学校施設の耐震化を円滑かつ迅速に推進していくためには、その重要性及び緊急性について、関係者間で共通の理解をする必要があり、例えば、地方公共団体においては、教育委員会をはじめとして、財政部局、建設部局、防災部局等の行政関係者、建築構造や建築計画に係る学識経験者、設計実務者、教職員等で構成する検討委員会を設置することも考えられる。
また、このような検討委員会の中に、建築構造の専門家等による専門部会等を設置し、耐震化推進計画の具体的な内容等について立案することのできる体制を整備することも有効である。
既存学校施設に係る耐震化推進計画策定に関する基本的なフローは参考資料のとおりである。
耐震化推進計画策定の際には、地震や余震発生時における人的被害を回避し、建物等の損傷を最小限とするために、倒壊又は大破する恐れのある危険度の大きい学校施設から耐震化事業を行うという視点が重要である。
なお、具体的な耐震補強方法の選択に当たっては、様々な工法について工事費や工事単価を比較検討するなど、合理的な耐震化推進計画の策定に努めることが重要である。
耐震化推進計画を策定する際、一定の期間を設定し、具体的な目標を策定することが重要である。
また、他の公共施設の整備計画との整合を図りつつ、策定した目標が実現可能となるよう年次計画を設定し、学校施設の耐震化の着実な推進に努めることが重要である。
所管する個々の学校施設について、建築年、面積、棟数、過去に耐震診断や耐力度調査を行っていればその結果、耐震補強の実施の有無、地震や火災等の被災歴など、基本的な情報を把握する。
所管する個々の学校施設について、設計図書(意匠・構造)、構造計算書、地盤調査資料等が保存されているかどうかを確認する。設計図書がない場合は、現地調査を行い、平面図、軸組図その他必要な図書を作成する。設計図書がある場合においても、当該設計図書と実際の建物の状況を照合し確認する。
当該地域周辺の活断層の位置や想定されている海溝型地震の震源域、当該地域に予測される地震動の大きさ、地震動による被害想定調査結果等に関する資料の収集を行う。
その際、地震調査研究推進本部が作成する「全国を概観する地震動予測地図」や「シナリオ地震動予測地図」等を活用することも有効である。
所管する個々の学校施設について、地域防災計画上、地震等の災害発生時に避難施設等として指定されているかどうかを確認する。
中長期的な視野で耐震化計画を検討することも重要であり、所管する学校の統廃合・転用計画や市町村合併計画等を把握する。
耐震化優先度調査は、耐震診断又は耐力度調査を実施しなければならない学校施設を多く所管している地方公共団体等の設置者が、どの学校施設から耐震診断又は耐力度調査を実施すべきか、その優先度を検討することを主な目的として実施するものである。
所管する学校施設が少ない場合等においては、耐震化優先度調査を省略し、直接耐震診断又は耐力度調査から実施することも考えられる。
また、壁式構造等で低層の建物については、本調査を省略し、1次診断により耐震性能の確認を行うことも考えられる。その場合、診断結果がIs≧0.9の場合は、「耐震上問題が少ない」とするが、Is<0.9の場合は、引き続き第2次診断等を実施し、「4 耐震診断の実施及び耐震化事業に係る緊急度の判定」により耐震化事業の緊急度ランクを判定する。
さらに、兵庫県南部地震において極めて深刻な被害をもたらした軽量プレキャストコンクリート造屋根を有する屋内運動場については、「文教施設の耐震性能等に関する調査研究(報告書)」(社団法人日本建築学会)に基づき、「(3)3.耐震化優先度調査の評価方法」に示す優先度ランクRpを1.として、早急に耐震診断を実施し適切な対策を講じる必要がある。
鉄骨造屋内運動場の場合で、屋根梁が支持部材に固定されていないもの(ローラー支承など)で落下防止措置がとられていない建物、及び、桁行方向の鉄骨部分が非剛接架構のみで壁や軸組筋かいが無い建物についても、「(4)3.耐震化優先度調査の評価方法」に示す優先度ランクSpを1.として、早急に耐震診断を実施し適切な対策を講じる必要がある。
一方、鉄筋コンクリート造校舎及び鉄骨造屋内運動場以外の、例えば木造、ブロック造、鉄骨鉄筋コンクリート造などの構造形式の学校施設についても、学識経験者その他の当該構造形式に係る専門家の協力を得て、耐震診断等の優先度を検討することも有効である。
耐震化優先度調査の対象となる鉄筋コンクリート造校舎について、それぞれの建物の建築年及び階数により、下記(1)に示す1~5に分類し、次に、下記(2)に示す補正項目について検討を行う。
当該建物の建築年及び階数により以下の5つに分類する。
分類 | 該当建物 |
---|---|
1 | 「昭和46年以前建築の3階建て以上の建物」 |
2 | 「昭和46年以前建築の2階建ての建物」又は 「昭和47年以後建築の4階建て以上の建物」 |
3 | 「昭和46年以前建築の平屋建ての建物」又は 「昭和47年以後建築の3階建ての建物 |
4 | 「昭和47年以後建築の2階建ての建物」 |
5 | 「昭和47年以後建築の平屋建ての建物」 |
なお、バランスドラーメン※の建物については、建築年及び階数にかかわらず、「1」に分類する。
※ 鉄筋コンクリート造校舎のはり間方向の柱の設計を行う際に、柱から跳ね出したキャンティ部分と内側のモーメントを釣り合わせることで、柱の鉄筋量を極力少なくする構造形式のことを指す。一般的に、はり間方向は1スパンで構成されている。
調査対象建物について、下記の5項目について検討し、その結果をA,B,Cに分類する。
また、c)及びd)については、設計図面等から判断することとなるが、図面等がない場合は現地調査により判断する。さらに、校舎の平面プランが片廊下形式でない場合は、分類をBとする。
また、b)、c)及びd)の3項目については、最下階について調査する。なお、4階建て以上の建物の場合は、最下階、並びに、最上階を含めた上層2層を除いた階についても 調査を行い、最も評価の低い階の分類を採用する。
当該建物の構造部材であるコンクリートについて強度試験を行い、原設計における設計基準強度との比較により、下表のとおり分類する。
強度試験は、各階、各工期ごとに3本程度のコンクリートコアを採取して行い、それぞれの圧縮強度試験結果の平均値の最小値を強度試験値とする。なお、コアの採取方法等については、「2001年改訂版既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・同解説 2.5.1コンクリート材料の調査」を参考とする。
分類 | A | B | C |
---|---|---|---|
強度試験値
設計基準強度 |
1.25以上 | A,C以外 | 1.0以下 |
なお、強度試験値が、13.5N/mm2(135kg/cm2)以下、又は、設計基準強度の3/4以下の場合は、以下b)~e)の調査は省略し、「3.耐震化優先度調査の評価方法」における優先度ランクRpを1.とする。
柱、梁等の主要構造部材の老朽化の状況(鉄筋腐食度、ひび割れ等)について調査し、その結果により下表のとおり分類する。なお、老朽化の状況は、「公立学校建物の耐力度簡略調査説明書 1 鉄筋コンクリート造(2)保存度」を参考として、目視調査により判断し、下記b)-1及びb)-2により評価する。
分類 | A | B | C |
---|---|---|---|
程度 | 鉄筋腐食度及び ひび割れ共に 評価1 |
A,C以外 | 鉄筋腐食度 及び ひび割れ共に評価3 |
柱・梁、壁、について調査し、最も評価の低い部分の評価を採用する。
分類 | 1 | 2 | 3 |
---|---|---|---|
程度 | 特に問題無 | 錆び汁あり | 鉄筋露出 又は 膨張性発錆あり |
柱・梁、壁、について調査し、最も評価の低い部分の評価を採用する
分類 | 1 | 2 | 3 |
---|---|---|---|
程度 | ほとんど認められない | ヘヤークラック 又は 1mm未満のクラックあり |
1mm以上のクラックあり |
当該建物のはり間方向及び桁行方向の構造架構について調査し、その結果に基づき下表のとおり分類する。
はり間方向の架構は、1スパン架構(はり間方向の架構柱が2本のみ)の有無について、桁行方向の架構は、各スパンの長さについて、それぞれ調査しその結果に基づき下表により分類する。
耐震壁の配置を調査し、その結果により下表のとおり分類する。
下階壁抜け架構※については、3階建て以上の建物の場合に調査し、2階建ての建物の場合は、「無」とする。
はり間壁の間隔については、はり間方向に配置されている耐震壁の間隔を調査する。また、妻壁の有無については、両妻の耐震壁の有無を調査する。
※ 下階壁抜け架構とは、一つの架構の中で、2層以上にわたり耐震壁のある場合で、直下階に耐震壁が無い状態を指す。
当該建物が立地している地域の想定震度を調査し、その結果により下表のとおり分類する。なお、想定震度が設定されていない場合は、分類をBとする。
分類 | A | B | C |
---|---|---|---|
震度 | 震度5強以下 | 震度4弱 | 震度4強以上 |
耐震化優先度調査の結果を下の総括表に取りまとめる。
分類 | 評価項目 | 評価ランク | |
---|---|---|---|
基本分類 | 建築年( )、階数( ) | 1 2 3 4 5 | |
補 正 項 目 |
コンクリート強度 | 設計基準強度( )、 強度試験値( ) |
A B C |
老朽化 | 鉄筋腐食度( ) ひび割れ( ) |
A B C | |
プラン | はり間スパン数( ) 桁行スパン長( ) |
A B C | |
耐震壁の配置 | 下階壁抜け架構( ) はり間壁間隔( )、 妻壁の有無( ) |
A B C | |
想定震度 | 想定震度( ) | A B C |
耐震化優先度調査総括表に基づき、以下に示す評価フローに従って、優先度の補正(Aは優先度を下げる補正、Cは優先度を上げる補正)を行い当該建物の耐震診断又は耐力度調査の優先度ランクRpを判断する。
なお、軽量プレキャストコンクリート造屋根を有する屋内運動場については、優先度ランクRpを1とする。
注1:上記図中の太線は、基本分類2の建物で、補正項目の分類がそれぞれコンクリート強度B、老朽化C、プランB、耐震壁の配置B、想定震度Cの場合の優先度補正を例示しており、耐震診断又は耐力度調査の優先度は1.(最優先)となる。
注2:調査対象階が複数にわたる場合、各階ごとに優先度を調査するが、最終結果はその内の優先度が高いランクを採用する。
耐震化優先度調査の対象となる鉄骨造屋内運動場について、下記に示すa)~g)の項目について検討を行う。
なお、b)~f)の項目については、代表的軸組材(柱、大梁、壁筋かい、軒桁を指す。以下同じ。)について目視調査により評価し、必要に応じ写真等で記録しておく。目視調査は、なるべく広い範囲を対象として行うことが望ましい。
当該建物の桁行方向耐震要素が鉄骨軸組筋かいである場合、次式により鉄骨軸組筋かい耐震性能ISBを算出する。なお、桁行方向耐震要素が鉄骨軸組筋かい以外(鉄筋コンクリート造壁など)である場合は、分類をAとする。
ここで、Cyiは、鉄骨軸組筋かいの降伏層せん断力係数の推定値で下記による。
構造計算書がない場合:Cyi = 0.25
構造計算書がある場合:Cyi = 0.22×(f/σ)min
(f/σ)minは筋かい部材の短期許容応力度の地震時作用応力度に対する比(余裕度)で、構造計算書より読み取る。なお、複数の筋かいについて計算している場合は、それらの最小値を採用する。
また、Aiは、建築基準法施行令第88条のAi、Fesiは同令第82条の4にいうFesと見なして評価する。なお、下記に該当する場合はその数値を採用してもよい。
鉄骨造平屋建の場合: AiFesi =1.0
鉄骨造の2層の場合: (第2層)AiFesi =1.4
(第1層)AiFesi =1.0
RS造又は複合構造※の2層の場合: AiFesi =2.0
※ 「RS造」とは、ギャラリーまでは鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造で、上部の架構が鉄骨造のものを指し、「複合構造」とは、鉄筋コンクリート造建物の上に鉄骨造の屋内運動場が載っているものを指す。
上記ア)で算出した ISBの値により、下表のとおり分類する。
分類 | A | B | C |
---|---|---|---|
ISBの値 | 0.7以上 | 0.3以上0.7未満 | 0.3未満 |
代表的軸組材と露出型柱脚に対して下記により評点を付け、その平均値Fを算出する。なお、露出型柱脚が無い場合(確認できない場合を含む。)は、代表的軸組材のみにより分類する。なお、鉄骨腐食度の状況は、「既存鉄骨造 学校建物の耐力度測定方法(改訂版)3.2.4 鉄骨腐食度」を参考にして、目視調査により判断する。
f軸組は、代表的軸組材の腐食度、f柱脚は、露出型柱脚の腐食度で、下記の区分による。なお、露出型柱脚が無い場合(確認できない場合を含む。)は、F= f軸組とする。
腐食度の区分 | |
---|---|
無し | 1.0 |
仕上げ錆 | 0.8 |
部分錆 | 0.6 |
欠損錆 | 0.3 |
上記ア)で算出したFの値により、下表のとおり分類する。
分類 | A | B | C |
---|---|---|---|
Fの値 | 0.8以上 | 0.6以上0.8未満 | 0.6未満 |
代表的軸組材について、局部座屈と全体座屈に分けて下記により評点を付け、その相乗値Nを算出する。なお、座屈状況の状況は、「既存鉄骨造 学校建物の耐力度測定方法(改訂版)3.2.5 座屈状況」を参考にして、目視調査により判断する。
n局部は、代表的軸組材の局部座屈、n全体は、代表的軸組材の全体座屈で、下記の区分による。
座屈状況の区分 | |
---|---|
無し | 1.0 |
軽微 | 0.8 |
明確 | 0.6 |
上記ア)で算出したNの値により、下表のとおり分類する。
分類 | A | B | C |
---|---|---|---|
Nの値 | 0.7以上 | 0.5以上0.7未満 | 0.5未満 |
代表的ラーメン架構の柱梁溶接仕口部の状況について調査し、下記によりMを算出する。
なお、溶接状況は、「既存鉄骨造 学校建物の耐力度測定方法(改訂版)3.2.8接合方式」を参考にして、目視調査により判断する。
mnは、代表的ラーメン架構の柱梁溶接仕口部の溶接状況で、調査した箇所の中の最低のmをMとする。
溶接状況の区分 | |
---|---|
異常なし | 1.0 |
変形※ | 0.7 |
破損※※ | 0.4 |
※ フランジ端が完全溶込溶接であることが疑わしい場合は、ビードが整形であっても「変形」に分類する。
※※ 「フランジ端が完全溶込溶接であることが疑わしく、かつ、溶接ビードの不整形、アンダーカット、オーバーラップ、未処理のクレーターなどが観察される場合」及び、「フランジ位置にダイヤフラムが欠落している、又は、H型鋼の側面を鋼板で覆い柱の断面が日の字となっているもので、ダイヤフラムの存在が疑わしい場合」は、「破損」に分類する。
上記ア)で算出したMの値により、下表のとおり分類する。
分類 | A | B | C |
---|---|---|---|
Mの値 | 1.0 | 0.7 | 0.4 |
代表的軸組材等について、下記の3項目を調査し、下表のとおり分類する。なお、いずれかの項目でも該当する場合は、分類をCとする。
分類 | A | C |
---|---|---|
危険性の有無 | 認められない | 認められる |
危険性に関するチェック項目 | |
---|---|
イ | 代表的軸組材及びその接合部に関して、設計図書と現状との構造耐力上重要かつ危険側の食い違い。(部材の欠落、断面サイズやボルト本数の違いなど) |
ロ | 代表的軸組材及びその接合部に関して、錆及び座屈以外の著しい変形や損傷、断面欠損、鉄骨部分の亀裂など。 |
ハ | 桁行方向架構に関する軸組筋かいの一部撤去など。 |
当該屋内運動場において、下記表の例に示すような転倒、落下等の危険性のある構造部材等の有無を調査し、下表のとおり分類する。なお、1箇所でも、転倒、落下等の危険性のあるものが確認された場合は、分類をCとする。
分類 | A | C |
---|---|---|
危険性の有無 | 認められない | 認められる |
危険性に関するチェック項目 | |
---|---|
イ | ブロック壁[面外への転倒など] |
ロ | 屋根面筋かい又は屋根構成材(小梁等)[接合部での破断による落下など] |
ハ | コンクリート内に埋め込まれた鉄骨定着部(柱脚、梁定着部等)[損傷によるコンクリート片の落下など] |
ニ | 壁仕上げ材、吊り物、天井材等[落下など] |
ホ | 床組支持材(束材)[移動、転倒など] |
当該建物が立地している地域の想定震度を調査し、その結果により下表のとおり分類する。なお、想定震度が設定されていない場合は、分類をBとする。
分類 | A | B | C |
---|---|---|---|
想定震度 | 震度5強以下 | 震度6弱 | 震度6強以上 |
耐震化優先度調査の結果を下の総括表に取りまとめる。
分類 | 評価項目 | 評価ランク |
---|---|---|
鉄骨軸組筋かい耐震性能 | ISB =( ) | A B C |
鉄骨腐食度 | F= ( ) | A B C |
座屈状況 | N=( ) | A B C |
溶接状況 | M=( ) | A B C |
構造安全性 | ( ) | A C |
落下物等に係る安全性 | ( ) | A C |
想定震度 | ( ) | A B C |
耐震化優先度調査総括表に基づき、下式により優先度指標(P)を算出し、当該建物の耐震診断又は耐力度調査の優先度ランクSpを判断する。
なお、屋根梁が支持部材に固定されていないもの(ローラー支承など)で落下防止措置がとられていない建物、及び、桁行方向の鉄骨部分が非剛接架構のみで壁や軸組筋かいが無い建物については、優先度ランクSpを1とする。
さらに、上記1耐震化優先度調査の実施方法のf)落下物等に係る安全性がCランクの場合は、優先度ランクにかかわらず当該箇所について詳細な調査を実施し、適切な対策を早急に講じる必要がある。
優先度指標P=(Bランクの数)+5×(Cランクの数)
第2章3で述べた耐震化優先度調査の優先度ランクに基づき、優先度の高い建物から耐震診断又は耐力度調査を実施する必要がある。この場合、当該建物について改築を念頭に置いている場合は、耐力度調査から実施することが考えられる。
また、鉄筋コンクリート造校舎及び鉄骨造屋内運動場のそれぞれで、耐震化優先度調査の結果に基づく優先度ランクが出てくるが、そのどちらを優先するかについては、学校施設の耐震化に関する検討組織やその専門部会等において、個々の建物の耐震化優先度調査結果の内容や、当該建物に対するニーズ等について総合的に勘案した上で決定する。
さらに、軽量プレキャストコンクリート造屋根を有する屋内運動場については、「文教施設の耐震性能等に関する調査研究(報告書)」(社団法人日本建築学会)に基づいて、耐震性能の評価及び補強の優先順位の判定を行う。
鉄骨造屋内運動場の場合で、屋根梁が支持部材に固定されていないもの(ローラー支承など)で落下防止措置がとられていない建物については、必要な落下防止対策を早急に講じた上で、下部構造体の耐震診断結果に基づき「(2)耐震診断結果に基づいた耐震化事業に係る緊急度の判定方法」により緊急度ランクを判定する。
一方、鉄筋コンクリート造校舎及び鉄骨造屋内運動場以外の、例えば木造、ブロック造、鉄骨鉄筋コンクリート造などの構造形式の学校施設についても、学識経験者その他の当該構造形式に係る専門家の協力を得て、迅速に耐震診断又は耐力度調査を実施し、耐震化のための適切な措置を講じることが重要である。
耐震診断の結果算出された構造耐震指標(IS)及び保有水平耐力に係る指標(q又はCTUSD)に基づき、以下に示す方法に従って、当該建物の改築や耐震補強といった耐震化事業の緊急度を判断する。
耐震診断の結果に基づいて、耐震性能の低い建物ほど改築や耐震補強による耐震化事業の緊急度は高いと判定する。耐震性能は、原則として構造耐震指標(IS)により判定するが、保有水平耐力に係る指標※(q又はCTUSD)の大きさにより補正することとする。
なお、構造耐震指標(IS)による緊急度の判定は、各階、各方向(桁行方向及びはり間方向)の中で、最小となる場合を代表値として採用するが、IS値及びCTUSD値の分布状況や、他方向の余裕度、Is値算定における強度指標と靱性指標の他の組み合わせなども修正要因として考慮する。
これらの方針に従った緊急度ランクの分類例及び緊急度ランクの修正例を以下に示す。
※保有水平耐力に係る指標(q又はCTUSD)は、IS値が算定される最大のF値に対応する強度指標によって算定された値を採用する。また、安全である(IS値が0.7以上)と判定するためには、q値が1.0以上(CTUSD値が0.3以上)の範囲でIS値を算定しなければならないことに留意する。
緊急度ランクを、IS値0.1で分類し、q値が1.5以上(CTUSD値が0.45以上)の場合は、1段階補正することとしたランク分類の判定例を以下に示す。q値が1.0以上1.5以下(CTUSD値が0.3以上0.45以下)の範囲では、IS値とq値(CTUSD値)の組み合わせにより線形補間している。
例えば、次のような場合は、実情に応じて、緊急度ランクの修正を行うことが考えられる。
(a)コンクリート強度試験値が、13.5N/mm2(135kg/cm2)以下、かつ、設計基準強度の3/4以下の場合は、原則として緊急度ランクを1とする。
(b)下階壁抜け架構があり軸力の耐力比により第2種構造要素※となる場合、はり間方向の耐震壁が少なく両方向とも耐震性能が低い場合、SD指標の平面剛性が最低のグレードとなっている場合など、耐震指標よりさらに耐震性能が劣ると判断される場合は、緊急度を1ランク上げてもよい。
※ 当該部材が破壊した場合に、これに代わって軸力を指示する部材がその周辺にない部材のことを指す。
(c)一部の極脆性部材を考慮した値で耐震指標が決まっている場合、はり間方向の壁が十分に配置され長柱にもかかわらずF=1.0(せん断柱)で耐震指標が決まっている場合など、耐震指標がやや過少に評価されていると判断される場合は、緊急度を1ランク下げてもよい。
(d)当該建物が立地している地域の想定震度が6強以上に評価されている場合は、緊急度を1ランク程度上げてもよい。※※
※※ 想定される震度が7と評価される場合には、緊急度をさらに1ランク高めるなどの考慮を払うことが望ましい。震度7になる可能性のある地域とは、存在が確認されている断層トレースまでの距離が5km以下の断層線近隣の地域、建築基準法の第3種地盤に相当する堆積層の厚い地域、がけ地や盆地の縁などの地形効果により地震動が増幅される恐れのある地域などである。
また、緊急度ランクの判定にあたり、q値等の算定の際において必要な地域係数Zは建築基準法に定められる数値、もしくは各地域で決められている数値を用いてよい。ただし、当該地域の地震活動度などを考慮して想定震度などを設定している場合は、想定地震動設定の際に地震活動度等が既に考慮されているため地域係数Zは1.0とする。
(e)q値が0.5(CTUSD値が0.15)以下の場合で、F値が大きいことにより大きなIS値が算定される場合は、緊急度ランク1に分類されることになるので、q値0.5(CTUSD値0.15)以上の範囲でIS値を再計算し、新たに緊急度ランクを判定する。
(f)2次診断と3次診断の結果で異なるランクになる場合は、原則として2次診断による分類を採用する。ただし、3次診断の結果を考慮して緊急度を修正してもよい。
耐震診断の結果に基づいて、耐震性能の低い建物ほど改築や耐震補強による耐震化事業の緊急度は高いと判定する。耐震性能は、原則として構造耐震指標(IS)及び保有水平耐力に係る指標(q)により判定する。
算出したIS値とq値の組み合わせにより、緊急度ランクを決定する。各階ごとにIS値とq値の組み合わせが複数存在し、緊急度ランクが複数求められる場合は、緊急度ランクの最も高いものを採用する。
緊急度ランクを、IS値0.1、q値0.5で分類した場合のランク分類の判定例を以下に示す。
例えば、次のような場合は、実情に応じて、緊急度ランクの修正を行うことが考えられる。
(a)耐震化優先度調査における想定震度以外の評価項目においてCランクが認められる建物で、その状況がIS値やq値の算出に反映されていない場合は、その危険性の実情に応じて緊急度ランクを高めてよい。
(b)当該建物が立地している地域の想定震度が6強以上に評価されている場合は、緊急度を1ランク程度上げてもよい。なお、この場合、IS値及びq値の算定に用いる地域係数Zは1.0とする。※
※ 想定される震度が7と評価される場合には、緊急度をさらに1ランク高めるなどの考慮を払うことが望ましい。震度7になる可能性のある地域とは、存在が確認されている断層トレースまでの距離が5km以下の断層線近隣の地域、建築基準法の第3種地盤に相当する堆積層の厚い地域、がけ地や盆地の縁などの地形効果により地震動が増幅される恐れのある地域などである。
また、緊急度ランクの判定にあたり、q値等の算定の際において必要な地域係数Zは建築基準法に定められる数値、もしくは各地域で決められている数値を用いてよい。ただし、当該地域の地震活動度などを考慮して想定震度などを設定している場合は、想定地震動設定の際に地震活動度等が既に考慮されているため地域係数Zは1.0とする。
耐震化事業としては、改築及び耐震補強がある。そのどちらを選ぶかについては、地方公共団体等の設置者が、個々の建物の耐震性能や耐用年数、当該建物に対する関係者のニーズ、事業に要する経費等を総合的に勘案した上で決定する必要がある。ただし、耐震性能が著しく低い場合(緊急度ランク1(IS<0.3又はq<0.5))、コンクリート強度が著しく低い場合(コンクリート強度試験値が13.5N/mm2(135kg/cm2)以下、かつ、設計基準強度の3/4以下の場合)、極端に多くの補強部材が必要であったり施工が極めて困難な場合、耐震補強によって著しく教育機能を悪化させる場合などにおいては、改築を選択することが望ましい。なお、鉄骨造屋内運動場にあっては、緊急度ランク1(Is<0.3又はq<0.5)の場合でも、軸組筋かいの取替えや新設によって耐震性能を改善する余地があることに留意する。
また、耐震補強の実施に当たっては、建築基準法・消防法その他の現行法令への適合、当該学校施設の統廃合・転用計画、当該建物の歴史的な価値、当該設置者に関係する市町村合併などについても十分留意する必要がある。
さらに、既存学校施設においては、教育環境の向上、情報環境の充実、循環型社会に対応する環境負荷の低減等、学校施設が抱える今日的課題に対応した機能改善も強く求められており、耐震補強事業を大規模改造事業と同時に実施し、これらの質的向上も併せて図るといったことが重要である。
所管する学校施設に係る耐震化事業の優先順位の決定に当たっては、学校施設の耐震化に関する検討組織やその専門部会等において、倒壊又は大破する恐れのある緊急度ランクの高い学校施設の耐震化事業を優先することを基本としつつ、個々の建物の耐震診断結果の内容や、学校施設の質的向上のための諸課題の整備など、総合的な検討を行うことが重要である。
なお、鉄筋コンクリート造校舎、鉄骨造屋内運動場及び軽量プレキャストコンクリート造屋根を有する屋内運動場等のそれぞれで、耐震診断結果に基づく緊急度ランクが出てくるが、これらのどれを優先するかについては、学校施設の耐震化に関する検討組織やその専門部会等において、個々の建物の耐震診断結果の内容や、当該建物に対するニーズ等について総合的に勘案した上で決定することが重要である。
地方公共団体等の設置者は、所管する学校施設の耐震化を図るために必要な事業面積及び経費等の試算を行い、全体の事業量を把握することが重要である。
地方公共団体等の設置者は、地域の実状や財政状況等を勘案し、所管する学校施設の耐震化事業が、迅速かつ円滑に完了するよう適切な計画期間を設定することが重要である。
年次計画の策定に際しては、耐震化以外の整備事業との整合性を確保すること、個々の学校施設の耐用年数を考慮すること、適切な耐震補強単価を設定すること、当該地方公共団体の総合計画や地域防災計画へ位置付けること、年次計画策定後は関係者に対し速やかに公表することなどが重要である。
学校施設の耐震補強計画においては、児童生徒等の安全確保、被災直後の応急避難場所としての機能等を考慮し、当該地域に予測される地震動の大きさも考慮し、重要度係数の採用や設計地震力の割増など、十分な耐震性能を確保する設計とすることが重要である。
また、学校施設の耐震補強のためには様々な工法があり、補強工事費等に留意しつつ個々の建物の特性や実状に応じた適切なものを選定することが大切である。学校施設については、その構造特性を踏まえ、文部科学省が平成15年3月に改訂した、「学校施設の耐震補強マニュアル(RC造校舎編)2003年改訂版」及び「学校施設の耐震補強マニュアル(S造屋内運動場編)2003年改訂版」に、具体的な耐震補強工法の選定方法や技術的留意事項が記載されているので、これらを参考とすることが望ましい。
また、学校施設の質的向上を一体的に行う耐震補強を実施する場合は、「学校施設の耐震改修に関する調査研究(報告書)」(社団法人日本建築学会)において、その基本的考え方及び具体的手法について記載されているので、これを参考とすることが望ましい。
地方公共団体等の設置者は、日頃から学校施設の維持管理に注意を払い、施設・設備の点検・補修及び定期的な維持修繕を適切に行う必要がある。とりわけ、天井材、各種器具、設備機器その他の非構造部材等については、耐震性に疑問のある部材等の把握、その耐震改修計画の策定、耐震改修までの緊急措置などの対策を早急に講じておくことが重要であり、この場合「学校施設の非構造部材等の耐震点検に関する調査研究(報告書)」(社団法人日本建築学会)等を参考とすることが望ましい。
耐震化優先度調査や耐震診断等を実施した結果、当該建物の耐震性能が極めて低いと認められた場合で、改築や耐震補強といった耐震化事業を実施するまでの期間が長くなる場合は、児童生徒等の安全確保のため、応急的な補強を行うことが重要である。
なお、応急補強の具体的な方法等については、文部省(当時)が平成11年3月に取りまとめた「学校施設の応急復旧マニュアル」等を参考とすることも考えられる。
大臣官房文教施設企画・防災部参事官(施設防災担当)付
-- 登録:平成21年以前 --