科学技術基本計画と科学技術振興調整費

 科学技術振興調整費の過去の課題について調査していくと、科学技術基本計画と密接な関係にあることが分かってきた。

 科学技術基本計画は、平成 7年に成立した科学技術基本法を受けるかたちで、5年ごとに閣議決定されている日本の科学技術全体の計画。これまで第1期(平成8年度~12年度)、第2期(平成13年度~17年度)、第3期(平成18年度~22年度)と閣議決定されているが、ここでは第1期科学技術基本計画と科学技術振興調整費の関係を見ていく。

 平成3年のバブル崩壊によって、日本は未曾有の不景気に状態に陥っていた。そのため、研究開発投資額は、日本全体で平成5年度、6年度と2年連続して減少。特に、政府研究開発投資は対GDP比で欧米主要諸国を大きく下回っていた。そこで、基本計画では5年間の政府研究開発投資目標として 17兆円という数字を掲げ、それまで欧米に大きく水を開けられていた研究環境の改善、柔軟性・競争性が低く制約が顕在化している研究開発システムの改革、欧米の研究への追随ではなく、自ら率先して未踏の科学技術分野に挑戦していくことを基本的考え方として定められた。そのため、科学技術振興における国の最優先課題として、◇科学技術を巡る環境を柔軟かつ競争的で開かれたものに抜本的に改善、◇産学官全体の研究開発能力の引上げと最大限発揮、◇研究成果を円滑に国民や社会、経済に還元することをあげている。

 具体的には、研究開発推進の基本的方向として、○社会的・経済的ニーズに対応した研究開発の強力な推進、○基礎研究の積極的な振興、○新たな研究開発システムの構築、○望ましい研究開発基盤を実現、○科学技術に関する学習を振興、幅広い国民的合意を形成、○政府の研究開発投資の拡充などをかかげている。

 特に、社会的・経済的ニーズに対応した研究開発の強力な推進については、◎新産業の創出や情報通信の飛躍的進歩などの諸課題に対応、◎地球環境、食料、エネルギー・資源等の地球規模の問題の解決、◎生活者のニーズに対応した健康の増進や疾病の予防・克服、災害の防止などの諸課題の解決に資する研究開発を推進することとしている。

 また、基礎研究の積極的な振興については、物質の根源、宇宙の諸現象、生命現象の解明など新しい法則・原理の発見等により、人類が共有し得る知的資産を生み出し、人類の文化の発展に貢献する基礎研究の振興することとしている。

 一方、科学技術会議本会議が昭和56年3月9日に決定した 「科学技術振興調整費活用の基本方針」では、1.先端的、基礎的な研究の推進、2.複数機関の協力を要する研究開発の推進、3.産学官の有機的連携の強化、4.国際共同研究の推進、5.緊急に研究を行う必要が生じた場合の柔軟な対応、6.研究評価の実施と研究開発の調査、分析‐の6項目を基本として科学技術進行調整費を運用することとされた。

 この基本方針によって運営されていった科学技術振興調整費の代表的な研究プログラムである総合研究(昭和56年度発足)では、基礎的・先導的科学技術分野あるいは国家的・社会的ニーズの強い研究開発を産学官の有機的連携のもとで役割を分担しつつ総合的に推進するもので、科学技術基本計画の「社会的・経済的ニーズに対応した研究開発の強力な推進」に対応する研究開発が行なわれてきた。

 新産業の創出や情報通信の飛躍的進歩などの諸課題に対応するプロジェクトとしては、「日英科学技術文献の速報システムに関する研究(昭和57年度~60年度)」、「半導体の格子欠陥を利用した材料機能の制御に関する研究(昭和58年度~60年度)」、「超伝導・極低温基盤技術の開発に関する研究(昭和57年度~59年度)」、「高性能電子顕微鏡の開発に関する総合研究(昭和55年度~56年度)」など、数多くの研究プロジ ェクトが早い段階から始められていた。

 地球環境、食料、エネルギー・資源等の地球規模の問題の解決に資するものとしては、「高性能レーザーセンシングシステムに関する研究(昭和55年度~59年度)」、「海洋生物資源の生産能力と海洋環境に関する研究(昭和56年度~60年度)」などが行われた。

 生活者のニーズに対応した健康の増進や疾病の予防・克服、災害の防止などの諸課題の解決に資する研究開発については、「生体膜機能の解析・利用技術の開発に関する研究(昭和57年度~61年度)」、「DNAの抽出・解析・合成技術の開発に 関する研究(昭和56年度~58年度)」、「流域雨量予測による装具防災システムに関する総合研究(昭和55年度~57年度)」をはじめとする数多くの研究開発が行なわれた。

 また、重点基礎研究(昭和60年度発足)や省際基礎研究(昭和63年度発足)では、基本計画の「基礎研究の積極的な振興」に対応する数多くの研究開発が実施された。代表的な研究課題としては「fMRIを中心とした非侵襲的計測によるヒトの視覚情報処理メカニズムに関する研究」で、fMRIの黎明期にfMRIをヒト脳計測ができるよう高度化し、脳トレなどで知られる脳研究の発展に貢献した。

 また、科学技術基本計画では初めて地域における科学技術の重要性を取り上げ、地域科学技術を支援するという国の役割を明確化したが、科学技術振興調整費では、昭和62年度に緊急受託研究が創設され、緊急研究の一環として各省国研における民間や地方公共団体からの受託研究ニーズに対し、緊急研究の予算の範囲内で機動的に研究を実施した。さらに緊急受託研究の実施する中で、地方公共団体における研究ニーズが高かったことから、平成2年度には地域流動研究が創設される。平成7年度には、それまでの地域流動研究を発展的に解消し、生活・社会基盤研究が創設された。生活者重視の新たな社会を構築するため、国研、大学、地方自治体、民間のそれぞれの研究ポテンシャルを活かし、生活者の視点からの意見等を反映させつつ、生活の質の向上及び発展に資する目的指向的な研究開発を総合的に推進。各省庁、地方自治体、民間等からの提案が生活者ニーズ対応研究、地方自治体からの提案を地域先導研究と位置づけ、地域流動研究が地域研究同研究に移行した。

 さらに基本計画では「国際的な連携・交流を図るとともに世界的水準の研究開発を促進するため、広く国内外の研究者をひきつけることのできる魅力的な研究開発環境を有する国際的研究開発拠点を形成・整備する」としているが、科学技術振興調整費では、それに先駆けて平成5年度に、中核的研究拠点(COE)育成プログラムを創設。COE化を目指す国立試験研究機関等が自己努力により競争的な研究環境を整備しつつ、特定の研究領域の水準を世界最高レベルまで引き上げることを目指す場合に支援するというもの。10年間のCOE化計画のうち、最初の5年間は年4億円という予算を集中的に投入し、6年目以降は年数千万円を補完的に措置する。初年度には、科学技術庁無機材質研究所、厚生省国立循環器病センター研究所、通商産業省工業技術院生命工業技術研究所が採択された。

 以上のように、科学技術振興調整費は科学技術基本計画が閣議決定される以前から、日本の科学技術政策に重要な役割を果たしてきた。

 さらに、基本計画策定以降は、目標達成型脳科学研究推進制度、知的基盤整備推進制度、流動促進研究制度、ゲノムフロンティア開拓研究推進制度、開放的融合研究推進制度などが発足し、科学技術基本計画の着実な実施に貢献してきた。第2期科学技術基本計画が始まる平成13年度以降には、シス テム改革に特化したプログラムが発足していくことになる。

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科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(推進調整担当)

(科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(推進調整担当))

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