南極地域観測事業

第13回観測事業計画検討委員会議事概要(案)

1.日時

平成20年11月13日(木曜日)14時~16時

2.場所

文部科学省13階 13F1会議室

3.出席者

小池勲夫 国立大学法人琉球大学監事
柴田明穂 国立大学法人神戸大学大学院国際協力研究科教授
杉本敦子 国立大学法人北海道大学大学院地球環境科学研究院教授
鈴木真二 国立大学法人東京大学大学院工学系研究科教授
松田 治 国立大学法人広島大学名誉教授
安岡善文 独立行政法人 国立環境研究所理事
白石和行 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所副所長(極域観測担当)
小達恒夫 第50次隊隊長
門倉 昭 第50次隊副隊長
事務局
生川浩史 文部科学省海洋地球課長
丸山修一 文部科学省海洋地球課課長補佐

4.議事

【1】 前回の審議状況及び前回の議事録(案)について、事務局より説明があった。

議事録について、修正、意見がある場合は、11月20日(木曜日)までに事務局に連絡をいただくこととされた。

【2】1.第50次南極地域観測隊-行動実施計画-(案)について

(1)小達第50次南極地域観測隊長より、第50次行動実施計画について説明があり了承された。主な意見は以下のとおり。

松田委員 
 第51次隊からの新たな輸送体制について、具体的に教えていただきたい。

小達第50次隊隊長 
 今まで小さな荷物をヘリで運んでいたが、新「しらせ」ではコンテナに詰め、それを氷上のそりに乗せて昭和基地に持ち込む。昭和基地側ではそれを受け取って、道路を走らせて、コンテナヤードに集積するという体制にする。そのため、コンテナを取り回す場所の整備と、道路の最終的な整備事業を第50次隊で実施する。

小池委員長 
 セールロンダーネ山地の行動は別途協議し、安全の確保に努めるとあるが、第49次観測でも第50次隊とほとんど同じような行動であったが、そのとき問題はなかったか。

小達第50次隊隊長 
 大きな問題は出ていない。

白石極地研副所長 
 セールロンダーネ隊は昭和基地から600キロも離れたところで活動するが、セールロンダーネ隊の活動エリア内に、ベルギーが基地を建設中である。そのためセールロンダーネ隊活動時期のベルギー基地では、常時20人以上の人が建築作業を行っており、その中には医師及び多少の医療設備もある。セールロンダーネ隊は、その基地から最大で100キロ以内の範囲内で活動する。

小池委員長 
 緊急時の体制はどうか。

白石極地研副所長 
 ドロームランを通じて、航空機の手配を行うこととしている。今年度はイリューウシン76がケープタウンに3月の上旬まで常駐しているため、要請に応じて天気さえよければいつでも南極に飛行可能である。加えてフライイング・ドクターを連れていくことも可能であるため、今年は昨年よりも医療体制、救出体制に関してはレベルが高い。

小池委員長
 セールロンダーネ隊は、「2カ月半、スノーモービルとテントだけで行動する」とあり、非常に大変な活動である。

柴田委員 
 現場での観測活動については、専門の方々の意見が主体であり、本検討委員会では戦略的な部分を委員が主体に検討すること、また、当該観測活動をバックアップする体制がしっかりできているかということを確認するのが有意義である。その観点から、安全面や組織的な体制が大事になると思う。それを踏まえ、今年はオーストラリアの船を使うため、これまでにない初めての経験であり現場の方々は苦労をされていると思う。そこで、オーロラオーストラリスを所有しているオーストラリアの南極局と文科省との間で締結されたMOUについて説明いただきたい。具体的には船舶の指揮命令系統と観測隊の指揮命令系統とがどのようになっているか。突発的な事故等が起きたときの、船の航路及びヘリコプターの飛行判断を最終的に誰が行い、何か起きたときの責任は誰が負うのかについて教えていただきたい。

丸山海洋地球課課長補佐 
 現在、オーストラリアと日本のMOUは、最終段階の調整をしているところである。指揮命令系統は、突発した事故における機動力、機動性に鑑み、最終決定権は一応オーストラリアのボャージュリーダーにゆだねるということで調整中である。ただし、小達第50次隊隊長と十分にその決定をする前に協議をいただくということを前提としている。事故等の責任等に関しては、基本的にはその責任がどちらにあったのかということを、両国で協議をするということを明文化することで調整している。

柴田委員 
 その体制交渉の力学であるが、現場の観測隊、特に隊長として、そういう契約になったことについて、どのように感じているか、またどういうことに留意をされなければいけないと考えているか。

小達第50次隊隊長 
 MOU上はボヤージュリーダーが最終権を持っているが、ボャージュリーダーには、日本の夏訓練に参加していただいており、その際にいろいろ議論し、心も打ち解けた関係を築いている。更にこのMOUを結ぶに当たっては、テレビ会議システムで何度か交渉に参加している。MOU上ではボャージュリーダーが責任を負うこととなっているが、その前段階で、第50次隊隊長とボャージュリーダーとの間で協議を十分重ねるという明文が入っているため、その点は問題なくできるのではないかと思っている。

小池委員長 
 ボヤージュリーダーというのは、キャプテンとは違うのか。

小達第50次隊隊長
 ボヤージュリーダーはオーストラリア南極局の所属者である。

小池委員長 
 ボヤージュリーダーとキャプテンの関係はどうか。

小達第50次隊隊長
 ボヤージュリーダーはオーストラリア南極局の所属者であり、キャプテンはオーストラリア南極局が契約により傭船している船のキャプテンである。よって、その行動はボヤージュリーダーが最終的責任を負う。

小池委員長 
 しらせはどうか。

小達第50次隊隊長
 航海中は艦長が全体の最終的な責任、観測行動については、観測隊長と艦長が協議する。よってどちらかというとそれに準じたような体制になると思う。

丸山海洋地球課課長補佐 
 文科省が最終的にこだわった点は、基本的には「しらせ」と同じスキームで協議を始めたという点である。観測の区分に関してのどちらがイニシアティブをとるのかという点で、基本的には両国が協議をして、決めることを前提に協議をしていたが、オーストラリア側からは、船の所有権はオーストラリアにあるため、最終的な権限がオーストラリアにないと、安全性等の確保できないという主張があった。その結果、協議を重ねて最終的には日本の南極観測隊の意向も踏まえた上で、ボヤージュリーダーが最終決定をする体制に至った次第である。

鈴木委員 
 ヘリコプターのオペレーションもオーストラリアが行うのか。

小達第50次隊隊長
 そうである。ただしオペレーションの内容については、観測隊の要望に応じて行うこととなる。

鈴木委員 
 第50次ではかなり重いものを多く輸送するということになっているが大丈夫か。

小達第50次隊隊長
 ヘリに乗せるとき「しらせ」であれば、フォークリフトで持ち上げたりするが、今回はグレードの位置が低くフォークリフトが動けないため、人力で運ばなければならない。よって機内輸送する場合はあまり重くならないように配慮している。段ボールは中型を使用し、その他大型のものについては、スリングで対応することを考えている。

鈴木委員 
 大量の物資の輸送であるため、安全には十分配慮して、天候等によるヘリコプターの運航を優先して、進めていただきたい。

2.第51次南極地域観測隊長及び副隊長候補者(案)について

(1)白石国立極地研究所副所長より、第51次南極地域観測隊長及び副隊長候補者について説明があり了承された。主な意見は以下のとおり。

小池委員長
 隊長及び副隊長候補者のいずれも経験豊富であり、問題ないと思われる。

3.第30回南極研究科学委員会総会(SCAR)及び第20回南極観測実施責任者評議会(COMNAP)について

(1)白石国立極地研究所副所長より、第30回南極研究科学委員会総会(SCAR)及び第20回南極観測実施責任者評議会(COMNAP)について説明があった。主な意見は以下のとおり。

小池委員長
 船舶や航空機等の輸送手段や基地等の共同利用について、実際に幾つかの国で共同して運営している基地や船はあるか。

白石極地研副所長 
 伝統的にロス海地域では、アメリカ、ニュージーランド、イタリアが共同使用を行い、最近では、ドロームランに関係している国々がドロームシップという船を共同チャーターしている。また北欧の国やベルギー等一つ一つの国の規模は大きくないが、共同で船をチャーターし、各国の基地に荷物を送り届けているということを数年前から実施している。現在、南極で使用できる船をチャーターするとしても船がなく、インドなどは自前の船がないため、今年はチャーターに非常に苦労している。ドロームシップ体制をもっと広げて、共同使用について盛んに呼びかけている。

小池委員長 
 船がないというのは、砕氷能力を持った研究に使える船が用意されていないということか。

白石極地研副所長 
 傭船できないということではなく、船の数が足りないということである。

安岡委員長代理 
 各国が国際協力で設営等を行うことは、非常にいいことだと思うが、そういう国際協力が進んだときに、実際に観測したデータ等の帰属等については、別の協定が結ばれることとなるのか。

白石極地研副所長 
 国によって対応は様々である。設営基盤の国際協力を強力とすべきとの呼びかけがある。研究は研究テーマごとにPI同士のMOUを交わして進めることが一般的であり、PIY活動としては頻繁に行われている。

安岡委員長代理 
 設営と観測とは別の観点と考えてよいか。

白石極地研副所長 
 別であると考えている。

柴田委員 
 SCARは大変重要な機関であり、南極条約体制を支えている2つの組織、1つは南極条約協議国会議(ATCM)、もう一つがこのSCARである。つまり南極条約体制を支えている政治の一輪と、それから科学の一輪、この両輪があって、初めて南極条約体制は成り立っていると言われている。一方は政治で、一方は科学ということで、緊張関係をもちつつ行われているが、政治の母体であるATCMからSCARに対して、南極のバイオプロスペクティングに関する調査を依頼している。この依頼は、SCARの中の生物系で議論されているが、その作業方法について教えていただきたい。情報によれば、SCARの委員アウトソーシングにより検討を依頼したと聞いているがどうか。
 もう一つは、この南極バイオプロスペクティングについて、例えば極地研として持っておられる考え方を、このSCARのこのアウトソーシングされたプロセスに乗せるにはどうしたらいいか。このあたりの検討プロセスを教えていただきたい。
 またCOMNAPについて、観測活動と南極観光、ツーリズムが大きな問題になっているとあるが、まさにATCMでも問題になっている。現在、イギリスが主導して、南極観光に関する戦略的なビジョンをつくろうという動きがおきている。その戦略的ビジョンに対して、各協議国からのコメントが求められている。これは、ただ単に南極観光をするのみならず、観測活動にもかなり影響が出てきている活動だという認識が高まっており、昭和基地はかなり離れているということもあって、昭和基地自身に何か大きな影響というのはないのかもしれないが、南極における観測活動全体にとって、この南極観光活動が本当に今のレベルのものがいいのかということについて、かなり真剣に議論されている。日本はその問題について、きちんとした立場を述べてこなかったが、南極環境保護議定書の第3条3項には、「南極条約地域における活動については、科学的調査を優先するようにしましょう」とある。したがって、1991年にこの条約ができた時点では、他の活動ともし比較するならば、観測活動というのは優先されるべきだと示されているが、この優先順位の問題が、南極のツーリズムの問題で課題となっている。この状況下において、日本として、特に観測活動を所管している文科省及び極地研として、日本政府として意見を述べる必要があるのかないのか、この戦略ビジョン作成に向けて、日本としての観測活動の位置づけをどのように考えるのか方向性を示す必要があるのではないかと思う。

白石極地研副所長 
 SCARには委員という構成はなく、国の代表で構成されている。SCARのOpen Science Conferenceはオープンであり、だれでも参加できる。現時点ではその状況が分かりかねるため調査させていただきたい。日本少なくとも極地研究所では議論できていない。

小池委員長 
 「エクスプローラ」はどこの船か。

柴田委員 
 リベリアであるが、運行していたのはカナダの観光業者であり、乗客の多くはイギリス人、アメリカ人、ドイツ人と聞いている。

白石極地研副所長
 バルパライソで、RCCというリスク・コーディネーション・センターの集まりがあった際、今回の事故で1人も死人が出なかったのは奇跡であるとの見解があった。いつこのような事故があってもおかしくないため、コーディネーションセンターの集まりは、毎年行うべきであるとの意見があった。昭和基地はケープタウンのRCCの管轄であるが、ケープタウンから飛べる飛行機はないため、いざというときは、自前で対処しなければならない。しかし、コミュニケーションは続けたいと考えている。

4.第49次南極地域観測隊越冬隊の現況(平成20年6月~10月)について

(1)白石国立極地研究所副所長より、第49次南極地域観測隊越冬隊の現況(平成20年6月~10月)について説明があった。

5.第50次南極地域観測隊員名簿について

(1)白石国立極地研究所副所長より、第50次南極地域観測隊員名簿について説明があり了承された。

6.南極地域観測第8期計画の骨子について

(1)白石国立極地研究所副所長より、南極地域観測第Ⅷ期計画の骨子について説明があった。主な意見は以下のとおり。

小池委員長
 第8期計画についてはこの委員会でいろいろな側面から検討してきた。今後1年間で内容を整理し評価するかということをご議論していただきたい。
 新しい船による体制が、どのような方向に発展していくかという視点で考えられている。例えば隊員をより頻繁に交代させたり、あるいは滞在期間を短くしたりという点について、具体的には飛行機と船を組み合わせるということを将来考えていくのか。

白石極地研究所副所長 
 研究者の中には、飛行機を利用したいという意向が強く、オーストラリアでは研究者は基本的に飛行機で運ぶこととし、空路を開設した。日本もドロームランに加盟しているため、経費はかかるが物理的には飛行機を使用することは可能である。ここ数年、試行的にドームふじの掘削あるいはセールロンダーネのオペレーションにおいて飛行機を使用しているが、様々なパターンの南極観測隊員が出てくると、日本国内のサポート体制について考え直さないと対応できなくなるという危険性がある。今までは船で全員が往復するので、画一的な体制でサポートができた。しかし様々なアプローチが増えた場合、それに対して日本国内での訓練や体制について再構築しなければならない時期であると考える。

小池委員長 
 南極へのアプローチのバリエーションが増えれば、日本の南極観測とは何かという定義が崩れてくる。どこまでをそのカテゴリーに入れるかということを少し議論しなければならない。研究者の希望にどこまで対応できるかというのはなかなか難しい。今までのように隊員を編成し訓練をして、送り出すということがどこまでできるか。

白石極地研究所副所長 
 極地研究所の体制自体も、考え直さなければならない。

小池委員長 
 評価を考えても、定常観測の役割における評価は非常に高い。継続した観測かつ精度が高いという点で、高い評価を得ている。しかしこの継続も非常に難しいと考えるがどうか。

安岡委員長代理
 南極という特殊性は確かにある。しかし一般的に見ると、その観測への社会的要請がだんだん厳しくなり、観測した後に何の役に立つかという説明責任を問われる状況にある。例えば地球観測においても、今までは原初解明や、モデルのパラメーターを得ることであった。例えばIPCCのレポートにおいても第2ワーキング、第3ワーキングの適用や緩和、対策に対して、どのようにその観測が役に立つかなど、いろいろな国がこれから気候変動の対策を取る際に、南極はその影響が非常に自然の中でわかりやすいポイントになっているため、社会への貢献と具体的にどうつながるかというのは議論すべきであるとの意見が出されている。
 環境研でも、地球観測について精度の高いデータをとるが、既に10年も観測を行った事に対する社会的要請への説明責任が問われており、常に頭の中のどこかに社会貢献を入れておかないと苦しくなる。その1つは対策、効果をどう評価するかということだろうと思う。

杉本委員 
 この3つ全部のサブテーマは、基礎的な科学の部分そのものである。しかし南極だからこそできる分野があると思うため、直接社会に貢献するということをいう必要はないのではないかと思う。しかし世間の流れとしては、ある程度どのように社会に貢献しているのかということを問われる時代であるため少しは必要である。

白石極地研究所副所長 
 具体的にこのサブテーマそれぞれが、喫緊の社会生活に役に立つということはない。よって観測や研究をわかりやすく説明することだけでも社会の接点になるのではないか。

杉本委員 
 例えばドームふじで掘削を行いデータも出て、すばらしい業績も出たと思うが、このドームふじの掘削というのは、今後も続けていくのか。

白石極地研究所副所長 
 掘削は終了し、今後、氷期-間氷期の解析や堆積物について研究を継続する。

杉本委員 
 新「しらせ」完成により、新たに可能となる観測はあるか。

白石極地研究所副所長 
 新「しらせ」にはマルチナロビームが搭載されているため、沿岸の海氷域の海底の様子が非常によくわかる。

松田委員 
 新「しらせ」ができたことによって、どのような新しいことができるのかが、骨子にはあまり表れていない。よって背景でわかるように書いたほうが良い。また設営計画において、再生可能エネルギーの利用促進やエネルギー・廃棄物の適切な管理は重要な責務であるとあるが、これは日本において重要なテーマである。その結果、昭和基地のクリーンアップも進んだ。次の新しいフェーズでは、再生可能エネルギーの利用や廃棄物の処理で、国内より20年くらい進んでいるようなモデル、つまり地球環境変化の影響も一番センシティブであるが、それに対する対策も進んでいるイメージアップができると、世の中のサポートが受けやすいのではないかなと思う。

白石極地研究所副所長 
 現在、エネルギーのためのワーキンググループをつくり、専門家の先生方に議論をしていただいている。具体的には、風と太陽光である。しかし、実際に昭和基地のシステムに取り入れるためには、無制限には取り入れられず、約20%しか取り入れられない。

松田委員 
 省エネ対策も合わせて検討しているのか。

白石極地研究所副所長 
 省エネも含めて検討している。

松田委員 
 以前、越冬に参加した際、石油の持ち込み量が非常に多かった。日本は、石油を大量に消費する国と思われているため、省エネはイメージアップにつながるのではないか。

白石極地研究所副所長 
 太陽光発電装置や風発タワーは、取り組みが見えて良いと思うが、実際は昭和基地全体の20%をカバーすることが限度であると言われている。

小池委員長 
 新しく船ができたことによって、今までできなかった氷の下の海底地形の観測が可能となり、更に採水器を下ろすことができれば、氷の下の海底を観測することができ、海水の様々なプロセスについて研究することができる。しらせの乗船者数が以前に比べ20名増えたことの恩恵というのはどういう形で表されるのか。

白石極地研究所副所長 
 乗船者数が60名から80名に増えたことによって、隊員を80名するのではなく、むしろ同行者数を増やすことを考えている。同行者として、例えば学校の先生や芸術家、ジャーナリストなど、直接隊員にならない方、またVIPの視察といった多様な方が乗船可能となる。

松田委員 
 輸送のシステムが主にコンテナ方式に変わるとことにより、コンテナ・ラボを国内でセットし持っていくことによって、輸送効率が上がる可能性はあるか。

白石極地研究所副所長 
 輸送効率が上がると考えている。また船上にもコンテナ・ラボを乗せる予定である。

小池委員長 
 同行者が20人増えたことにより、アウトリーチを強調するのか、それとも従来足りなかった多様な研究ができると強調するのか。

白石極地研究所副所長 
 以前、観測のカテゴリー議論の際に、公開利用研究を南極観測事業の枠外に設けた。公開利用研究に参加される方は同行者として乗船するため、同行者枠が増えることにより、公開利用研究の発展の可能性がある。

小池委員長 
 同行者20人のうち、10人~15人は研究を行う方で、残りの五、六人はアウトリーチとすれば、同行者を増やした効果が期待される。20人がすべてアウトリーチであれば、増員した意図がわからなくなる。バランスが大切である。

白石極地研究所副所長 
 もう一つは、今までと同じような船の運航形態であれば、拘束時間が長いため、乗船枠があっても参加できないという場合もある。よって、船をフレキシブルに運航することや、飛行機を組み合わせることにより、片道船で片道飛行機という多様なアプローチ、アクセス、往復の方法があると思う。
 しかし、多様化すれば準備やサポート体制が大変な仕事量になる。

小池委員長 
 アメリカの基地では、アメリカはNAFから請け負った民間会社が米国南極基地ですべてのロジスティックをオペレーションしている。極地研では、すべてを研究所で行っているが、いつまでそれが続けられるかという不安はあるため、今度方針について検討する必要がある。

杉本委員 
 国際共同観測や設営資源の共同利用を推し進めることは、大変すばらしいことである。例えば観測分野であれば、既に進んでいると思うが、設営資源の共同利用を推し進めるということは、日本の持っている設備をオープンにして、外国からの研究者を受け入れるということである。この際、例えば安全対策をどうするかなどの問題があると思うが、実際に進めることは可能か。

白石極地研究所副所長 
 設営資源の共同利用は、状況を見ながら進めていくことになると思う。既に試行されており、例えば数年前はベルギーの研究者が飛行機で昭和基地に乗り込み一夏を日本の南極観測隊の生物グループとジョイントし飛行機で帰ったという例もある。また交換科学者制度を人数は少ないが何十年も続けている。

杉本委員 
 外国からの研究者を受け入れるのと同じような仕組みで、日本の国内の共同利用的に観測を南極で行いたい研究者を受け入れる仕組みはあるか。

白石極地研究所副所長 
 先ほど紹介した公開利用研究がそれに相当すると思う。

小池委員長 
 国内だけではなく他国でも参加できるか。

白石極地研究所副所長 
 今までの交換科学者はそう位置づけられても良いと思うが、そこまで議論が進んでいない。

松田委員 
 背景の5ページの上から3行目の【3】にアジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の確立を実現するとあるが、これは総合科学技術会議の戦略を受けてということだが、アジア・オセアニアとの連携を特に強化する意図は、全体の中でこの地域が遅れていたからか、もしくは独特の連携を行うからか。

白石極地研究所副所長 
 この基本戦略は、総合科学技術会議の戦略を受けている。現在日本が取り組んでいるのは、AFoPS、Asian Forum of Polar Sciencesというグループで、日中韓、インド、マレーシアの5カ国で形成されている。最近は例えばフィリピンやベトナムやタイなども関心を示しており、このような国々との連携を考えている。北極では既にマレーシアと日本の連携北極観測が行われており、南極でも可能であると考えている。またオーストラリアは今年にラット首相が来日され、南極地域観測事業におけるオーストラリアと日本の連携を協調されたことを背景にし、連携を進めていきたいと考えている。

松田委員 
 グローバルな協力は今まで通り行い、その中で、特にアジアグループで日本がリーダーシップを発揮したいとの考えがあるのか。

白石極地研究所副所長 
 できればそうしたいと考えている。

安岡委員長代理 
 国際連携において、今まではどちらかというと日本が自発的に相手国に協力するという、日本の意思で協力するタンスで行われていたが、逆に設備など持てるもの出すべきだという流れが背景にあることはないか。スペースステーションの動向をみれば、そのようなプレッシャーが南極観測においてもそのうち出てくるような気がする。

白石極地研究所副所長 
 日本として提供できるものは提供するとのスタンスでよいのではないか。

小池委員長 
 アジア・オセアニアで、船を持ち、基地を維持している国はどこか。

白石極地研究所副所長 
 日本と中国とオーストラリアである。また、現在韓国が砕氷船を建造中である。

小池委員長 
 つまりそれ以外の国は基本的には利用させてほしいというスタンスか。

白石極地研究所副所長 
 そう思う。オーストラリアは積極的に施設設備のレンタルを行っている。マレーシアが南極にアクセスできた背景に、オーストラリアのバックアップがある。またアジアではないが、オーストラリアはルーマニアに豪国の基地を最近貸したと聞いている。オーストラリアは意識的にかつ戦略的に行っているようだ。日本においてもできるのではないか。

小池委員長 
 文部科学省は、国際連携のもとでの南極観測事業を行う際、日本の南極観測事業の枠組みや範囲のとらえ方が難しいと思うが、先ほど例に挙げられたオーストラリアのように極地研から積極的に国際連携を行いたい意向があった場合、全面的にバックアップできるか。

丸山海洋地球課課長補佐 
 難しい質問ではあるが、予算面の裏づけが最終的にはベースになる。方向性としては科学技術の国際戦略は、総合科学技術会議を中心に提言されており、政府内でも取り上げられている。これを踏まえ我が国として国際的なプレゼンスを保つ、あるいは発揮するため、配慮する方向性に進む方が我が国の立場にとっても良いと思う。一方で、我が国の南極観測事業という枠組みをどうとらえるのか、とらえ直すのか、またその財政的な裏づけをどう確保していくのかと問題はある。方向性としては、国際連携について南極観測の枠組み、仕組み、システム、予算を踏まえ今度検討する必要はあると考える。

生川海洋地球課長 
 形態と費用分担などの枠組みによるが、一般論で申し上げれば、科学技術の世界では国際協力を積極的にやっている現状であり、全体の議論の中では、科学技術外交という考え方もある。つまり日本が強い分野であれば、それをうまく活用して、いろいろな形で関係国と有効な関係をつくっていこうという考え方もあるため、基本は積極的に考えていくことだと思う。オーストラリアは積極的に国際連携を行っているとのことだが、その背景にどういう考え方があるかご教授いただきたい。

柴田委員 
 課長から科学技術外交という言葉が出てきて、大変頼もしく思った。観測の活動は科学として継続しつつ、それをどう使うかという戦略のところが、これまでは手薄であった。その部分は科学者ではなく、文科省等国として日本が強い南極観測活動をどう使うかというその戦略性を第8期には取り入れなければならない。科学だけを見ても、政治を見ても、南極で完結していることはない。北極はもちろんのこと、宇宙や深海底などの最先端の科学のフロンティアでどうやっていくかが科学技術力であり、南極で何ができるかだけでなく、それが北極と深海底と宇宙での相乗効果はどういうことがあるかということを考えていかなければいけない。南極での成果と、他の分野における成果とどう相乗効果で結びつけていくかという視点が必要である。また教育に南極を用いることも必要であるが、他方で、ただ単に学校の先生を乗せたというだけでは意味がないため、現地に教育者を連れていくことを研究という形で発展させていかなければいけない。例えば南極の科学がこのように継続できるのは南極条約があるためで、他方で北極には条約がなく、今資源争奪が始まっているため、新しい条約をつくろうかという話がある。南極条約における科学活動から得られた経験というのは、決して観測活動のみならず、そこにおけるいろいろな政治的な背景も、貢献としてあると思う。さらに宇宙にも条約はあるが、まだ資源活動が全部禁止されているかというと、そうではない。そういう意味では南極条約体制から得られるもの、日本が南極において、これまで観測活動を継続したことから得られる貢献は、広い分野に貢献がある。例えば社会科学や政治、法律などが挙げられる。そういう点を、研究者に求めても限界があるため、戦略的な思考ができる部署がインプットをしていかなければならないと思う。観測活動を政治化せよという意味ではなく、観測活動をいかに使うかという、戦略性の部分が足りない。もっと戦略性のある第8期の計画にしていただきたい。その観点から、来年の4月にアメリカで開催される協議国会議が南極条約50周年記念の大きな大会であり、平和と科学の50年ということで、かなり大きな政治宣言が出る予定である。この政治宣言の中に、日本の第8期を何らかの形でインプットができるのではないか。そういうことを議論する場がどこになるか不明であるが、政治宣言のインプットは来年1月か2月に締め切りがくるため、それまでに戦略の部分の議論ができるような場をぜひつくっていただきたい。

小池委員長 
 どこで議論するかというのは、文部科学省であるか。

丸山海洋地球課課長補佐 
 一義的には文科省中心になると思う。関係省庁とも相談をしていきながら、良い形にしたい。この委員会でもいろいろなご意見をいただきたい。

生川海洋地球課長 
 サイエンスを進めるというのも重要であり、戦略的にその活動、活用を高めていくという考え方も必要である。そういう観点から、どこでどうアクションをとればよいかについて検討させていただきたい。

松田委員 
 南極に行かなければできない研究は、ある意味で究極のフィールド科学つまり野外科学である。しかし世の中ではその分野は弱くなっている。そのため、環境に配慮し、安全で高度なフィールド科学や野外科学のモデルを構築するもしくは、レベルを上げる役割も持っているのではないかと思うため、そういう文言は入れていただきたい。

杉本委員 
 キーワードに「環境に配慮する」文言を入れても良いのではないか。

白石極地研究所副所長 
 この5つのキーワードは将来ビジョンから引用している。

柴田委員 
 環境保全は大事だが、政治の場では、環境保全というのはアンタッチャブルにしておけばいいという考え方もある。環境に言及するのは良いが、その意味合いをしっかり押さえておかなければ、逆に足をすくわれてしまい、観測活動自体ができないこととなる。南極バイオプロスペクティングもまさにそうであり、生物は採取しない方が良いという議論も一方である。南極の環境にどうしても負荷をかけなければならない観測活動をどうしていくかという部分を考えなければならない。そこを考えて、この5つのキーワードになっていると思うが、環境の言葉を入れる場合には、環境という言葉がひとり歩きしないように、中身を詰めていただきたい。

小池委員長 
 自然エネルギーをどうするとか、新しい「しらせ」をつくることによってどのような新しいことが第8期でできるかということを整理していただきたい。 また、戦略的な取り扱いを、これをベースにしてどうやっていくかということが、非常に大きな問題であると思うため、事務局のほうでも考えていただきたい。

7.「しらせ」後利用について

(1)丸山海洋地球課課長補佐より、「しらせ」後利用について説明があった。主な意見は以下のとおり。

小池委員長 
 メモリアルを、防衛省と極地研で分けて保存するとこのとであるが、極地研は立川移転後にそういう施設はできるのか。

白石極地研究所副所長 
 立川につくる方向で検討している。

8.平成21年度南極地域観測事業関係概算要求の概要について

(1)丸山海洋地球課課長補佐より、平成21年度南極地域観測事業関係概算要求の概要について説明があった。

―― 了 ――

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144)、03-6734-4144(直通)

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