21.次世代スーパーコンピュータの開発・整備及びその利用促進(拡充) 【達成目標9‐3‐4】

平成22年度要求額:26,759百万円
(平成21年度予算額:19,032百万円)
事業開始年度:平成18年度
事業達成年度:平成24年度

主管課(課長名)

 研究振興局情報課(舟橋徹)

関係局課(課長名)

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事業の概要等

1.事業目的

 理論、実験と並び、現代の科学技術の方法として確固たる地位を築きつつある計算科学技術をさらに発展させるため、長期的な国家戦略を持って取り組むべき重要技術(国家基幹技術)である「次世代スーパーコンピュータ(次世代スパコン)」を平成22年度末の一部稼働、平成24年の完成を目指して開発・整備し、その施設の共用を図る。

2.事業に至る経緯・今までの実績

 次世代スーパーコンピュータは、第三期科学技術基本計画(平成18年3月閣議決定)において「国家基幹技術」に指定され、平成18年度より開発・整備が進められている。
 システム開発については、これまでに設計を終了し、製造段階へ移行した。
 施設整備については、計算機棟は平成20年3月から、研究棟は平成21年1月から、それぞれ建設を開始しており、平成22年5月に完工予定。
 ソフトウェアの研究開発に関しては、平成18年度から次世代スパコンの性能を最大限発揮するアプリケーション(グランドチャレンジアプリケーション)を開発するため、次世代ナノ統合シミュレーションソフトウェア及び次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発を実施している。平成21年1月に次世代ナノ統合シミュレーションソフトウェアの研究開発、平成20年8月に次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発について、それぞれ中間評価を実施し、前者は、「研究開発計画は概ね適切であり順調に進捗している」と評価され、後者は、「プロジェクト全体を俯瞰すると、概ね妥当な成果、計画をあげている」と評価された。
 また、平成21年3月に、次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価作業部会を設置し、進捗状況や今後の方向性等に関する中間評価を実施した。当該中間評価結果を踏まえ、平成21年7月には、実施主体の理化学研究所においてスカラ型単一の新たなシステム構成が決定された(これまではスカラ型(注1)とベクトル型(注2)の複合システム)。なお中間評価の過程において、ベクトル部を開発していたメーカーがシステムの製造段階への不参加を表明したが、影響は限定的と評価された。
 利活用については、平成20年7月に、科学技術・学術審議会の下の作業部会において報告書がとりまとめられ、共用のための基本的な方針が示された。また、当該報告書に基づき、平成20年11月には文部科学省に「次世代スーパーコンピュータ戦略委員会」を設置し、現在、利活用の具体的方策の検討を進めているところ。
 (注1)大きなデータを細分化して処理するシステム。
 (注2)大きなデータをまとめて処理するシステム。

3.事業概要

 今後とも我が国が科学技術・学術研究、産業、医・薬など広汎な分野で世界をリードし続けるため、
 (1)世界最先端・最高性能の「次世代スーパーコンピュータ(注) 」の開発・整備
 (2)次世代スーパーコンピュータを最大限利活用するためのソフトウェアの開発・普及
 (3)上記(1)を中核とする世界最高水準のスーパーコンピューティング研究教育の拠点(COE)の形成

を文部科学省のイニシアティブにより、開発主体(理化学研究所)を中心に産学の密接な連携の下、一体的に推進する。また、平成22年度より次世代スーパーコンピュータの戦略的利用のための準備研究を実施する。
 平成22年度においては、システム開発においてネットワーク性能を向上させることによりユーザー利便性を高めるとともに、施設の戦略的な利用を促進するプログラムについて、その予算規模を拡充する。
 (注) 10ペタFLOPS級の計算性能を有するスパコン(1ペタFLOPS:1秒間に1千兆回の計算)

4.指標と目標

○次世代スーパーコンピュータの性能目標

  • Linpack(注3)で10ペタFLOPSを達成する(平成23年6月のスーパーコンピュータサイトTOP500でランキング第1位を奪取)。
  • HPCC Award 4項目(注4)において最高性能を達成する。

○アプリケーションの達成目標(例示)
 (ア)ナノテクノロジー分野:全く不可能だった酵素反応解析が実現可能になる。
 (イ)ライフサイエンス分野:水中のウイルス構造やその動作を解析、ウイルスの感染機構や免疫機構を解明できる。

○サイバー・サイエンス・インフラストラクチャの構築
 グリッドミドルウェアにより、学術情報ネットワーク(SINET3)で接続された全国のスーパーコンピュータセンターから次世代スーパーコンピュータを利用できる環境を提供する。

○世界最高水準の研究施設を幅広く共同利用する体制の整備
 (注3)スパコンの性能を測るベンチマークテストのこと
 (注4)次の4項目を評価。 1.G‐HPL(=LINPACK性能)、2.G‐RandomAccess(ネットワーク速度を表す指標)、3.EP‐STREAM/system(メモリへのアクセス速度を表す指標)、4.G‐FFT(上記1.と3.の複合性能)

事業の事前評価結果

A.20年度実績評価結果との関係

達成目標9‐3‐4「施策への反映(フォローアップ)」において、「次世代スーパーコンピュータプロジェクトについて、中間評価の結果を踏まえて実施する。また、社会的・国家的見地から取り組むべき分野・課題について、戦略的・重点的に研究を推進する「戦略プログラム」の準備研究を実施するとともに、次世代スーパーコンピュータの今後の共用開始に向けて、引き続き検討を進める。」としている。また、中間評価においては、「インターコネクト(注)については、概念設計評価時の構成と比較して,アプリケーションの実効性能や共用の際のユーザー利便性が向上するよう通信帯域を倍増するなど改善されており、妥当」とされた。以上から、インターコネクト性能倍増や「戦略プログラム」の準備研究を実施すること等が必要であり、本施策の拡充は不可欠である。
 注:スパコン内部のネットワーク

B.必要性の観点

1.事業の必要性

 大学や公的研究機関では、ナノテクノロジーやライフサイエンス、環境・防災、原子力、航空・宇宙等の幅広い分野において10ペタFLOPS級の計算資源のニーズが顕在化している。産業界においても、ものづくりや創薬等において、製品化までの開発期間や開発コストの大幅な縮小を可能とするなどのシミュレーションのメリットが認識され、「スーパーコンピューティング技術産業応用協議会」が設立されるなど高性能スパコンへの期待が高まっている。一方、平成14年3月に運用を開始した地球シミュレータ以降、我が国にはスパコン開発プロジェクトがなく、スパコン開発において米国の後塵を拝している状況。
 以上から、我が国の技術力を維持・強化するとともに、我が国全体としての計算資源量を飛躍的に拡大するため、次世代スパコンを開発することが必要。また、世界最先端の次世代スパコンの完成後、速やかにその性能を最大限発揮させ、成果を普及させるためには、平成22年度から「戦略プログラム」の準備研究が必要。

2.行政・国の関与の必要性

 次世代スパコンは、新しい半導体材料や新薬の開発、台風の進路や集中豪雨の予測等へ応用が可能な幅広い汎用性を持ったものであり、我が国の産業競争力の強化、安心安全な社会の実現に資するものである。また、世界的にも、高性能のスパコンを保持することが、国の競争力に大きな影響を及ぼすとの認識の下、開発競争が激化している。このような中、次世代スパコンは、第3期科学技術基本計画において、我が国として開発すべき「国家基幹技術」に位置づけられており、国として着実な推進が必要である。
 また、次世代スパコンを開発・整備し、産学官の多様な研究者等の利用に供することは、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」において定められた法定業務である。

3.関連施策との関係

 特になし

4.関係する施政方針演説、審議会の答申等

 科学技術基本計画(第3期)
 第2章 P13 24~26行目、P14 29行目~P15 4行目

 「分野別推進戦略」(平成18年3月28日総合科学技術会議)
 2.情報通信分野
 3.戦略重点科学技術P69 17行目~28行目

  • 文部科学大臣指示書(平成21年9月18日)1.4.5.
    (参考)民主党マニフェスト2009P14, P22
  • IT、バイオ、ナノテクなど、先端技術の開発・普及を支援
  • 世界をリードする燃料電池、超伝導、バイオマスなどの環境技術の研究開発・実用化を進める。
  • 大学や研究機関の教育力・研究力を世界トップレベルまで引き上げる。

C.有効性の観点

1.目標の達成見込み

 科学技術・学術審議会下の次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価作業部会での中間評価報告書においては、「スカラ型単一のシステムは、プロジェクトの目標達成を念頭に置いたシステム構成として妥当」等とされていること、次世代スーパーコンピュータ戦略委員会において利活用の具体的方策の検討が着実に進んでいることから、目標達成は可能と見込まれる。

2.上位目標のために必要な効果が得られるか

 本事業は、世界最先端・高性能の次世代スパコン及びそれを最大限利活用するためのソフトウェアを開発し、その施設の共用を図るためのものであり、達成目標(9‐3‐4)の実現のために必要な効果を得ることができる。

D.効率性の観点

1.インプット

 本事業の予算規模は、26,759百万円である。

(内訳)

  • システムの開発 20,250百万円
  • アプリケーションの開発 1,640百万円
  • 施設整備 2,878百万円
  • 「戦略プログラム」の準備研究 750百万円
  • 運営費 1,241百万円

2.アウトプット

 世界最先端・最高性能の次世代スパコンが開発・整備され、次世代スパコンを最大限利活用するためのソフトウェアの開発・普及がなされるとともに、効果的な成果創出を実現。また、世界最高水準のスーパーコンピューティングに関する研究開発拠点(COE)の形成が図られる。

3.事業スキームの効率性

 アウトプットとして、世界最先端・高性能の次世代スパコン(10ペタFLOPS級)とそれを最大限利活用するためのソフトウェアが開発されることなどにより、1.我が国の技術力が維持・強化される、2.我が国全体の計算資源量が飛躍的に拡大され、広範な分野においてブレークスルーが創出される等が見込まれ、本事業のインプットとアウトプットの関係は適切と判断する。

4.代替手段との比較

 10ペタFLOPS級の計算環境を実現する方法として、グリッド技術(注)も考えられるが、CPU能力の限界まで要求される超大規模数値データを頻繁に通信するシミュレーションでは、データ転送時の処理の遅れやネットワークの帯域幅(通信速度)の制限で、CPUの処理速度に見合ったデータの供給が困難となり、処理効率が低下することがある。したがって、10ペタFLOPS級の計算環境は、一拠点にリーダーシップシステムを開発する方が、グリッド技術で遠隔地に分散する地球シミュレータ級(数十テラFLOPS)の計算機システムを数百サイトも繋ぐより、より短期間に安価で安定性の高いシミュレーション環境を実現できる。(注:グリッド技術は、計算機の処理速度を加速するものではなく、散在する計算機やデータベースの利用効率と利便性を高め、国内外の研究者などの協業を支えるもので、通信性能の制約を受けにくいシミュレーションやデータベースの効率的利用に有効。)
 また、海外の技術を用いた計算機を手当てすることでは、我が国の技術力の維持・強化、最先端の計算機を使った早期の成果創出が困難。

E.公平性の観点

 次世代スパコンは、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」に定められた共用施設であり、完成後には、産学官の広範な分野の研究者等に供されることとなる。次世代スパコンの利用者の選定については、登録施設利用促進機関により公正・中立な立場からなされることとされており、公平性は確保される。
 また、戦略的利用の準備研究についても、対象機関を大学、独立行政法人、民間企業等を対象として広く公募し、外部の専門家によって構成される専門部会で公正に選定することとしており、公平性は確保される。

F.優先性の観点

 最新(平成21年6月)のスパコン性能ランキング(TOP500)において、我が国のスパコンは地球シミュレータの22位が最高であり、上位の大多数を米国のスパコンが占めている状況。平成16年6月、海洋科学技術センター(現海洋研究開発機構)の地球シミュレータが、ランキング第1位を獲得したのを最後に、我が国のスパコンは、米国の後塵を拝している。更に、近年、アジアにおいてもスーパーコンピューティングの必要性の認識が強まり、TOP500において14位にサウジアラビアのマシンが、15位に中国のマシンがランキングしている。
 このような中、我が国が今後とも国際競争力を保つためにも、本事業は優先すべきものである。

G.総括評価と反映方針

 当該評価結果を踏まえ、22年度概算要求を行う。

H.審議会や外部有識者の会合等を利用した中間評価の実施予定

 特になし

指摘事項と対応方針

【指摘事項】

1.事業に対する総合所見(官房にて記載)

 特になし

2.外部評価、第三者評価等を行った場合のその概要

 科学技術・学術審議会下の次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価作業部会での報告書においては、これまで採用してきた複合システムについて、複合システムとしての性能が十分でない点が認識され、プロジェクトの目標達成を念頭においた最適なシステム構成を再検討するよう要請があった。これを受け、理化学研究所においては、スカラ型単一のシステムを提案。当該作業部会において、「スカラ型単一のシステムは、プロジェクトの目標達成を念頭に置いたシステム構成として妥当」との評価を受けている。また、当該作業部会において、「インターコネクトについては、概念設計評価時の構成と比較して、アプリケーションの実効性能や共用の際のユーザー利便性が向上するよう通信帯域を倍増するなど改善されており、妥当」とされた。
 次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価報告書(平成21年7月科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会情報科学技術委員会次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価作業部会)

○新たに提案されたスカラ型単一のシステムは、プロジェクトの目標達成を念頭に置いたシステム構成として妥当。
○複合システムを止めることについては、ベクトル部での利用を想定しているアプリケーションへの影響があるが、プログラムの書き換え等の調整を行うことにより、スカラ部でもある程度の実行性能が確保できる見込みがあり、影響は限定的。
○ベクトル部そのものの技術的意義・特徴は否定されるべきものではなく、詳細設計を通して得られる成果を有効に活用できるようとりまとめることを期待。
○インターコネクトについては、概念設計評価時の構成と比較して,アプリケーションの実効性能や共用の際のユーザー利便性が向上するよう通信帯域を倍増するなど改善されており、妥当。
○次世代スパコンの利活用については、現在、「次世代スーパーコンピュータ戦略委員会」で具体的方策の検討がなされているが、今後、次世代スパコンの幅広い共同利用体制の構築及び次世代スパコンを中核とする世界最高水準のスーパーコンピューティング研究教育拠点(COE)形成に向けた検討が進むことを期待。
 また、「戦略的研究開発プログラム」や「教育利用枠」を通じた人材育成の促進、「産業利用枠」を通じた産業利用の促進により、今後、将来の計算科学技術を担う人材が育成されるとともに、次世代スパコンの産業利用により我が国の競争力が強化されることを期待。

3.政策評価に関する有識者委員からの指摘・意見等

 特になし

【指摘に対する対応方針】

 中間評価の結果を踏まえ、次世代スパコンの開発・整備の実施主体である理化学研究所においては、スカラ型単一の新しいシステム構成を決定した。
 また、システム構成の変更、インターコネクト性能の倍増、「戦略プログラム」の準備研究等に係る予算を平成22年度概算要求に反映する予定。

お問合せ先

大臣官房政策課評価室

-- 登録:平成22年02月 --