第1章 地方独立行政法人(公営企業型を除く)に適用される会計基準及び注解 第1節



  次ページへ

1節 一般原則

1 真実性の原則
地方独立行政法人の会計は、地方独立行政法人の財政状態及び運営状況に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。(注1)

注1>真実性の原則について
1  地方独立行政法人は地方公共団体の事務及び事業の実施主体として、その業務の実施に関して負託された経済資源に関する情報を負託主体である住民等に開示する責任を負っており、説明責任の観点から、その財政状態及び運営状況を明らかにし、適切に情報開示を行うことが要請される。
2  地方独立行政法人の業務運営については、その自律性及び自発性の発揮の観点から、事前統制を極力排除し、事後チェックに重点を置くこととされているが、適切に事後チェックを行うためには、業績評価が適正に行われなければならない。
3  このような説明責任の観点及び業績の適正評価の観点から、地方独立行政法人の会計は、その財政状態及び運営状況に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。

2 正規の簿記の原則
1  地方独立行政法人の会計は、地方独立行政法人の財政状態及び運営状況に関するすべての取引及び事象について、複式簿記により体系的に記録し、正確な会計帳簿を作成しなければならない。(注2)
2  会計帳簿は、地方独立行政法人の財政状態及び運営状況に関するすべての取引及び事象について、網羅的かつ検証可能な形で作成されなければならない。
3  地方独立行政法人の財務諸表は、正確な会計帳簿に基づき作成し、相互に整合性を有するものでなければならない。(注3)

注2>複式簿記について
 地方独立行政法人においては、その財政状態及び運営状況に関するすべての取引及び事象について捕捉しうる合理的な会計処理及び記録の仕組みとして、複式簿記を導入するものとする。

注3>行政サービス実施コスト計算書の整合性について
1  行政サービス実施コスト計算書は、地方独立行政法人の財務諸表を構成する書類の一つであり、基本的には正確な会計帳簿に基づき作成されるべきものである。
2  しかし、行政サービス実施コスト計算書には、その性格上一定の仮定計算に基づく機会費用を含むことから、会計帳簿によらないで作成される部分が存することに留意する必要がある。その場合には、当該部分の作成根拠等を注記等により開示しなければならない。

3 明瞭性の原則
 地方独立行政法人の会計は、財務諸表によって、住民その他の利害関係者に対し必要な会計情報を明瞭に表示し、地方独立行政法人の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。(注4)

注4>明瞭性の原則について
1  地方独立行政法人においては、住民の需要に即応した効率的な行政サービスの提供を実現することが求められており、その行政サービスの提供のために負託された経済資源に関する会計情報を負託主体である住民を始めとする利害関係者に対し報告する責任を負っている。
2  住民その他の利害関係者にわかりやすい形で適切に情報開示するため、地方独立行政法人の財務諸表は明瞭に表示されなければならない。

4 重要性の原則
1  地方独立行政法人の会計は、住民その他の利害関係者の地方独立行政法人の状況に関する判断を誤らせないようにするため、取引及び事象の金額的側面及び質的側面の両面からの重要性を勘案して、適切な記録、計算及び表示を行わなければならない。
2  質的側面の考慮においては、地方独立行政法人の会計の見地からの判断に加え、地方独立行政法人の公共的性格に基づく判断も加味して行わなければならない。
3  重要性の乏しいものについては、本来の方法によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則及び明瞭性の原則に従った処理として認められる。(注5)

注5>重要性の原則について
1  公共的な性格を有する地方独立行政法人の会計は、地方独立行政法人会計基準に定めるところに従った会計処理及び表示が求められるものである。
2  ただし、地方独立行政法人の会計が目的とするところは、地方独立行政法人の財政状態及び運営状況を明らかにし、住民その他の利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあることから、重要性の乏しいものについては、本来の会計処理によらないで合理的な範囲で他の簡便な方法によることも、正規の簿記の原則に従った処理として認められる。
 なお、公立大学法人は、法人間における会計情報の比較可能性の確保の要請から、一定の事項については統一的な取扱いをする必要があることに留意する必要がある。
3  重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用され、本来の財務諸表の表示方法によらないで合理的な範囲で他の簡便な方法によることも、明瞭性の原則に従った表示として認められる。

5 資本取引・損益取引区分の原則
 地方独立行政法人の会計においては、資本取引と損益取引とを明瞭に区別しなければならない。(注6)

注6>資本取引・損益取引区分の原則について
1  地方独立行政法人は、公共的な性格を有し、本来的には利益の獲得を目的とせず、公的なサービスの提供を行うことを目的としており、運営費交付金及び補助金等による地方公共団体等からの財源措置が行われることが一般的である。このような地方独立行政法人においては、第一に、経営成績ではなく運営状況を明らかにするために損益計算を行うこととしている。このような観点から行われる損益計算においては、地方独立行政法人が中期計画に沿って通常の運営を行った場合、運営費交付金及び補助金等の財源措置との関係においては損益が均衡するように損益計算の仕組みが構築されることとなる。なお、地方独立行政法人が行う業務には、その実施に収入が伴うものがあるが、こうした業務の中には、経営成績も加味した運営状況の開示が必要となるものもある。
2  また、政策の企画立案を行う地方公共団体との関係において、地方独立行政法人の独自判断では意思決定が完結し得ない行為に起因する収支等地方独立行政法人の業績を評価する手段としての損益計算に含めることが合理的ではない収支は、地方独立行政法人の損益計算には含まれないものとする。
3  一方、地方独立行政法人においては、第二に、地方独立行政法人法(平成15年法律第118号。以下「法」という。)第40条にいう利益又は損失を確定するために損益計算を行うこととしている。
4  このように地方独立行政法人においては、その運営状況を適正に示すという観点及び法第40条にいう利益又は損失の確定を適切に行うという観点から、その会計において、資本取引と損益取引とを明瞭に区別しなければならない。

6 継続性の原則
 地方独立行政法人の会計においては、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。(注7)

注7>継続性の原則について
1  地方独立行政法人はその公共的な性格から適切に情報開示を行わなければならず、その会計処理の原則及び手続に関する選択性は原則として排除される。特に公立大学法人については、法人間における会計情報の比較可能性の確保が要請される。
2  しかしながら、一つの会計事実について二つ以上の会計処理の原則又は手続の選択適用が認められる場合は皆無とはいえない。そのような場合において、地方独立行政法人が選択した会計処理の原則又は手続を継続して適用しないときは、同一の会計事実について異なる計算結果が算出されることになる。その結果、財務諸表の期間比較を困難ならしめ、地方独立行政法人の財政状態及び運営状況に関する住民その他の利害関係者の判断を誤らしめるおそれがある。したがって、いったん採用した会計処理の原則及び手続は、正当な理由により変更を行う場合を除き、財務諸表を作成する各事業年度を通じて継続して適用しなければならない。
3  正当な理由によって、会計処理の原則又は手続に変更を加えたときは、これを財務諸表に注記しなければならない。
4  財務諸表の表示方法について変更を加えたときは、これを財務諸表に注記しなければならない。

7 保守主義の原則
1  地方独立行政法人の会計は、予測される将来の危険に備えて慎重な判断に基づく会計処理を行わなければならない。
2  地方独立行政法人の会計は、過度に保守的な会計処理を行うことにより、地方独立行政法人の財政状態及び運営状況の真実な報告をゆがめてはならない。


  次ページへ


 

-- 登録:平成21年以前 --