世界トップレベル研究拠点プログラム(WPIプログラム)平成19年度拠点構想進捗状況に対するコメント 世界トップレベル研究拠点プログラム委員会 大阪大学

世界トップレベル研究拠点プログラム委員会は、平成19年度における拠点構想の進捗状況に対して、以下のようにコメントします。

ホスト機関名 大阪大学
ホスト機関長名 鷲田 清一
拠点名 免疫学フロンティア研究センター(IFReC)
拠点長名 審良 静男

1.進捗状況全般に関する認識

大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)は世界トップレベル研究拠点として順調なすべり出しをしているように思われる。IFReCは免疫学とイメージング分野の一流の研究者を擁し、米国の連携機関の6人を含め、外国人研究者を招聘している。これは拠点長の審良静男博士の強いリーダーシップの反映と考えられる。大阪大学は、新しい研究棟の建設や英語による事務処理に長けた事務部門の新設などを通して強力に支援している。さらに、大阪大学微生物病研究所(RIMD)もBSL2やBSL3レベルの施設を持つ動物実験部門やセルソーター部門などを共用施設として提供することで支援を約束している。特筆すべきは、IFReCとRIMDが様々な委員会を共通に持つことでIFReCの研究者の事務的負担を軽減している点であろう。2008年3月には海外連携機関の6人の外国人研究者を含む21人の講演者によるIFReCのキックオフシンポジウムが開催され、300人を超える聴衆を集めて成功裏に行なわれた。

2.改善すべき事項

  • (1) IFReCが達成すべき最終的な目標をもっと明確にすべきであろう。それによって、若手研究者、他の様々な分野の研究者、さらに納税者にとっても魅力的な拠点となるだろう。研究面から見た場合には、IFReCが免疫学に残されたどのような問題を解き明かそうとしているのかが明確でない点が気にかかる。
  • (2) 次の点に言及するのは時期尚早かも知れないが、IFReCは現時点では様々な異なる地域からの研究者や異なる分野の研究者を招聘することには成功していないように見受けられる。IFReCに世界中からトップレベルの免疫学者が集まり、彼らが年余にわたって研究を継続するような拠点を形成するという世界トップレベル研究拠点の目標達成に向けさらに努力をすべきであろう。
  • (3) (2)に記載された目的の達成に向け、IFReCは外国人の主任研究者やポスドクの招聘のための工夫を凝らす必要がある。米国の連携機関には多くのポスドクが求職してくるが、彼らの一つの選択肢としてIFReCで研究に参加することを推薦してもらうのも一つの方法だろう。さらに外国においてIFReC主催のシンポジウムを開催することも、知名度を高め、主任研究者らを招聘するために有効である。
  • (4) IFReCで計画されている免疫学とイメージング技術の融合は魅力的ではあるが、さらに先端的な技術を取り入れることが必要である。たとえば、構造生物学、ゲノム科学、エピジェネティクス、ケミカルバイオロジーなど異なる分野の一流の専門家を招聘することもIFReCが名実ともに世界トップレベル研究拠点となるためには必要ではないか。
  • (5) 上記の点を考慮すると、現在の海外の連携拠点は全て免疫学におけるイメージングに優れた施設であり、IFReCと共通している。むしろ全く異なる分野での先端的な技術やアプローチに秀でた機関、たとえばエピジェネティクスや神経系のイメージングで先端を走る機関などと連携する方がIFReCにとってメリットが大きいのではないか。
  • (6) IFReCは拠点の目標、さらに臨床への出口を考えた場合、臨床研究者をうまく取り込むことも考慮すべきである。
  • (7) 急務として、新しいイメージング技術を発展させるためのチームが強化されることが望まれる。
  • (8) 審良静男博士や柳田敏雄博士の管理業務を軽減するために、古城紀雄事務部門長を頂点とする事務部門が強力に支援する体制を構築することが極めて重要である。

3.その他の指摘事項及び意見

その他プログラム委員から下記のような意見がありました。

  • (1) 本拠点が負うべき責務ではないが、IFReCを拠点として研究の遂行を希望する海外研究者のための特別の研究費を日本学術振興会や海外助成機関に働き掛けて実現することも、一流の研究者を招聘するためには効果的ではないかと思われる。
  • (2) そもそも最初の説明では、免疫学には新しいイメージングの技術が必要であるというものだったので、先見性がありイメージングに関心を持つ物理/工学系の学部やイメージング機材を供給する産業界との交流が行われるものと期待していた。しかし実際には、免疫学における進歩は見て取れるものの、イメージングに関する疑問も技術的な要求も提起されてはいないようだ。
  • (3) 免疫学は日本が秀でている研究分野であるが、IFReCは計画に遅れが出ているようである。本事業の開始が2007年の10月であることを考えると、新たに学際的な共同研究を開拓するための活動や、女性研究者・外国人研究者の人数には不安がある。既存の研究者がこれまでと同じ研究を、わずかに新しい道具を加えただけで続けることを、WPIプログラムが認めてしまったようにも見える。イメージング技術の利用が焦点となる一方、イメージング技術そのものの研究が後押しされているようには見えない。
  • (4) 世界的な「目に見える拠点」というWPIプログラムの目的に沿って真に革新的で独創的なものを構築するのとは対照的に、既に支配的な日本の免疫学研究を一層推し進めることに焦点が当てられているようである。
  • (5) IFReCが大阪大学にとって転機をもたらすものとなるのかは不透明である。そして、大阪大学に変化を促すためにどのように貢献できるのかを、何度も問う必要がある。
  • (6) 他の研究機関(理化学研究所など)との連携は注目に値する。
  • (7) アジアからもっと多くの研究者をリクルートすべきだ。
  • (8) 国際化の程度が十分ではない。外国人の主任研究者を直ちに採用するべきである。マネージメントの強化が必要である。
  • (9) 実際の研究は個々の主任研究者の研究室でのみ行われているようである。WPIプログラムの採択前に行われていた研究とは異なり、現在の研究がどのように学際的なアプローチをとっているのかについて、言及がなかった。異なる研究分野の研究者からなる研究チームの結成が、すでに発表されているべきである。人が行き来するということと、研究協力が行われるということはイコールでない点に留意が必要である。
  • (10) IFReCは外国人研究者の生活を助ける仕組みを整える必要がある。そうでなければ十分な外国人研究者を惹きつけることはできない。
  • (11) イメージング装置を開発している企業が、IFReCで何の役割も果たしていないのは奇妙である。産学連携にとって理想的な分野のはずである。

-- 登録:平成21年以前 --