的にユニバーサルデザインや当事者参画の場を形成
パターンB 発注者がバリアフリーやユニバーサルデザインを実現するために要求水準書に当事者参画を明記
パターンC プロポーザルコンペ要綱に基づき応募事業者が当事者参画の手法を提案
パターンD 事業者、設計者の決定後に発注者がユニバーサルデザインの重要性を認識し当事者参画の場を設定
パターンE 基本設計終了後にバリアフリー手法として学識者・専門家が当事者参画の場を提案
当事者参画はなるべくプロジェクトの初期段階で実施することが望ましいですが、初期段階で実施できなかったとしても、可能なタイミングで当事者参画の場を設定することが大事です。これは、新築でも既存施設の改修でも同様です。既存施設の改修ではバリアフリー化あるいはユニバーサルデザイン化の可能な範囲が限られる場合がありますが、たとえ一か所でも、二か所でも改善できれば、バリアフリー化への期待につながっていきます。
(当事者参画の事例(パターンB):国立競技場のユニバーサルデザインワークショップ)
ワークショップは、基本設計段階・実施設計段階・施工段階で行われました(全21回)。特に、施工段階では、モックアップを作り、客席やトイレ、エレベーター、サイン等の要件を洗い出し、施工の現場でうまく納めることができるのかという点が議論の中心となりました。
本ワークショップの結果として、車いす使用者やベビーカーを利用する方々と調整し、皆で合意形成を行い、1階の視覚障害者誘導用ブロックに関しては、JIS規格による5mmの突起の高さではなく、半分の2.5mmとしました。また、エレベーターに関しては、聴覚障害者の方が災害時に防災センターとどう連絡を取るか実証実験を行い、専用のモニターをエレベーターの籠の中に設置し、文字盤等様々な方法で聴覚障害者の方と防災センターの方がコミュニケーションをとることができるようにしました。トイレに関しては、車いすで使用できる授乳室や、高齢の方や障害のある方に配慮した同伴で利用できるトイレ等を計画しました。
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点字ブロックの突起高さ等の検証
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聴覚障害者と防災センターをつなぐモニター
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車いす使用者が利用できるおむつ交換台
6. まとめ
当事者参画によって全ての差別や偏見が解消されるわけではありませんが、学校のバリアフリー化では建物のバリアで入学できない、学べない事態は避けなければいけないという「障害の社会モデル」の理解につながります。また、当事者参画によって設計者等関係者に気づきが生じます。学校の場合、児童生徒だけでなく教職員等の気づきにつながり、教育の質に大きな変化を与えていきます。学校における当事者のニーズは特別なものではありません。普段の生活の延長線上にあるものです。このことについて気づきを得ることは非常に重要です。様々な市民、利用者との出会いがなければインクルーシブ教育も共生社会への歩みも始まりません。多様な人たちが参画する設計プロセスは、インクルーシブな社会を作っていくための重要な一歩となります。
