「タクラマカン砂漠で黄砂発生の観測に成功 日中共同で黄砂の全体像に迫る」[第230号]

‐第230号‐
平成14年6月19日

 文部科学省ならびに気象庁気象研究所を始めとする研究機関、大学、民間機関は、中国科学院傘下の研究所と共同で、今春黄砂の発生・飛来に関する総合的な特別観測を行い、タクラマカン砂漠で黄砂が発生する様子を観測でとらえることに成功しました。

 平成12年度から科学技術振興調整費により実施している「風送ダストの大気中への供給量評価と気候への影響に関する研究」による日中共同研究ADECプロジェクト(日本側代表者:気象研究所三上正男主任研究官)では、平成14年4月8日から二週間にわたり最初の特別観測(IOP‐1)を実施いたしました。
 特別観測は、日本国内及びタクラマカン砂漠や敦煌等中国国内の黄砂の発生域を含む十一カ所の観測拠点で行われ、黄砂の舞い上がりの様子や黄砂の発生から日本に至る黄砂飛来の輸送過程を観測でとらえる事に成功しました。なお、集中観測期間中、気象研究所グループは、全球スケールの黄砂輸送モデルを用いて、特別観測期間中の黄砂粒子の発生・長距離輸送のリアルタイム予測実験も行いました。
 近年問題となっている黄砂について、このように、発生から日本への飛来に至る全過程を総合的に観測で捉えたのは世界でも初めてのことです。今回集められた観測情報は、今後黄砂現象のより確かな情報提供に役立つと考えられます。

問い合わせ先
研究開発局海洋地球課 高山大 電話: 03‐5253‐4146(直通)
03‐5253‐4111(内7724)

資料1 タクラマカン砂漠で黄砂の発生をとらえる

 アジア内陸部の乾燥地帯では、例年春になるとダストストーム(砂塵嵐)が頻発し、鉱物質のダスト粒子が地表面から大気中に大量に舞い上がり、その一部は偏西風に運ばれて日本に黄砂をもたらすことが知られている。特別観測期間中、中国新疆ウイグル自治区のタクラマカン砂漠では、4月14日と17日の二回にわたりダストストームの発生が見られた。今回、タクラマカン砂漠南部の策勒(チーラ)郊外の砂砂漠(すなさばく)と砂礫砂漠(ゴビ砂漠)の2カ所で、自動気象ステーション(資料2の写真3参照)やダストパーティクルカウンタなどの観測機器を用いた観測を行い、この黄砂が発生する様子をとらえることに成功した。

ダストストーム通過前 ダストストーム通過中
写真1 ダストストーム通過前(左)と通過中(右)の写真例(4月1日)
(いずれも策勒研究点の同一地点から撮影)

策勒砂砂漠上の風速変化
図1 策勒砂砂漠上の風速変化。矢印はダストストーム発生時間を示す。

策勒砂砂漠上の視程変化
図2 策勒砂砂漠上の視程変化。ダストストーム発生時に視程が低下している。

ダストストーム通過前後の策勒研究点屋上のエーロゾル粒子数時間変化
図3 ダストストーム通過前後の策勒研究点屋上のエーロゾル粒子数時間変化。

ダスト粒子(1~2ミクロン、3~5ミクロン粒子)がダストストームの通過(矢印)に伴い急激に増加しているのが分かる。

 図1は、14日に発生したダストストーム前後の風速の時間変化である。図2に同地点の視程計による視程の時間変化を示すが、風速が大きくなった時にダストストームが発生し(図中矢印で示す)、視程が急速に悪化していることが分かる。同時刻に数キロ離れたオアシス内でも、大気中に浮遊する微粒子(エーロゾル)数が数十倍に急増しており(図3)、写真1で示したようなダストストームの通過が確認されている。
 ダストストームは、風速が、ある「しきい値」を超えた時に発生し、地表面からのダスト粒子飛散量は地上風速と強い関係があることが知られている。今回、気象研、理化学研究所と和歌山大のグループは策勒の砂礫砂漠(地表面が砂と礫からなる平坦な砂漠)に設置した観測装置を用いて、風により地表面からダスト粒子が舞い上がる過程を詳しく捉えることに成功し、ダストストーム時のダスト粒子の飛散量と、粒子を舞い上がらせる風速の強さとの関係について貴重なデータを収集することが出来た(図4)。

ダストストーム発生時の砂礫砂漠上のダスト粒子飛散量の時間変化
図4 ダストストーム発生時の砂礫砂漠上のダスト粒子飛散量の時間変化。
 飛散量は、風による粒子飛散力と非常によい対応を示している。

 日中共同ADECプロジェクトでは、今回得られたデータを用いて、全球黄砂輸送モデルを開発・改良し、より的確な黄砂発生・輸送量評価と予測技術の開発を行う予定である。

資料2 日中共同ADECプロジェクトIOP‐1

1.特別観測

 特別観測(IOP‐1)は、2002年4月8日から21日にかけて実施された(図5)。観測は、地上観測とネットワーク観測が行われそれぞれ以下の装置が用いられた。なお、2003年3月に二回目の特別観測を実施する予定である。
1)地上からの黄砂の舞上がり過程を見るための自動気象ステーション(写真3)
2)黄砂の大気中分布を測るライダー
3)大気中の黄砂濃度と粒径情報を測る放射計
4)空気中の黄砂試料を採取し地上濃度と粒径を測るサンプラー
5)大気下層の黄砂粒子情報を集めるカイトプレーン(敦煌と福岡)

特別観測を実施した観測拠点配置図
図5 特別観測を実施した観測拠点配置図。図中黒丸は地上観測、二重丸は地上観測とネットワーク観測、白丸はネットワーク観測、三角は放射計とダスト粒子サンプリングの拠点をそれぞれ示す。

自動気象ステーション
写真3 タクラマカン砂漠南部の砂砂漠上に設置された自動気象ステーション。中国国内の砂漠7カ所に同様の観測機器が設置され、ダスト粒子の舞上がりを観測した。

【本資料についての問い合わせ先】

  • 気象庁 気象研究所 環境・応用気象研究部 第四研究室 主任研究官 三上正男
    (電話:0298‐53‐8623 FAX:0298‐55‐7240)
  • 文部科学省 研究開発局 海洋地球課 専門職 高山大
    (電話:03‐5253‐4146 FAX:03‐5253‐4147)

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