平成28年6月6日(月曜日)10時~12時
文部科学省東館3階 3F2特別会議室
委員 |
江淵 直人 |
国立大学法人北海道大学低温科学研究所長 |
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柴田 明穂 |
国立大学法人神戸大学大学院国際協力研究科 教授 |
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中尾 正義 |
大学共同利用機関法人人間文化研究機構総合地球環境学研究所 名誉教授 |
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中澤 高清 |
国立大学法人東北大学 名誉教授 |
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永原 裕子 |
国立大学法人東京大学大学院理学系研究 教授 |
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原田 尚美 |
国立研究開発法人海洋研究開発機構戦略研究開発領域 地球環境観測研究開発センター 研究開発センター長代理 |
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松山 優治 |
国立大学法人電気通信大学 監事 |
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山口 一 |
国立大学法人東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授 |
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横山 広美 |
国立大学法人東京大学大学院理学系研究科 准教授 |
オブザーバー |
野村 智和 |
総務省情報通信国際戦略局技術政策課 主査 |
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田中 健一郎 |
外務省国際協力局地球環境課 課長補佐 |
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阿久津 修 |
国土地理院企画部国際課 課長補佐 |
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荻原 裕之 |
気象庁観測部計画課 南極観測事務室長 |
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松山 延人 |
海上保安庁海洋情報部技術・国際課 技術・国際官 |
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前野 英生 |
国立研究開発法人情報通信研究機構電磁波研究所宇宙環境研究室 主任研究員 |
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野木 義史 |
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所 副所長 |
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中村 卓司 |
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所 副所長 |
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三浦 英樹 |
第56次南極地域観測隊 副隊長(兼越冬隊長) |
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門倉 昭 |
第57次南極地域観測隊長(兼夏隊長) |
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小山内康人 |
第58次南極地域観測隊長(兼夏隊長) |
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岡田 雅樹 |
第58次南極地域観測隊 副隊長(兼越冬隊長) |
事務局 |
林 孝浩 |
文部科学省研究開発局海洋地球課長 |
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小酒井克也 |
文部科学省研究開発局海洋地球課 極域科学企画官 |
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山口 茂 |
文部科学省研究開発局海洋地球課 課長補佐 |
1.第56次越冬隊・第57次観測隊の活動結果及び現状について(国立極地研究所)
2.南極条約第7条5に基づく事前通告のための電子情報交換システム(EIES)について(外務省)
3.第58次南極地域観測の概要について(国立極地研究所)
4.第59次南極地域観測計画の概要(素案)(国立極地研究所)
5.その他(事務局)
【中尾委員】
「ペンギンルッカリー遺物から見た氷床変動と環境変動の復元」の原理と結果はどうであったか。
【三浦副隊長】
ペンギンルッカリーは氷床の上、海水の中には巣は作らない。ペンギンルッカリーが存在しているということは、そこから既に氷床がなくなっていたということと、既に海面がそこから離水していたということを示している。その両方によって、まず1つは、ペンギンルッカリーの巣の年代から氷床の変動の最後に氷床が後退した時代を決めることができる。もう1つは、海面の変化の歴史のデータを加えることができる。その両方によって、過去の氷床変動復元のための基礎資料を与えることができる。
もう1つは、ペンギンルッカリーは巣を作るときに石を運んできて、そこに糞や卵の殻を落とし、それがどんどん堆積していく。一番基底まで掘って、基底の年代を知ることで、氷床後退時期や海面変化の年代を得ることができる。また、中に堆積していた糞や羽根、卵の殻の窒素の同位体を見ることによって、外国の研究だと、もともと魚を食べていたものがオキアミを食べるようになっていったというように、餌の内容を反映して同位体の変化が起こる。それを連続サンプルしていくことによって、過去の古海洋の環境もそのペンギンルッカリーに反映しているのではないか。そういった3つの面から、氷床の変動と環境の変動を復元していくという考え方での調査。
【中尾委員】
時間幅はどれぐらいか。
【三浦副隊長】
当初、リッツォ・ホルム湾の北の方は貝の化石の年代から見ると5万年前ぐらいまで古い貝の化石があるため、氷床は5万年前には既に後退していたのではないかと考えていた。よって、ペンギンも、5万年前に氷床が後退したとき以降に住み着いた可能性があるということで掘削したが、それほど深くはなく、全般に見ると1メーター弱ぐらいの厚さ。まだこれから年代を出さないと分からないが、新しくて1万年より後、数千年以降ではないかと考えている。
【永原委員】
次回以降、研究観測に関しては、どういう成果があったかについて、御説明いただきたい。
また、PANSYについても、既に十分データが取れていると思うので、具体的にどういった結果が得られたのか、御説明いただきたい。
【中村副所長】
1つは南極の非常に複雑な地形が励起する波というのが、上空に非常に特徴的なインパクトを与えていっているようだという、地面付近の地形と大気の関連。
もう1つは、もう少し上の方の中間圏とかであれば、太陽から降り込んでくる高エネルギー粒子が非常にこのあたりの大気に変動を及ぼしている。超高層、高さでいうと50キロ、55キロといったところから見ると、非常に低い方まで変化を及ぼす。そのあたりがこれまでのところの我々が驚いたような成果だと思っている。今後、観測についてはトピック的なところも御紹介したい。
【松山主査】
南極域の複雑な地形と、大気と海との関係で、かなりローカルな現象として考えてよいか。
【中村副所長】
今まで地形が上空に与える影響はいろいろ理解されており、モデルにも取り組まれているが、最近、例えば山があったときに、その影響は山の直上だけではなく、かなり広範囲に影響を与えるということが分かってきている。そういうところを捉えるのが、例えば南半球でも、南極の付近で我々はやっているが、ニュージーランドや、いろいろな孤島といった影響も、他の研究グループは航空機観測や衛星観測、地上観測、モデリングを組み合わせて行っており、今ホットな話題になっているところ。
【原田委員】
56次観測隊の越冬活動報告に関し、基地全体の停電が4回発生して原因が不明であるという点について、いまだに原因が突き止められていないのか。また、観測データ等に支障が多少あったということであるが、どれぐらいの支障があったのか。
【三浦副隊長】
4回のうち2回は、発電機の部品の不具合。あとの2回は、当初原因が不明であったが、越冬の交代直前に、発電機のそばでハンディ無線機を使用した際に停止するという事象が発生した。現在確認中であるが、無線機のノイズが乗って停止するようだとのことで、57次隊越冬隊では、発電機室のそばでは無線機を使わないこととし、その後同じような現象は起こっていない。
また、4回の停電で、特にモニタリング観測の機器、大気の微量成分のモニタリングや、宙空圏、地圏の様々な機器は、機器が1回急に停止すると、再立ち上げまでに1日程度掛かってしまう機器もあり、最大1日、機器破損の場合はその修理に数日掛かってしまうというようなこともあった。また、オゾンゾンデ観測やVLBI観測の際に停電となり、一部データの不取得や、若干の欠損が生じた。
【中澤委員】
H128でアイスコアを掘削し、261m、2,000年ぐらいまでバックできるという話であったが、今後の分析はどのようなことをするのか。
【門倉隊長】
ドームふじのコアより、より詳細な年代測定を行う。今回のコアで遡ることができるスケールは2,000年くらいであるが、人間活動が始まってから現在までの、1年以内ぐらいの精度でコア分析を行う予定と聞いている。
【中澤委員】
物理的な性質、化学成分、ガスなど全てについて行うのか。
【門倉隊長】
そうだと思う。加えて、そのコアを掘削する際はコアの採取だけではなく、フィルンエアのサンプリングとか、ほかのサンプリング等も行っている。
【柴田委員】
今回、南極環境保護議定書25周年との関係もあるのかもしれないが、環境保護議定書の下では鉱物資源活動が50年間禁止されており、一定の条件を満たさない限りはその禁止が続くという制度になっている。現在は南極において鉱物資源活動はできないわけだが、メーリングリストで回ってきた情報によると、今回のATCMで南極における鉱物資源活動が引き続き禁止されていることを確認したような内容の決議が採択されたとの由。このあたりの背景を外務省から御提供いただきたい。と言うのも、法律上は、かなり先まで禁止されていることではあるが、国際関係論、国際政治をやっている学者によれば、やはり近いうちに南極において鉱物資源活動を行う必要がある、ないしはそれを開始し始める国があるのではないかという議論が出てきている。そのあたりの国際政治状況の中における現在のATCMの議論状況を御紹介いただきたい。
もう1つは、海鷹丸と少し関わるが、鉱物資源活動という商業的活動と、科学的活動というのは分けられており、南極条約の下では科学的活動は自由であると言われている。その科学的活動と商業的活動を分ける境目は実はすごく難しいところがあるが、基本的な考え方としては、科学的活動は全てオープンにできると。オープンであるがゆえに科学的活動であるというふうに見ることが多くなっている。したがって、南極条約7条5項に基づいて、全てオープンにしてやっているのだから科学的活動であるという正当化ができるような仕組みになっているわけだが、それとの関係で、もう1つ今南極をめぐって問題になり得るのが、海における科学的活動である。
現在、国家の管轄権を越える生物多様性の保全に関わる議論、これはBBNJというが、その議論が国連を中心に行われている。日本から見ると、南極海というのは全て公海なので、いわば国連で議論がされている国家管轄権を越える海域における生物多様性の保全、これをどういうふうに保護していくか、場合によっては、そこで入手できる遺伝資源などの利用をどうするかというような議論がこれから始まると思う。そういう中で、基本観測等を行っている海鷹丸の活動を事前通告していないということの意味合いというのも、今後は少し検討をしていく必要があると思うが、外務省から聞きたいのは、南極条約協議国会議の中で、このBBNJとの関係の話が出てきているのかどうか。
【田中地球環境課課長補佐】
まず、最初の御質問について、鉱物資源活動禁止の条文については、議定書7条において制定されていて、レゾルーションという形で協議国、我が国は共同提案国になっている。提案国になって、この7条というのを引き続きコミットしていくという形の決議が提案され、P5も、クレイマント国も、反対する国は1か国もなく、深い議論は行われずに採択された。
その背景は、議定書が今年25周年という形もあって、よく言われる問題として、そのバックグラウンドの中には2048年問題という言い方をする方もいるが、これは問題ということ自体が問題と、いわゆるミスアンダースタンディングということで、この際きちんとそこをクリアしてコミットしていこうというもの。なぜそれがミスアンダースタンディングなのかと言うと、2048年、いわゆる南極環境議定書が採択されて50年後に何が起きるかということで、50年後はこの議定書が無効になって鉱物資源活動が解禁になるのではないかと解釈する国があって、そういうことを米国なども含めて懸念していると。実はそういうことはないということも含めて決議を提出した。
基本的に南極議定書25条1項で南極条約12条を引用している。これは2つ、修正案と効力発揮要件とあり、修正自体は全協議国が一致して修正案を提出すると。改正は、協議国全てが批准してから発効するということで、これを見るとほぼ不可能であるが、理論上は可能であるという状況である。
では、50年後に何が起きるかというと、これが25条1項の後に25条2、3、4、5とあり、基本的に50年後は全協議国一致ではなく、各協議国おのおのが修正案を提案できるということになっており、例えば日本が鉱物資源活動禁止の条約を無効にしたいという修正案の提案は我が国のみでできるという状況が生じると。他方、修正・改正になると、内容によって異なるが、鉱物資源活動は一番厳しく、議定書採択時の協議国全ての批准をまず第1条件にして、かつ、2048年時点の協議国の4分の3の批准が必要であると。この議定書採択時の協議国全ての批准となると、今29か国協議国があるが、ブルガリア、チェコ、ウクライナを除く26か国、これはクレイマントが全部入っているが、ここが批准しなければ発効しないということで、ほぼ不可能であるということをまず言いたいと。なおかつ、特に言っているのは、鉱物資源活動禁止改正の例外というのがまたあって、より厳しくなっていて、これは第25条の5(a)となっており、これが採択されたとしても、鉱物資源活動については拘束力がある法制度が設立されるまで継続的にこの禁止は継続されると。仮に採択されても、どうやってこれを実施していくかという制度が構築されない限り、鉱物資源活動は解禁されないということを世界の皆さんに知ってもらいたいということで、今回、我が国が共同提案国として提案して採択されたということが背景。
2番目の御指摘であるが、海は南極条約の中でも大きなテーマになっており、南極条約とその下にある議定書における法的スキームとしては、ASPAとASMAというのがある。ASPAというのは南極特別保護区と、南極特別管理地区と2つあって、これは議定書の附属書の第5で規定されている。
海の関係で議論になっているのは、一方で南極議定書の6条に公海の自由というのは保証されているということと、具体的に海を保証するためにはこのASPA、ASMAを広げて保護区を作っていくということだが、海が含まれる場合には必ずCCAMLRの事前承認が必要であるということが規定されており、そういう法的限界というのが南極の環境保護議定書にあって、それを無視して一般的に海は大切だという形で議論できない、できにくい状況があり、そのような限界から国連の他の条約についてはオーバーラップを避けるという形で今議論されている。
【松山主査】
それでは、南極条約第7条5に基づく事前通告については、本委員会として承認し、本部総会にお諮りしたいと思う。
(委員了承)
【江淵委員】
資料1-3で、57次隊においてケープタウンや、オーストラリアに航路変更したことにより「未実施となった観測については、第58次行動以降での実施を検討する」と書かれているが、それについて、どのような検討があり、結果にどのように反映されるのかを教えていただきたい。
【野木副所長】
一番大きなことはケープダンレー沖の海洋観測が相当縮小されたこと。今後も重点研究観測においてケープダンレー沖での観測を推進しているので、そこにうまく入れ込む形で、できる限りのことは実施したい。加えて、往路復路の際の海底地形調査など、できる限りのことは含めていきたい。
【江淵委員】
トラブルがあると、スケジュール的に復路の最後に入っているケープダンレー沖の観測が毎回削られる。これはいろいろ事情があってやむを得ないというのは十分理解するが、毎回やむを得ないと言っていると、ここだけ観測が進まないということになりかねないので、御配慮いただきたい。
【永原委員】
研究観測に関しては全体としてⅧ期に作ったこの大枠、重点研究、一般研究、萌芽研究という仕組みは大変うまく機能して、このまま是非進めていただきたいと思うが、1つ気になるのは萌芽研究。今後公募を増やして、なるべく多くの人が南極に関する研究ができるようにということで開始されたと思うが、制度開始以来、時間を経ている割には余り増えていないという印象を持つが、何かいろいろ制約があるのかということを御説明願いたいのと、そのことは資料3-3の公開利用というのとは無関係なのか。この関係がよく分からない。その2点を御説明いただきたい。
【野木副所長】
ここは研究課題の申請が今回少なかったというのが1点。これまでも萌芽研究は次の一般研究に進んでいくという形で、これまで申請された課題が部門の観測計画としてその中に入り込んだといったところも大きいと思う。特段の制約とかは、かけてはいないが、できるだけ現場での観測ということを考えているので、そのあたりをうまくリンクした形で、もう少し今後も拡大する方向で考えていきたい。一般研究もかなり数が多くなってきているので、そのあたりとの兼ね合いになると考えている。
公開利用研究は基本的には自身で予算を用意していただき、その年のプラットフォームやその隊次での特段の制約がなければ、優先である観測事業の基盤に乗って申請課題を実施していただくということで、萌芽研究とはちょっと意味合いが異なる。ここで1つスタートアップを切っていただいて、次にこちらにというところはあると思うが、今のところそこまでではないので、まずスポット的にこの年にこれをやりたいということと、継続的なところをまた整理していきたいと思う。
【永原委員】
全体のパイというか、やはり昭和基地にどれだけ滞在することができるかとかいう制約が当然あるわけで、そのために萌芽研究のような提案が余り増えてこないということではないのか。
【野木副所長】
滞在日数で制限を受けるというようなことはないと思っている。
むしろプラットフォームとして、「しらせ」も含めてどこで申請課題を実施するかということもあるので、今後、枠組みをもう少し検討していき、萌芽研究等をもう少し充実させるようなことも検討したいと思う。
【柴田委員】
永原委員からの御指摘に少し関連して、本体の方の萌芽研究とそれから公開利用研究について今後の検討をお願いしたい。
この9期から、できるだけ南極地域観測をもう少しオープンにして、特に新しい分野の研究なども受け入れていこうと。その最初のステップは萌芽研究であろうということで、議論の結果、9期の萌芽研究の記載は「萌芽研究観測・調査」と、「調査」という言葉を入れていただくことによって、場合によっては人文社会科学のような分野の調査活動も現地でやる可能性を開いていただいた。私は、9期はそういう意味で画期的だと思っている。
その点から見ると、せっかくあれだけ議論をして、そのメッセージが9期には込められているにもかかわらず、例えば資料3-1の下の方の「観測計画」の2つ目の白い丸の「研究観測は、重点研究観測、一般研究観測および萌芽研究観測」ということで、やはり観測が付いたままである。これを「観測・調査」とするには長過ぎるため、今後は「萌芽研究」と記載していただくと、この9期から少なくとも萌芽研究については少し分野的な広がりを持っていることが示せると思う。「観測」という言葉はどうしても自然科学を想定するので、是非ここは9期からは萌芽研究に言及するときは「萌芽研究」で止めていただきたい。3ページのところの表も一番下に「萌芽研究観測」とあるが、この「観測」を外していただいて、そのメッセージを伝えていただきたい。
また、萌芽研究については、第9期後半の3か年のときには募集要項の書きぶりも変えていただき、募集の段階で少し分野を広げるような体裁を整えていただきたい。
今回この公開利用研究は3月頃に募集され、そこでは明示的に、人文社会科学も含め公開利用研究を募集しますということが記載され、9期からの新しい南極観測の在り方を反映した募集要項であったと思う。私のように南極で観測をしたことがないような人間が、あの募集を見て応募しようとする際に、まだまだ情報不足である。具体的にどの程度の経費が必要となるのか等の情報がない。今後、南極地域観測を開かれた形で実施していくのであれば、可能な限り新しい人に見ていただいて、「じゃあ応募してみようかな」ということを思っていただけるよう、出せる情報は、経費や訓練等も含め募集段階で出していただきたい。
【原田委員】
アジア極地科学フォーラムという取組、非常に興味深く、大変いい取組だと思う。極域研究の裾野を広げるという点で重要かと思うが、こちらの文章の方の説明では、「受け入れる」ということになっているが、3ページ目の計画(案)の方では、「派遣」と記載されている。これは受け入れると同時に日本からもどこかに派遣をする、相互に実施するという取組か。
【野木副所長】
昭和基地に受け入れるもの。アジア地域の南極観測未参加国から受け入れて、その方々をチームとして南極に派遣するという意。
【原田委員】
今回地圏のテーマで、具体的にどのような内容を担当してもらうのか。
【野木副所長】
南極の地質に触れ、研究の枠を広げ、研究の芽とし、今後の発展を目指したいということで、地質の調査一般を考えている。
【中尾委員】
「しらせ」の58次の航海経路は、従来の経路を取るという計画と理解してよいか。
【小酒井極域科学企画官】
従来の経路を取るという計画で考えている。
【松山主査】
それでは、第57次南極地域観測の概要については、「萌芽研究観測」の文言について、事務局と私にお任せいただき、本部総会にお諮りするということでよろしいか。
(委員了承)
【松山主査】
58次隊と59次隊の変更点について御紹介いただきたい。
【野木副所長】
59次は、特にサブテーマ3で、内陸のドームふじ周辺での観測の実施ということが大きくなる。サブテーマ1は大型大気レーダーによる観測を継続的に実施し、サブテーマ2は、可能な限り海洋域縁辺で新たな観測器を導入した観測を行っていく。
【中尾委員】
サブテーマ3で海底コアの掘削の代わりに国際共同でやるという方向で考えるという話を聞いているが、進展ぐあいはどうなっているか。
【野木副所長】
特に海底コアの大規模な掘削であるが、米国の財源の問題で計画が止まっている。このままいくと計画自体がなくなりそうな気配という情報も入ってきている。IODPとかそのあたりの深海掘削のプラットフォームという形も何か検討しているようであり、そうなると、完全に別の計画となるので、分かり次第御報告したい。
【柴田委員】
北極研究と南極研究の予算の取り合いのようなものが各国進んでいるのか。特に北極の方に力を入れ始めている国々が、同じ政府の中の部署が南極と北極の観測の予算を両方持っていて、北極の方に今若干比重が向いていて予算が取られているので、南極の方が減少気味にというような状況が各国であるのかということと、他方で、例えば北極で調査をしなくてもいいオーストラリアなどは、予算的な状況は厳しくてもやはり南極に対して予算をしっかり付けなきゃいけないという国民的ないろいろ動きがあると聞いている。そうすると、北極の方に予算が取られているがゆえに南極の方で少し縮小気味なところに、南極に経費をかけられる国がさらにプレゼンスを高めていくというような、今後の両極における観測研究のリーダーシップが、この予算の厳しい中でどのように展開されていくことになり得るのか、予算面から見た研究におけるリーダーシップというものをどのように国際政治的に勘案していくかというところに関心があるので、お話いただきたい。
【野木副所長】
オーストラリア等はやはり南極に特化していくというのがあって、予算が厳しい中でもそちらにシフトしているのだと思う。他国の状況として、米国に関しては、NSFが国際の中で米国のリーダーシップとその分担関係のところで、どうも今財源が暗礁に乗り上げているようなので、直接に北極と関係がある状況ではなさそうである。
【林海洋地球課長】
文科省の予算に関していうと、平成27年と28年を比べると、全体としては17億の増。これは海上輸送部門でヘリコプターの3機目を造った額が増えているという事情はあるものの、南極地域観測事業全体で見ると、相当な額を平成28年度は伸ばしている。そういう中においても、北極観測の予算も増やしているので、少なくとも文科省内においては今南極と北極を取り合いしているという状況ではない。ただ、一般的に申し上げて、財政状況は厳しく、科学技術の予算も全体としては相当圧縮、削減という部分もある。我が国の中でもJAMSTECの予算は結構厳しい状況でもあるので、南極と北極の関係というよりも、科学技術政策全体の中でこのような事業がどれぐらいプレゼンスを得られるかというのが非常に重要。先生方からコメント、意見、指導を頂きながら、我々としても頑張っていきたい。
【横山委員】
資料1-2の2ページ目の2ポツに関して、今までの御議論の国際社会でのプレゼンスというところに関わってくるが、昭和基地夏期観測において、国際キャンペーンを日本の呼び掛けにより世界7か国の参加を得ることができたと。日本がリーダーシップを取って世界に観測を呼び掛けて、それに世界が参加したということもすばらしいと思う。この論文発表がまとまってジャーナルに特集で掲載されるタイミングがあれば、その発表の場も日本が取り仕切って国際的にアピールする場を設けると非常にプレゼンスを発揮することができる。
極地研の広報は非常に充実していて、他の共同利用機関のお手本になるような活動をされていて本当にすばらしいと思うが、国際的な広報をどのような感じでやっているのか、いまひとつ見えない状況にある。国際プロジェクトが多い研究部門、研究所においてはやはり共同発表の場こそが、広報力を発揮する、国際プレゼンスをアピールする場。この国際キャンペーン観測の成果発表の際に、日本が主導することができるような場があるのか、国際会議や社会に向けてそういう場を設けることができるのかなどについてお伺いしたい。
【中村副所長】
このPANSYを中心とするキャンペーンは、大型のレーダーを全世界で動かすというもので、このような試みは今まで余りなかった。離れたところにあるレーダーの同時観測の意義が非常大きいのは、最近全球的な大気のモデルが非常に進展し、非常に細かい現象までも表せるようになってきたことが背景にある。観測を行い、それをモデリングで再現するという、その組み合わせに皆さんが非常に興味を持っている。そのため、観測とその状況のモデリングの2つがセットになって、それで大きな成果が出る。
この観測に関連して、本年9月14日から16日まで、東京大学の伊藤ホールで、イスワ(ISWA)という全球大気に関する国際シンポジウムが開催される。世界から著名な方が40名以上招待講演で来日される予定。その場でも今回の観測結果に関するさまざまな議論を行う予定であり、恐らくその後、発表する機会があると思っている。論文発表については、特集号等を現在考えている。
これまで国際的な広報については、プレス発表を行うときに、国内向けの発表をすると同時に海外に向けて発信しており、例えば南極クマムシ、これは生物圏の成果であるが、多くの外国メディアで取り上げられたと聞いている。
【横山委員】
ユーリカは大学等もよく使っているが通常のプレスリリースのひとつである。是非継続して使われるとよいと思うが、やはり機を捉えて国際社会、国際研究集団を主導して発表をされるということを是非今後も御検討いただきたい。
【松山主査】
それでは、第59次南極地域観測計画の概要(素案)について、今いただいた御意見等を踏まえて適宜事務局において修正し、来年度のこの時期に改めて本計画(素案)から、計画(案)にしたものを提示していただきたい。
(委員了承)
【中澤委員】
59次のサブテーマ3では、過去80万年にさかのぼるとなっているが、80万年だとドームCと変わらない。ドームFが72万年で、ドームCが80万年なので、ドームCと同じスパンを狙うというとか。
【野木副所長】
過去80万年を超えるという意。
【中尾委員】
中間評価を8期でやっていて、自己評価や極地研の委員会の評価はほとんどA評価。ところが、中間評価はBになっていて、基本的には「しらせ」が接岸できなかったというのが一番大きな理由だと思うが、8期中になるべく追い付くとか、そういう話がずっとあったが、そういう状況で9期に入った。特に今の概要だと、中間評価で悪い評価のままで来年度の予算要求をにらんだ状況にいるが、8期の総括評価は計画としてあるのか。
【山口海洋地球課課長補佐】
8期計画の評価については、昨年の11月に8期最終の57次隊が出発したとところ。8期自体は走っているところであるが、8期の全体的な評価についてはやるべきと考えている。今後、委員にも相談させていただきながら、進めていきたい。
―― 了 ――
極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144、4451)
-- 登録:平成28年11月 --