南極地域観測第Ⅶ期計画 [2]

2.基本的考え方
 現在、南極地域観測事業は、本部が定めた「南極地域観測事業の将来計画基本方針(昭和51年3月)」及び「21世紀に向けた活動指針(平成12年6月)」に基づいて実施している。今後ともこれらの指針を踏まえるとともに、科学技術の進歩や社会の要請に応じて、適宜これらの見直しを図りつつ観測事業を実施して行く。また、南極地域観測事業に対してなされた昨今の評価・指摘事項(南極地域観測事業外部評価委員会「南極地域観測事業外部評価書」、総合科学技術会議「南極地域観測事業について」、基本問題委員会「意見の取りまとめ」)を踏まえた計画とした。
 南極地域観測事業は、昭和51年度(第18次観測)から5か年を1単位とする観測計画を策定し、効率的・効果的に観測活動を実施してきたところである。しかし、平成21年度には、後継船が就航し、新たな観測支援体制が導入されることから、第7期計画においては、新たな観測支援体制を確立して、後継船体制へのスムースな移行を図ることに重点を置き、また南極地域観測事業の中核的実施機関である国立極地研究所の法人としての中期目標の期間との整合を図るために、計画期間を平成18年度~平成21年度の4か年とした。

2.1.観測計画策定
 観測計画策定に当たっては、総合科学技術会議の分野別推進戦略等に基づき関係府省が提案する社会的要請の強い観測計画、国立極地研究所が大学等の研究者の意見を踏まえて提案する研究観測計画、従来の定常観測担当府省が実施する観測計画を、「観測事業計画検討委員会」において総合的に調整して、戦略性のある南極地域観測事業計画を目指すこととした。
 戦略性として重視した点は、科学的に価値が高いプログラムにより学術の水準を上げるという観点と、国際貢献を行うことにより国際社会における我が国のプレゼンスを高めるという観点である。特に、エビアンG8サミット(平成15年6月)において、我が国の提唱により、地球観測サミット(閣僚級会合)の開催が合意され、ブラッセルにて開催された第3回地球観測サミット(平成17年2月)においては、全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画が承認されている。GEOSS10年実施計画における日本の役割の実施については、総合科学技術会議の「地球観測の推進戦略」(平成16年12月決定)を十分に踏まえ、科学技術の力を最大限に活用した地球観測の推進と国際的な貢献を実施することになっている。このように、環境分野における研究では、我が国は国際的なリーダーシップを発揮しており、南極地域観測事業においても、GEOSS10年実施計画に積極的に取り組み、地球環境の観測を推進する必要がある。
 また、「環境保護に関する南極条約議定書」に関連する国内法下での南極地域における環境保全等へも積極的に取り組むこととした。

2.2.設営計画及び支援計画策定
 南極地域観測を推進していくためには、隊員の安全確保を最優先とした上で、設営の効率化を図るとともに環境対策に配慮した設営計画を策定することが重要である。そのため、国立極地研究所に設置された設営計画審議委員会やその下にある分科会や民間技術者も参加した設営シンポジウム等を通じ広く関係者の提案を受け、昭和基地における施設配置の見直しやスリム化(例えば、老朽化した建物等の除去)を図る等、適確な中期計画を立案し、実施することとした。第7期計画では、以下の点を重視した。
  後継船による効率的な輸送体制の整備
南極条約環境保護議定書に基づく環境保全対策の推進
省エネルギー化、自動化や自然エネルギーの導入
昭和基地等の観測プラットフォームの充実

2.3.国際貢献-国際極年2007-2008への積極的参加
 南極地域の科学的研究又は平和目的の利用等をうたった南極条約のもとで我が国が国際共同観測を進めることは重要であり、南極研究科学委員会(SCAR)や国際関連学会等の提言を踏まえ、二国間あるいは多国間の国際共同観測、プロジェクト型研究観測への積極的な対応を図る。とりわけ、国際的な枠組みのもとに極域を集中的に観測する国際極年2007-2008(IPY2007-2008)に対して我が国は、南極条約原署名国の一員として、積極的にこの計画に参加し、国際的なリーダーシップを発揮する必要がある。
 国際科学会議(ICSU)と世界気象機関(WMO)は、1957年~1958年に実施された国際地球観測年(IGY)から50年後となる機会に、国際協調に基づく極地の学術研究と観測及びそのアウトリーチ・教育のため、国際極年合同委員会(ICSU/WMO Joint Committee)を立ち上げ、IPY2007-2008を計画している。国際極年の主要テーマは、(1)極域環境の現状の把握、(2)極域環境のこれまでの変化と将来予測における精度の向上、(3)地球システムの中での極域と他地域との相互作用の理解、(4)極域における科学フロンティアの調査研究、(5)極域観測による地球内部及び太陽系の理解、(6)極域環境下における人間社会の持続可能性と文化的多様性の調査、である。国際極年合同委員会は、各国研究者に研究計画の提案を呼びかけるとともに、その評価と調整を行っている。我が国は、日本学術会議が、国際極年国内委員会を立ち上げ、個々の研究者、研究機関と連携を取り、国際極年計画の推進を図っている。そこで、IPY2007-2008の主要テーマを考慮し、特に我が国の成果が期待できるものとして、南北両極でのこれまでの成果を生かした視点にたったテーマに取り組むこととしている。
 IPY2007-2008の期間は、平成19年3月からの2年間で、我が国の南極地域観測事業の場合、第48次観測から第50次観測にまたがる期間となる。南極地域での観測計画への積極的な参加とともに、国内での極域科学の研究及びアウトリーチ・教育活動も積極的に実施して行くこととした。

2.4.第50次観測への対応
 南極地域観測事業は第6次観測から第7次観測にかけて一時中断があったものの、第7次観測以降現在まで継続して実施した結果、国際観測網に貴重な観測データを提供するとともに、学術研究上、評価の高い研究を成し遂げることができた。この南極観測のための観測隊派遣及び大量の物資輸送は、防衛庁の協力により「しらせ」により行っている。現在、「しらせ」は、平成19年度の第49次観測後、砕氷船としての役割を終える予定である。しかし、「宗谷」、「ふじ」、「しらせ」に続く第4代目の新しい南極観測船の就航は、平成21年度に予定されており、南極地域観測を継続するため、平成20年度出発の第50次観測の輸送方法については、本部南極輸送問題調査会議「輸送問題計画分科会」において検討を重ね、物資輸送については「しらせ」による事前輸送を基本とするなどの整理を行っている。特に、第50次観測の期間はIPY2007-2008の後半の時期に相当し、南極観測においても我が国の国際的貢献が一層強く求められている。従って、この期間の定常観測及び継続性が重要な研究観測については、観測物資の事前輸送や越冬隊規模の縮小等の対策を講じて、継続を確保しなければならない。一方、代替輸送方法によらずにアクセスが可能な地域での観測については、観測の支援を強化する。

2.5.「しらせ」後継船就航を契機とした新たな計画
 平成21年度に出発する第51次観測では、後継船が就航し、乗船できる観測隊員・同行者数の増加が可能となり、我が国の南極観測は新たな時代を迎える。第7期は、第8期以降の観測計画で下記のような視点に立った新たな計画が推進できるよう進める。
  観測の高度化、観測域の拡大
弾力的かつ多様な輸送形態の充実と夏期観測活動の強化
国際共同観測の推進、南極観測未参加国への連携支援
大学院生を含む研究者への門戸の一層の拡大
隊員の身分、同行者の位置づけを整備
 また、国民とともに歩むという視点から以下のような計画も進める。
  報道関係者、教育関係者、芸術家等の幅広い分野の人材の同行による国民へのアウトリーチ活動
科学技術、環境、教育、外交等の政策検討のための視察団の派遣


1.はじめに 3.観測計画の概要へ

-- 登録:平成21年以前 --