別紙
実施主体:バイリンガル教師養成講座企画委員会
講座内容
一定以上の日本語能力を有し,外国人コミュニティのリーダーの素質と日本社会の習慣やルールに関する知識と日本人の価値観を理解しているブラジルとフィリピン出身の在住外国人を対象に,同国人のためにバイリンガルで日本語を指導できる人を養成するための講座。
近年,外国人市民の定住化がすすむなか,滞日年数に問わず日本語能力を持っていない外国人にとって,いまだ日本語がわからない故に生じてしまうトラブルが多々ある。こうしたなか,バイリンガル講師は自らの日本語学習にまつわる経験や苦労を活かし,日本社会において自立した生活を営むことができるよう,日本語学習を支援していく。
そのため,在住外国人にとって必要とされる日本語がどのようなものなのか,日本語のしくみや文法をはじめとした日本語学とその効果的な教え方を学んでいく。これについては,国外における日本語教育の専門家として国際交流基金のノウハウを活かす。また,現場の担当者を迎えて実態を把握するためにゲストを迎えた。さらに,本講座では,日本人のための日本語教師(日本語ボランティア)養成講座とは異なり,外国人として学びたかったこと,学ぶべきことが実体験としてあるため,受身型の講義ではなく,ディスカッションやグループワークを中心に講座を展開。積極的な意見交換がなされ,受講者がバイリンガル講師の役割の大きさに対する意識の向上を図った。
このように,外国人学習者にとって「本当に学びたかったこと」を教える,或いは学習支援ができるような人材育成に取り組んだ。
【養成講座】
○期間:平成20年1月20日~3月16日
○内容:下記のとおり
回 | 日時 | テーマ | 内容 | 講師 |
---|---|---|---|---|
1 | 1月20日 13:00~15:00 |
生活者としての外国人に必要な日本語について考える ~現場に必要なことは何か~ |
実際にどの程度の日本語能力や日本での生活知識が求められるのか,現場責任者の方をゲストに迎えてお話を伺い,外国人にとって必要な日本語について考える。 | 清 ルミ (常葉学園大学教授) ゲスト; 山屋宏(ヤマハ発動機株式会社IMカンパニー主査),佐藤公一郎(シンエイランド園長),三池アリセミホ(HICEポルトガル語相談員) |
2 | 1月20日 15:00~17:00 | 生活者としての外国人の日本語のニーズ分析 ~受講者の視点~ |
ニーズ分析とコースデザイン,カリキュラム構築のための講義。グループに分かれてデザインを考えた。 | 清 ルミ (常葉学園大学教授) |
3 | 2月3日 10:00~12:00 |
日本語1 音声と文字表記~「ことば」の学習から~ |
受講者の名前の発音とカタカナになったときの違いなどから,文字の表記について学び,会話イントネーションの練習を行った。 | 篠崎摂子 (国際交流基金) |
4 | 2月10日 10:00~12:00 |
日本語2 外国語としての日本語文法~対照的視点から~ |
母語との比較を行ったうえで日本語の特徴について学び,文法を捉える。 | 生田 守 (国際交流基金) |
5 | 2月17日 10:00~12:00 |
日本語3 日本語文法と教え方 |
助詞をとりあげ,日本語文法について学ぶ。 | 岩田 一成 (国際交流基金) |
6 | 2月24日 10:00~12:00 |
日本語4 ことばと文化 1 |
日本語教材のなかに日本文化が反映されているのか,言葉と文化のつながりについて学ぶ。 | 簗島史恵 (国際交流基金) |
7 | 3月2日 10:00~12:00 |
日本語教授法 教材・教具の使い方 | シラバスとコースデザイン,効果的な学習活動について学ぶ。 | 石井恵理子 (東京女子大学准教授) |
8 | 3月2日 13:00~15:00 |
日本語教授法 教案作成の方法 |
グループワークで教室活動を組み立てる。 | 石井恵理子 (東京女子大学准教授) |
9 | 3月9日 10:00~12:00 |
日本文化と習慣を伝える ~日本社会に適応するには? |
ディスカッション形式で,自らの経験から日本の文化と外国人として日本で生活するための日本語を考えた。 | イシカワ エウニセ (静岡文化芸術大学准教授) |
10 | 3月16日 10:00~12:00 |
模擬授業 | 教室活動のポイントとコミュニケーション活動を考える。 | 石井恵理子 (東京女子大学准教授) |
1 ことばを学ぶときに同時に気づいてほしい文化を取り上げ,文化を題材に日本語を使ったり学んだりする考え方や日本語の教材を使うなかで気づいたり考えたりしてほしい文化について学ぶ
【講座の様子】
第1回 「生活者としての外国人に必要な日本語について考える」
コーディネーター
清ルミ氏(常葉学園大学教授)
外国人労働者を受け入れている企業の代表者,外国人従業員のための児童保育を行っている保育園園長,ブラジル人相談員をゲストに迎え,それぞれの現場のお話を伺って,求められる日本語と生活情報などについて学び,意見交換を行った。
受講者のみならず,日本語ボランティアの希望者も参加。多くの受講者が,現場に求められること,必要な学習支援とニーズ分析について学んだ。 外国人側からとして,「日本人に求めること」と質問したところ,「見た目で判断しないでほしい」「外国人でも正社員として入れてほしい」「子どもを育てるための情報が不十分」「外国人側も努力が必要」などと意見が飛び出した。
第10回「模擬授業」講師;石井恵理子(東京女子大学現代文化学部准教授)
熱心な学習者
「教室活動を作る」というテーマで,活動のポイントを学ぶ。
「学習者が実感できる具体的な目標を作る」のは,初回で学んだ学習ニーズとコースデザインに繋がっていた。
講座そのものの内容が常にリンクしていることが一流講師陣の講座である賜物ではないだろうか。
講義形式ではなくて,グループワーク形式なのが醍醐味。
日本人の日本語ボランティア養成講座では飛び出さないアイディアや積極的な意見発表。学習者の自らが日本語を学んできた経験が活かされている。
学習者同士が国籍を問わず,お互いが助け合いながら学んでいる姿勢は,共生社会の原点であるように思われる。
修了式。
受講者全員が脱落することなく無事講座を修了。
表情から達成感と充実感がうかがえる。
【研修の様子】
ブラジル人のための日本語教室 見学
ぴよぴよクラス
浜松市立小学校へ今春入学する予定のブラジル人の子どもたちと共に学校体験を行う。子どもたちのなかには,保育園や託児所などの経験を持たない子どももいて,初めての社会体験になった。受講者は,自分の年齢が近いことや自らの経験を活かしてアドバイスを行っていた。
(1) 受講生に対するアンケート 受講者に対して2回アンケートを実施。1回目のアンケートでは,今後の活動についての意向を聞き,2回目のアンケートでは教室に関する感想について質問した。
(2) 実施主体からの研修内容結果評価
従来の日本語教師養成講座と異なることは,受講者自身が日本語学習経験者であるということである。そのため,これまでの日本語教室を運営していくなかで,外国人側のニーズや希望する教室スタイルが見えてきた。また,日本語指導者という立場よりも,自分の経験からアドバイスを行いながら学習者と共に学び,共に対処していく力を身につけていく方法が,バイリンガル教室に適したスタイルであることも判明した。
外国人市民に自立を促し,日本語が不自由なために生じたトラブルや問題に対して自分自身で解決或いは対処できるように支援していくためには,やはり彼らが日常生活のなかで最も必要としていることから学ぶことが大切である。
日本語を日本語で教える直接法では,個人が一定の日本語を習得するまでに時間がかかることと,なかには欠席を理由に学習を中断させてしまう外国人市民がいることからすると,成果を見るのに長期的な展望が必要となってくる。一方,バイリンガルで「言いたいこと」を即座に知ることができる授業は,気軽に質問ができる余裕と「わかった」という満足感をすぐに味わうことができるため,日本語教室に参加しやすい環境を整えることができる。
しかしながら,本講座では十分な期間がなかったため,教室実習ができなかった。実践を通して教授法を学ぶことができなかったことで,受講者にとっては実際に講座を行うにあたり不安や心配を抱えることを残してしまうことになった。また,アンケートにあったように,もう少し教授法について学びたいという意欲も湧いている。これは,本講座がいまだ不十分な内容であることを受講者自らが判断した結果であると考えられる。さらに,高校生や大学生の受講者からは,自身のポルトガル語力に不安を感じている。日本の学校に通っているなかで,ポルトガル語の使用頻度が低くなったことや日々変化する語彙や文法に対して知識が乏しくなってしまったのであろう。若者たちに言いまわされたりしているポルトガル語に理解できなかったりすると,かえって指導者としての立場に対する危機感を募らせているとみられる。
また,受講者たちは日本の習慣やしきたりに対して敏感に反応している。日本語のみならず,もっと日本人とのコミュニケーションを円滑にし,相互関係を良好なものにするために必要な習慣や振る舞いなどを学びたいという声も多くあがっている。とりわけ,意見交換会では講座のなかで示された教科書にない日本文化に対して関心が高く,受講者たちは口々に日本文化を学習者に伝える必要があると発言した。このことからも,バイリンガル教師には,日本と母国の両国を尊重し,社会と人間におけるファシリテーターの役割が求められるのではないだろうか。
これまでの取り組みのなかで,海外での日本語教育事業に携わった専門家が指導者として講義をしていただけたことが良かった。講師の知識と経験は,国内外の両方の視点から日本語学習のあり方を考えることができた。また,受講者にとってはわかりやすく,受け入れやすい講義の内容と流れであったと考えられる。こうしたことからも,国外における日本語教育に関してノウハウのある専門機関や専門家の活用を図ることが必要であることがわかった。また,このような意識が高く優秀な受講者を集めることができた人的リソースが,人材確保の大切な鍵になることも明らかである。
今後は,彼らのような人材の発掘と活用に際して,さらなる支援が重要である。
(3) 実施主体からの外国人支援体制等今後の計画