産業技術総合研究所上級主任研究員による研究活動上の不正行為(捏造・改ざん等)の認定について

【基本情報】

番号

2023-12

不正行為の種別

捏造、改ざん、不適切なオーサーシップ

不正事案名

産業技術総合研究所上級主任研究員による研究活動上の不正行為(捏造・改ざん等)の認定について

不正事案の研究分野

化学

調査委員会を設置した機関

産業技術総合研究所

不正行為に関与した者等の所属機関、部局等、職名

産業技術総合研究所 材料・化学領域 ナノ材料研究部門ナノバイオ材料応用グループ 上級主任研究員、ナノ材料研究部門 名誉リサーチャー、機能化学研究部門 副研究部門長

不正行為と認定された研究が行われた機関

産業技術総合研究所

不正行為と認定された研究が行われた研究期間

告発受理日

令和4年12月8日

本調査の期間

令和5年3月2日~令和5年12月28日

不服申立てに対する再調査の期間

報告受理日

令和6年3月14日

不正行為が行われた経費名称

科学研究費助成事業

 

【不正事案の概要等】

◆不正事案の概要

1.告発内容及び調査結果の概要
 令和4年11月24日、上級主任研究員の論文の図に改ざん等の疑いがある旨の告発があった。予備調査を行った結果、本調査を行うこととし、調査委員会を設置した。本調査の結果、論文42編に捏造、改ざん、うち2編に不適切なオーサーシップが行われたと認定した。

2.本調査の体制、調査方法、調査結果等について
(1)調査委員会による調査体制
 6名(内部委員3名、外部委員3名)
 
(2)調査の方法等
 1)調査対象
  ア)調査対象者:産業技術総合研究所 材料・化学領域 ナノ材料研究部門ナノバイオ材料応用グループ 上級主任研究員、ナノ材料研究部門 名誉リサーチャー、機能化学研究部門 副研究部門長、その他共著者22名(共著者のうち4名の連絡先が確認できなかったため、25名のうち連絡先が確認できた21名に対し調査を実施した。)
  イ)調査対象論文:61編(予備調査で調査した5編に加え、上級主任研究員が筆頭著者もしくは責任著者である計61編の論文を調査対象とした。)
 2)調査方法
  ・申立内容の確認、予備調査結果の確認、本調査の方針の確認
  ・電子顕微鏡写真のデータ、試料、研究ノート等の確認
  ・上級主任研究員等に対するヒアリング、その他の調査対象者に対する質問票による調査
  ・論文の図の作成過程やスケールバーの検証等
 
(3)本事案に対する調査委員会の調査結果を踏まえた結論
 (結論)
  1)認定した不正行為の種別
   捏造、改ざん、不適切なオーサーシップ
  2)「不正行為に関与した者」として認定した者
   産業技術総合研究所 材料・化学領域 ナノ材料研究部門ナノバイオ材料応用グループ 上級主任研究員
  3)「不正行為に関与していないものの、不正行為のあった研究に係る論文等の責任を負う著者」として認定した者
   産業技術総合研究所 材料・化学領域 ナノ材料研究部門 名誉リサーチャー、機能化学研究部門 副研究部門長(副研究部門長については、科学研究費助成事業との関連が認定されていない論文のため、ガイドライン対象外。)
 
 (認定理由)
  論文42編について、図のスケールバーを実際より長くあるいは短く示す、1枚の電子顕微鏡写真の一部分を切り出し別の構造物の写真として示す等の不正行為が確認されたことから、上級主任研究員による捏造、改ざんを認定した。また、捏造、改ざんを認定した論文のうち2編について、投稿前に共著者の了解を得ずに論文を投稿したことから、上級主任研究員による不適切なオーサーシップを認定した。
  一部論文の責任著者であった名誉リサーチャー及び副研究部門長について、不正行為には関与していないものの、上級主任研究員に対する指導・管理責任があったと判断した。
 
 (不服申立て手続)
  調査結果を通知したところ、一部調査対象者から不服申立てがなされたが、調査委員会で審議した結果、再調査は行わないことを決定した。
 
3.認定した不正行為に直接関連する経費の支出について
 不正行為を認定した論文のうち30編は科学研究費助成事業による研究成果であり、それらに係る経費について以下の支出があった。
  ・科学研究費助成事業 計4,776,942円(論文掲載料、英文校閲費、イラスト作成費、学会参加費、旅費)

◆研究機関が行った措置

1.論文の取下げ等
 上級主任研究員に対し、不正行為を認定した論文42編の取り下げを出版社に依頼するよう勧告した。 また、不正行為が認められなかった論文のうち14編について、スケールバーの違いなどがあり、不注意により生じた可能性もあることから、論文の修正を出版社に依頼するよう勧告した。
 
2.被認定者に対する研究機関の対応(処分等)
 被認定者に対し、産業技術総合研究所の規程に基づき今後処分を検討する。
 ただし、不正行為には関与していないものの、不正行為があったと認定した研究に係る論文等の内容について責任を負う著者として認定したうちの1名は、退職から一定期間が経過しているため産業技術総合研究所の規程が適用されず、処分不能とした。
 
3.競争的研究費等の執行停止等の措置
 科学研究費助成事業の進行中の予算について、一時的支出の停止措置を行った。

◆発生要因及び再発防止策

1.発生要因
 上級主任研究員は、不正行為の動機について、ヒアリングにおいて、新たな機能を見いだしたことをいち早く発信したい、論文の数を稼ぎたいという気持ちがあったため、自分の描くストーリーに合わせるために、自身の知識の中にあったナノチューブのサイズに合うようにスケールバーの改ざん等を行った旨を述べている。
 上級主任研究員は研究倫理教育を受講しており、研究公正や研究倫理についての知識は有していたが、自らの研究行為において具体的にどのように実行されるべきものかについての内在化が徹底されていなかったと言える。
 また、上級主任研究員の研究ノートの記載は不十分であり、本来保管しておくべき試料の多くを廃棄していたことが調査の過程で明らかになっている。
 そのような状況のなかで研究不正を繰り返すうちに、研究不正を行っているという認識が希薄になり、共著者や上長などとデータを用いての議論なしで論文を投稿することが常套化していたと考えられる。調査対象論文の中には、論文投稿前に共著者による確認が行われていない論文もあった。
 上級主任研究員が経験豊富な研究者であるとの認識が各論文の共著者に共有されていた結果、電子顕微鏡画像の作成や分析過程について批判的な視点での確認がなされなかったものと考えられる。
 
2.再発防止策
 ・論文記載データの保存の徹底と上長等の確認による研究データの保存・管理の強化
 ・グループ/チーム内のミーティングによる情報共有や部下と定期的なコミュニケーションを行うなど、不正が生じない環境の更なる醸成
 ・研究者がわきまえるべき基本的な注意義務を再確認し、徹底するための予防倫理的な研究倫理教育を継続するにとどまらず、よりよい研究を推進するための志向倫理的な観点での倫理教育、研修の拡充
 ・論文等の投稿前の確認項目として、共著者に投稿する旨の連絡を行うことを追加し、著者全員の事前了承を徹底

 

◆配分機関が行った措置

 特定不正行為(捏造、改ざん)が認定された論文のうち30編は、科学研究費助成事業の成果論文であり、捏造、改ざんと直接的に因果関係が認められる研究に使用された経費の支出があった。このため、資金配分機関である日本学術振興会において、経費の返還を求めるとともに、実施する事業への申請及び参加資格の制限措置(上級主任研究員:令和6年度~令和15年度(10年間)、名誉リサーチャー:令和6年度(1年間))を講じた。

お問合せ先

科学技術・学術政策局研究環境課

研究公正推進室
電話番号:03-6734-3874
メールアドレス:jinken@mext.go.jp

(科学技術・学術政策局研究環境課研究公正推進室)