「「需要」側からの科学技術政策の展開」

(別紙)
平成16年6月

平成14~15年度
科学技術政策提言
報告書要旨

研究代表者:丹羽冨士雄(政策研究大学院大学)
中核機関:財団法人政策科学研究所

1.調査研究の概要

 科学技術政策が実質的に専門家や政策コミュニティだけで形成されることによる問題、例えば、資源配分の偏り、政策の非効率・不適合、社会ニーズの未対応・非実現、社会との軋轢が顕在化してきた。社会のものの決め方・決まり方やガバナンスの動向、需要主導イノベーションの増勢と連動する問題である。科学技術政策が公共政策として広く捉えられていないことやイノベーション政策への展開が弱いことにも関連している。
 需要側からの政策展開の促進は、欧米で進む「社会のための科学技術」への改革と方向を同じくするが、我が国では「社会のための、社会の中の科学技術」(第2期科学技術基本計画)はスローガンにとどまっている。対応の遅れは、科学技術と社会の乖離を招き、国民の生活の質、活力、国の競争力を脅かす危惧がある。「社会のための科学技術」が新しい内容と性格を持つことをふまえて、需要側からの情報や視点、ニーズ、及び供給側を含む調整内容を反映する科学技術政策の体制や過程を整備・構築すべきである。

 本調査研究では、需要側からの科学技術政策展開の必要性と課題を明らかにするとともに、内外の関連事例の調査や科学技術システムのあり方の検討を通じて、主に行政とその外部装置に焦点をあて、我が国がとるべき政策展開の体制や過程の提起、社会実験を含め実効的な制度設計・運営のための条件や環境の整理などを行い、関連する提言を行った。

2.需要側から展開する科学技術政策の重要課題の提言

 需要側から展開する我が国の重要政策課題を提言する。各々に参照すべき事例を示す。

  1. 将来社会構想から展開した重要研究開発課題への戦略的取組み
     研究開発資源の重点配分や研究課題のプライオリティづけなど、社会的に形成された社会目標/ニーズを反映させた戦略的な政策運営を行う。
    (ドイツFUTURプログラム、英国FORESIGHTプログラム)
  2. 社会ニーズに基づく産業技術振興や社会基盤構築への総合的取組み
     関係主体が将来の市場ニーズや社会ディマンドと調整・合意した技術ターゲットや統合的システム設計などに基づき、総合的な体制で取り組む。
    (カナダ・米国DOEのテクノロジー・ロードマッピング、米国ITSアメリカ)
  3. 科学技術資源を活用した自律的な公共問題解決システムの整備
     地域等の問題解決のため大学等の知的拠点資源の利用や専門家の雇用を支援し、コミュニティの自律的能力、拠点社会性や信頼資産を高める。
    (米国コミュニティ・ベースト・リサーチ、欧州サイエンス・ショップ、社会起業家事業)
  4. 社会的視点や利害調整をふまえた科学技術の選択・管理
     市民・社会の視点や問題設定をふまえ、技術リスクやその代替リスク、コスト-ベネフィットとその配分、技術の選択倫理を総合勘案して、科学技術の選択・管理を行う。
    (参加型テクノロジー・アセスメント、リスク管理、技術の選択購入)
  5. 社会/科学技術関係のコミュニケーション基盤や需要側展開施策の運用基盤の拡充
     社会/科学技術関係の状況を把握し、科学技術コミュニケーション活動や需要側展開を支える機構に対して、需要側の視点やニーズからの改善を支援する。
    (英国議会POST報告書“Open Channel”などの多様な事例)

3.需要側からの政策展開を推進する施策の提言

 「需要」側から展開すべき政策課題は、「供給」主導政策の限界を克服すべく、多元的に拡がる。「需要」の内容や性格、関係主体、科学技術との関係を個別に見極める必要がある。問題に適合的で科学技術の専門性と民主性の調和を図るアプローチが不可欠である。また、展開には、社会の認知度や習熟度、推進主体やインセンティブ、専門家の信頼度などが影響し、我が国がこれらの充実途上にあることに配慮した試みを重ねる必要がある。

(1)需要側からの政策課題/アプローチの解明と社会側関連状況・動向の分析

  1. 政策ニーズの把握方法の開発と調査分析、社会/科学技術問題の系統的な調査分析・評価の実施
  2. 社会・経済ニーズを踏まえた研究開発戦略の展開のための調査研究

(2)需要側からの政策展開に適合する機構の設計と運営

  1. 科学技術の専門性の深さを考慮し、その影響の広さにあわせて社会に開かれたオープン・アドバイザリー・システムの適切な設計と運用
     専門情報の導入や対立的当事者団体の利害調整を行う「助言」「勧告」「支援」、社会の知見や多様な意見・選好あるいは市民(非専門家)の観点を反映させる「情報集約」「意見形成」「社会的調整」などの機能が働く行政外部装置が必要である。社会的には「問題の提起・可視化」、「社会的討議の活性化」
    「相互学習的交流」などの効果も期待される。
     このシステムでは、参加者の相互作用の場であるパネルの設計と運営が肝要であり、既存システムとの調整、内容的な妥当性と手続き的な正当性を追求することが必要である。パネルに対する社会の信任は、参加者代表性と意思決定への反映性、公開性や手続了解性、主催者信頼性などに影響をうける。経験からは関係主体(専門家-当事者-市民)の包摂性および参画主体間の熟議性が重視されており、様々な類型が開発されてきている。熟議のために支援システムや専門家を活用することが有効である。
  2. 行政横断的で統合的・機動的なリーダーシップの確立と運営・支援・観察体制の拡 充
  3. 「進化」「学習」的な政策形成プロセスの開発と制度化
     政策の社会的形成の局面の変化に対応する「進化」「学習」的なダイナミックスが不可欠である。内部構造の動的調整を行う「自己組織パターン」、評価を鍵に周期的な点検・見直しを行う「循環型パターン」、地域を特定した試行分析を行う「社会実験」などがある。

(3)具体的な展開プログラムの開発と運用

  1. 問題解決・課題実現、課題共通基盤技術の研究開発プログラムの設置、研究開発拠点の整備・ネットワーク化、社会への導入の推進、課題人材育成、国際貢献・協調
  2. 関係主体のインセンティブの導入、役割に配慮した協働ネットワークの組織化
  3. 研究開発等の進捗や課題・環境の推移など、プログラムの評価と広報

(4)環境・基盤の整備、専門機関・人材の育成

  1. 包括的な構想や指針による需要側からの政策の推進
  2. 知的支援ツールの研究開発・普及、専門人材の育成、サポート・交流機能の整備
  3. 関係アクターの役割拡充、社会的事業主体の育成、信頼資産の構築、社会/科学技術関係の状況モニタリング

4.当面する緊要な対応施策の提言

(1)需要側からの科学技術政策を先導する将来社会需要対応プログラムの設置

 需要側からの政策展開の重要性と有効性を実証するプログラムが必要である。このため、将来社会の需要分析・予測に係る「将来需要研究プログラム」および重要課題を社会的に形成・選択して政策化する「未来需要ダイアログ・プログラム」、重要課題に対して研究開発などを、提案から広く編成する「公募課題プログラム」および統合・集中して進める「需要ミッション・プログラム」を設置する。プログラムの不確実性に対応し、研究開発の進展と課題/環境の推移を分析する「アセスメント・プログラム」も並行して実施する。また、政策展開を知的に支える「需要側からの政策研究プログラム」を運用する。これらの体制・マネジメント自体を需要側からの取組みに適合的に構成することも重要である。

(2)政策需要や社会/科学技術関係の調査・審議機能の整備

 科学技術に対する社会ニーズ、科学技術/社会関係の状況は全体として動向として把握することが重要であり、内外関連情報の集約や必要な調査分析を行い、これらを基に政策課題の提起を行う調査・審議機能を整備することが必要である。政府として取り組む場合、その政策の総合性、実行性を勘案して、総合科学技術会議に「需要専門調査会(仮称)」を設置することを提言する。

(3)「社会のための科学技術」に取り組む体制構築の計画的総合的推進

 需要側からの展開政策は、「社会のための科学技術」を強化するための改革と関連しており、計画的総合的に進める必要がある。このため、第3期科学技術基本計画の中で取り組み方向を明示するとともに、総合科学技術会議において策定する基本方針に基づき、関連の研究開発・普及や社会的取り組みの促進、学際的な場の整備、人材の育成や研究者集積などを図る施策を構想・実施することを提言する。なお、学際的な場のモデルとしては米国科学振興協会(AAAS)がある。

お問合せ先

科学技術・学術政策局調査調整課科学技術振興調整費室

電話番号:03‐6734‐4017(直通)

(科学技術・学術政策局調査調整課科学技術振興調整費室)

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