【基本情報】
番号 |
2023-04 |
不正行為の種別 |
捏造、改ざん |
不正事案名 |
北海道大学元特任助教による研究活動上の不正行為(捏造・改ざん)の認定について |
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不正事案の研究分野 |
化学 |
調査委員会を設置した機関 |
北海道大学 |
不正行為に関与した者等の所属機関、部局等、職名 |
北海道⼤学 化学反応創成研究拠点 元特任助教、大学院理学研究院 教授(化学反応創成研究拠点 主任研究者) |
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不正行為と認定された研究が行われた機関 |
北海道大学 |
不正行為と認定された研究が行われた研究期間 |
平成23年~令和3年 |
告発受理日 |
令和4年4月5日 |
本調査の期間 |
令和4年6月17日~令和5年6月9日 |
不服申立てに対する再調査の期間 |
- |
報告受理日 |
令和5年9月12日 |
不正行為が行われた経費名称 |
科学研究費助成事業、戦略的創造研究推進事業(先導的物質変換領域(ACT-C)、CREST) |
【不正事案の概要等】
◆不正事案の概要 |
1.告発内容及び調査結果の概要 令和4年4月1日、元特任助教を筆頭著者とする論文のデータに捏造及び改ざんの疑義がある旨の告発があった。予備調査の結果を受けて本調査を行うこととし、不正行為調査委員会を設置した。本調査の結果、論文5編について、捏造及び改ざん(特定不正行為)が行われたと認定した。 2.本調査の体制、調査方法、調査結果等について (1)不正行為調査委員会による調査体制 6名(内部委員3名、外部委員3名) (2)調査の方法等 1)調査対象 ア)調査対象者:北海道⼤学 化学反応創成研究拠点 元特任助教、大学院理学研究院 教授(化学反応創成研究拠点 主任研究者)、その他共著者3名 イ)調査対象論文:5編(国内の学術誌:2017年(1編)、海外の学術誌:2019年(2編)、2020年(1編)、2021年(1編)) 2)調査方法 告発内容及び予備調査結果の確認、被告発者、責任著者及び共著者に対するヒアリング調査、論文に直接関係する経費支出の確認、論文精査 (3)本事案に対する調査委員会の調査結果を踏まえた結論 (結論) 1)認定した不正行為の種別 捏造、改ざん 2)「不正行為に関与した者」として認定した者 北海道⼤学 化学反応創成研究拠点 元特任助教 3)「不正行為に関与していないものの、不正行為のあった研究に係る論文等の責任を負う著者」として認定した者 北海道大学 大学院理学研究院 教授(化学反応創成研究拠点 主任研究者) (認定理由) 論文中の多数の図表等において、実験結果が実験ノートに存在しないこと、実験結果の数値等が改ざんされていることを確認した。 元特任助教は、調査対象論文5編の筆頭著者であり、論文に記載された実験結果について、実験ノートとは別の紙媒体に記録したと主張したが、調査委員会へは別の紙媒体の提出はなされなかった。また、研究室における指導状況等に鑑みると、実験ノートとは別の代替的な手段で記録することが論文作成において許容されるとの認識を持つことがやむを得ないと言える事情は認められず、故意による捏造及び改ざんを認定した。 教授は、調査対象論文5編の責任著者であり、測定等の実験結果の生データを確認することで、科学的妥当性や再現性を検証するとともに、研究不正がないことについて注意を払う義務を負っていた。また、元特任助教が所属していた研究室の主宰者(PI)として研究不正を未然に防ぐ監督責任も負っていたが、他の共著者や研究室構成員に論文データの確認を任せるなど、責任著者・PIとしての確認・注意義務を著しく怠ったことから、「不正行為に関与していないものの、不正行為のあった研究に係る論文等の責任を負う著者」として認定した。 (不服申立て手続) 調査対象者から不服申立てがあり、調査委員会で審査した結果、再調査の必要性は認められないが、形式的な文章表現に係る申立てについては、不正認定の程度や結論に影響を及ぼさない範囲で記述を一部修正することを決定した。 3.認定した不正行為に直接関連する経費の支出について 科学研究費助成事業及び戦略的創造研究推進事業(先導的物質変換領域(ACT-C)、CREST)による研究成果であり、不正行為を認定した論文について以下の支出があった。 ・科学研究費助成事業 計1,607,975円(学会参加費、学会参加旅費、論文別刷代、英文校正費、論文イラスト製作費) ・戦略的創造研究推進事業(先導的物質変換領域(ACT-C)) 計118,870円(論文別刷代、学会参加旅費) |
◆研究機関が行った措置 |
1.論文の取下げ 不正行為を認定した論文5編については、著者から取り下げの申し出を行い各掲載誌が撤回した。 2.被認定者に対する大学の対応(処分等) 元特任助教については、大学を退職していることから処分は行わない。 教授については、今後、大学の就業規則に基づき対応する予定。 3.競争的研究費等の執行停止等の措置 元特任助教が研究代表者として助成を受けていた科学研究費助成事業については、同氏が大学を退職し当該研究費の受給資格を喪失することを受けて補助事業の廃止承認申請をした後、日本学術振興会により廃止が承認された。 |
◆発生要因及び再発防止策 |
1.発生要因 1)論文投稿時の必要書類と確認体制の不備 論文投稿前に論文と実験ノート等を突き合わせていれば、不正行為を認定した箇所の多くが容易に不正行為を察知できる状態にあったが、投稿前にデータシート⇒実験ノート⇒スペクトル・物性データの順に適切に確認が行われていなかったほか、これらが最終的に責任著者によって確認されていなかった。 2)不正行為の有無を確認する意識の鈍麻 研究が適正に行われ、その結果が論文にまとめられていることを最終的に確認する義務を責任著者が負っていたにも関わらず、その履行は不十分であったほか、不正行為の有無を確認することや実験ノート等を辿るといった具体的な指示を他の著者にすることもなく、それらは当該著者により行われているものと判断し、また当該著者がチェックしたかを確認することを怠った。 また、責任著者をはじめとする誰もが不正などは起こり得ないとの先入観から、その有無を確認しなければならないという意識が欠けていた結果、適切な確認が行われなかった。 3)論文投稿前の再現実験等による確認の不備 掲載時期の最も古い不正認定論文において、投稿前に再現実験等による確認が行われていれば、以降に発表された論文における不正行為を防ぐことができた、あるいはさらなる論文の作成には至らなかった可能性がある。 4)ミーティング資料と実験ノートによる裏付けの不備 論文テーマに沿った実験結果をミーティングにおいて検証し、その集大成として論文にまとめるのが本来の姿であると考えられるが、実際には、毎回のミーティングにおいて、元特任助教が裏付けとなるべき実験ノート上の実験結果をそのまま資料として提出していたとは認めがたく、元特任助教による捏造・改ざんされた実験結果が十分に確認されることのないまま、また論文作成過程においても不正行為の有無が確認されない状態のまま掲載に至った。 5)実験ノートの確認不足 元特任助教の実験ノートに実験結果が全く記載されていないページや、記載することが必須の実験番号・実験実施日が多数未記載の部分があることから、実験ノートの作成が杜撰であったことは明らかで、十分不正発見の端緒となり得た。長きに渡って実験ノートの内容が適切に確認されなかった状態が元特任助教にとってはいわば成功体験となったと考えられる。 6)元特任助教のプライベートに関する事情と焦りの感情、周囲からの認識の欠如 元特任助教の弁明から、プライベートに関して様々な事情を抱えていたほか、特任助教として雇用されたことで成果を出さなければという思いを抱くようになり、インパクトのある論文を早期に学術誌に掲載したいとの焦りの気持ちが強くなっていったことが読み取れ、その結果、自身にとって都合の良い実験結果を論文に記載するために、捏造・改ざんを繰り返すとともに、最初の不正認定論文1編において不正行為が発覚することなく成功した体験が、以降の不正認定論文4編における不正行為をエスカレートさせていったことが推測される。 また、これら不正行為の背景の一つとして考えられる点や元特任助教の心境等について、研究室内外の研究仲間から認識されることはなく、特にコロナ禍となって以降はストレスの発散もままならない中で、不正行為を思い止まるきっかけを失っていった状況が窺える。 2.再発防止策 元特任助教が所属していた拠点の長に対しては、第一線の研究者が世界から集まり融合研究領域の形成を目指す優れた研究環境と極めて高い研究水準を誇る拠点としての優位性、教授をはじめその多くが原籍部局を異にする研究者で構成される拠点としての特殊性も踏まえ、原籍部局も交えて本事案に係る課題として認識すべき点を検証した上で、実験により得られた測定等データと論文記載データの一元的な管理を図るとともに、客観的な立場でそれらの照合を行う専門の人材を配置するなど、研究不正の再発防止に向けて必要な対応を着実に進めるよう指示する。 全学的な取組としては、大学が定めた科学者の行動規範の遵守徹底をあらためて図りつつ、学内の各構成員向けに毎年度実施している日英二か国語対応による「研究活動に関する不正防止研修」や、毎年度内容を更新している「研究活動に関するハンドブック」において、学内外におけるこれまでの主な実例に本事案も加え、研究データの重要性や論文の責任著者に求められる役割等について学内に周知することで注意喚起する。 また、今後、全大学院の修士・博士課程初年次生を対象とする必修共通授業科目において研究公正をテーマにすることで、より早い段階からのコンプライアンス教育と研究不正防止教育を充実させるほか、研究データの適切な保管等に係る体制強化に向けた講習等を通じて、学内の各研究不正対応部局等責任者に対して、論文発表データの裏付け確認作業や実験データ等の管理状況を把握するために必要な対応を行うよう促す。 |
◆配分機関が行った措置 |
特定不正行為(捏造・改ざん)が認定された論文は、科学研究費助成事業及び戦略的創造研究推進事業の成果として執筆された論文であり、かつ、捏造・改ざんと直接的に因果関係が認められる経費の支出があった。このため、資金配分機関である日本学術振興会及び科学技術振興機構において、経費の返還を求めるとともに、実施する事業への申請及び参加資格の制限措置(元特任助教:令和6年度~令和12年度(7年間)、教授:令和6年度~令和8年度(3年間))を講じた。 |
研究公正推進室
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