南極地域観測事業

第50次南極地域観測隊夏隊報告

1.はじめに

 第50次南極地域観測隊(以下、第50次隊と記す)では、第127回南極地域観測統合推進本部総会(平成17年11月11日に開催)で決定された第7期計画の3年次の計画が実施された。夏期行動期間中の観測では、重点プロジェクト研究観測の下で実施される1課題、一般プロジェクト研究観測2課題、萌芽研究観測1課題、モニタリング研究観測3課題、定常観測2課題が実施された。一方、設営計画では第VII期計画に記載された重点項目を中心に実施された。なお、第49次隊での観測船「しらせ」退役と、第51次隊からの新「しらせ」就航の間で、代替船輸送(オーストラリアの観測船「オーロラ オーストラリス」)による夏期行動となった。
 これらの計画の多くは、「オーロラ オーストラリス」船上及び昭和基地での観測であるが、「超大陸の成長・分裂機構とマントルの進化過程の解明」では、第49次隊に引き続き、航空機によりセールロンダーネ山地へ入り観測が実施された。

2.夏期行動経過の概要

 第50次隊は、「オーロラ オーストラリス」により昭和基地へ向かう隊、航空機によりセールロンダーネ山地へ向かう隊の二つの隊に分かれる。

2-1.「オーロラ オーストラリス」により昭和基地へ向かう隊

2-1-1.往路
 観測隊員(越冬隊28名、夏隊12名)、同行者(1名)の計41名は、平成20年12月25日、成田空港よりオーストラリアに向け出発、翌26日シドニー経由で西オーストラリア州パースへ到着した。パースで2泊した後、28日フリーマントル港停泊中の「オーロラ オーストラリス」に乗船した。11月中旬に日本から輸送した物資を「オーロラ オーストラリス」に搭載するとともに、船上観測の準備や現地購入食料等の積み込みを行った。
 「オーロラ オーストラリス」は、12月30日にフリーマントル港を出航した後、定常観測(「海洋物理・化学」)並びにモニタリング観測(「気水圏変動のモニタリング」及び「生態系変動のモニタリング」)を実施しつつ、1月5日には南緯55度を通過した。6日の停船観測終了後、針路を昭和基地のあるリュツォ・ホルム湾へ向け西航を開始した。航路上において、受託課題「漂流型海洋二酸化炭素センサーの投入」を実施した。また、曳航型連続プランクトンサンプラー(CPR)観測が日豪共同で実施された。
 1月12日には流氷縁に到達し、同行者課題「南極域における氷海航行に関する研究と氷海域の情報収集」が実施された。翌13日に昭和基地まで56マイルの位置から、昭和基地第一便が飛び、同日13:54(LT)、昭和基地へ着陸した。以後の便と合わせ、同日中に計30名が昭和基地入りした。15日には更に6名の隊員が昭和基地入りし、昭和基地における夏期計画を実施した。

2-1-2.昭和基地沖空輸拠点滞在中
 昭和基地及び沖合いにおける活動は1月13日から2月2日の期間実施された。この間の天候は、中旬は気温が高く、穏やかな晴天の日が多かったが、下旬には1月としては10年ぶりのブリザードとなり、最大瞬間風速41.2m/sを記録した。26日~27日(09:37)及び28日には外出注意令が発令され、屋外での活動に支障をきたした。月末にかけて低気圧が基地西方で停滞したために天候不良が続き、フライトオペレーションは待機、順延を繰り返し、当初計画より3日遅れ、2月2日の昭和基地最終便となった。

2-1-2-1.観測計画
 船上海洋観測として、一般プロジェクト研究観測「極域環境変動と生態系変動に関する研究」がリュツォ・ホルム湾において展開された。この観測は、東京海洋大学「海鷹丸」を用いた南極観測事業国内外共同観測と連携したもので、「海鷹丸」が開放水面において、「オーロラ オーストラリス」が海氷域で同じ観測を行った。観測に当たっては、天候上の理由から空輸作業が出来なかった1月14日、及び第50次隊の昭和基地への輸送終了後、持ち帰り輸送の見通しがたった1月23-24日に実施された。
 萌芽研究観測「南極昭和基地大型大気レーダー計画」では、候補地の積雪状態・影響等の調査を行うとともに、改良型アンテナ輻射器の取り付けを行った。モニタリング研究観測「地殻圏変動のモニタリング」では、大型アンテナ中心取り付け測量や海底圧力計の設置を行った。重点プロジェクト研究観測のサブテーマ「極域の宙空圏-大気圏結合研究」では、第50次越冬計画で開始される下部熱圏探査レーダー観測のための準備を行った。
 定常観測では、「測地観測」として、測位座標系の維持・管理が実施された。また、「潮汐観測」では、副標観測を行うとともに潮位観測装置の保守が実施された。

2-1-2-2.設営計画
 1月13日の昭和基地第一便以降、ヘリコプターS76(2機)及びAS350B2(1機)による空輸作業が実施された。16日までは、昭和基地から50マイル以上離れた浮氷域に空輸拠点を設けたが、17日朝「オーロラ オーストラリス」は、浮氷域を抜け定着氷縁に到達し、その地点を新たな空輸拠点とした。昭和基地との距離は43マイルとなり、飛行時間を短縮することが出来た。第50次隊の昭和基地への物資輸送(総計91.8トン)は、22日に終えた。この10日の期間、朝から夕刻まで1日を通して飛行作業が実施できたのは、16日~18日及び21日の4日、天候上の理由から飛行作業が1日を通して出来なかったのは14日及び19日の2日、半日中止となったのは15日、20日、22日の3日であった(13日は当初より午後からのオペレーションであった)。
 21日からは、第49次観測隊の持ち帰り物資の空輸を昭和基地への輸送と平行して実施した。22日の第50次隊の昭和基地への輸送終了時点で、残りの持ち帰り物資量は半日程度の空輸であり、第49次越冬隊・第50次夏隊及びオーストラリア南極局(AAD)スタッフの収容を含めて、1日程度のヘリコプターオペレーションで完了するとの見通しがたったことから、「オーロラ オーストラリス」は海氷域での海洋観測を行うため、一旦空輸拠点を離れた。「オーロラ オーストラリス」が浮氷域へ復帰したのは24日夕刻であったが、天候が悪化したため、昭和基地の北60マイル付近で停滞した。その後、天候上の理由による飛行作業待機は2月1日まで続いた。
 天候が回復した2月2日には、第49次観測隊の持ち帰り物資とともに第50次観測隊・AADスタッフが昭和基地で使用した機材の輸送、人員の収容を全て完了した。
 昭和基地における設営計画では、第VII期計画に基づき、「「しらせ」後継船就航に伴う輸送システムの整備」として、道路整備工事、ヘリポート待機小屋建設など、「環境保全の推進」として、夏期廃棄物処理、夏期用浄化槽の運用などが行われた。また、「基地建物、車両、諸設備の維持」としては、ケーブルラック改修工事などが、「情報通信システムの整備と活用」として、夏期隊員宿舎の無線LAN運用が実施された。

2-1-3.復路
 昭和基地最終便となるヘリコプターは、2月2日、残作業に従事していた第50次夏隊員らを「オーロラ オーストラリス」に収容し、第49次越冬隊員(29名)と第50次夏隊員及び同行者(13名)を乗せ、復路航海の途についた。
 3日にはリュツォ・ホルム湾の氷海を離脱し、「気水圏変動のモニタリング」及び「生態系変動のモニタリング」の連続観測を継続した。4日からは定常観測「海洋物理・化学観測」の航走観測が再開された。15日に東経150度線の北上を開始し、定常観測「海洋物理・化学観測」及び「生態系変動のモニタリング」の停船観測が再開された。また、東経150度線に沿って、CPR観測が日豪共同で実施された。
 17日には南緯55度を通過した。19日までに全ての観測を終了させ、20日夕刻にはタスマニア州・ホバート港マッコーリーワーフNo. 3へ接岸した。翌21日、持ち帰り物資を日本へ輸送する作業を行った。23日に、観測隊は同船を下船し、帰国のためシドニーへ移動した。第49次観測隊越冬隊29名、第50次観測隊夏隊12名及び同行者1名は、24日にシドニーから空路帰国した。

2-2.航空機によりセールロンダーネ山地へ向かう隊

2-2-1.日程・行動概要
 一般プロジェクト研究観測「超大陸の成長・分裂機構とマントルの進化過程の解明」を実施するセールロンダーネ地学調査隊員6名は、平成20年11月16日、成田空港からシンガポール経由で南アフリカケープタウンに向け出発、翌17日ケープタウンへ到着した。ケープタウンで4泊した後、21日深夜、ドロンニングモードランド航空網(DROMLAN)を利用してケープタウンを離陸、6時間の飛行の後、22日ノボラザレフスカヤに着陸した。ノボラザレフスカヤ滑走路脇の宿泊所で1泊した後、翌23日、バスラー機で、東南極セールロンダーネ山地西部に位置するウトシュタイネン(プリンセスエリザベス基地:ベルギー)に到着した。プリンセスエリザベス基地滞在中は、スキードゥの整備や物資の整理等、調査旅行の準備を行なった。その後、11月29日から平成21年2月4日までの間、68日間にわたって野外調査を実施した。野外調査範囲は、セールロンダーネ山地の西部(南緯71.5度~72.5度,東経23度~25度)である。調査終了後、プリンセスエリザベス基地で物資の整理等帰国準備をしつつ、ベルギー隊のメンバーと交流を深めた。帰りは往路と逆の径路で2月11日夜にケープタウンに戻り、シンガポールを経由して2月17日に全員無事成田空港へ到着した。
2-2-2.物資輸送
 日本で調達した南極で使う物資はあらかじめケープタウンへ集積し、ケープタウンからは観測隊と同じ径路(空路)で南極へ搬入した。現地では、スノーモービル用のソリを用いて移動・運搬した。また、プリンセスエリザベス基地からベースキャンプ往復の輸送は、基地所有の雪上車とソリによって運搬した。往路の物資は4トン、復路の物資は3.7トン(内、岩石試料は2.4トン)であった。
2-2-3.調査概要
 調査はすべてテントで寝泊まりしながら実施した。キャンプ地はベースキャンプのほかに2ヶ所設置し、それぞれ2~3週間滞在した。キャンプ地からは、日帰りで調査し、基本的に全員が同じ調査行動をとったが、一部途中2班に分かれての行動もあった。今シーズンは12月初~中旬までと1月下旬~2月上旬にかけて悪天候が続いたものの、12月中旬~1月中旬は晴天に恵まれ、予定箇所はほぼ調査できた。行動中は、昭和基地との間で定時交信を行った。通信は、基本的にHFで行なったが、電波状況等でHFが使えない場合はイリジウムで交信した。全日程を通じて通信不能な日はなかった。

3.報道・広報活動

 第50次観測隊の夏期行動中、南極観測事業における科学的成果や活動状況を報道関係者に適宜提供するように努めた。夏期行動期間中、南極本部のプレスリリース3件(「第50次南極地域観測隊が海洋観測を開始」、「第50次南極地域観測隊が昭和基地に到着」及び「第49次南極地域観測隊から第50次南極地域観測隊への越冬交代について」)の協力を行った(内1件は、越冬交代後の第50次越冬隊が行った)。


第50次夏隊による観測成果の概要

○日豪共同研究観測-極域環境変動と生態系変動に関する研究-

 南極のプランクトンの生産活動が活発な夏期に氷海域において「オーロラオーストラリス」が、開放水面域においては、「海鷹丸」が同時期に同じ観測を実施した。これにより、これまで観測が充分行われていなかった、リュツォ・ホルム湾季節海氷域における生物群集構造に関するデータが得られた。今後、オーストラリアの観測域などと比較し各種海洋生物の南極海全体における分布を明らかにしていく。

○セールロンダーネ山地地学調査

 以前の南極観測隊による地質学的調査により、約5億年前に形成されたと考えられるゴンドワナ超大陸の形成過程の検証に最適であると考えられるセールロンダーネ山地の詳細な調査を実施した。
 今回調査した西部地域には9〜10億年前に形成した火成岩・変成岩と、その後5〜6億年前に形成した火成岩・変成岩が分布する。現在の地表で観察される変成岩は、過去の地殻深部で形成されたものであるが、その変成岩の分布、多様な火成岩類との時間的関係、様々な時相に貫入した火成岩マグマの化学的性質の相違、変形運動との関係などから、ゴンドワナ形成過程を検証できる見通しを得ることができた。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144)、03-6734-4144(直通)

-- 登録:平成25年02月 --