南極地域観測事業

第28回南極観測実施責任者評議会(COMNAP)の概要

■会議の概要

南極観測実施責任者評議会(COMNAP、議長:白石和行・国立極地研究所長)は、南極条約体制のもとで、国家事業として南極観測を実施する機関の責任者の合同会議として、1988年に結成された。今回から新メンバーとなったベラルーシを含む加盟国30か国のうち28か国の代表(ウクライナ、エクアドルが欠席)、オブザーバー国(カナダ、ポルトガル)、オブザーバー機関の南極条約協議国会議(ATCM)、ATCM環境保護委員会(CEP)、南極科学委員会(SCAR)、国際南極観光業協会(IATTO)が出席し、インド・ゴアで、2016年8月16日~18日に開催された。参加者は約100名で、日本からは、白石和行(国立極地研究所長)、橋田元(同研究所南極観測センター副センター長)、勝田豊(同センター設営マネージャー)、大野義一郎(東葛病院)の4名が出席した。インド南極海洋研究センター(NCAOR)が開催事務局を担った。

■主なトピックス

1.総会

  • 議長報告、事務局報告、ATCM、CEP、SCAR等関連機関からの定例の報告
  • COMNAPが戦略的に実施するプロジェクトの成果・進捗状況報告
    Antarctic Roadmap Challenge (ARC)は昨年の年次会合においてSCARと共催したワークショップを経て成果がまとめられたばかりである(参照URL:https://www.comnap.aq/Projects/SitePages/ARC.aspx)。ARCは、SCARの将来ビジョンとして集約されたHorizon Scanを実施するために必要かつ現実的な設営上の課題を抽出するプロジェクトである。また、ARCは各国の今後の南極観測計画を遂行する上で直面するであろう、技術、基盤設備、輸送・観測アクセス手段、資金や国際協力などの課題を特定しており、将来の計画策定に際してのマイルストーンともなり得る。観測技術面では、無人観測技術、高性能計算機資源、衛星リモートセンシング、サンプル採取・改修技術などの開発が強く求められていることが示され、同時に多額の投資と国際協力の必要性も強調されている。設営的観点からは、基地基盤設備の拡充はもとより、砕氷能力と観測設備を兼ね備えた船舶の導入や、現在進行している大陸氷床の変動をより詳細に調査するための内陸域での活動を支える技術開発も急務であることが指摘されている。
  • 副議長の交代。任期満了によりJ. hall(英国)およびH.C. Shin(韓国)が退任し、J. Guldahl(ノルウェー)およびJ. Beg(インド)が新任された。
  • 次回総会は2017年7月後半にチェコ共和国のブルノ(会場;マサリク大学)で開催することが決定した。内陸域など基地から遠方のフィールドでの活動を対象として、訓練専門家グループ、エネルギーとテクノロジー専門家グループ、環境専門家グループ合同のワークショップを開催する予定である。

2.専門家グループ分科会

  • 安全専門家グループ:チリで開催された緊急事態対応(SAR) Workshop 3(2016年6月)の報告、無人航空機(UAS)Handbookなどの報告と意見交換があった。ニュージーランドによるモバイル型氷下探査レーダー(GPR)および韓国Jang Bogo基地リアルタイム監視システムの紹介があった。
  • エネルギーとテクノロジー専門家グループ:日本から勝田が昭和基地におけるクリーンエネルギー(太陽光温水配管、太陽光発電、風発、太陽光集熱パネル)についての紹介を行い、注目を集めた。
  • 海事専門家グループ:国際海事機関(IMO)ポーラーコードについて議論した。海洋上で緊急事態が発生する可能性がある場合を想定し、船舶位置通報システムの改良版を開発することで合意した。

3. 地域別グループ分科会

  • 東南極
    日本、豪、露、ベラルーシ、中、印、仏、イギリス、ドイツが参加して、2015/16シーズンの報告と2016/17シーズンの活動予定(船舶、航空機、基地活動、内陸トラバース等)の情報提供を行った。豪州は、米国と協力し、LC130を用いてデービス基地およびケーシー基地へ豪州、フランス、イタリア、中国隊の大型物資の輸送を計画している。東南極の緊急事態対応(SAR)として、豪州、DROMLAN構成国、および各国の救難調整センター(RCC)の連携の必要性が確認され、その一環として南アRCC関係者が豪州RCCを訪問して情報交換を行ったとの報告があった。
  • ドロンイングモードランド
    日本、中国、ベルギー、フィンランド、ドイツ、英国、インド、南ア、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、IAATO、ATCM等が参加し、昨シーズンの活動報告、2016/17シーズンのフライト・船舶運航予定、観測計画概要に関する情報提供と意見交換を行った。緊急事態対応(SAR)について、ケープタウンを船舶運航の起点とする国の担当者が11月に同地に集まる機会を利用して、机上SAR訓練を実施することとなった。2016年4月にロシア隊がケープタウンでトランジットする際にVISAに関わる問題が発生して外交問題化したが、南ア南極観測関係者の尽力により解決し、ロシアやインドから謝辞があった。

4.‘Wintering‐over Challenges”シンポジウム(8月19日~20日開催)

「越冬」活動に伴う各国共通あるいは国に特徴的な課題や問題をトピックとするシンポジウムが開催された。23件の口頭発表と9件のポスター発表を通して、隊員の選抜、訓練、医療体制、基地設備、緊急搬送など様々な観点からの報告や提案がなされ、活発な議論が行われた。豪州オーロラ・オーストラリス号座礁(2016年3月)後の同国観測隊員の帰国支援における日本、米国、中国、フランスの国際連携や、2016年6月のアムンゼン・スコット極点基地からの2名空路緊急医療搬送における米国、英国、チリ、豪州の協力体制についての報告は特に注目を集めた。日本からは橋田と大野が口頭発表を、勝田と金高義(福島高専)がポスター発表を行った。


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-- 登録:平成28年11月 --