南極地域観測事業

第49次南極地域観測隊越冬隊報告

○第49次越冬活動の概要

  1.  冬季は比較的低温で推移し、春から夏季にかけて日照時間は少ない値を記録した。11月~1月の間でも、時折ブリザード状態となったために、陸上では吹き溜まりが大きく発達した。基地付近およびリュツォ・ホルム湾の定着氷は年間を通して安定しており、海氷上では春季も積雪が残るところが多かった。
  2.  定常観測としては、電離層・気象・潮汐の各部門とも概ね順調に観測を継続した。オゾン観測では、10月16日に2008年の最小値である140m atm-cmのオゾン全量を記録した。また、ドロンニングモードランド国際航空網の飛行オペレーションにおいては、昭和基地の高層気象観測および大陸上の無人気象観測機によるデータを随時提供することによって支援した。 
  3.  重点プロジェクト研究観測としては、無人磁力計ネットワーク観測、オーロラ光学観測、温室効果気体や大気中酸素濃度観測などを順調に実施した。また、新たな手法によるエアロゾル試料分析のための無人航空機観測も南極域としての長距離飛行に成功した。さらに、一般プロジェクト・モニタリング研究観測も実施し、大気モニタリング観測からは、メタン濃度の上昇傾向が持続していることもわかった。
  4.  野外行動は全期間を通じて活発に実施した。実施頻度の高かった沿岸観測旅行については、基地維持のための滞在者数・構成をも考慮して計画調整すると共に、行動中は氷状の変化に十分注意した。内陸旅行としては、10月にみずほ基地までの往復旅行を8名の人員で、約3週間にわたってほぼ計画通りに実施した。
  5.  8月の全停電事故に伴い、基地観測の一部欠測と設備不具合が生じたが、その他の基地設備・施設の維持、廃棄物処理、隊員の健康管理、廃棄物処理など、基地活動は概ね順調であった。50次隊夏期作業の準備においては、除雪に投入した労力が大きかったが、越冬隊内の部門相互や基地生活における様々な協力によって対処した。
  6.  計40回のテレビ会議システムによる「南極教室」の他、中高生オープンフォーラム提案実験の実施、ホームページや雑誌等の原稿執筆・マスコミからの取材対応を通じて、南極の自然や観測隊の活動に関する情報発信を南極の現場から積極的に行った。

1.はじめに

 第49次越冬隊は越冬隊長以下29名で構成され、南極地域観測第7期計画および国際極年2007-2008(IPY2007-2008)の二年次として越冬観測を実施した。2008年2月1日に第48次越冬隊から昭和基地の運営を引継ぎ、基地を維持しつつ、科学観測データ取得のために安全を第一に心がけ、総力を上げて取り組んだ。従来と比べてやや少数の越冬隊であったが、野外旅行隊の編成など事前の検討と不在中の業務代行の対策を含めて十分に準備した。日々の基地運営や基地内外における越冬活動の際には、危険予知と安全対策を綿密に行い、各種講習・訓練を通じて知識と技術を向上させると共に、危険箇所や行動に関する情報や経験を共有して、事故の再発防止に努めた。越冬終盤では、度重なるブリザード来襲のために、除雪作業に難渋することもあったが、2009年1月の50次隊の基地到着後は、例年と比べて短期間で観測・設営業務の引継ぎを行い、1月29日に越冬交代した。その後、天候回復を待って、2月2日に越冬隊員と持帰り物資の輸送を完了し、「オーロラ オーストラリス」に乗船した。

2.気象・海氷状況

 2~3月は気温が低く、日照時間も多い方であったが、4~5月に入ると、頻繁に低気圧が基地付近を通過し、ブリザード状態になることも増えた。5月も低温で、月合計日照時間として観測史上少ない方から1位となったが、下旬は曇天が続いたまま極夜を迎えた。6月上旬は記録的に気温が下がり、5日に日最低気温-37.9℃、日最高気温-26.0℃を記録した。7月以降も、低気圧が基地付近を通過して、ブリザード状態となり、荒天は9月まで頻繁にあった。しかし、10月は好天が続き、月平均気温として観測史上低い方から1位となった。11月中・下旬には曇りや雪が多く、ブリザードも来襲した。12~1月も、低気圧が周期的に通過し曇天や雪が多く、日照時間は少なかった。ブリザードは12月、1月にも各1回あり、ブリザード回数は通年で26であった。
 越冬期間中、基地周辺の海氷状況に大きな変化はなく、比較的安定しており、野外行動に支障はなかった。また、春から夏季にかけて氷上では積雪が残っていた箇所が多く、パドルの発生には至らなかった。

3.基地観測の概要

 昭和基地とその周辺域を中心に、電離層、気象、潮汐の定常観測、宙空圏・気水圏・地殻圏変動および地球観測衛星データによる環境変動のモニタリング研究観測を継続した。電離層垂直観測、FM/CWレーダ観測、リオメータ吸収の測定、50MHzオーロラレーダ、および宇宙天気予報のためのデータ収集に関して、定常的な観測・保守作業の他に悪天候後の施設点検、不具合対処を継続した。地上・高層気象観測の他、オゾン観測を継続し、オゾン全量としては、10月16日に2008年の最小値である140m atm-cmを記録した。潮汐観測によるデジタルデータは、電子メールを介して、引き続き国内へ自動転送した。
 大気モニタリングとして継続しているメタン濃度観測からは、昨年と同様に上昇傾向であることがわかった。その他、地磁気、電磁波動、オーロラ光学、エアロゾル・雲、地震、GPS、重力、VLBI、衛星受信などの各種モニタリング研究観測においても順調にデータを取得した。
 重点プロジェクト研究観測としては、「極域における宙空-大気-海洋の相互作用からとらえる地球環境システムの研究」の課題の下に、無人磁力計ネットワーク観測やHF/MFレーダ観測の他、新規に実施したOH大気光観測、大気中酸素濃度観測も順調に行われた。また、新たな手法によるエアロゾル試料分析のための無人航空機観測も南極域としての長距離飛行に成功した。この他、一般プロジェクト研究観測「極域環境下におけるヒトの医学・生理学的研究」にもとづく越冬生活中の身体的変化を調査し、萌芽研究観測を継続した。

4.野外観測の概要

 野外行動に必要な海氷上のルート工作を4月に開始して、以降、基地北方のとっつき岬や南方の西オングル島やラングホブデ、スカルブスネス方面などにも展開していった。5月には、研究観測と春の内陸旅行準備のために、内陸旅行拠点であるS16へ宿泊旅行を行い、極夜期までは地圏研究観測のための沿岸旅行も実施した。極夜が明けてからは、氷状も比較的安定し、野外行動を活発に行ったが、荒天のため適宜計画を変更した。10月に実施したみずほ基地内陸旅行では、宙空圏、気水圏、地殻圏に関する研究観測と共に、廃棄物調査や基地通信新規施設の試験、ルート整備も実施し、旅行隊員8名はほぼ予定通り基地に帰着した。春以降は地殻圏・宙空圏の研究観測の他、アデリーペンギン個体数調査も継続した。各旅行隊の規模(人員や期間)は比較的小さいものであったが、春~夏季の間は好天にも恵まれ、活発に野外行動を実施した。

5.基地施設の維持・管理

 基地観測と越冬生活の基盤となる電力、造水、空調などの諸設備の維持の他、各種作業や野外行動に不可欠な車両の整備、基地内外との通信システム保守、汚水・廃棄物処理作業などに従事した。8月7日に発生した全停電事故に伴い、基地観測の一部欠測と設備不具合が生じた他は、概ね順調であった。越冬終盤における50次隊受入れを含む夏期作業の準備では、除雪に多くの労力を投入したが、隊内の部門相互の協力や生活面での様々な支援によって対処した。また、消火訓練および設備安全点検を定例で毎月実施することにより、不具合の早期発見・対処と安全意識の向上に努めた。

6.基地周辺の環境保護

 「環境保護に関する南極条約議定書」および「南極地域の環境保護に関する法律」の規範を順守して、現地では「南極地域活動計画確認申請書」に基づいた活動した。年間を通じて基地では廃棄物・汚水処理を行い、沿岸・内陸旅行など野外行動に伴って排出される廃棄物については、法律に従って処理・管理を行った上で基地に持ち帰って処理した。なお、今次隊では廃棄物の国内持帰りが実施できないことに伴い、50次隊以降の保管および持帰りが円滑に行えるように作業を進めた。

7.アウトリーチと広報活動

 南極観測における越冬隊の活動を広く社会に発信するために、雑誌・新聞・ホームページへの寄稿、テレビやラジオからの取材対応を適宜行った他、テレビ会議システムによる「南極教室」を計40回実施した。また、中高生オープンフォーラム提案実験3件を実施した。

第49次越冬隊による観測成果の概要

○大気中酸素濃度の連続観測

 南極域においては日本隊が初めて実施するもので、一年間にわたるデータ取得の結果、明瞭な季節変化と共に減少傾向も捉えた。酸素濃度の変動は、化石燃料の燃焼や生物活動、大気-海洋間の気体交換などと関連しており、二酸化炭素などの温室効果気体の観測結果と合わせて、地球規模の大気環境変化の理解に役立つ。

○温室効果気体の観測

 20年以上にわたる継続観測の結果、メタンは増加傾向が再び現れた2007年と同様に、2008年も増加していることがわかった。放出・吸収源を含めたメタン濃度の変動過程を二酸化炭素の季節・年々変動と共に解明する。

○粒子状物質(エアロゾル)の現場分析

昭和基地の現場で蛍光X線分析顕微鏡によって速やかに分析し、通年にわたる粒子の構成成分の変動を捉えた。塩素やカルシウムなどは同様の変動を示したが、硫黄は冬に減少し、夏に増加する傾向が見られた。粒子状物質の成分と挙動を観測することによって、温暖化や雲の生成と密接に関わるエアロゾルの効果の解明が進む。

○無人飛行機による気象観測

 12月18日、オングル海峡上空、最高1000mまで、約100km(1時間)にわたる飛行に成功し、これは南極域としては長距離飛行の成功であった。有人飛行機と比べて、安全かつ現地作業が容易である利点を活かして、今後の大気観測や海氷調査、生物センサスなどへの活用の道が開かれた。

○OH大気光観測

 上空 87km付近(中間圏界面領域)のOH大気光発光層の温度を地上から観測するために、国立極地研究所が新たに開発した高性能分光器を昭和基地に設置し、通年にわたる温度データを取得した。その結果、冬に高くて夏に低いという特有の変動、短期間での昇温と冷却など興味深い現象が捉えられた。極域超高層大気の気温変動とオーロラ現象との関連を明らかにすると共に、高層大気の物理過程の理解へ貢献するものである。

○「れいめい」衛星受信によるオーロラ微細構造の観測

 地上からのオーロラ観測と同時に、人工衛星「れいめい」から観測を行うことにより、高精細、高時間分解能でオーロラの構造を解明するデータを取得した(年間704パス)。

○自然電磁波のモニタリング観測

 昭和基地から約5km離れた西オングル島において、安定して自然電磁波観測を継続するために、風力と太陽光によるハイブリッド発電システムを構築した。また、無線LANによる観測データの伝送も行った。

 

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144)、03-6734-4144(直通)

-- 登録:平成25年02月 --