1 告発内容及び調査結果の概要
元教授(在職期間:平成12年11月~平成15年3月)の7本の論文取下げが平成28年6月~9月にマスコミで等で報道されたことを受け、A大学で予備調査(平成28年10月12日~平成29月2月1日)を行った。さらに、平成28年11月11日に匿名のメールによりA大学及び文部科学省に対して研究不正に関する告発があった。被告発者は、元教授及び共著者であり、その告発は平成28年11月9日にNeurology 2016; 87: 1-12に掲載されたレポートに基づくもので、上記の研究者による33本の論文には捏造、改ざんの疑いがあることを指摘したものである。この告発についての予備調査(平成28年11月28日~平成29年2月1日)と前述の予備調査を合わせた本調査委員会を平成29年3月1日に設置し、関係者へのヒアリング及び書面調査によって調査を行った。
また、B大学においても、平成29年3月28日に学外より、一般社団法人日本神経学会を通じ、上記元教授がB大学在籍中(当時、准教授)に他の共同研究者と共に行ったとする研究不正の疑いを指摘するメールが送られ、B大学における研究活動に係る不正行為の防止に関する規程に基づき、予備調査並びに本調査を実施した。
調査の結果、A大学では、研究活動における特定不正行為である「捏造」が13本、「盗用」が1本の論文において行われたものと認定し、B大学では、「改ざん」が1本、「不適切なオーサーシップ」が6本の論文について行われたものと認定した。
【A大学:告発者から告発があった不正の態様及び特定不正行為であるとする理由】
(1)不正の態様
患者数や症例を集めた施設等について、データを捏造改ざんした疑いがある。
他論文との患者群や対象群が同一であり盗用の疑いがある。
(2)研究活動における特定不正行為であるとする理由
共著者(24名)からのヒアリングと書面調査結果により総合的に判断認定した。
【B大学:告発者から告発があった不正の態様及び特定不正行為であるとする理由】
(1)不正の態様
他の研究者のデータとの不一致、剽窃、テキストの一貫性の欠如、データの間違い、倫理面での疑いがある。
(2)研究活動における特定不正行為であるとする理由
共著者(35名)からの書面調査結果及び論文内容の精査・検討等により総合的に判断認定した。
2 本調査の体制、調査方法、調査結果等について
(1)調査委員会における調査体制
A大学 3名(全て外部委員)
B大学 10名(5名外部委員)
(2)調査の方法等
[A大学]
1)調査対象
ア)対象研究者:元教授と共著者24名
イ)調査対象論文
元教授が筆頭著者でA大学在籍者が共著者として発表した論文26本及びNeurology(2016 .11.9)に掲載された論文33本のうち元教授が筆頭著者かつ責任著者である26本で上記の論文と重複している14本を除く12本、計38本
2)調査方法
関係者に対して書面調査を実施するとともに、一部の共著者に対してヒアリングを実施した。
[B大学]
1)調査対象
ア)対象研究者:上記元教授(当時、B大学准教授)と共著者46名
イ)調査対象論文
元教授がB大学に在籍していた期間を中心に、Neurology誌で指摘された33本の論文のうち4本を含む39本の論文
2)調査方法
関係者に対して書面調査を実施するとともに、一部の共著者に対してヒアリングを実施した。
(3)本事案に対する本調査委員会の調査結果を踏まえた結論
調査対象論文に関し、調査委員会による調査結果を踏まえた各大学の結論は以下のとおり。
[A大学]
1)元教授が筆頭著者として発表した調査対象論文38本のうち、14本に研究不正があったと認定する。
「捏造」かつ「不適切なオーサーシップ」が13本。「盗用」が1本である。
2)共著者の一人のA大学在籍者の対象論文への関わりは、英文校正に限定されていたことを確認したが、元教授との専門分野が明らかに違うことから、論文の内容にまで関与したとは認められない。そのため、論文発表当時のオーサーシップに関する認識が現在のように厳格ではなかったことをしん酌しても、特定不正行為ではないものの、「不適切な研究行為」と認定する。
3)今回の調査対象論文における、筆頭著者である元教授以外の共著者に関しては、A大学在籍者を含め全員、研究不正への関与は全くなく、研究内容に関して責任を負うべき立場にはなかったと認定する。
4)調査対象論文14本に研究不正があったと認定するが、残り24本に関しては、元教授は本調査委員会開始時点において既に故人となっていたことから、本調査委員会として、聞き取り調査はもとより、論文の根拠となるデータが記載されていたはずの研究記録ノートあるいはデータファイルに遡って調査・確認することもかなわなかった。したがって24本は、研究不正の有無についての判定を留保する。
[B大学]
元教授が発表した調査対象論文39本のうち、1本を「改ざん」、6本を「不適切なオーサーシップ」と認定した。また、残りの32本については、元教授は既に故人となっており、研究の実態を証明する実験ノートや実験資料等が残っておらず、調査委員会の調査においても不正と断定するに足る調査結果を得ることができなかった。したがって32本については、判定を留保する。
なお、共著者については、不正への関与は認められなかった。
(4)認定理由
[A大学]
1)元教授が自身の不正を認めたこと及び共著者24名からの証言により総合的に判断した。
2)元教授が発表した対象論文で示された研究はいずれも、国の公的研究費や財団等からの研究助成を受けることなく実施されていた。共著者への聞き取り調査によると、元教授自身が、これら研究には私財を投入した旨の発言をしていたという。しかしながら、対象論文で発表されたような、多人数を対象とした臨床研究をすべて、一研究者の私費にて遂行したという供述には違和感を覚えるものであり、間接的ではあるものの、当該研究の信頼性に関しての疑義を生じさせ得るものであり、共著者への書面調査にて表明された証言に依拠すると、元教授の研究に対する姿勢や第三者から指摘された疑義に対する対応は、「捏造」や「改ざん」につながり得るのではないかという懸念を抱かしめるに十分であった。
[B大学]
1)最近の統計を調査した内容から、研究の実行は不可能と考えられ、症例数の水増しを行っていたことは明らかであり、また、追加の臨床試験が行われた結果、当該論文とは全く逆の結果となっていたため、調査結果を総合的に判断した結果、「改ざん」と認定した。
2)症例提供等が数例あるだけで、ほとんどの共著者は、投稿論文に実質的な貢献がないばかりか、論文自体の存在を把握していない共著者もおり、また、投稿論文の共著者のサインについての調査では、サインしたと回答した者はいなかったことから、元教授が勝手に共著者として名前を記載していたと考えられ、「不適切なオーサーシップ」と認定した。
3 認定した不正行為に直接関連する経費の支出について
[A大学]
元教授が日常使う活動に対する学内経費により実施された研究活動であるが、特定不正行為と認定された論文作成過程において直接的に関係する支出は認められなかった。
[B大学]
特定不正行為と認定された論文作成過程において直接的に関係する支出は認められなかった。
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