科学技術基本計画 はじめに

 20世紀の最後の10年間に世界は大きく変貌した。冷戦の終結によって、局地的な紛争はなお一部に生じてはいるが、全世界的に見ると多くの人々が平和を享受することができるようになってきた。その結果、人の流れ、物の流れのみならず、情報、資本などの国境を越えた移動が活発となり、グローバリゼーションが一層進行した。それとともに、先進諸国の間での経済競争は激化し、メガコンペティションとよばれる状態が到来した。こうした経済競争の基礎としての情報通信技術、バイオテクノロジーの進歩は目覚ましく、各国は競って科学技術の振興を重要課題として取り上げ、政府による積極的な政策展開を図ってきている。
 こうした国際環境の下にあって、我が国は第2次世界大戦後初めての長期的な経済不況を経験した。このため、1990年代の前半には、我が国の研究開発投資の約8割を占める企業の研究開発投資が減少した。また、大学、国立試験研究機関などの研究環境は劣悪な状況におかれ、研究開発における産学官の連携が不十分であるなど、我が国の科学技術は憂慮すべき状態となり、我が国の産業競争力の低下も懸念された。平成7年、このような状況を打破し、真の科学技術創造立国の実現を目指して、科学技術基本法が制定された。この科学技術基本法に基づき、翌平成8年、我が国の科学技術活動を巡る環境を抜本的に改善し、研究開発能力の引き上げと成果の円滑な社会還元を図るための諸施策を内容とする第1期科学技術基本計画(以下、「第1期基本計画」という。)が策定された。その後5年を経た現在、この基本計画の効果もあって、我が国の研究開発水準は、ようやく改善しつつある状態に至っている。しかし、産業競争力の回復はまだ不十分であり、特に少子高齢化が進む中、我が国の経済成長の前途に不安も持たれている。したがって、新産業の創出につながる産業技術を強化し、強い国際競争力を回復することが重要である。
 新しい世紀の幕開けを迎えた今日、我が国の科学技術には新たな展開が求められている。特に急速に発展している多くの分野において、依然として欧米の研究開発は我が国に比べ高い水準にあり、我が国もそれに匹敵しさらにそれを上回る研究成果を挙げる必要がある。新しい知識を創出する基礎研究については、一層その質を高め、国際的に高い評価を受ける成果を生み出し得る環境を整備していくとともに、経済的・社会的ニーズに対応する研究開発については、産学官がそれぞれの間にある見えない壁を取り除き、真に連携できる環境を整備していく必要がある。また、創造性の高い若手研究者が自らの能力を最大限に発揮できるような環境整備に努めていくことが必要である。さらに、科学技術に対する社会の期待に応えていくためにも、常に社会とのコミュニケーションを保つ必要がある。
 今般、総合科学技術会議の新設や文部科学省の設置をはじめとする府省の再編と大半の国立試験研究機関の独立行政法人化が実施されることとなった。さらに、科学技術の中で中心的な役割を果たす大学についても改革が進められている。この一環として国立大学については独立行政法人化の検討が行われており、一層の改革が期待されている。今後は、総合科学技術会議が科学技術政策推進の司令塔として、重点分野に関する推進戦略、資源配分や評価の方針等を作成する等、その機能と役割を十全に発揮し、国際社会の発展にも貢献し得る質の高い科学技術活動の展開を図っていく。
 このような状況を踏まえ、以下、第1章においては、「知の世紀」といわれる21世紀に、科学技術が、新たな知を生み出し、国民の生活や経済活動を持続的に発展させ、また、国際的な貢献を果たすべきものであるという視点に立って、我が国が目指すべき国の姿と理念を示し、その実現に向けて科学技術政策の基本方針を示した。第2章においては、基本方針に沿って、研究開発の重点的・戦略的な推進、科学技術システムの改革を中心に、重要政策について述べた。第3章においては、科学技術基本計画を実行するに当たっての総合科学技術会議の使命について見解を示した。

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