成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)事業委員会所見

 今回、文部科学省における補助事業「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)」に関して、情報科学技術分野を中心とする体系的かつ高度で短期の実践教育プログラムを産業界・複数大学の協働により開発・実施し、その成果を広く全国に普及させることで、我が国における同分野全体の社会人学び直し機能の強化への貢献を目指す大学院改革の取組を公募した。

 公募の結果、計11件の申請があり、申請代表校は国立大学が4校、公立大学が2校、私立大学が5校であった。共同申請校も含めた全体の延べ申請大学等数は57機関にのぼり、その内訳は国立大学が34校、公立大学が8校、私立大学が14校、大学共同利用機関法人が1法人であった。

 これは、平成24年度から5年間実施した大学院生を対象とした第1期enPiT、平成28年度から実施している大学学部生を対象とした第2期enPiTの申請件数を大きく上回る結果となった。本事業は、大学の正規課程の学生を対象とした第1期、第2期とは異なり、社会人を対象としたものであり、社会人学び直しに対する大学の意識や、先端研究等の大学の知見を活かした教育内容の職場外研修を実施したい企業の期待等を考えると申請数の寡少を危惧したが、多くの企業や産業団体等と連携する意欲的な取組が多数申請され、杞憂に過ぎなかった。

 本プログラムは、複数の大学連携による共同申請を必須条件として設定した上で、審査にあたっては、申請のあった構想・計画が、大学間・産業界との体制が適切に構築された体系的かつ高度で短期の実践教育プログラムであることに加え、社会人の学びやすい工夫や企業からの要望等を踏まえた社会のニーズに応える工夫が行われたものであるかといった点に留意して、事業委員会による書面審査、面接審査、委員による合議審査を実施し、選定を行った。

 今回選定された取組の関係大学等は、委員会が求めた改善に関するコメントについては着実に改善し、計画を確実かつ迅速に実行していただきたい。また、特に、事業を実施する上では、
 ・学長の強いリーダーシップにより、連携大学が一丸となって事業を実施し、産学連携による実践教育ネットワーク形成に取り組むこと。
 ・積極的に事業の内容を全国の大学や産業界に情報発信すること。
 ・FD活動等により、実践的な教育の普及に努めること。
 ・補助期間終了後も確実に事業を推進できる体制を構築すること。
をお願いするとともに、当然のことではあるが、補助金の執行にあたり関係法令に基づき適正に管理し、執行されたい。

 一方で、残念ながら選定されなかった取組においても、その内容は、今後極めて重要となってくるであろう課題に焦点をあてた特徴的なものであった。計画の具体性の観点等から採択には至らなかったが、事業委員会としては、このような先進的な取組が複数大学の連名により、また地域の企業や産業界も引き込み申請されたことを率直に評価したい。今一度関係大学や企業等と真摯に議論を行い、学内資源の活用等により、可能な限り取組の推進、協働関係の構築に取組んでいただきたい。今回選定された取組を参考にすることも有意義であろうし、関係する分野のネットワークへの参加についても、是非とも検討願いたい。

 高等教育段階の情報系の人材育成については、実践力の強化、産業界と教育現場との連携強化、ハイブリット型人材の育成、継続性を持って情報技術人材を育成していく環境整備や実践教育ネットワークの推進等が求められている。本プログラムを実施していく中で、我が国における情報科学技術分野ですでに社会で活躍している社会人の学び直し機能が強化されることを、切に期待している。

 なお、あらゆる産業とIT技術との組み合わせが進行していく中で、サイバーセキュリティ人材等、情報技術人材に対する社会のニーズは、急速に高まっている。これらの社会のニーズに対応するためには、enPiT-Proで実施するIT技術者として社会で活躍している人材の学び直しの取組は非常に有効であると考える。また、18歳人口が減少していく中で、大学経営の観点からも社会人をターゲットとした教育機能の強化にもつながる取組である。来年度以降もenPiT-Proにおける取組の全国の大学への普及・展開の加速化を実現していくためにも、新たな拠点を追加する等、文部科学省においては予算の充実に努めていただきたい。

 さらには、情報技術人材の育成拠点の形成にとどまらず、広くITを駆使しながら創造性や付加価値を発揮し、我が国が持つ強みを伸ばす人材の育成、いうなればSociety5.0に対応した高度技術人材の育成に向けた取組に対する支援策についても早急に着手願いたい。


平成29年9月14日

成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)事業委員会

委員長 玉井 哲雄

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