学校等の防災体制の充実について 第二次報告2

平成8年9月2日

2  学校防災に関する計画作成指針
  1  学校防災に関する計画の目的等
     地震等の災害の発生に際し、幼児児童生徒(以下「児童等」という。)及び教職員の安全を確保するとともに、学校教育の円滑な実施等を図るため、児童等の発達段階、地域の実情、過去の災害発生事例等を踏まえながら、以下の事項を主たるねらいとして学校防災に関する計画を作成することが必要である。
   
(1)  地震等による被害を最小限のものとするため、学校の施設・設備等の点検・整備を行うとともに、児童等の学校生活等における危険を速やかに発見し、それらを除去する体制を整えること。
(2)  児童等が地震等による災害から自らの生命を守るのに必要な事項について理解を深め、安全な行動をとる能力や態度を育てるよう計画的な指導を行う体制を整えること。
(3)  災害が発生した場合、児童等の避難誘導等や学校が避難所となる場合の対応を含め適切な緊急措置を講じることができる体制を整えること。

 なお、障害のある児童等が在籍する場合は、その障害の種類と程度に応じた配慮が必要。

  2  学校における防災のための体制
   学校防災に関する計画において、教職員の安全意識を高め、適切な安全指導、施設・設備等の管理を行うための体制を定めておくことが必要である。また、災害発生時における体制については、学校が避難所に指定されている場合も含め、地域の実情等に応じ、教職員の参集体制、初動体制、避難所の運営に係る体制について考慮することが必要である。
  <防災組織の例>
   
1  学校安全委員会又は防災委員会(平常時)
   校長、教頭、教務主任等で構成し、学校防災に関する計画を策定するほか、日ごろから学校における防災体制の充実に努める。
   
委員長
(校長)
総務担当 日ごろから校内の防災体制の整備に努め、災害発生時における緊急の業務内容、役割分担、各担当の状況等を確認する。
施設・設備点検担当 校内の施設・設備等の点検を行うほか、危点検担当険物の除去等児童等の安全確保に努める。特に、避難路の安全確保に留意する。
防災教育担当 児童等に対する指導方針・計画の作成・内当容の検討を行うほか、教職員及び保護者に対し指導方針等の周知等に努める。
避難訓練担当 訓練を計画的に企画し、児童等が様々な非当常事態の場面で適切な避難行動がとれるよう体験的に理解させる。
救急・救護担当 応急手当の方法、消火器等防災用具の取扱担当い方法を職員に熟知させる。

   
2  学校防災本部(災害発生時)
   災害発生後、その被害状況を踏まえ、校長の判断により設置される。校長をはじめ全教職員で構成し、校内における児童等の安全の確保に努める。
   
本部長(校長) 総括班 安否確認・避難誘導班
安全点検・消火班
救護班
救急医療班
保護者連絡班
急復旧班
避難所支援班(当該学校が避難所となった場合)

   
注1  人員配置等については、被災の状況、業務の繁閑に応じ、柔軟な組み替えが必要。また、被害の状況によっては、必ずしも全部の班を設置する必要がない場合もある。
注2  各班の役割及び初動時における体制については、児童等の発達段階や学校が避難所となる可能性、地域の実情等を踏まえて定めることが必要(『4児童等の安全確保等のための教職員の対応マニュアル作成指針』の中で詳述)。

  3  日ごろから講じておくべき措置
     児童等の安全を確保するために日ごろから講じておくべき措置として、学校防災に関する計画において、下記の事項について定めておくことが必要である。
   
(1) 施設・設備の管理及び点検・整備
ア) 施設・設備の管理
 
<施設・設備管理の例>
 教育委員会等が実施する建物の耐震性の強化や防災機能の整備のほか、学校においては、テレビ、棚、書架、薬品庫等の転倒防止措置の実施や救助袋、消火栓、消火器等の防災上必要な設備、器具・用具の配置図の掲示等を行うものとする。
イ) 定期、日常及び随時の安全点検の実施
 
<安全点検の例>

 安全点検の実施計画(チェックリストを含む。)を作成し、施設・設備の全般及び防火施設等について定期点検を実施するとともに、児童等の使用頻度の高い運動場、教室、体育館、廊下等について日常点検を実施するものとする。

 学校及び学校区域内の地形・地盤等の条件を検討し、災害発生時における学校の被害及び児童等の通学路の障害について予測し、教育委員会等、災害対策担当部局とも協議して、日ごろから対策を立てておくものとする。

(2) 防災教育の実施
   学校において、安全教育の一環として、地震等の自然災害の発生メカニズムや危険の理解を基礎に、児童等の発達段階に即して防災対応能力を身に付けることが重要であり、学校防災に関する計画において、下記の事項について定めておくことが望ましい(『3防災教育の充実のための指針』の中で詳述)。
 
 防災教育のねらい及び重点、学年別、月別の関連教科、道徳、特別活動等における主な指導内容、時間数、指導方法等
 避難訓練の対象学年、実施回数、時期、災害の種類・実施の方法等
 防災教育、応急処置等の校内研修に関する事項
 学校、家庭、地域社会との連携に関する事項
 災害時及び事後の心の健康に関する事項

 防災教育に関する基本計画は別個に作成するか、学校保健法第2条に基づく学校安全計画の一部に位置付けるかなど各学校の実情に応じて作成することが考えられる。また、その際、防災教育が児童等の在校期間を見通して、組織的、発展的に指導が行われるよう全教職員の共通理解を図って作成する必要がある。

(3) 情報連絡体制の整備
   災害時における情報連絡を的確かつ円滑に行うため、教育委員会等の定める計画を踏まえて、学校と教育委員会、災害対策担当部局との間の情報連絡手段
 
 体制の整備を図るとともに、教職員間、学校と保護者・児童等との間の情報連絡体制を整えるものとする。
 なお、保護者へは学校の防災体制及び措置、特に児童等の引渡し方法を周知させる必要がある。

(4) 学校安全度の評価・改善
   児童等の防災リテラシーの育成を図り、安全を確保するため、教育委員会等の指導を踏まえて、学校の施設・設備、防災体制等について総合的な点検を行い、安全度の評価・改善を行うものとする。
 
<安全度評価の項目例>
1 施設・設備の点検・整備
 
校舎の耐震機能
避難路の妨害物除去と安全確保
防災設備、校内放送設備、ハンドマイク、ラジオ、懐中電灯等の整備
2 当事者の防災リテラシー
 
当該地域の災害についての充分な知識、理解、避難訓練等
適切な災害(被害)情報、発災後の経過情報の収集
伝達能力
管理職等のリーダーシップと災害時の校内組織
3 協力体制等
 
校長・教頭と教員間、教員相互間の協力関係
教員と児童等、児童集団間の関係
地域との協力体制

(5) 非常用物資の備蓄管理
   非常用物資の備蓄管理のため、地域の実情によっては、学校施設の一部を非常用機材、食料、応急処置用品等の備蓄場所として提供することが必要である。この場合、災害対策担当部局、教育委員会等と協議した上、管理場所、備蓄物資の内容、管理者、管理方法等について、あらかじめ定めておくことが必要である。
 また、学校防災本部の各班ごとに、必要と考えられる非常用物資の点検・整備を行うことも必要である。

  4  災害時における児童等の安全確保方策
     災害時において児童等の安全を確保するために講じるべき措置として、学校防災に関する計画において、児童等の発達段階も考慮しつつ、下記の事項について定めておくことが必要である(『4児童等の安全確保等のための教職員の対応マニュアル作成指針』の中で詳述)。
   
(1) 発災特別の教職員の緊急対応方策
ア) 在校時
 
各教科等の学習中の場合
   学級担任制の小学校と教科担任制の中・高等学校との違い等にも留意して、具体的対応方策を別途定めておくものとする。
休憩時間(始業前、休み時間、放課後)の場合
   児童等が解放感から自由な行動をとりやすく、また、人員把握の困難な時間であることを踏まえ、教員を学級担当及び運動場等教室以外の場所の担当に分け、児童等を安全場所に避難させて安否確認を行うなど、具体的対応方策を別途定めておくものとする。
部活動、クラブ活動等の児童等が自発的に行う活動中の場合
   異なった学年が混在し、また、人員の把握がしにくい時間であることを踏まえて、具体的対応方策を別途定めておくものとする。
イ) 学校外の諸活動時
   遠足、修学旅行、見学、宿泊訓練等学校外における行事での児童等の安全管理は、校内における場合よりも困難であることを前提にして、具体的対応方策を別途定めておくものとする。
ウ) 登下校時
 

 学校へ避難登校してきた児童等や学校に居残っていた児童等への具体的対応方策を別途定めておくものとする。

エ) 夜間・休日等
   児童等の安否の確認のための保護者との連絡体制、連絡方法を別途定めておくものとする。
(2) 保護者との連絡、引渡し方策
 
学校は保護者に学校防災に関する計画を周知し、児童等の引渡し方策について具体的に協議するなど、非常時における速やかな連絡手段を整えておくものとする。この場合、保護者が昼間家庭にいない場合等についても考慮するものとする。
災害の状況等を踏まえ、児童等だけで下校させず、保護者に直接引き渡す場合の具体的方策を別途定めておくものとする。この場合、保護者との連絡がとれないことにより引き渡せない場合等における児童等の保護方策についても考慮するものとする。
(3) 学校の施設・設備の被災状況の点検
   災害の規模・程度によっては二次災害が起きることも考えられるため、その防止を図り、また、早急に学校活動を再開するため、施設・設備の被災状況を確認するとともに、教育委員会等の実施する応急危険度判定を早急に受けるものとする。

  5  避難所としての運営方策等
     学校は教育施設であるが、災害が発生した場合、学校が避難所として重要な役割を果たすことが予想される。災害時における教職員の第一義的な役割は児童等の安全を確保するとともに、学校教育活動の早期正常化に向けて取り組むことにあると考えられ、また、避難所は本来的には災害対策担当部局が運営の責任を有するものである。しかし、地域防災計画において避難所として指定されている学校や、災害の規模・程度、地域の実情等により避難所となることが予想される学校については、教育委員会等の指導のもと学校防災に関する計画等において、避難所となる場合の運営方策に関し、下記の事項について定めておくことが必要である(『4児童等の安全確保等のための教職員の対応マニュアル作成指針』の中で詳述)。
   
(1) 運営体制
 

 避難所を運営する場合に必要となる業務としては、1水、食料の分配、2救援物資の管理、3し尿、ゴミ等の処理など衛生管理、4災害対策本部との連絡、地域の被災状況の把握、5避難者についての名簿の作成・管理、6避難所内連絡及び外部からの問い合わせへの対応、7自主組織の立ち上げ指導、8ボランティアの組織化、9施設・設備の点検、立入禁止区域の設定等が考えられるが、必要に応じ学校防災本部内に避難所支援班を設置して運営するものとする。

(2) 初動体制
   避難所の運営は上記(1)の体制が原則であるが、災害発生の時間帯や規模等によっては、災害対策担当部局の職員の配置はもちろん、教職員の参集さえ困難な状況も想定されるため、少人数で避難所の開設等の業務に対応するための体制についても整えておくものとする
(3) 避難所としての施設の使用について
   避難所としての円滑な運営及び早期の教育機能回復の観点から、避難所となる場合の学校施設の使用は、その機能を踏まえて行うものとする。
 普通教室は、災害対策上やむを得ない場合に限り、適宜、開放することとするが、学校教育活動の再会に備え、一定数は確保することが必要である。また、理科実験室等特別教室は、薬品等危険物が置かれているため、原則として避難者収容のためのスペースとしては使用しないこととすることが必要である。

  6  学校教育再開へ向けての対応
     学校の教育活動を早期に再開するため、学校防災に関する計画において、下記の事項について定めておくことが必要である
   
(1) 応急教育計画の策定
   学校教育活動が正常に実施されるまでの間、教育委員会等の定める計画を踏まえ、被害の状況等に応じ休校、短縮授業等の応急教育を実施することを定めておくものとする。
 
<応急教育計画の例>
  カリキュラム検討委員会と生徒指導委員会を設け、地域の実情を踏まえて、それぞれの学年に適合した実効的な応急教育の計画を立案する。
(2) 教科書、学用品等の確保、衛生点検等
   教育委員会等の定める計画を踏まえ、児童等が必要とする教科書、学用品等の供給を受けられるよう、被害状況の正確な把握を行うとともに、校内や通学路の安全点検、施設・設備の応急補修、衛生点検を実施すること等を定めておくものとする。
(3) PTSD等心の健康問題への対応
   教育委員会等の定める計画を踏まえ、児童等や教職員の状態の把握や心の健康相談活動の推進等、外傷後ストレス障害(PTSD)等の問題についても理解を深めておくものとする。

  7  PTA、地域との協力
     学校の教育活動の早期再開等について、PTAや地域の協力を得るため、学校防災に関する計画において下記の事項について定めておくことが必要である。
   
(1) PTAとの協力
   災害の状況等によっては、学校だけでは十分な対応を図ることが困難な場合も考えられる。このため、児童等の安否・所在の確認、学区内の被災状況、通学路の点検・安全確保、教科書・学用品等の支給に関し、PTAの協力を得るよう努めるものとする
(2) 地域の自主防災組織等との協力
   安全の確保や学校が避難所となる場合の円滑な運営を図るため、協議の場の設定等により、地域の自主防災組織、ボランティア組織、地域医師会、学校医等の協力を得るよう努めるものとする。また、学校において非常用物資の備蓄を行う場合には、それらの管理についても協力を得るよう努めるものとする。

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