専門職大学院

専門職大学院の現状と今後の在り方について(報告)

平成22年6月29日

専門職大学院の現状と今後の在り方について
[専門職学位課程ワーキング・グループ報告書]

はじめに

 中央教育審議会は、平成17年に、大学院教育の実質化、国際的通用性の確保や信頼性の向上を目指す「新時代の大学院教育(答申)」(以下「大学院答申」という。)を取りまとめ、この答申に基づき、平成18年に「大学院教育振興施策要綱」(以下「施策要綱」という。)が平成22年度までの5年間の振興計画として策定された。
 「大学院答申」においては、専門職大学院について次のように提起している。
 「専門職大学院制度は発足からいまだ日も浅いが、現在、その発展が積極的に図られている。その一方で、新たな制度としての専門職大学院の急速な広がりに伴う諸課題も浮かび上がってきており、このことは、専門職大学院の果たすべき役割とそれ以外の大学院の果たす役割、さらには学部段階の教育との関係も含めた大学全体に及ぶ課題も投げ掛けている。このため、専門職大学院(専門職学位課程)の実績を見つつ、修士課程及び博士課程との関係等を踏まえて、その在り方については、今後、検討すべき課題であると考える。」
 これに伴い、「施策要綱」においては、専門職大学院について、具体的な方向性を示すには至らなかった。

 このため、当WGでは、新たな施策要綱の策定に向けて、専門職大学院(法科大学院、教職大学院を除く(以下同様とする))における各種の現状把握を行い、課題を明らかにしたうえで、その在り方を検討するとともに、それぞれの専門職大学院が、その教育内容・方法の充実や質の向上等の観点から、いかにして自主的な見直しの取組を推進していくべきかについて検討を行った。

 本報告書では、当WGで把握された専門職大学院の現状と検討課題を例示した。今後、各種の取組の改善や検討にあたっては、各大学においてこれらの検討課題を十分に踏まえたうえで発展的な対応を行うとともに、それに対する支援が求められる。

1.専門職大学院制度の概要

(1)専門職学位課程の創設経緯

○ 科学技術の高度化、社会・経済・文化のグローバル化に伴い、多様な経験や国際的視野を持ち、高度で専門的な職業能力を有する人材の社会的・国際的な活躍が一層期待されるようになり、平成10年の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方針について」を受けて、平成11年に高度専門職業人の養成に特化した大学院の修士課程(専門大学院)が制度化された。

○ 専門大学院は、平成10年の大学審議会答申において例示された分野(経営管理、法律実務、ファイナンス、国際開発・協力、公共政策、公衆衛生など)の中から、平成12年度から平成14年度までに、経営管理3校(国立2、私立1)、公衆衛生2校(国立2)、ファイナンス1校(私立1)の計6研究科・専攻が設置された。

○ その後、平成14年の中央教育審議会答申「大学院における高度専門職業人養成について」において、専門大学院制度の課題について、次のような指摘がなされた。
 専門大学院制度は、現行の修士課程の中の一類型として位置付けられているため、その大学院で修得させる職業能力のいかんにかかわらず、標準修業年限は2年とされている。また、従来の大学院修士課程における研究指導、修士論文との関係から、修了要件として特定の課題についての研究の成果の審査に合格することを制度上課し、これについて個別の課題についての研究の実施に対する指導を行うこととしていること、この指導のために相当数の研究指導担当教員の配置を求めていること等、従来の大学院の枠内で制度設計がなされている。このような制度の枠組みが、さらに、様々な分野でその求められる能力に適した高度な専門職業人を養成するための実践的な教育を展開していく上で制約となることも指摘されている。」

○ このような課題を踏まえ、以下のように同答申では、高度専門職業人養成に特化した新たな大学院制度の創設の必要性が提言された。
 「今後、国際的、社会的にも活躍する高度専門職業人の養成を質量共に飛躍的に充実させ、大学が社会の期待に応じる人材育成機能を果たしていくため、現行の専門大学院制度を更に発展させ、様々な職業分野の特性に応じた柔軟で実践的な教育を可能にする新たな大学院制度を創設する必要がある。
 このような大学院においては、実務者の教員の参画等による実務界との連携・交流により実践的な教育の実現を図るとともに、第三者による評価の導入により変化に応じた柔軟で質の高い教育を保証していくことが求められる。」

○ 専門職学位課程は、この平成14年の中央教育審議会答申を受け、それまでの専門大学院の役割を発展させ、修業年限や教育方法、修了要件等の制度を「高度専門職業人養成」という目的に一層適した柔軟で弾力的な仕組みとしたものであり、専門大学院を包摂するとともに、その枠組みを更に広げた新しい形態の大学院の課程として、平成15年に創設された。

(2)専門職学位課程の役割

○ 大学院教育答申は、専門職学位課程の役割について次のように述べている。
 「専門職学位課程は、幅広い分野の学士課程の修了者や社会人を対象として、特定の高度専門職業人の養成に特化して、国際的に通用する高度で専門的な知識・能力を涵養する課程として、明確な役割を担うことが適当である。
 このため、各分野における専門職学位課程の設置に当たっては、当該課程の基礎となる教育内容・方法等について、大学関係者と関係する業界や職能団体等が連携して、理論と実務を架橋した「プロセス」としての教育を確立していくこと、すなわち、特定の職業分野を担う人材の養成を行う専門職学位課程として、その基礎となる共通の課程の在り方(標準修業年限・修了要件、教員組織、教育内容・方法等)の社会的定着と制度的な確立を図ることが不可欠である。
 このような特定分野に関する共通の課程の在り方が社会的、制度的に確立されることを前提として、例えば、法科大学院を修了した者に授与される「法務博士(専門職)」のように、専門職学位として新たな学位の名称が必要か否かを検討することが必要となると考えられる。なお、専門職学位課程は、各種の精巧な職業技術の習得等を主目的とする趣旨のものではなく、あくまでも「理論と実務の架橋」を図ることにより、国際競争場裏において産業界・実業界等で求められる専門職(プロフェッション)そのものの確立を支え、プロフェッショナル集団を強固に形成する上で重要な役割を果たすことが期待されて発足した仕組みであって、大学院教育にこのような役割を果たすことが求められ、また、役割を果たすことについて十分な見通しを得られる人材養成の分野においてのみその発展が期待されるものである。
 このため、専門職学位課程の評価について、大学関係者が、関係する業界、職能団体等を含めて組織的な専門的評価機能を発展させていくことが強く求められる。」

2.専門職大学院の役割・機能等

(1) 専門職大学院の役割・機能

<検討課題>
○ 専門職大学院制度は、日本社会をリードする知見と応用力を有する高度専門職業人を養成することを目的として創設されたものである。専門職大学院の急速な広がりに伴い、教育課程の在り方や産業界等との連携、他の学位課程や学校種との関係等についての諸課題が指摘されていることからも、制度創設の理念に立ち返り、本来の役割や機能に照らし合わせて、その在り方を見つめ直す必要がある。

○ 専門職大学院は、技術的な訓練にとどまらず、基礎的なものをベースに応用力を身に付けたプロフェッショナルの養成を担うものである。このことを踏まえ、専門職大学院の役割である人材養成の到達点を明確にし、他の学位課程や学校種との関係を明確に整理する必要がある。

○ 専門職大学院は、大学関係者と関係業界等が連携し、理論と実務の架橋を図る教育課程等の確立を図り、国際競争場裏において産業界・実業界等で求められるプロフェッショナル集団を強固に形成する役割を果たすことについて十分な見通しが得られる分野に設置されるべきである。

○ このような観点から、専門職大学院の設置者又は新たに設置しようとしている者は、同一分野に設置されている他の専門職大学院の状況や、同一大学内の異なる専攻において提供される教育プログラムの状況などを踏まえ、当該専門職大学院が果たしうる役割・機能・特色などを、慎重に分析・検討する必要がある。

○ 今後、専門職大学院の役割・機能を十分に発揮していくためにも、産業界や職能団体等を含む日本の社会全体において、修了生の積極的な活躍の場が提供できるよう、高度専門職業人養成に対する十分な理解と積極的な協力が望まれる。

<現状>
○ 平成21年10月現在、専門職大学院は、60大学(うち大学院大学13大学)に84専攻が設置されている。分野別では、経営(32専攻)、会計(17専攻)、公共政策(8専攻)、公衆衛生(3専攻)、知的財産(2専攻)、臨床心理(5専攻)、その他(17専攻)となっており、設置者別では、国立(16大学25専攻)、公立(4大学6専攻)、私立(35大学47専攻)、学校設置会社立(5大学6専攻)となっている。

○ また、在学者数の割合を設置主体別で見ると、私立が約65%、国立が約26%、学校設置会社立が約5%、公立が約4%となっており、私立大学の割合が大きい。

○ 専門職大学院は、科学技術の進展やグローバル化等に伴う社会の様々なニーズに対応し、高度専門職業人養成の役割を果たすことが期待されている。そのため、設置の対象となる分野は、将来的により広い分野で多様なニーズが増大していくことも想定されており、現在も制度創設時に例示された分野(経営管理、公衆衛生・医療経営、法務、知的財産、公共政策(行政)、技術経営)に留まらず様々な分野に広がっている。また、その設置形態も、学校設置会社によるものなど、多様化が進んでいる。

○ さらに、各専門職大学院の人材養成目的も多様であり、特定の分野の深い知見を有した者、幅広い総合的な知見を有した者、それらを融合した者などの高度専門職業人養成が行われている。 

○ 専門職大学院制度の創設に先立ち平成11年に制度が創設された専門大学院の設置数は、3年間でわずか6研究科・専攻であったのに対し、専門職大学院の設置数は7年間で84専攻に達し、その発展が図られてきたが、制度創設の理念に照らし、急速な広がりに伴う諸課題も生じている。

○ 具体的には、例えば、高度専門職業人養成に関し、理論と実務の架橋を図るための教育課程の充実、産業界や職能団体等との連携の促進、修士課程などの他の学位課程や専門学校などの他の学校種との関係の明確な整理の必要性が指摘されている。

(2)  専門職大学院の規模・設置形態

<検討課題>
○ 専門職大学院の規模や設置形態の在り方の検討にあたっては、社会・経済などのグローバル化等に伴い求められる高度専門職業人の社会的なニーズや、教育内容の質の影響による定員割れの状況などを把握し、各分野や専攻における特性なども十分に考慮した上で、総合的に行う必要がある。

○ その際、職業資格と密接に関係する分野においては、社会的ニーズや労働市場との関係も特に深いことから、関係者との連携や国際的な動向(例えば会計分野における国際会計基準及び国際会計教育基準など)も踏まえる必要がある。

○ 定員割れには多種多様な要因が見られるため、それが直ちに問題とはいえないが、継続的な場合には、当該大学院の教育に対する学生を含めた社会の評価結果としての側面を有していると考えられる。特に、産業界等との連携が求められる専門職大学院の役割・機能を踏まえると、厳しく捉えられる必要がある。

○ このため、専門職大学院の設置者は、設置計画が適切であったか、社会的なニーズ、教育の質、教員体制や学生の進路動向などを不断に検証し、その規模の在り方を検討していく必要があり、その際、それらを促進するようなスキームも望まれる。

○ 大学は、一定の志願者を確保し、安定的に修了生を確保できるよう、修了生の進路の充実や社会的な評価の向上及びそのための環境形成に向けて、産業界や職能団体等の関係者と協力して取組んでいくことが求められる。

○ 専門職大学院の設置認可申請に対する審査に当たっては、養成しようとする高度専門職業人の社会的ニーズ、教育体制、申請者たる大学の自己点検・評価や認証評価の状況、関係業界等との連携体制など、様々な観点を十分に考慮した上で設置認可の可否について審査を行う必要がある。さらに設置時における質の保証を図るには、設置基準の精緻化や審査ルールの明確化等の関係規定の整備を検討する必要がある。

○ 特に、大学院大学として設置される専門職大学院の設置認可の際、高等教育機関の質保証の観点から、学校教育法で定める大学院大学として備えるべき要件(教育研究上の特別の必要性等)を十分確認し、世界に共通して認識される大学の本質等といったいわゆる「大学らしさ」の担保を図るなど慎重に設置審査や評価を行う必要がある。

○ 将来的には、大学院大学の制度創設時における設置要件の趣旨・目的などにかんがみ、修士課程や博士課程の大学院大学と、在学者やその設置主体などに特徴が見られる専門職学位課程の大学院大学の設置基準等の在り方についての検討が必要である。

<現状>
○ 専門職大学院全体の入学定員は、約4,600名で、在学者の年齢構成は20代が47%、30代が35%、40代が14%、50代3%、60代1%、社会人の割合は約62%、外国人学生の割合は約10%(うち留学生が約87%)となっており、幅広い分野の学士課程修了者や社会人などの受入れが進んでいる。

○ 専門職大学院の在学者の最終学歴(入学時)の状況は、学部卒業約86%、修士課程修了約7%、博士課程修了(単位取得退学含む)0.8%、専門職学位課程修了0.2%、その他(高等学校卒業等)約6%であるが、これを独立大学院について見てみると、学部卒業の割合が約70%に減少し、その他(高等学校卒業等)の割合が約19%に増加している。

○ 入学者選抜における平均志願倍率は、平成15年度は約2.3倍であったが、以後やや減少傾向にある。また、平均入学定員充足率は、平成18年度以降定員未充足(平成21年度0.9倍)であるが、これらは、分野別あるいは同一分野内における専攻ごとに多種多様である。

1) 開設以来一度も入学定員充足(未充足)のない専攻
2) 一時的に入学定員充足(未充足)の年度がある専攻
3) 入学定員充足(未充足)の状況から入学者数が減少(増加)傾向に転じ、入学定員未充足(充足)となった専攻 等

○ 同様に、定員未充足の原因も多種多様である。

1)専攻数や総入学定員が急激に増加したことによるケース
2)養成する人材目標や教育の質(カリキュラムや教員の資質能力等)に対する社会的な評価を十分受けていないケース
3)予想以上の入学辞退者が出ているケース
4)質の高い入学者を確保するため入学者を厳選しているケース
5)経済不況や立地条件など外的要因によるケース 等

○ 平成21年度の定員未充足の専攻数の割合は、全体で5割程度にのぼり、分野ごとに状況は異なるが、同一分野内で定員充足状況が二極化する傾向にあることが調査で確認された。

○ また、大学院大学の約7割が定員未充足で、そのうち約8割が開設以来継続し、このうち、学校設置会社立、専門学校や予備校を基礎に持つ設置主体者の大学が約7割を占めている状況が確認された。

○ 一方、定員は充足されているが、入学者の質の確保が懸念されるケースや、当初は定員未充足の状況が継続していたが、研究科長等のリーダーシップ等の下、各種取組の成果により状況が改善したケースなども確認された。

<定員充足状況の改善のための取組事例>

  • 教育の質(カリキュラムや教員の資質能力等)の改善
  • 秋学期入学制度の実施
  • 学費の見直し
  • 奨学金制度の導入
  • 入試説明会の増加
  • 授業見学会の実施
  • 多様なコース設定
  • 教育情報の公表や広報活動の強化
  • 入学定員の見直し 等

○ 各専門職大学院は、幅広い年齢層や社会人など多様で質の高い入学者の確保等に向けた取組を行っているが、定員充足状況は全般的に厳しくなっており、特に新たなコンセプトの専門職大学院と就労環境のミスマッチが一つの要因として指摘されている。

○ 上述のように、専門職大学院における大学院大学の現状として、一般の大学に比べて在学者の最終学歴として学部卒業の割合が少ないことや、学校設置会社立などの設置主体の大学が多いことが確認され、当WGでは、制度創設時に想定されていた趣旨・目的を踏まえた設置等の在り方の検討の必要性が指摘された。

○ 大学院大学については、昭和51年の学校教育法の一部改正により、「教育研究上特別の必要がある場合においては、学部を置くことなく大学院を置くものを大学とすることができる」と規定され、その制度が創設されたものであるが、当時の文部省通知では、その要旨及び留意点として、「教育研究の目的・内容の上から大学院独自の教育研究を展開することが特に有益である場合や、教員、学生の大学間交流に大きく寄与する場合など、独立大学院とすることについての教育研究上の意義が明らかなものに限り認められるものであること」としている。

○ 平成21年の中央教育審議会大学分科会報告「中長期的な大学教育の在り方に関する第二次報告」においても、大学院大学の設置基準の明確化が今後の課題としてあげられている。

○ 専門職大学院の目的は、学校教育法に規定されているが、同法では、大学の目的として「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。大学は、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」と規定しており、これは世界に共通して認識される大学の本質であると考えられる。

○ 現在の設置審査においては、専門職大学院設置基準等の法令などに基づき、普遍的に求められる大学の本質などについて厳格な審査を行っているが、認可の可否の判断にあたっては、準則主義の要請のもとに当該法令等の根拠を必要としており、設置時における質の保証を図るには、例えば、運用面の改善・工夫だけでは限界があり、大学院大学に関する設置基準などの関係規定の内容が不明確な現状について改善が必要であることなどが指摘されている。

3.専門職大学院における質の向上

(1)  教育内容・方法の充実

<検討課題>
○ 専門職大学院は、高度専門職業人の養成に特化し、国際的に通用する高度で専門的な知識・能力を涵養する役割を担っていることから、優れた理論と実務教育のバランスに配慮した体系的な教育課程の整備が不可欠であり、その上で、学部新卒者や有職社会人などバックグラウンドの異なる学生の多様なニーズに配慮した教育内容の充実を図る必要がある。

○ このため、産業界や職能団体等との連携協力により、基礎的な能力・知識に関する共通的な到達目標の設定や教材開発の組織的な体制の整備のほか、優れた教育拠点の形成や高度専門人材養成のための取組などを推進し、専門職大学院の教育研究活動等の充実や質の向上を図り、国際競争力を強化することが重要であり、それら取組への支援が一層推進される必要がある。

○ その際、修了者の進路の市場規模、特性、動向などの十分な把握が必要であり、特に、伝統が浅くその社会的な評価が十分でない分野においては、教育課程の編成や実践的な事例演習及び実習等の取組において、産業界等との連携が不可欠である。

○ また、教育内容・方法を検討する上では、国際的な枠組みで設定されるスタンダード(例えば、会計分野における国際会計教育基準、知的財産分野における国際的基準、国際条約など)や、修了後の進路先における産業界等により提供される教育との調和を考える必要がある。

○ これら各専門職大学院の教育内容・方法については、上記の視点も踏まえて、関係業界等の参画を一層得ながら、設置認可で適切に審査されるとともに、認証評価においても厳格にチェックされることが求められる。

<現状>
○ 各専門職大学院では、大学関係者と関係業界等の産業界等との連携による教育・研修プログラムの開発や人的交流などにより、理論と実務を架橋した教育内容・方法の確立に向けた様々な取組が行われている。

1) 産学連携による教育・研修プログラムや教材開発

  • 寄附講座の開設
  • インターンシップ・プログラムの共同開発
  • 共通的な到達目標の設定
  • 時差を利用した海外大学との遠隔通信システムによる共同授業の実施
  • 海外大学との教材開発や産業界と連携したケース教材の開発

2)大学と企業等との人的交流

  • 大学への講師派遣や企業内研修への参画
  • インターンシップの実施

3)その他の取組

  • 企業訪問の定期的な実施
  • 産業界等との意見交換やシンポジウムの開催

○ また、授業の活性化を主たる目的として、学生による授業評価(良い点、悪い点、改善点)の提出を毎回学生に義務づけ、教員と学生のモチベーションを高めている事例も見られる。

○ 大学と関係する企業や団体、あるいは海外大学との連携を通じた、教育課程の改善や遠隔通信システムによる共同授業などを積極的に実施している大学では、学生の満足度は総じて高いように見受けられる。

○ 一方、総体的には、これら外部機関との連携不足や、教育の質の向上に重要な役割を担う教材開発について、教員個人の裁量や努力に依存している状況が数多く見られるなど、これらの取組が十分とはいえない現状である。

(2)  教員組織の強化

<検討課題>
○ 各専門職大学院においては、教員の資質能力の向上を図るため、FD活動の幅を広げ、その取組の成果の検証及びそれに基づく教育内容等の改善やフィードバックの仕組みを構築し、その内容を一層充実することが重要である。

○ 各専門職大学院に対する調査では、一部の大学に専任教員や実務家教員の解釈や運用について混乱があることが確認され、特に実務家教員が多数を占める専門職大学院においては、大学院としての適切な理論教育の提供の観点から疑義が生じているところであり、実務家教員の定義等についての検討が必要である。

 ○ 平成25年度までのダブルカウントの暫定措置終了後の教員養成の在り方等を踏まえ、博士後期課程との接続のための教員組織の在り方や研究指導の取扱い等に関する検討が必要である。

<現状>
○ 専門職大学院全体の専任教員数は、約1,300人であり、うち実務家教員が約半数を占め、学内の他の学部又は大学院の専任教員の数に算入する教員(ダブルカウント)は約12%、学位保有割合は博士保有者が約47%で、修士約25%、学士23%、その他約5%となっている。

○ FD(ファカルティ・ディベロップメント)の取組は、すべての専門職大学院において、学生による授業評価や講演会の実施などが実施され、特に、十分な教育経験のない実務家教員に対しては、継続的な研修を実施するなど、その能力の向上に効果を上げている状況が見られる。一方で、教員相互の授業参観・評価などへの取組は少なく、FD全体の成果の検証及びそれに基づく教育内容等の改善やフィードバックの仕組みの構築も十分とはいえない。

○ 実務家教員の配置において、実務家教員の定義・基準などが詳細に定義されておらず、一部の専門職大学院において解釈や運用に混乱が見られることが調査において確認されている。そのため、専任教員の全てが実務家教員であるケース、実務から長く離れてしまったケースなど、多様な形態が見られる。

○ ダブルカウントについては、多くの専門職大学院で、暫定措置の終了に合わせた計画的な解消が順調に進められ、平成26年度以降、専任教員数の確保の観点からは支障が生じない見通しである。しかし、博士後期課程との接続の在り方について懸念が指摘されている。

(3)  修了者の進路とキャリア

<検討課題>
○ 専門職大学院修了者の就職状況の一層の充実や、社会人学生が職場復帰をする際に十分な評価を得ていない現状の改善を図り、修了生が学修した内容をそのキャリアにおいて有効に活用できることが望まれる。そのため、産業界や職能団体等との連携により、カリキュラム等の教育内容・方法、評価システムやインターンシップ及び就職先等における修了生の評価の活用などの充実を図る。また、教育情報の公表を推進し、専門職大学院の社会的信頼と認知度の向上を図る。

○ 一方、国際的な競争力の維持・向上のため、産業界や職能団体等をはじめとした社会全体が、国際的に通用する高度専門職業人が能力を発揮し評価を受けることができるような環境を整えていくことが望まれる。

○ 国際的に通用する人材養成を目的とした専門職学位課程の学修と国内資格の付与のための資格試験とは、その理念が異なるため、両者の関係については、専門職大学院の制度趣旨、大学及び産業界や職能団体等との連携や国際的な動向(例えば、会計分野における国際会計教育基準、知的財産分野における国際的基準や国際条約など)などを踏まえて、関係者間で整理される必要がある。

<現状>
○ 修了者の進路の状況は、全体として就職が約72%、博士後期課程への進学が約2%、その他(不明等)26%となっており、これを入学前の出身別に見ると、学部新卒者が就職約56%、進学約2%、その他(不明等)42%、社会人が就職約85%、進学2%、その他(不明等)13%、留学生が就職約65%、進学約7%、その他(不明等)28%となっている。(就職の中には有職で入学した者も含む。)

○ 専門職大学院に対する調査では、「修了者の就職先企業等による学生評価の活用状況」への質問に対し、活用していると回答した大学が2割程度であり、大学は、自ら養成した人材が、その就職先等でどのような評価を受けているのかほとんど把握していない状況が確認されている。

○ 各専門職大学院は、企業訪問によるニーズの把握、講師派遣、寄附講座の開設、インターンシップの実施など様々な取組を行っているが、総体的には、これら外部機関等との連携が不足していることや、大学で養成する人材や教育内容などについて社会的評価・認知度を向上させるための広報活動や教育情報の公表が不十分であることが、修了生の進路に影響している場合も見受けられる。

○ このほか、昨今の経済不況の影響、資格試験制度との関係や企業側の採用が学部新卒者中心という雇用慣行など、専門職大学院側の努力だけでは改善できない外的な要因による問題も修了生の進路に影響している。

1)資格試験と接続する分野における課題
個々の専門職大学院は、資格試験に出題されることのない科目を必修とするなど、その設置理念に基づいて幅広い学修を提供するが、学生は試験科目に強い関心を持ち、受験にあたっての不安心理等から、試験科目以外の学習を軽視したり、専門学校とのダブルスクールで試験に臨んでいる実態も一部見られる。

2)資格試験と接続しない分野における問題
専門職学位課程の修了が、就職活動や社会人学生の職場復帰の際に十分な評価を受けない、ある年齢を超えると大学院新卒ではなく中途入社扱いとなる等の状況が見られる。

(4)博士後期課程との接続

<検討課題>
○ 大学における教育と研究は一体であり、理論と実務の架橋を目的とする専門職大学院における、教育資源の蓄積を支える研究活動の活性化、教員の養成機能やモチべーションの維持・向上、あるいは進学を希望する学生への対応等の役割・機能や国際競争力への影響などを勘案すると、専門職学位課程と博士後期課程との接続を図ることは重要である。

○ このため、当面、平成26年度以降も引き続き、専門職大学院の教員が同時に博士後期課程において研究指導を行える環境を維持する必要があり、博士後期課程については、ダブルカウントの措置を継続するなどの制度的対応も検討される必要がある。

○ なお、当WGにおいて、専門職大学院の教員の所属と学位課程の関係については、学位プログラムの導入により改善が期待されるのではないかとの指摘があり、将来に向けた検討課題として整理されることが望まれる。

<現状>
○ 当WGにおける調査では、平成25年度までのダブルカウントの暫定措置が終了し、専門職大学院の教員が博士後期課程と切り離された場合、次のような問題が発生するおそれがあることを複数の大学関係者が指摘している。

1)活発な研究活動の蓄積による専門職大学院教育への還元ができなくなる
2)博士後期課程の教員すべてが専門職大学院教員によって構成されている場合、博士後期課程の存続が困難となる(特に専門大学院から移行した課程において)
3)教員が研究活動による教育資源の蓄積を行うための環境がなくなり、教員の養成機能やモチベーションが低下する懸念があり、教員の流動性が阻害されることなどにより、国際競争力の低下に繋がる恐れがある

○ 専門職大学院は、高度専門職業人養成に特化した学位課程であり、従来の修士課程と異なり、高度な専門職業人を養成するための実践的な教育を展開していくために創設されたことから、これまで、専門職大学院と博士後期課程の接続について一義的に整理されていなかった。

○ しかし、一部の専門職大学院においては、教員の研究活動の充実による教育資源の蓄積や、専門職大学院における教員の後継者養成などを目的として、同一研究科などに専門職学位課程と博士後期課程を置いた組織体制を整えているのが現状である。

○ また、専門職大学院を修了後、研究者になることを目的とする者以外にも、自らのスキルを磨くために、有職の社会人などを中心に博士後期課程に進学を希望する学生が一定数存在し、そのような進学希望者に対して、修士論文相当のレポート作成や課題研究等の指導を行っている。

(5)認証評価システムの構築

<検討課題>
○ 大学における公的な質保証システムである、設置基準・設置認可審査・認証評価については、それぞれの役割を踏まえ相互の連携を十分に図りつつ、厳格に運用することが重要である。専門職大学院の制度創設時における第三者評価制度の趣旨・目的などにかんがみ、例えば、認証評価機関が存在しない場合はその設置認可を認めない仕組みの導入などについて検討が必要である。

 ○ 認証評価における特例措置(免除規定)については、専門職大学院の趣旨・目的や制度発足からすでに6年経過したことを踏まえると、今後は、自己点検評価・外部検証にて代替することは認められるべきでなく、適切な経過措置期間の在り方にも留意しつつ見直す必要がある。

 ○ このため、認証評価機関がいまだに設立されていない分野においては、専門職大学院の制度趣旨にかんがみ、関係する産業界や職能団体等を含めて組織的な専門的評価機能を発展させていくことが強く求められ、関係者が連携協力して認証評価機関の早期設立を実現することが必要である。

 ○ 新たに認証評価機関を設立するにあたっては、社会的な需要が確立された分野で、一定程度の規模を有する職能団体や学協会などが既に存在している場合は、当該組織と協力することができるが、そのような組織が存在しない分野の場合は、高等教育における多様で適切な評価の観点や認証評価機関としての信頼性や安定性の確保の観点などからも、既存の認証評価機関を含め適切に検討すべきである。

 ○ 認証評価機関の認証を行うにあたり、大学と関係する職業資格を付与する団体等が認証評価機関となる場合は、当該大学は強い関与の下に置かれる状況となるため、中立性・公平性などの観点及び、当該分野の専門職大学院の自主性・自立性の確保について慎重に判断される必要がある。

 ○ 各認証評価機関は、恒常的に大学の質を保証するためにも、評価基準や実施方法を不断に検証し改善していく必要があり、評価基準や実施方法の見直しにあたっては、カリキュラムの充実度(共通的な到達目標、国際的な教育基準や修了後の継続教育への配慮等)、学生の修了後の進路や、教員の資質・能力等の向上のための取組状況などの項目を導入することにより、質に重点を置いた評価を行っていく必要があり、そのための関係規定の改正なども検討される必要がある。

○ 機関別評価と分野別評価はそれぞれ異なる役割・機能を果たすものであるが、実体上、提出資料や評価の項目及び範囲が重複している部分もあり、今後、両者の効率的な運用を図る仕組みの検討が必要である。

○ なお、専門職大学院の設置審査にあたっては、当該大学の状況に応じて、自己点検・評価の状況や認証評価機関設立の見込み、及び関係する産業界や職能団体等と連携して行う教育課程への取組状況などに対する審査を慎重に行うことが重要であり、そのための関係規定の整備が必要である。

<現状>
○ 平成14年の中央教育審議会答申「大学院における高度専門職業人養成について」においては、専門職大学院の第三者評価制度について、「外部の客観性のある評価を受け、その質の維持向上を図っていくことが重要であり、専門大学院における外部評価制度を更に一歩進め、各専攻分野ごとに大学関係者やその職業分野に従事する者などが関係する認証評価機関による継続的な第三者評価を受けるものとする」とされている。

○ したがって、専門職大学院は、その教育の質を保証するため、設置基準及び設置認可に加えて、5年ごとに認証評価機関による分野別評価の受審が義務づけられており、多くの分野において認証評価機関が設立され、当該機関による認証評価が実施されている。

○ その一方で、認証評価機関が存在しない場合は、特例措置(免除規定)として、自己点検及び評価の結果を当該大学の職員以外の者による検証等をもって認証評価に代えることが認められているが、その基準・方法については明確なガイドラインが存在しないため、各専門職大学院の独自の基準・方法で代替措置が行われている。

○ 認証評価機関の設立に向けた取組状況は、評価機関となる見込みのある団体を交えた意見交換を定期的に実施するなど、具体的な認証評価機関設立の見通しが期待される専攻がある一方で、評価機関として想定される団体がなく、関係する産業界や職能団体等との関係も希薄な専攻も見られる。

○ 特に、検討が進捗していない分野では、他に共通する分野が存在せず、1校又はごく少数が設置され、産業界や職能団体等の産業界等との連携が不足しているものなどにその傾向が見られる。

○ 認証評価機関の種類としては、平成22年3月末現在、産業界や職能団体等と連携して設立された評価機関が5機関、機関別評価の実施機関が2機関となっている。

○ なお、認証評価機関が設立されている場合であっても、現状の認証評価は、大きな問題を抱える専門職大学院に対して必ずしも厳しい評価となっていない場合もあり、評価基準や方法等を改善すべきとの指摘もある。

(6)  教育情報の公表の促進

<検討課題>
○ 各専門職大学院は、高度専門職業人養成教育の質の向上や、社会的評価や認知度の向上に資するため、教育情報の公表を質量ともに一層促進する必要がある。

○ その際、日本の国際競争力の発展・強化の観点からも、国内はもとより、世界のどこからでも各専門職大学院の教育内容や養成する人材像などの情報に容易にアクセスできるよう環境整備に積極的に取組むことが必要である。

<現状>
○ 各大学は、大学設置基準により、教育研究活動等の状況を積極的に情報提供することが義務づけられているが、専門職大学院におけるインターネットや広報誌などの媒体による、入学者選抜等に関する情報の公表状況は、入学定員約94%、志願者数約46%、受験者数約30%、合格者数約43%、入学者数約38%、修了者数約32%となっている。

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高等教育局専門教育課

-- 登録:平成22年11月 --