先端研究基盤共用促進事業シンポジウム2018について

JASIS2018にて文部科学省「先端研究基盤共用促進事業シンポジウム2018」を開催しましたので報告します。

1.主催機関

文部科学省

2.日時・場所

日時:平成30年9月6日(木曜日)13時10分~16時50分

場所:幕張メッセ 国際会議場2階 201会議室

3.プログラム

別紙のとおりです。

4.パネルディスカッション 要旨

モデレーター:内閣府総合科学技術・イノベーション会議事務局 科学技術政策フェロー 江端新吾氏

パネリスト:北海道大学 佐々木隆太氏、東京工業大学 筒井一生氏、東京都市大学 丸泉琢也氏、名古屋工業大学 江龍修氏、京都工芸繊維大学 吉本昌広氏、熊本大学 上村実也氏、海洋研究開発機構(JAMSTEC) 伊藤元雄氏

概要: 新たな共用システム導入支援プログラムの各実施機関における「これまでの取組の成果と課題」及び「今後の展開」について、意見交換を実施。

主な発言要旨(以下、敬称略):
1.パネルディスカッションの趣旨
【モデレーター・江端】総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)における議論でも、第5期科学技術基本計画に掲げられた研究基盤の共用は1つのテーマ。今後第6期科学技術基本計画に向けた議論が進んでいく。基本計画を充実させるためにも現場で困っていることや課題を正しく伝えていく必要がある。CSTIでは大学改革についての議論が進められているが、経営の観点から、研究施設・設備をどのように計画的に有効活用し、研究環境を整えていくかという点も重要。


2.これまでの取組の成果と課題
1)新たな共用システムの構築にあたって難しかった点と今後の課題
【モデレーター・江端】新たな共用システムの構築にあたって難しかった点と今後の課題は?
【北海道大学・佐々木】部局における共用拠点(24組織)から選抜して新共用事業へ提案し事業を実施。全体の意見を聞いて、全体に発展させるためのマネジメントが難しかった。利用料については、現場にあった柔軟な料金設定とすることに苦労した。持続性を考えたシステムの構築と事業終了後の継続が課題。自立化に向けて、機器分析受託のコンサルを行う人材など、人材を経営資源としてとらえることが重要。
【東京工業大学・筒井】共用についてはある程度誰でも考えるが、それを実際に運用するというところに落とし込むとなると、教員全体の意識を変えていく必要がある。新共用事業の実施により、そのような意識が少し前に進んだ感覚はあるが、まだまだ努力が必要であり、もう一段意識を上げていかないと進んでいかない。自立化は課題。下手をすると元に戻ってしまうこともあり得るので、そうならないよう工夫が必要。維持運営のお金や人件費などを大学全体で考えなくてはいけない。
【東京都市大学・丸泉】研究室レベルで管理することが大変だったものを、新共用事業を使って共用を開始した。大型機器の更新再生ができた点は良かった。大きな大学ではないため機器を揃えることが難しく、共用しないと成り立っていかない。関連する私学(国士舘大学、東海大学)も同じような問題意識を持っていたことで、機器相互利用を介した包括協定を結べた。自立化に向けて、事業で雇用している人員3名をセンター経費である共通管理費で賄うことにはもう少し頭を使わないといけない。年間2,000万円の保守費の確保も課題。みんなで共用するという意識を教員に根付かせて、共用機器を増やしていきたい。自分で持っていたら、装置が壊れても自力では修理できないので、共用すると大学でもサポートできる、といったメリットを示していくことが必要。
【名古屋工業大学・江龍】平成14年から学長補佐をしているが、新たなセンターを作ると赤字が増えるといった課題が分かってきたため、設備の維持管理にどれだけのお金が1年でかかっているか、間接経費がどのように動いているかを1年かけてチェックした。お金の流れは人に紐づいていることもある。その結果を踏まえ、年次予算を組んで学長から一定の予算を預かり、スピード感を持って取り組めるようにした。信頼があってこその共用事業が成り立っている。
【京都工芸繊維大学・吉本】研究者としての立場からは、それぞれの装置を集めて全体として機能するようにする際の維持費は割り勘という点が重要。共用により人に貸す際にネックになることとして、壊されるのではないか、汚されるのではないかといった懸念がある。現在は教員が手弁当で管理しているが、機器を汚されたり壊されたりしないように管理してくれる技術職員の確保が課題。保守については、突発的な修理への対応も課題。更新をどのようにしていくのかも重要であり、故障への対応との課題はあるものの、中古品の利活用を進めている。
理事として、大学全体をみる立場からは、大学全体で教員300名程度という小規模な大学の中で、特に重視する分野の機器の共用を先行的に実施。大学全体でみると、老朽化した同じような機器が何台もあるのが現状。この事業で構築した取組をいかに全学化するのかが課題。
【熊本大学・上村】平成24年度に設備マスタープランを策定。平成25年度から研究大学強化促進事業に採択され、研究サポート推進室を設置した。平成29年度から新共用事業を実施している。これらの事業への採択がきっかけで、特に機器コンシェルジュの配置によって共用が進んできた。この事業の課題は予算の使途の制限。1年目は機器の移設・修理ができるが、2年目以降は認められず、通常の保守管理費のみの支出となっている。このことから、まっとうな形で使っても返納を求められてしまう。また、学内の課題ではあるが、大学の運営費は、現在、部局ごとに配分していることから、料金設定や運用の一元化に遅れが生じている。名古屋工業大学のように大学全体でお金が回る仕組みを検討したい。間接経費での予算化と受益者負担により大学全体でサポートしたい。技術支援者の事業期間満了後の人件費や技術系職員の研修費の確保も課題。
【JAMSTEC・伊藤】この事業には、色んな分野と色んなレベルの研究者が参画している。研究基盤を支える重要な事業。しっかり現状を分析して、次の事業に繋げることが必要。この事業がないと、いきなり大学全体の設備サポートセンター事業にはつながらない。3年で終了するのではなく、持続的に取り組むことが必要。自立化したらその分のお金が出るのかというと、簡単に産業界から出るわけではない。組織としてこれだけ大事だということを大学全体で考えるとともに、国としても継続してサポートすべき。

2)自立化について
【モデレーター・江端】新共用事業では、3年後の自立化を求められている。「自立」をどのように定義しているかについて伺いたい。
【JAMSTEC・伊藤】培ってきたknowledgeが組織としてうまく運用されること。組織として認識されて教員の理解が進み、共用しないと大学全体が疲弊してしまうと理解されること。
【名古屋工業大学・江龍】自分自身が機構長をやめてもきちんと回る仕組みを作り、次の人につなげること。
【東京都市大学・丸泉】先生が稼いだお金が人件費を含むメンテナンスにちゃんと回るようになること。これを見据えて、今年から、受託研究・共同研究の共通管理費(光熱水費並びに使用する施設及び設備の維持管理費等)を5%上げた。使途については現在議論中だが、新規機器導入のサポート購入などもできればと思っている。
【北海道大学・佐々木】機器の更新・保守までを考えると難しい。共用をマネジメントする人員の人件費を収入で賄うことがはじめのステージ。
【東京工業大学・筒井】自立はどのようなレベルまでもっていくのかによって考えは違う。ナノテクプラットフォームや設備サポート事業でも、収入で自走するようにと求められているが、実績ではすべてはまかなえていない。現状と大きく違うことをするのは大変。ベースとして共通にあるのは、多くの教員が共用の意識を持つこと(納得すること)。
【文部科学省・渡邉研究開発基盤課長】なかなか難しい問題だが、財務省からは、これは大学の本務だろうといわれる。ベースとして、この3年間で、どう効率的な体制を作れるかが重要。この予算を使って、そのシステムを作り上げてほしいと考えている。

3)大学全体の意識を変えていくうえで苦労した点
【モデレーター・江端】大学執行部や現場の意識をどう変えていくかが重要なポイント。名古屋工業大学では、学長まで意識が変わった結果、全体が動くようになっている。名古屋工業大学で、意識を変えていくために苦労した点は?
【名古屋工業大学・江龍】若手は間接経費をたくさん取れる研究費を取れないが、共用により若手が装置を使えるようになると、共著論文も増え、研究力の底上げにつながる。これを「無意識の共用化」と呼んでいる。年代別のアシストとどういう年齢の人がどう稼いだかを分析してみると、概ね一致することが分かった。このような情報を学長や理事とも共有することで、機構としてお金を獲得することができた。

4)利用料金の設定や事務職員の協力について
【モデレーター・江端】利用料金の設定などについては、事務職員の協力が不可欠。どのように対応してきたか?
【京都工芸繊維大学・吉本】料金設定については、事務職員が頭をやわらかくして対応してくれている。納得して支払える料金設定とするためには、透明性が肝。算出根拠を示すようにした。また、料金設定は学内で統一する規則を作ったが、役員会にかければ変えてよいこととした。
【東京都市大学・丸泉】学内利用の料金設定はもとからあったが、学外利用や企業の利用料金をどうするかという点が課題だった。一般の受託分析費用などの利用料金を踏まえてコストパフォーマンスがいいと感じてもらえる金額に設定した。

5)技術職員の育成についての課題
【モデレーター・江端】技術職員の育成についての課題は?
【熊本大学・上村】工学部技術部は組織として15年間程度活動しているが、来年4月を目途に全学組織体制にすることを目標としている。特定の人だけがもっている技術をどのように継承していくか、今後の人材配置・育成の方策を検討中である。これを実行するためには、教員と技術系職員相互の意識改革が課題。
【モデレーター・江端】新共用事業でそこまでは至らなかったということだと、次につなげていくためにはどういう活動が必要か?
【熊本大学・上村】例えば、分子研等の大規模機関ではメーカーを辞めた人を技術支援者として装置に張り付けている。このように定員化が難しい場合は、非常勤でも良いので,まずは,特徴のある設備については、その設備を運用する要員をセットで配置できるようにしたい。
【東京工業大学・筒井】技術職員は技術部で一元化している。仕事のアウトプットはかなりのレベルになっている。東京工業大学として組織的に共用を進めるにあたり、技術部は大きな役割を果たしている。
【東京工業大学・松谷 技術部 マイクロプロセス部門 部門長】技術職員で部門長を管理職として勤めている。東京工業大学技術部には現在、10部門に約100名が所在。
【北海道大学・佐々木】北海道大学では随時技術職員についての改革を進めており、現在技術支援本部にて技術職員の一元化を進めている。今後、技術支援本部とグローバルファシリティセンター(GFC)をいかに連携させるかが課題。技術職員のモチベーションは高い。
【JAMSTEC・伊藤】JAMSTECは国立研究開発法人なので、techniqueを持っている人しか雇えず、大学のもつ人材育成機能に頼るしかない。本事業の事業費は、ほとんど人件費であり、技術職員を高知大学とJAMSTECに1名ずつ雇用し、加えて高知大学に技術補佐員を1名雇用しているのみ。事業年度の問題から、3年以内に結果を出さないと、継続雇用について組織が納得してくれない。高知大学の職員については、共同利用・共同研究拠点の事業にもコミットさせ、必要不可欠な人材であると説明している。様々な政策との連携は、大学の経営判断にも関わるため、どのように発展させていくかが課題である。


3.今後の展開
【モデレーター・江端】文部科学省では、今年の概算要求において、新規事業として、「研究機器相互利用ネットワーク導入実証プログラム(SHARE)」を要求している。これまでの取組をどのように本事業に繋げていけるか?また、本事業の戦略的な活用法についても御意見いただきたい。
【名古屋工業大学・江龍】研究力の向上が最優先の課題。このため、共用の質をいかに上げていくのかを考えていく必要がある。例えば、名古屋工業大学では、科研費にどのような提案をしたのか(どのような研究をしたくて提案したのか)などを産連機構のコーディネータで共有し、この先生とこの先生がこういう装置を持っているよ、ということを伝えたりしている。このことで、エビデンスが向上し、共同研究費の獲得にもつながる。
【京都工芸繊維大学・吉本】入ってくるお金は一定という状況の中、産学連携により、外へのマーケティングをしないと稼げない。特出しの形で共用を進めてきた結果、クリーンルームの共用は研究の活性化につながった。これからは、統計データを学内で展開してアピールすることも大事と感じた。今年度採択の化学系では、マーケティングをして、産学連携を促進することを考えている。産業界から学内に来ていただくことで、研究しながら稼ぎ、大学としての自立化を図っていきたい。
【熊本大学・上村】受託分析については、熊本県内に広く広報活動を行い、地域的に企業数は多くはないが依頼が来ている。地道に活動している。受託分析から共同研究に発展させる。
【JAMSTEC・伊藤】新共用事業により、外から人が来るようになった。地方では、困りごとを引き受けますというアピールを行っており、相談についてはどのような案件でも受けている。分析で解決できるものもあれば、対話で解決できるものもあるが、中央のように、お金を払ってもらって受託分析から共同研究というのも難しい。個人的には、SHARE事業で0.5億円×6拠点をつけるよりも、新共用事業と同様の1,500万円を18拠点につけられる予算を確保し、5年間でできることを提案させて、研究基盤向上のために、機器の更新でもなんでも自由にさせたほうが良いのではないかと考えている。
【北海道大学・佐々木】研究の現場の先生が学術的なアドバイスを含めてできる仕組みにしている。(学外共用を進めるにあたり)大学らしさ、すなわち大学がやる意味や価値をどのように出すかが課題。
【東京工業大学・筒井】大学の設備の共用の相手として、企業や産業界をどのように考えるかは、自分たちでも考えていく必要がある。相当長いレンジで持続が必要であり、3-5年では短い。今後、事業の成果を広げていくためには産学共同の充実が重要。
【東京都市大学・丸泉】分析評価装置やクリーンルームの共用を進めてきたが、ものづくりをさらに進めていくうえでの産学連携の促進といった視点が必要。技術員の育成は今後の課題であり、新共用事業では、技術員の採用はせず、シニアのエキスパートに来てもらう形にした。有期のプロジェクトなので仕方ない面がある。
【文部科学省・渡邉研究開発基盤課長】今日頂いたお話も踏まえながら、実際の研究現場が受け入れやすく、研究基盤の強化につながるものとなるよう、詳細の検討を進めていきたい。

  ディスカッション風景

以上


発表資料

お問合せ先

科学技術・学術政策局 研究開発基盤課

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(科学技術・学術政策局 研究開発基盤課)