「公的研究機関とナショナルイノベーション」

平成13~14年度
科学技術政策提言
報告書要旨

平成15年9月

研究代表者:後藤 晃(東京大学先端経済工学研究センター)
中核機関:株式会社三菱総合研究所

1.調査の概要

 本調査研究は、我が国のナショナル・イノベーション・システム1における公的研究機関の果たす役割について提言をまとめることを目的としている。
 このために、諸外国(アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、スウェーデン、オーストラリア)及び我が国の公的研究機関がナショナル・イノベーション・システムに果たす役割について実態調査・分析を行った。
 これらを踏まえ、産業組織論、研究開発マネジメント論、科学技術政策論等の多様な視点から検討を行い、我が国のナショナル・イノベーション・システムにおける公的研究機関の果たす役割とそのための改善の方向性について提言を行った。

2.調査結果

2.1 諸外国の公的研究機関の役割に関する調査の結果

 諸外国ではそれぞれの使命に基づいた研究活動を行っている公的研究機関が、多様な組織形態でナショナル・イノベーション・システムに位置づけられ、技術革新に重要な役割を果たしている。公的研究機関の方向性としては、固有の使命を維持しつつも、産業との連携による技術革新への貢献や自らの研究成果の商業化、ベンチャー育成にも重点が置かれるようになってきており、様々な方法でトップレベルの研究サービスあるいは研究の成果を産業に対して効率的に提供している。

 諸外国の公的研究機関では、分野・組織横断的な研究活動への取組みが固有の制度的仕組みで実施されている。また、公的研究機関はその変革のために評価と見直しを行うことが強調されている。競争力を維持するために若手研究者を活躍させていると共に学生に研究機会を与え、トップには外部の優秀な人材を登用し、機関のマネジメントの質を維持・向上している。公的研究機関の活動は国内ばかりでなく国際化し、国内外の研究所間で競争が行われ始めている。

2.2 我が国の公的研究機関の役割に関する調査の結果

 我が国の公的研究機関は、日本全体の中で研究者数で約2.7%、研究費で約7.6%を占める。特に近年は公的研究機関での基礎研究費の伸びが大きく、日本全体の基礎研究費の約16.6%を占めるに至っている。

 我が国の公的研究機関にとって産業界への技術移転、新規産業創出等の重要度は高まっている。特に多様な研究領域を有する大規模研究機関において顕著である。しかし、重要度の変化に応じた取組は一部なされているものの、不十分な面も多い。約7割の公的研究機関で資金提供機能の付与を必要としており、研究を効率的に実施するために、外部の資源の活用が必要となっている。

 公的研究機関における意思決定において、所管省庁の関与の度合いが強い。なお、独立行政法人では、理事長を中心とした意思決定構造となっており、所管省庁からの独立性は高まっている。公的研究機関では、資金的な面でも、所管省庁からの基盤的資金及び競争的資金にほとんどを依存している。産業界からの資金、他省庁の競争的資金はそれぞれ予算の1%程度である。公的研究機関は、学問分野、対象産業分野、研究開発目的において、相互に重複する部分が少なからずある。また、企業や大学と競合する研究テーマも多い。大学や企業に比べた公的研究機関の優位性は「優れた施設・設備・装置の存在」である。公的研究機関の研究者は、企業の研究者よりも大学の研究者に近い傾向がある。研究者1人あたりの特許出願件数は非常に低く、経済性や効率性を意識した研究開発を重視していない。また、研究補助者、技能者、ポスドクへのニーズは高い。

3.政策提言

  1. 省庁とその傘下の公的研究機関との関係の再検討を行うべきである。同時に、省庁の壁を越えた国全体の視点から公的研究機関全体の配置について検討するメカニズムを作るべきである。具体的には、国の公的研究機関を国民にとって重要な問題分野に沿って再編し、各省庁はこれらの公的研究機関から必要な研究サービスを調達するような体制に改めるべきである。これにより公的研究機関は自主性、独立性が与えられ、それらが相互に競争と協調を行うことにより、水準の高い研究を行うことが可能になる。総合科学技術会議は公的研究機関全体をモニターする役割を果たす。
  2. 上記の問題分野別の研究機関群とは別に基礎研究を行う研究機関を文部科学省のもとに置くべきである。この研究機関は、基礎研究の中でも組織的取組みを必要とする基礎研究を担当すべきであり、その中には、大規模設備や特殊な装置を用いる研究、新興の分野で資源の集中的な投下が必要な段階にある研究が含まれる。
  3. 現在でも国家行政組織の中に留まっている公的研究機関の見直しを行い、できる限り、独立行政法人化、あるいはその他の組織形態へと移すべきである。
  4. 公的研究機関が与えられた自主性、独立性を生かすためには、公的研究機関のマネジメントの役割が重要になるので、そのための人材を広く求めるべきである。
  5. 全ての公的研究機関は特許の使用許諾や研究者の起業を促進するための組織を設置すべきである。その支援のために、大学に産学連携支援のために与えられている支援措置を公的研究機関にも同様に行うべきである。
  6. この提言の実施の時期については、3.の国家行政組織として残っている国立研究機関の見直しや4.のマネジメントの改善、5の産官連携の強化は、直ちに取り掛かるべきである。1.、2.の研究組織の再編は、独立行政法人の中期計画が1度ないし2度終わるタイミングを目処に再編が可能となるように、今から準備作業を開始すべきである。

1 ナショナル・イノベーション・システムとは、一般に技術革新の過程に関係する企業、大学、公的研究機関などの機関の活動、これら機関の相互での知識、人材等の資源の流れ、及びそれぞれの活動に影響を与える外的要因(政府の規制、政策等)の総体として定義づけられる。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)

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