27.気候変動適応戦略イニシアチブ(新規) 【達成目標10‐3‐1】

平成22年度要求額:2,440百万円
(平成21年度予算額: ‐百万円)
事業開始年度:平成22年度
事業達成年度:平成26年度

主管課(課長名)

 研究開発局海洋地球課地球・環境科学技術推進室(室長:谷  広太)

事業の概要等

1.事業目的   

 顕在化しつつある気候変動の影響について、最も厳しい緩和努力をもってしても、今後数十年間の気候変動の更なる影響を回避することができないため、今後、その影響に対する適応策は不可欠であり、地域における適切な適応策を示す事が重要である。このことから、関係府省・地方自治体・関連研究機関等との連携を取りつつ、観測・予測データの収集からそれらのデータを解析処理するための共通的プラットフォームの整備・運用を通じた具体的適応策の提示までを、統合的・一体的に推進することにより、地域の特性に対応した適応策を提示することにより、気候変動の影響に強く国民生活の向上に資するグリーンイノベーションを創出し、低炭素社会構築の推進を図る。

2.事業に至る経緯・今までの実績 

 地球温暖化対策は、人間活動から排出される二酸化炭素等の温室効果ガスを削減することによって大気中の温室効果ガス濃度の上昇を抑えて温暖化の進行を食い止めるための「緩和策(排出削減策)」と、地球温暖化を所与のものとして我々の生活・行動様式の変更や防災設備への投資増加といった社会システムの調節を通じて温暖化による影響を軽減するための「適応策」に分けられる。
 気候変動枠組み条約・京都議定書においても、地球温暖化対策として緩和策・適応策が共に掲げられるなど以前から適応策の重要性は認識されていたが、「環境エネルギー技術革新計画」(平成20年5月総合科学技術会議(CSTP))の策定や「低炭素社会づくり行動計画」(平成20年7月)の閣議決定などでは、温室効果ガス排出量を抑えることで温暖化の進行を抑制する緩和策が先行的に取り扱われてきた。
 適応策は、例えば、温暖化により渇水が起きやすくなると見込まれる地域での貯水池の建設や、高温により農作物の発育が悪くなる地域での高温耐性をもつ栽培種への変更など、基本的に分野・地域を特定して施される対策であり、その効果が及ぶのは対策の対象となった分野・地域に限定される面を有しているため、温暖化対策全体の中では緩和策を補完する関係にある。しかしながら、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書では、「最も厳しい緩和努力をもってしても、今後数十年間の気候変動の更なる影響を回避することができないため、適応は、特に至近の影響への対処において不可欠となる。」と指摘している。
 平成21年6月にCSTPで報告された「気候変動適応型社会の実現に向けた技術開発の方向性(中間取り纏め)」においても、「各府省の主要な取組の中に適応策を位置づけるとともに、変化する気候変動の現れに対応可能か常に評価し、適宜見直しを行うことが求められる」と明記されており適応策の本格的な取組が促されている。さらに、平成21年10月のCSTP本会議では、「地球温暖化防止に向けた緩和策と適応策の両面からの研究開発の加速化・新技術創出のため、これらの施策を最重要政策課題と位置付け、資源を重点配分する。そして、その研究開発成果の実利用・普及を強力に推進するために社会システムの転換を図り、新産業の創造や国民生活の向上に資するグリーンイノベーションを推進し、我が国のみならず世界規模での経済と環境が両立した低炭素社会の構築に努める。」とされた。これらを受け、文部科学省では「ある適応策を施した場合、温暖化影響はどの程度軽減することが可能であるか。」及び「ある分野・地域にとって、社会的・環境的側面からみて適切な適応策は何か。」という問いに答えるために、収集した地球観測データや高精度、高解像度の気候変動予測結果を基に、共通的解析処理プラットフォームなどの整備・運用を通じて各分野・各地域における温暖化の影響評価及びシミュレーション分析を行うことにより、気候変動に関する適応策に資する研究を関係府省等と連携して推進する。

3.事業概要  

 高精度かつ不確実性を明らかにした気候変動予測結果に基づいて、「水災害に強いクールシティ」、「エネルギー自立型コンパクトシティ」、「森を守り林と親しむ緑の暮らし」などの地域の特性をいかしたまちづくりを実現する上で気候変動への適応を考慮すべき政策課題を設定し、この課題を解決するための影響評価・適応策研究について大学等を中核拠点として幅広い知見を活用しながら実施する。このとき、関係府省や地方自治体、関連研究機関等との連携を取りつつ、気候変動予測の不確実性の大きな原因でありながら観測が十分に行われていない海洋・陸域の炭素循環についてその観測網の高度化・統合化を図るとともに、それらのデータの共通的解析処理プラットフォームの整備・運用を通じて、一体的で、かつ、実効性のある適応策の立案につなげる。
 なお、本事業では、これまで文部科学省が実施してきた「データ統合・解析システム」の事業を継承して平成22年度内に共通的解析処理プラットフォームとしての機能を整備するとともに、本事業の研究課題においてその活用機会を提供することにしている。
 また、本事業の実施に当たっては、研究グループ内に途上国の留学生や国内の若手研究者を積極的に活用することにより、適応策研究の裾野の拡大にも寄与することが期待される。

気候変動適応戦略イニシアチブ~グリーンイノベーションによる低炭素社会の実現に向けて~

4.指標と目標  

【指標・参考指標】

 研究成果として得られた適応策の件数等

【目標】

 「水災害に強いクールシティ」、「エネルギー自立型コンパクトシティ」、「森を守り林と親しむ緑の暮らし」などを実現する上で必要な適応課題に対して、地域に密着した影響評価・適応策研究を推進する。また、その研究成果を地方自治体などの適応策実施者に対して、科学的検証に基づいた効果的な適応策として提示する。

【効果の把握手法】

 本事業の効果については、研究成果として得られた適応策の件数等により把握することができる。

事業の事前評価結果

A.20年度実績評価結果との関係  

 特になし(新規事業)

B.必要性の観点  

1.事業の必要性  

 今後、最大限の温室効果ガスの排出削減努力を行ったとしても、温暖化による影響を完全に抑制することはできないため、気温上昇やヒートアイランド現象激化に伴う熱中症リスク増加への対応や、台風や集中豪雨といった極端現象への減災・防災などの対策を講じることは必須である。また、科学的に検証された適応策を事前計画的に行うことにより、影響の発現後に事後対処的な対策を施す場合に比べて影響被害額と適応対策費の総和を抑制することが可能となることや、長期の気候変動を見据えた計画的な適応が、副次効果的に現在の異常気象災害のリスクも軽減する場合が多いこと明らかになってきており、早急に適応策を実施する事が必要である。
 さらに、「気候変動適応型社会の実現に向けた技術開発の方向性(中間取り纏め)」(本年6月、総合科学技術会議)では、必須の基盤技術の一つとして、観測・予測データを統合的に解析・使用する共通的なプラットフォームを最大限活用して気候変動に伴う革新的な適応策研究を実施することが盛り込まれており、政府として本事業を強力に推進することが求められている。

2.行政・国の関与の必要性  

 「気候変動適応型社会の実現に向けた技術開発の方向性(中間取り纏め)」(本年6月、総合科学技術会議)では、「実際に適応策を実施する主体としては、都道府県や市町村が重要な役割を担うことから、国、地方自治体、事業者、国民それぞれが役割分担をしつつ、一体となって取り組むための枠組みを定めることが重要である。」と指摘している。本事業においても、適応策を検討する各分野において明確な政策課題を設定することで、気候変動影響評価・適応策研究を実施するための大学を中核とする研究拠点の構築だけでなく、関係府省・現業機関や地方公共団体などの適応策実施者との連携及び人文・社会経済分野との融合を図る必要があることから国が関与する必要がある。

3.関連施策との関係  

【主な関連施策】

○21世紀気候変動予測革新プログラム(文部科学省研究開発局海洋地球課)
 人類の生存基盤に重大な影響を及ぼす恐れがある地球温暖化等の気候変動問題について、効果的、効率的な政策及び対策の立案に資するため、より高精度の気候変動予測の実現を目的とする。(事業開始年度:19年度)

○データ統合・解析システム(文部科学省研究開発局海洋地球課)
 気候変動・自然災害等による社会への重大な影響の回避・緩和・適応に向けて、地球観測データや気候変動予測結果、社会経済情報などの様々なデータを統合・解析して利活用する情報技術基盤の実現を目的とする。平成22年度から本事業に統合し、情報技術基盤の構築を継承し、プロトタイプの完成を図る。
 (事業開始年度:18年度)

【関連施策との関係】

 「21世紀気候変動予測革新プログラム」は、地球温暖化等の気候変動に関する気候モデルを開発・高度化し、予測の精度を向上させ、将来の気候に関してより正確な科学的知見を提供するものである。その科学的知見は、気候変動問題に対するより適切な政策や対策の立案に不可欠であり、本事業において活用する最重要なデータである。また、「データ統合・解析システム」は、地球観測・気候変動予測結果、社会経済情報等の多種多様なデータを体系的に収集し、効果的に管理、統合・解析処理することによって、科学的・社会的に有用な情報に変換して提供するためのデータ解析・情報提供基盤を構築してきた。本事業では、「データ統合・解析システム」で整備してきたデータ解析・情報提供基盤を共通的解析処理プラットフォームとして活用していく。本事業は、我が国がこれまで構築してきた最新の気候変動予測データとデータ解析・情報提供基盤を最大限に活用して、気候変動・自然災害等による社会への重大な影響に対する評価を実施し実効性のある適応策の立案につなげるものである。

4.関係する施政方針演説、審議会の答申等  

 ○経済財政改革の基本方針2009(平成21年6月23日 閣議決定)
 第2章 5. 2. 1~4行目、8~12行目
 ○「G8ラクイラ・サミット首脳文書」(平成21年7月8日)
 気候変動と環境 76. c)○気候変動適応型社会の実現に向けた技術開発の方向性(中間取り纏め)(平成21年6月19日 総合科学技術会議本会議)
 2.(1)3頁15~16行目
 2.(2)4頁6~7行目、28~29行目、30~31行目
 2.(2)5頁14行目、15行目
 2.(4)6頁33行目
 2.(5)8頁18行目

C.有効性の観点

1.目標の達成見込み  

 本事業では、適応策の研究の基礎となる気候変動の観測・予測データや、研究テーマ間の協調、データ統合・解析システムの利用にかかる調整などを効果的に行うための連絡調整の場を整備した上で、自然科学と社会科学の研究者の協力体制により研究開発を実施する。これにより、各分野において研究実績と知見を持つ大学・研究機関等が研究資源を集約し、政策課題に基づく研究開発を効果的・効率的に実施することが可能となると考え、目標の達成が見込まれる。

2.上位目標のために必要な効果が得られるか 

 気候変動予測結果に基づいて、気候変動が日本における各分野に与える影響を評価し、被害・影響を最小限にとどめる適応策及びその技術的・社会的実現性を明らかにする本事業を推進することが、上位目標10‐3「気候変動等の諸問題を科学的に解明し、国民生活の質の向上と安全を図るための研究開発成果を生み出す。」の達成に寄与すると考えられる。

D.効率性の観点

1.インプット  

 本事業の予算規模は、2,440百万円である。

2.アウトプット  

 本事業においては、設定された政策課題に対して大学等を中核とする研究拠点が構築され、国民の安全・安心に資する実効性のある適応策立案のための研究開発を推進する。その結果、21世紀気候変動予測革新プログラムの成果、シミュレーション技術、海洋・陸域における炭素循環観測から得られたデータ、データ統合技術を最大限活用し、我が国において気候変動に伴い起こる温暖化、感染症、水・食料、災害等の課題解決に向けた適応策立案に資するとともに、開発途上国の適応策支援にも活用される。このため、本事業は効率的・効果的に実施されると判断される。

3.事業スキームの効率性 

 本事業の予算規模(2,440百万円)に対し、アウトプットとして、文部科学省が有する研究基盤を最大限の活用しながら、適応策の有効性を定量的に示すとともに、その実施計画策定を政府としての取組として綿密な府省連携により推進する。
 適応策は実施に長期間を要し、コストも膨大になるものが多く、社会的影響も大きいため、早い時期に最も有効な適応策を科学的に明らかにすることが重要であることから、本事業のインプットとアウトプットの関係は効果的と考える。

4.代替手段との比較  

 不確実性を明らかにした気候変動の予測結果及び影響評価に基づいて、被害・影響を最小限にとどめる適応策を選定し、さらにその適応策の有効性を科学的・定量的に示すという取組は現在行われていない。
 さらに、各大学・研究機関や適応策実施者となる地方自治体等との綿密な連携により本事業を推進するには、最先端の研究基盤及び自然科学・社会科学の研究者・研究機関ネットワークを有する文部科学省が実施することが適当である。

E.公平性の観点  

 本事業は設定した政策課題に対する公募を行い、専門家による審査を経て、採択先を決定する予定であり、公平性は担保できると判断する。

F.優先性の観点  

 現在、地球温暖化・気候変動問題については、人類の生存基盤を脅かすおそれのある喫緊の地球規模の課題となっている。その問題解決のための時間的猶予はなく、本事業の研究成果である地球温暖化・気候変動への適応策評価を元に最終的な適応策立案につなげていくことが極めて重要である。

G.総括評価と反映方針

 平成22年度概算要求に反映

H.審議会や外部有識者の会合等を利用した中間評価の実施予定

 科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会地球環境科学技術委員会において実施予定。

指摘事項と対応方針

【指摘事項】

1.事業に対する総合所見(官房にて記載)

 特になし

2.外部評価、第三者評価等を行った場合のその概要

 特になし

3.政策評価に関する有識者委員からの指摘・意見等

 特になし

お問合せ先

大臣官房政策課評価室

-- 登録:平成22年02月 --