世界トップレベル研究拠点プログラム(WPIプログラム)平成19年度拠点構想進捗状況に対するコメント 世界トップレベル研究拠点プログラム委員会 独立行政法人物質・材料研究機構

世界トップレベル研究拠点プログラム委員会は、平成19年度における拠点構想の進捗状況に対して、以下のようにコメントします。

ホスト機関名 独立行政法人物質・材料研究機構
ホスト機関長名 岸 輝雄
拠点名 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)
拠点長名 青野 正和

1.進捗状況全般に関する認識

研究組織、運営、育成システム

国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)は、物質・材料研究機構(NIMS)が推進してきた事業である「NIMS ナノ技術支援ネットワーク」および「若手国際研究拠点(ICYS)」を背景として、良い形での出発を迎えている。前者の事業は、世界トップレベルの装置・施設を有するナノ技術ファウンドリーや充実した国際支援管理システムにより、MANAにおけるR&Dのインフラ構築の基盤となっている。また、ICYS事業は研究者、特に、若手研究者を世界各国から雇用するシステム構築に役立っている。若手研究者は3D制(Dはdoubleを意味する)(2人のメンター、2つの所属、2つの専門)により育成されている。優れた国際支援体制を確立したことを反映し、海外から多くの上級研究者及び若手研究者がMANAメンバーとして参加している(170名のメンバー中60名が外国人)。3月31日現在、MANAには22名の主任研究者(日本人15名、外国人7名)がおり、そのうち15名(日本人12名、外国人3名)がNIMSに属し、7名がサテライト機関(日本から2大学、欧米からは3大学と1研究機関)に属す。また、11名のMANA若手研究者(日本人9名、外国人2名)と37名のポスドクがいる。ポスドクの81パーセントは外国人である。全体として、MANAは国際研究協力において非常に優れた状況にある。MANAは拠点長およびホスト機関長の優れた組織作りと管理能力により、良い組織が形成されている。

このような開始時における優れた組織体制を維持し、海外の研究者を魅惑し、全く新規な世界に目立つトップレベルの研究拠点となるには、常に革新的に組織改造を試み、将来を見通した考えや可能性を探索し、さらに、研究長期計画の中に特記すべき研究重点課題を設定することに集中することが肝心である。そのためには、国際的なトップクラスの主任研究者や若手研究者の掘り起こしと、ナノアーキテクトニクスという新概念に沿った融合研究への邁進が不可欠である。

2.改善すべき事項

WPI-ラボラトリー

当初の計画を変更し、一つの建物を拠点のために使用すると決断したことは、「目に見える」拠点の形成のため、非常に重要なステップであり、評価される。しかし、その導入時期を明確にする必要がある。世界トップレベル研究拠点としての恒常的な組織見直しのため、また、MANAの5つの研究グループの融合のため、さらに、将来のイノベーションのための斬新な発想を活性化させ、徹底的な意見の交換と協力を行うため、早期の導入が望まれる。

研究組織

ナノアーキテクトニクスの展開のため、4つの主要技術グループを形成し運営する点は良いが、各グループの研究分野のみを探索することだけでは、ナノ技術におけるブレークスルーを達成するのは難しい。研究者と研究内容の融合が不可欠である。世界トップレベルのナノ科学拠点をめざし、各技術グループで世界トップレベルの科学者をリクルートするとともに、MANAメンバーのグループ間での入れ替えも考慮すべきである。関連して、強化してほしい分野がある(MANAの4つの実験グループを補完するab initio及び多スケール計算シミュレーション、ナノ物質及びデバイスのデザイン計算理論、及びメゾスコピック理論化学)。常に、4つの基盤技術を融合・統一することが望まれる。また、大学との人事交流を積極的に行うことを検討してほしい。

サテライト研究機関

サテライト機関への研究費協力のみでは充分ではない。MANAはサテライト機関の研究者と、確固とした具体的協同事業を遂行するか、または、MANAの研究活動にサテライト機関をはっきりと組み込む仕組みを構築すべきであろう。

1)海外サテライト

海外の優れた主任研究者の影響力を、特別企画を考案するなどにより、利用すべきである。つくば地区(MANA)は一般の若い学生にとってアクセスが困難であるから、ナノアーキテクトニクスに関する国際ワークショップを、日本の幾つかの大学や研究機関で開催し、MANAの宣伝と同時に、有能な若手研究者をリクルートすることが不可欠である。

2)国内サテライト

ナノ科学およびナノ技術の事業は、同じつくば地区にある産業技術総合研究所(AIST)のナノテクノロジー研究部門で行われており、人的規模もほぼ同じである。同研究所とは競争関係にあるものの、R&Dを進める上で協力関係を築くことが大事である。日本政府の支援機関であるNIMSおよびAISTは、ナノテクノロジーにおいて異なる使命をおびているが、個々にそれらの目標を遂行するより、共同により素晴らしい将来展望が見込まれる。共同セミナーなどを通して、両機関の研究者の交流を進めるべきであろう。

3.その他の指摘事項及び意見

その他プログラム委員から下記のような意見がありました。

  • 1) 次世代ナノ材料やナノサイエンスの開拓のため、基盤となる技術の融合・統一に果敢に挑戦していただきたい。研究者数は多くはないものの、MANAを世界の研究者が注目する世界トップレベル研究拠点とするためには、真に波及効果のある優れた研究目標の設定と独創的研究成果の探求が望まれる。ナノテクのデバイスやシステムの将来展望や方向性を議論する委員会があると良い。
  • 2) 大学ではない研究所にとって、若手からの新鮮なアイデアや見解を取り入れるルート作りが極めて重要であろう。現在、MANAが構築した若手研究者プログラムは優れているが、若手研究者が研究において新機軸をおこなう充分な自由が確保されているかどうかが不明である。ほとんどの研究課題がトップダウン方式により決定されている懸念がある。
  • 3) MANAとNIMSの関係、両者の明確な違いは何なのか、が不明で理解しにくい。二つの組織は、はっきりと区別されるべきである。もしもMANAがはっきりとしたアイデンティティを維持できなければ、MANAのプロジェクトは独自性を維持できず、NIMSの他事業に埋没する恐れもあろう。MANAが共同研究を進める方法が、これまでのNIMSが行ってきた方法とどう異なるのか、不明である。MANAは、その運営方法、自立性、自由性などに関し、その目標と抱負を述べる必要がある。
  • 4) MANAの研究者は、他の独立行政法人の研究所にとって、新しい道を切り開いているということを自覚してほしい。政府研究機関の変革と挑戦をMANAの研究者は先導すべきである。

-- 登録:平成21年以前 --