平成21年度要求額:2,400百万円
(平成20年度予算額:1,500百万円)
事業開始年度:平成20年度
事業達成年度:平成29年度
中間評価実施年度:平成22年度
全国に散在する光科学技術・量子ビーム技術のポテンシャルを結集し、光・量子科学技術分野の研究開発課題を国として戦略的・積極的に実施するとともに、次世代の光・量子科学技術を担う若手人材の育成等を図ることにより、先端科学技術分野や産業分野での革新的な成果を創出することを目指す。
光科学技術・量子ビーム技術は、ライフサイエンス、情報通信、ナノテクノロジー・材料等の重点科学技術を先導するキーテクノロジーであり、各重点科学技術分野や産業分野における解決困難な諸課題を解決する実現技術(Enabling Technology)である。光産業の世界市場規模も、2010年以降、新たな光源技術の開花が見込まれるなど飛躍的に拡大すると言われている。このような状況を踏まえ、平成19年2月より「光科学技術の推進に関する懇談会」を設置し、今後の光科学技術施策の推進方策について中間報告書をとりまとめた。また、放射光、電子、ミュオン、中性子、イオンなどのビームを利用する量子ビーム技術についても、イノベーション創出基盤技術として大きな可能性を有し、産業への応用可能性が非常に高い技術である。そこで、科学技術・学術審議会量子ビーム研究開発作業部会は、平成19年6月に横断的利用の促進と先端的基盤研究開発の推進方策について報告書をとりまとめた。
本事業は、これらの議論を受け、各重点科学技術分野や産業分野での国際競争力強化に向けて、世界をリードする次世代光源、ビーム源、ビーム制御技術、計測手法等の研究開発を促進するとともに、次世代の光・量子科学技術分野を担う若手人材の育成を図るために、平成20年度より開始したものである。
平成20年度には、光科学技術に関するネットワーク研究拠点を2拠点、量子ビーム技術に関しては「次世代ビーム技術開発課題」で1課題、「高度化ビーム技術開発課題」で4課題の計5課題採択した。
光科学技術及び量子ビーム技術分野の研究を推進している複数の大学及び公的研究機関等を中核として、民間企業やレーザー光等の最先端の光・量子ビームを利用した研究を実施している研究者等も参画して形成されたネットワーク型の研究開発拠点。
最先端の光の創成や、量子ビーム技術における先端的な要素技術開発を目指したネットワーク型の研究開発拠点による、次の内容を含む提案を公募により採択する。
本事業では、単に、個々の研究機関における新しい光源等や量子ビーム関連要素技術の研究開発を推進するだけではなく、既存の最先端光源等の活用(共用)から若手人材育成まで一貫して実施することにより、産学官の光科学技術・量子ビーム技術分野のポテンシャルを結集することを目指している。これにより、光科学技術・量子ビーム技術分野のみならず各重点科学技術分野における世界最先端の成果獲得や産業分野での画期的イノベーション創出に貢献する。
平成21年度には、光科学技術に関しては、特に産業界やユーザー研究者からのニーズの高い光源・計測手法等の研究開発を実施するネットワーク研究拠点を1拠点追加募集する。また、量子ビーム技術に関しては、既存施設の高度利用等から波及する利用研究へのニーズが高いこと、平成21年度からJ-PARC中性子実験装置が本格的に稼働する予定であることなどから、中性子を利用した先導的研究開発も含めて、「高度化ビーム技術開発課題」を中心に3~4課題追加募集する。
光科学技術及び量子ビーム技術分野の研究を推進している複数の大学及び公的研究機関等を中核として、民間企業や最先端の光・量子ビームを利用した研究を実施している研究者等も参画して形成されたネットワーク研究拠点を、公募により採択し事業を実施。
<ネットワーク研究拠点のイメージ図>
ネットワーク型の研究拠点の構築等を通じて、光・量子科学技術分野のシーズと各重点分野や産業界のニーズとを融合した、最先端の光源、ビーム源、ビーム制御法、計測法等の研究開発を実施するとともに、若手人材の育成を図る。
本事業において、技術面・機能面で互いに相補う特性を持つ複数の研究機関によって効果的なネットワーク研究拠点が形成され、
について、採択された研究拠点毎に研究計画等においてあらかじめ具体的な目標を設定するとともに、当該目標の達成に関しては、毎事業年度の成果報告書や適宜実施する拠点参画機関へのヒアリング調査等により把握することとしている。
具体的には、本事業の実施に当たって、光・量子科学技術分野の幅広い見識を有するプログラムディレクター(PD)及びプログラムオフィサー(PO)を配置し、その強いリーダーシップの下で、効果的ネットワーク形成のための各参画機関間の調整や必要な助言等を行うとともに、上記目標についても、PD及びPOが、論文数、特許出願数、社会経済へのインパクトなどの総合的な観点から、研究拠点毎に毎年その達成状況の確認を行うとともに、次年度の具体的な研究業務計画等にその結果を適宜反映するなど定期的に成果確認を行うこととしている。
施策目標10‐7の「今後の課題及び政策への反映方針」において、「先端科学技術分野や産業分野での国際競争力強化に向けて、世界をリードする次世代光源・ビーム源や計測機器、ビーム制御技術等を研究開発の発展を促進するため、平成20年度より、全国に散在する光・量子科学技術のポテンシャルを3ネットワーク研究拠点等の構築を通じて結集することを目的とした「光・量子科学研究拠点形成に向けた基盤技術開発を実施するとともに、戦略的創造研究推進事業において、最先端の光源等を使い尽くした利用研究を推進している。」と明記されている。
光科学技術及び量子ビーム技術は、ナノテクノロジー・材料、情報通信、ライフサイエンス等の重点科学技術分野を先導するキーテクノロジーであり、各分野における画期的なイノベーション創出の源泉である。このような観点から、欧米はもとより中国などでも、他に先駆けて新しい光源・ビーム源を実現し、これを革新的な方法によって活用することなどのために、凌ぎを削った研究開発を戦略的に推進しているところである。
我が国においては、これまでSPring-8、JRR-3、TIARA等を利用した世界最先端の研究成果のほか、面発光型半導体素子、セラミクスレーザー素子、超伝導高周波加速空洞など光・量子ビームの要素技術においても、我が国独自開発で世界トップにたつ成果を輩出しており、光・量子科学技術分野のポテンシャルは極めて高いと言える。
一方、光・量子科学技術を戦略的・積極的に推進するための光源・ビーム源開発プロジェクト等は、国家基幹技術としてのX線自由電子レーザーの開発などの特定の領域以外はほとんど存在していないことに加えて、我が国の光産業の現状をみると、近い将来、世界市場の主流を占めると予想されている高出力半導体レーザーに関しては、現時点における需要が低いことからその開発に消極的であり、将来的な国際競争力低下が懸念されている。
今後、先端科学技術分野や産業分野において国際競争力を強化していく観点からも、全国に散在する光・量子科学技術のポテンシャルを結集し、世界をリードする次世代光源・ビーム源や計測機器、ビーム制御技術等を研究開発する必要がある。また、今後、急速に世界市場規模が拡大すると予測されている光産業などにおいて、これらの要素技術開発等は産業応用への発展も期待され、このような汎用性の高い先進的・革新的な計測技術等を応用可能性や利用可能性の広い共通基盤技術として開発する意義は極めて高い。
このため、光・量子科学技術分野において世界的にもポテンシャルの高い今、これらのポテンシャルの結集を図り、本分野を戦略的・積極的に推進することが必要である。
本事業では、光科学技術及び量子ビーム技術分野において、今後特に求められる新たな発想に基づく次世代光源・ビーム源等の研究開発を行うものである。これらは何れも要素技術の研究開発段階(基礎研究段階)から実施する課題であり、産業界で実施することは困難であるため、行政・国による関与が必要である。また、本事業では単なる要素技術等の研究開発にとどまることなく、既存の最先端光源等の活用(共用)から若手人材育成まで一貫して実施することにより、産学官のポテンシャルを結集することを目指しており、この観点からも、産業界が主体として実施することは困難であるため、行政・国の関与が必要である。
○戦略的創造研究推進事業(独立行政法人科学技術振興機構)
平成20年度戦略目標「最先端レーザー等の新しい光を用いた物質材料科学、生命科学など先端科学のイノベーションへの展開」のもとで、科学技術振興機構において、最先端の光源等を使い尽くした利用研究を公募・実施することとなっている。(事業開始年度:平成20年度)
本事業で実施する新しい光源・計測法等の研究開発や人材育成と、戦略的創造研究推進事業で実施する既存光源の利用研究とを相互補完的に実施することにより、光科学技術分野及び光を利用する各重点科学技術分野の双方にとって、我が国独自の革新的な研究成果がもたらされると期待される。
記載事項(抜粋)
第4章 原子力研究開発の推進
4‐1‐1.基礎的・基盤的な研究開発
RI等を利用した放射線利用研究や量子ビームテクノロジーに関しては、革新技術の探索や新しい利用分野を開拓する研究、原子力以外の広範な分野での利用を開発する研究等を着実に推進することが必要である。
記載事項(抜粋)
3.量子ビーム先端基盤研究開発について
3‐1.先端基盤研究開発の必要性
・・・このように、先進的・革新的な加速器技術、計測技術は非常に汎用性が高く、「みる」、「つくる」、「なおす」といった視点からの応用可能性や利用可能性の幅の広い共通的な基盤技術として、開発する意義は極めて高い。
3‐2.先端基盤研究開発の進め方
ここで目指している先端基盤研究開発も同様に、ネットワークの下で必要な情報交換を行いつつ、研究開発を実施することが目標を効果的に達成する上で適当であると考えられる。国公立・私立の大学や研究開発法人等を含む全国の関連研究機関が参画し、これらの連携を全国的かつ組織的に行う共通基盤技術プラットフォームを構築することにより、オールジャパンの体制で研究開発を実施することが期待される。
3‐3.人材育成の進め方
量子ビーム利用・開発の分野において、必要な技術レベルを維持し、高度な人材を確保していくという意味でも基盤技術研究開発は重要である。
記載事項(抜粋)
5.光科学技術の研究を推進するための新たな取り組み
(1)研究者、研究機関、産業界等のポテンシャルの結集
光科学技術分野と他分野とのポテンシャルの結集を図るためには、光科学技術を強力に推進している複数の研究機関を中核として、光を使って利用研究に取り組んでいる研究機関や研究者、更には産業界等も参画したネットワーク型研究拠点の構築が重要である。特に、大学との連携においては、研究教育の相互交流を活性化し、次世代を担う人材育成を効果的に進める。・・・
(2)光科学技術の研究を推進するための強力なプログラム
1.「研究拠点公募型プログラム」
本事業では、光科学技術・量子ビーム技術分野のポテンシャルを有する複数の研究機関を中核として、産業界や光・量子ビームの利用研究を行っている各分野の研究者等も参画したネットワーク研究拠点を、公募により選定し、次世代光源・ビーム源、計測手法、ビーム制御技術等の研究開発や若手人材育成等を実施するものである。本事業を行うネットワーク研究拠点は、光・量子科学技術分野での最先端の研究開発や人材育成のポテンシャルを有する機関が選定され、このような優位性をいかして事業を推進することとしているため、本目標の達成が見込まれる。
本事業の実施により、これまで個々に行われてきた光科学技術・量子ビーム技術分野の要素技術開発等の研究開発が、それぞれの機関の技術面・機能面での特性をいかした強力な連携・協力体制の下で、ポテンシャルを結集して集中的・効率的に行われることとなる。また、ネットワーク研究拠点は、光や量子ビームの利用研究を実施している研究機関や民間企業等とも連携しながら、利用・応用ニーズを踏まえた研究開発を実施するため、汎用性・応用利用可能性の高い光源・ビーム源開発技術や計測・制御技術が確立するものと期待される。さらに、若手人材育成面についても、現在、複数の大学等においては、光科学技術分野の教育研究を連携して推進するためのコンソーシアムの形成(例:東大、電通大及び慶応大による「先端レーザー科学教育研究コンソーシアム」の発足)や、民間企業と連携した教育研究プログラムの実施(宇都宮大学及びキャノンの連携による「オプティクス教育研究センター」の発足)等の取組みが始まっているところであるが、本事業の実施により、光科学技術・量子ビーム技術分野で始まりつつあるこれらの自助努力によるネットワーク形成が一層促進され、他の研究機関や産業界、ユーザー研究者との融合・連携へと展開する可能性が大きいため、施策目標10‐7「幅広い応用可能性を有する新たな先端的融合領域を積極的に発掘し推進することにより、わが国の科学技術・学術の高度化・多様化、ひいては社会ニーズへの対応と経済社会の発展を図る」の達成に寄与すると考えられれる。
本事業の予算規模は、2,400百万円である。
(内訳)
平成20年度には、光科学技術について2拠点、量子ビーム技術について5課題を採択・実施しているところであるが、これらに加えて、平成21年度には光科学技術について1拠点、量子ビームについて3~4課題公募により採択する予定である。
各拠点においては、それぞれの特徴をいかして、世界をリードする最先端光源や画期的な量子ビームの利用技術、光・量子科学に係る汎用性の高い要素技術等を開発するとともに、ネットワーク研究拠点への参画機関が保有する既存光源等をネットワークに参加するユーザー研究者に提供することも行うこととなっているため、これら先端研究資源を活用した融合研究(共同研究等)が進展することも期待できる。
さらに、光科学研究拠点において実施する若手人材育成プログラムは、大学院生やポストドクター等を対象として、最先端の光源等の研究開発に参画しながら、基礎科学と産業技術応用の間が近接した当該分野の知識体系を実践的に習得する機会を提供するものであり、次世代の光科学技術を担う若手人材(大学院生やポストドクター等)にとっては自己の研究能力を研鑽・向上させる好機となるものと期待される。
本事業では、光科学技術についてはあわせて3拠点、量子ビーム技術についてはあわせて8~9課題採択し、我が国に散在するポテンシャルを日本全体として結集する仕組みを構築することとしている。本事業では、これまで個々の機関において別々に実施されてきた光・量子科学技術分野の研究開発や若手人材育成等について、互いの強みや特性をいかした連携・協力体制の下で強力に推進することとなるため、効果的・効率的な事業スキームであると考えられる。
本事業では、新しい光源、ビーム源、ビーム制御法、計測法等の研究開発を要素技術開発の段階から実施するだけではなく、次世代の光・量子科学技術分野を担う若手人材を育成するためのプログラム等をも策定・実施することとしており、特定の独立行政法人の事業として実施するだけでは、ネットワーク形成に限界があるものと考える。一方、委託費により本事業を実施した場合、多数の大学が主体的に参画したネットワーク形成が可能となること、産学官の多様な研究機関の参画が可能となることなど施策の広がりが大きくなる。また、委託費により公募型で本事業を実施することにより、ネットワーク研究拠点への応募に際して、各研究機関は自助努力によりネットワーク形成を進めていくことになるため、これが呼び水となり、採択拠点数以上にネットワーク形成が進展することが期待できるなど波及効果も大きい。
本事業では、全国の産学官の研究機関を対象として、公募により複数の研究機関から構成されるネットワーク研究拠点を採択するものであり、また、採択にあたっては、産学官の外部有識者からなる審査検討会による審査を経て課題及び実施機関を選定することとしているため、公平性は担保されている。
科学技術・学術審議会量子ビーム研究開発作業部会では、平成19年6月に「横断的利用の促進と先端的基盤技術開発の推進」について、光科学技術の推進に関する懇談会では、平成19年7月に「今後の光科学技術施策の進め方」について、それぞれ提言が纏められ、ネットワーク形成により我が国のポテンシャルを結集して、光・量子科学技術分野の研究開発や若手人材育成等に国として戦略的・積極的に取り組むことが強く求められており、平成20年度の新規施策として本事業を優先的に開始したところである。今年度の応募状況から、質の高い技術開発課題が十分見込まれることに加え、平成21年度からJ-PARC中性子実験装置が本格稼働の予定であり、中性子を利用した先導的研究開発のニーズが新たに見込まれる。このような状況にも関わらず、当該事業が実施されない場合、円滑な技術開発・人材育成への支援が行われなかったために、他国との技術競争に遅れをとるなどの将来的な損失を生むことが予想される。従って、今年度においても当該施策は他の事業に優先して実施する必要がある。
評価結果は妥当。ただし、各研究拠点、研究課題の指標を具体的かつ定量的に設定し、事業の進捗状況を評価し、改善に努める必要がある。
本事業の進捗状況の評価に関しては、論文数や特許出願数等の指標をもとに総合的な観点から評価し、必要に応じて事業の見直し等を行うこととしたい。
大臣官房政策課評価室
-- 登録:平成21年以前 --