平成22年度要求額:2,400百万円
(平成21年度予算額:2,300百万円)
事業開始年度:平成20年度
事業達成年度:平成25年度
研究振興局ライフサイエンス課(石井 康彦)
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高齢化、多様化、複雑化が進み、様々な課題に直面している現代社会において、科学的・社会的意義の高い脳科学に対する社会的な関心と期待が急速に高まっている。(例 アルツハイマー病など認知症とされる人:約170万人、うつ病などを含む気分障害:約90万人、自殺者の数:毎年3万人以上など)
そのため、科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会/学術分科会学術研究推進部会 脳科学委員会(以下、「脳科学委員会」という。)における議論を踏まえ、重点的に推進すべき政策課題を設定し、その課題解決に向けて、研究開発拠点(中核となる代表機関と参画機関で構成)の整備等を実施し、社会への応用を明確に見据えた脳科学研究を戦略的に推進することにより、効率良く成果を社会に還元する「社会に貢献する脳科学」の実現を目指す。
科学技術・学術審議会において、平成19年10月に、渡海文部科学大臣(当時)より「長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について」諮問が行われたことを受け、同年11月に研究計画・評価分科会及び学術分科会学術研究推進部会の合同により、脳科学委員会が設置、審議され、平成21年6月23日に第1次答申がなされた。
同委員会においては、第1次答申に向けた審議の一環として、平成22年度予算要求に向けて、「脳科学研究戦略推進プログラム」で取り組むべき研究課題に関しても審議を行った。
本第1次答申においては、現代社会が直面する様々な課題の克服に向けた脳科学に対する社会からの要請に応えるため、「社会に貢献する脳科学の実現」を目指し、(1)脳と社会・教育(社会脳)、(2)脳と心身の健康(健康脳)、(3)脳と情報・産業(情報脳)の3つの重点的に推進すべき研究領域と、これらの脳科学研究を支える(4)基盤技術開発、及び各領域等における重点的に推進すべき研究課題が設定されている。
そして、その中でも、明確に社会への応用を見据えた対応が急務とされる重点研究課題については、政策課題対応型研究開発プログラムによる戦略的な研究の推進が求められている。
こうした第1次答申の提言に基づき、本プログラムにおいては、様々な社会問題解決に対する期待に応えるためには脳科学のどの部分が未成熟で、どの側面を特に強化していくべきかを整理した上で、明確に社会への応用を見据えた研究として、平成20年度に整備した2つの研究開発拠点及び平成21年度に整備した1つの研究開発拠点に加え、平成22年度から新たに政策課題の解決に向けた研究開発拠点を整備し、「社会に貢献する脳科学」の実現を目指す。
社会への応用を明確に見据えた脳科学研究を戦略的に推進し、効率良く成果を社会に還元するために、脳科学委員会における議論を踏まえ、重点的に推進すべき政策課題を設定し、その課題解決に向けて、平成20年度に整備した2つの研究開発拠点及び平成21年度に整備した1つの研究開発拠点に加え、平成22年度から新たに政策課題の解決に向けた研究開発拠点の整備を実施する。
脳の活動は、個体としての認識、思考、行動を司るに留まらず、異なる個体との間にコミュニケーション等による相互作用を生み出し、社会集団を形成する上でも決定的な役割を果たしている。このようなコミュニケーション等を含む社会的行動やそれらの習得過程に関する研究については、従来は人文・社会科学的なアプローチが用いられてきたが、近年大きな社会問題となっている社会性障害など、その範ちゅうでは捉えられない側面が急速に拡大していることから、人文・社会科学と脳科学が融合したより広い視点からの新しいアプローチが求められている。こうした社会的背景のもと、脳科学研究が豊かな社会の実現に貢献するために、社会への応用を見据えた研究を戦略的に推進する。
→社会性障害(自閉症、統合失調症等)の診断・治療法を開発【『社会的行動を支える脳基盤の計測・支援技術の開発』(既存)】
急速な高齢化社会の進行に伴い、QOL(生活の質)を損ない、介護を要する神経疾患が大きな社会問題となりつつある。また、現代人の心身の荒廃は著しく、疲労・ストレス・睡眠不足等が事故や疾患の誘因となり、膨大な経済的損失をもたらしている。こうした社会的背景のもと、現代人が健やかな人生を過ごす上で、脳科学研究が果たすべき役割は、過去に比して著しく高まっていることから、社会への応用を見据えた研究を戦略的に推進する。
→うつ病や睡眠障害、認知症等の予防・治療法の研究【『心身の健康を維持する脳の分子基盤と環境因子』(新規拡充)】
脳は、複雑な情報処理を行うといった特異的な機能を担っている。特に、脳の情報処理と動作原理を解明するとともに、脳にとって本来的な情報処理の在り方を探ることは、人間自身を知るという知の追究に留まらず、脳の構造と機能に合った安全・安心・快適な情報社会をつくり、豊かな生活基盤の構築として大きく貢献すると考えられる。このような観点に基づき、脳科学研究が安全・安心・快適な情報社会の形成に資するためには、社会への応用を見据えた研究を戦略的に推進する。
→脳の情報を計測し、脳機能をサポートすることで、身体機能を回復・補完する機械を開発【『ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の開発』(既存)】
基盤技術開発は、脳科学研究の共通的な基盤として革新をもたらすのみならず、自然科学全体の共通財産として、他の研究分野にもイノベーションをもたらし得るものである。そのため、他の自然科学諸領域と緊密に連携しつつ、基盤技術開発を継続的かつ強力に推進する。
→独創性の高いモデル動物の開発(既存)
指標:「長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について(第1次答申)」を踏まえ、「社会に貢献する脳科学」を目指した研究開発拠点等の整備状況及び各研究開発拠点等において重点的に推進すべき政策課題対応型研究の進捗状況を指標とする。個別には以下のとおりである。
(1)学際的・融合的な研究領域が確立できるような研究体制・研究組織の構築状況
(2)基礎研究と社会への貢献を見据えた研究の間に存在するギャップの改善状況
(3)大規模な研究・教育拠点及びネットワークの形成状況
(4)世界の一流機関と伍していくことができる競争力の高い国際的研究拠点の整備状況
(5)長期的視点による脳科学の人材育成状況
(6)脳科学と社会との健全な関係構築及び倫理性の確保状況
目標:蓄積された知見、技術を活用し、医学・薬学への貢献、産業応用に向けて生命現象のさらなる解明を図る。
20年度実績評価においては、「社会への貢献を明確に見据えた脳科学研究を戦略的に推進するため、平成20年度より立ち上げた『脳科学研究戦略推進プログラム』において、『ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の開発』(情報脳)及び『独創性の高いモデル動物の開発』(基盤技術開発)について、研究開発拠点の整備等を実施した。特に、『ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の開発』については、人がどのような画像を見ているかをヒトの脳活動パターンから再構築することに成功する等、予想以上の成果が出ている。今後は、平成21年6月23日に取りまとめられた科学技術・学術審議会の第1次答申「長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について」を踏まえ、脳と心身の健康(健康脳)に関する研究拠点の整備等が求められる。」と記載されている。22年度においては、新たに脳と心身の健康(健康脳)に向けた拠点の整備を実施する予定。
高齢化、多様化、複雑化が進む現代社会が直面する様々な課題の克服に向けて、脳科学に対する社会からの期待が高まっている。(例 アルツハイマー病など認知症とされる人:約170万人、うつ病などを含む気分障害:約90万人、自殺者の数:毎年3万人以上など)
このような状況を踏まえ、『社会に貢献する脳科学』の実現を目指し、社会への応用を明確に見据えた脳科学研究を戦略的に推進するため、脳科学委員会における議論を踏まえ、重点的に推進すべき政策課題を設定し、その課題解決に向けて、研究開発拠点等を整備することが必要である。
そのため、本年度は、本事業における従来からの取組に加えて、健やかな人生を支えるために、「発生から老化まで」という人間及び脳神経の一生の「健やかな育ち」「活力ある暮らし」「元気な老い」の3段階に着目し、心身の健康を支える脳の機能、健康の範囲を逸脱するメカニズム等を「分子基盤と環境因子の相互作用」という視点で解明する課題の設定が必要である。
脳科学に対する高い社会的な期待や関心に応えるため、「社会に貢献する脳科学」の実現を目指して、社会への応用を明確に見据えた脳科学研究の戦略的な推進が必要であるが、第1次答申においては、(1)脳科学研究に対する社会からの期待が高まっている一方で、脳科学研究の成果を社会に結びつけるための重点的な推進方策が不十分である、(2)我が国の脳科学研究推進の基盤となる大学において、我が国の脳科学研究は、講座や研究所の一部門などの小さな研究単位で主に行われており、特色を活かした、より大規模の研究教育拠点及びネットワーク形成が不十分である、といった課題等を踏まえ、科学的・社会的意義が高い脳科学研究を効果的に推進するためには、関連諸領域との連携による新たな研究領域の開拓・醸成を視野に入れた高い目標を掲げて、脳科学研究を継続的に推進するとともに、学際的・融合的な研究領域が確立できるような研究体制・研究組織を構築して、我が国における脳科学と関連諸領域の飛躍的発展を目指すことが急務である、と記載されている。
また、学際性・融合性の高い学問である脳科学の発展のためには、脳科学研究の推進体制や人材育成等といった研究・教育環境についても、包括的・全体的・融合的なアプローチが必要である、とも記載されている。
脳科学研究の成果は、社会への貢献に供されるまでに長い期間がかかる傾向があることから、脳科学研究の推進体制については、長期的かつ多様な研究が多面的に行われる体制構築が望ましく、大学、大学共同利用機関、研究開発独立行政法人、他省庁、地方公共団体、民間の研究機関などの国内の各々の研究組織がその特徴を生かしながら、それぞれの機関の枠を超えて有機的に連携することが必要であり、国の政策誘導のもとで、学際的・融合的研究環境を機関の枠を超えて有機的に連携する体制を構築する必要がある。
○脳科学総合研究事業費(独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター)
脳科学総合研究センターは、我が国の脳神経科学研究の中核的研究機関として、我が国の脳科学を総合的に牽引する役割を果たすとともに、現代の社会的、国民的課題である脳における諸問題を解明することを目的として、計画的に研究を進めるために平成9年10月に設置された。
平成20年度から5年間の目標として、「分子から回路を経て心に至る脳の仕組みを解読する」とともに、「脳の健やかな発達を促す養育・教育原理を示す」、「脳の発達異常と病の予防・治療原理を作り出す」、「脳の仕組みを工学応用するための設計図を書く」といったイノベーション創出のための研究に取り組むことを目標として、「心と知性への挑戦コア」、「回路機能メカニズムコア」、「発達異常・疾患メカニズムコア」、「先端基盤技術コア」の4つのコアを編成している。
脳科学総合研究センターは、その規模や柔軟かつ戦略的な人事制度の特徴をいかし、異なる分野をバックグラウンドに持った研究者を機動的に集め、主要な研究手法をカバーして「集約型・戦略的研究」を進めていることから、脳科学委員会における議論を踏まえつつ、本プログラムと連携を図りながら研究を推進することにより、効率良く成果を社会に還元する「社会に貢献する脳科学」の実現を目指す。
また、脳科学総合研究センターは、脳の基本原理の解明に加えて、健全な人間・社会の前提である「心」と「知性」の基本原理を脳科学研究により解明することを目指し、個別研究では不可能な分子・細胞から個体・集団レベルに渡る総合研究を実施することを目的としている。
一方、本事業では、重点的に推進すべき政策課題を設定し、その特定の課題解決に向けて、研究開発拠点等を整備する「政策課題対応型研究開発」であり、基礎基盤研究を総合的に行う同センターとの役割は異なる。
しかしながら、両者から生まれる成果等を、有機的に連携させることにより相乗効果を発揮させ、我が国総体としての研究開発力を強化できるよう、積極的に連携体制の構築も図っていく。
脳科学研究については、以下の文書等においてその推進の必要性が示されている。
(参考)INDEX2009 ※関連部分の要旨
本事業は「長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について(第1次答申)」を踏まえ、「社会に貢献する脳科学」を目指した研究開発拠点等の整備及び各研究開発拠点等において重点的に推進すべき政策課題対応型研究を進捗により、蓄積された知見、技術を活用し、医学・薬学への貢献、産業応用に向けて生命現象のさらなる解明を図ることを目標としている。
これまでに、神経発生・発達の段階で生じる微細な異常が、小児期のみならず成人してから発症する多くの精神・神経疾患の直接・間接の原因となることが明らかとなりつつあり、発症の分子基盤として生理学的な老化と共通の分子メカニズムの関与が明らかになりつつあるといった科学的知見も得られている。また、脳科学研究が学際性・融合性の高い学問であることを踏まえると、脳と心身の健康(健康脳)に向けた拠点の整備は、事業開始にあたり十分整備されていると考えられる。さらに、脳科学研究戦略推進プログラムにおいては、公募により研究拠点を募集し、外部有識者を含む選考委員会で厳正に審査し、目標を達成しうる研究機関を採択している。また、採択時のみならず、事業実施期間中も、文部科学省、PD、POらが頻繁に指導しているほか、平成21年度からは、採択した拠点同士の連携体制を確保し、一層の政策誘導を確保するための枠組み創設の検討を文部科学省主導で始める予定である。
以上、科学的観点及び実施体制の観点において、設定した目標を達成できる見込みである。
本事業においては、脳科学委員会における議論を踏まえ、重点的に推進すべき政策課題ごとに研究開発拠点の整備等を実施し、社会への応用を明確に見据えた脳科学研究を戦略的に推進することにより、上位目標10‐1である「国民への成果還元を抜本的に強化する」ことが促進される。
平成22年度要求額:2,400百万円(平成21年度予算額:2,300百万円、約3~6億円程度/1研究開発拠点)
「社会に貢献する脳科学」の実現を目指し、脳科学研究を戦略的に推進するため、優れた実績や他機関を支援する能力を有する大学等を対象に、重点研究課題ごとに中核となる代表機関と参画機関で構成される研究開発拠点等を形成する。
本事業については、脳科学委員会における議論を踏まえ、他の関連施策との役割分担を明確にしつつ、社会への応用を明確に見据えた戦略的な研究の推進体制を構築することから、事業スキームの効率性は担保される。
脳科学研究においては、社会への応用を明確に見据えた政策課題対応型研究開発は他に存在しない。
本事業は競争的資金制度に基づき実施し、全国の大学、研究機関等を対象として、公募により研究開発拠点を選定する予定であるため、公平性は担保できると判断する。
文部科学省においては、少子高齢化を迎える我が国の持続的発展に向けて、科学的・社会的意義が非常に高い脳科学研究を戦略的に推進し、成果を社会に還元することが重要であると考え、平成19年10月に、科学技術・学術審議会に対して、渡海文部科学大臣(当時)より「長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について」諮問を行った。
本年6月に第1次答申としてまとめ、その中において本事業は、同委員会における議論を踏まえて重点的に推進すべき政策課題を設定しており、また、高齢化、多様化、複雑化が進み、様々な課題に直面している我が国において、医療・福祉の向上や社会経済の発展に貢献するなど、社会への応用を明確に見据えた政策課題対応型研究開発として、他の事業に比べて優先度は極めて高い。
「長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について」(第1次答申)等を踏まえ、脳科学研究における予算の拡充要求。
平成24年度に科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会において中間評価を実施予定。
拠点に求められる機能が備わっているかについて、事後評価の際に客観的に判断できる指標の設定を検討していくこと。
脳科学委員会において事前評価を実施し、事業内容については概ね妥当であると判断された。
特になし
指標については、本事業の性質も十分考慮した上で、客観的な指標を検討していく予定。
大臣官房政策課評価室
-- 登録:平成22年02月 --