69.デジタル・ミュージアムの実現に向けた研究開発の推進(新規)【達成目標7-4-5】

平成21年度要求額:606百万円
  (平成20年度予算額:‐百万円)
  事業開始年度:平成21年度
  事業達成年度:平成26年度
  中間評価実施期間:平成24年度

主管課(課長名)

  • 科学技術・学術政策局計画官(柿田 恭良)

関係課(課長名)

  • 研究振興局情報課(舟橋 徹)

事業の概要等

1.事業目的

  五感等の各種感覚を統合する複合情報処理技術を確立し、多様な個性に対してインタラクティブに応じる鑑賞・体験システムを構築することを目指す。

2.事業に至る経緯・今までの実績

  近年デジタル技術の発展は目覚ましく、社会的イノベーションを引き起こし、ライフスタイルを大きく変貌させることが期待されている。一方、有形無形の文化資源をより身近なものに感じられるようにし、世界に向けて発信することは、国民生活を豊かにするとともに、日本文化に対する国際的な理解を促進する効果がある。
  そこで、文部科学省では、平成18年度に文部科学大臣のイニシアティブのもと、デジタル情報技術や博物館等の専門家を中心に、総務省の協力を得て、「デジタルミュージアムに関する研究会」を発足させた(文部科学事務次官決定)。次世代のデジタル技術を用いて時空間の制約を受けずに文化の鑑賞・体験を可能とする、デジタルミュージアムに関する研究開発構想を検討し、平成19年6月に「新しいデジタル文化の創造と発信(報告書)」をとりまとめた。
  これを受け、平成19年度には、科学技術施策として立案していくためのより具体的な取り組みとして、デジタルミュージアム実現のための調査・検討を行った。産学と博物館関連の有識者から成る検討委員会を発足させ、10年後に構築可能なパイロットプロジェクトの検討とその中間アウトプットとしての5年後のモデルの検討、関連する要素技術動向調査、諸外国における類似事例調査、パイロットプロジェクトおよび要素技術の波及効果の検討を行い、報告書にとりまとめた。
  この他、文化創造に貢献する研究開発への取り組みとして、これまでに、科学技術振興調整費の重要課題解決型研究「デジタルコンテンツ創造等のための研究開発」において、映画、音楽、アニメ、ゲームソフトをはじめとするコンテンツの国際競争力確保のため、技術革新の進展に即応したCG等の映像技術、ブロードバンドにおける流通技術等による良質なデジタルコンテンツの制作・流通等が円滑に図られるよう、先端的な技術に関する研究開発を行ってきた。また、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業において、平成16年度戦略目標として「メディア芸術の創造の高度化を支える先進的科学技術の創出」を設定し、研究領域「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」に対する研究提案を公募・選定し、実施している。

3.事業概要

  産学官の研究機関及び博物館等によるコンソーシアムを公募し、五感に訴えるよりリアルなコンテンツを三次元空間中に時系列で構築し、ユーザに提示し、さらに、ユーザの状況をリアルタイムにセンシングしてユーザの反応にその場で応答するようなシステムを構築するための研究開発を実施する。このシステムの構築を通し、個別技術を統合して疑似体験を提供するような、高度な複合情報処理技術を創出する。
  より具体的には、主に以下の内容を実施する。

  1. 超高精細映像、立体映像、色彩再現、立体音響、触覚提示、嗅覚提示等の個別技術、および、それらを統合して創出される相互作用により、ユーザの感覚に訴える作用を持つシステムを構築する。
  2. 上記システムは、画像認識、音声認識、触覚センシング、生体情報解析等の技術を用いてコンテンツを体験したユーザの反応をセンシングし、コンテンツの表現にリアルタイムにフィードバックすることにより、リアルでインタラクティブな体験をも可能とする。
  3. 上記システムにおけるコンテンツとして、本事業で研究開発する技術を用い、かつ、有形/無形の文化の鑑賞・体験を提供するデジタルミュージアムに相応しいものを設計する。

スキーム図

4.指標と目標

指標

  要素技術のデモシステムにおける機能レベルまたは性能レベル

目標

  3次元計測、3次元映像、立体音響、触覚ディスプレイ等の視覚・聴覚・触覚等のセンシング・提示技術を確立し、各要素技術を統合してインタラクティブに文化を擬似体験可能なデモシステムを1件構築し、公開する。

効果の把握手法

  デジタルミュージアムの構築に必要となる要素技術が研究計画に即した形で実現されていること及びこれらを統合した高度なデモシステムが構築されていることを評価・検証する。

事業の事前評価結果

A.19年度実績評価結果との関係

  特になし。

B.必要性の観点

1.事業の必要性

  本事業は、既に失われ、又は現在失われつつある文化をより現実に近い形で保存するとともに人々に体感してもらうことを可能とするシステムの実現のための研究開発であり、ここで得られる研究成果は、技術的観点はもとより、文化的観点、教育的観点等からも波及効果が大きい。
  また、EUでは「フレームワーク計画」(Framework Programme)の第6次及び第7次における研究領域であるDigiCult(Digital Heritage and Cultural Content)において、文化的・科学的資源の保存(デジタル化)とVR(バーチャルリアリティ)・画像認識・位置検出等の先進技術を活用した映像展示が推進されているほか、米国においても、スミソニアン博物館において3次元計測と3次元CG表示を行う等、関連技術を展示に応用する取組が行われているところであり、より先進的な文化発信システムの構築に向けた研究開発を他国に先駆けて我が国において実施することにより、関連技術の競争力を維持・向上することが期待される。

2.行政・国の関与の必要性(官民、国と地方の役割分担等)

  現状では、関連の要素技術開発が個々の機関で並行して行われており、一つのシステムとして統合し、実用化することが困難な体制になっている。関連の要素技術を統合し、五感に訴え、かつ、インタラクティブに機能するような大規模なシステム構築のための研究開発は、単独の機関だけでは実施が難しく、かつ、収益性の面においても民間等が主導をとることは難しい。「革新的技術」である3次元映像技術をはじめとする高度な技術開発を、個々の要素技術を統合しながら戦略的に推進するためには、国がリーダシップをとることが不可欠である。
  また、文化芸術をより現実に近い形で保存し、人々に体感してもらうのに必要な精度を実現するための研究開発は、民間に依るのではなく、文化政策という観点からも国が進めていくべきものである。
  よって、本事業は、国がイニシアティブをとって進めていく必要がある。

3.関連施策との関係

1.主な関連施策

  ○超高臨場感映像システムの研究開発事業(総務省)
  超高精細映像放送を実現するための符号化技術、立体映像技術等の研究開発。
  (事業開始年度:平成20年度)

  ○知的資産の電子的な保存・活用を支援するソフトウェア技術基盤の構築事業(文部科学省)
  教育、文化・芸術分野における知的資産の電子的な保存・活用等に必要なソフトウェア技術基盤の構築のための研究開発。
  (事業開始年度:平成16年度)

  ○デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術事業(文部科学省)
  情報科学技術の発展により急速な進歩を遂げたメディア芸術という新しい文化に係る作品の制作を支える先進的・革新的な表現手法、これを実現するための新しい基盤技術を創出する研究。
  (事業開始年度:平成16年度)

2.関連施策との関係(役割分担・連携状況)

  既存の施策では、放送向け映像システムに限定した研究開発(総務省)、あるいは、文化財のデジタル・アーカイブ化に限定した研究開発(文科省)等、本事業でも必要となると考えられる要素技術の一部に該当する研究開発が、個々に実施されている。
  本事業は、上記関連施策や民間・大学で個別に進められている要素技術の研究開発をデジタルミュージアムという明確なターゲットへの活用という観点から加速し、かつ、異なる要素技術間の統合により新たな技術を創出しシステム化することを目指すものである。革新的技術の1つでもある3次元映像技術の開発も含め、現在関連省庁との連携の検討を進めている。

スキーム図

4.関係する施政方針演説、審議会の答申等

第3期科学技術基本計画 分野別推進戦略(平成18年3月 総合科学技術会議決定)

  記載事項(抜粋)

  • 戦略重点科学技術
    • 世界と感動を共有するコンテンツ創造及び情報活用技術
革新的技術戦略(平成20年5月 総合科学技術会議決定)

  記載事項(抜粋)

  高度画像技術 ・3次元映像技術

  • 知的財産推進計画2008(平成20年6月 知的財産戦略本部決定)

  記載事項(抜粋)

  第4章 コンテンツをいかした文化創造国家づくり

  1.デジタル・ネット時代に対応したコンテンツ大国を実現する

  4.世界中のクリエーターの目標となり得る創作環境を整備する

  (2)コンテンツの創作を支える技術開発を促進する

  2.世界をリードするコンテンツ関連の技術開発を促進する
  デジタル・ミュージアム等の公開・展示技術や高精細度画像関連技術等、先進的なコンテンツ制作や新たな表現及び流通の実現をもたらし得る先端技術の研究開発を促進する。

C.有効性の観点

1.目標の達成見込み

  大型ディスプレイ開発技術やロボット開発技術等のものづくり技術、コンピュータビジョンに代表されるセンシング技術、インタラクティブ3D技術を含むユーザ・インタフェース技術等、本研究事業に関連した要素技術は、日本が強い分野である。
  特に、VR(バーチャルリアリティ)技術に関しては、研究者を束ねる学会を持っているのは日本だけであり、SIGGRAPH等国際学会における実空間表示系では、わが国の存在感が際だっている。触覚インタフェース分野でも、東京大学のほか、東京工業大学、大阪大学、国際電気通信基礎技術研究所等が国際会議で活発な発表を行っている。また、立体映像表示、表示映像とのインタラクション、触角ディスプレイ等については東京大学等が世界各国に特許を出願している。
  このように、他国と比較しても高度な技術が我が国にあることから、これらを統合したシステムを構築しようとする本事業の目的達成可能性は高い。

2.上位目標のために必要な効果が得られるか

上位目標

  達成目標7‐4‐5 「異分野の融合・連携を伴うような新たな研究開発課題について、それに相応しい効果的・効率的な推進方策の構築を促進し、優れた研究成果の創出・活用を推進する。」

  本事業は、科学技術と文化の融合・連携により、インタラクティブな文化の鑑賞・体験システムの基盤的技術を構築し、失われた文化財の再現、失われつつある文化財の記録、現存の文化財に負担をかけない展示を現在よりもさらに精緻な形で可能とするための研究開発をコンソーシアムの形成により実施するもの。このような推進方策のもの優れた研究成果の創出・活用を推進するものであることから、必要な効果が得られると判断。

D.効率性の観点

1.インプット

  本事業の予算規模は5年あたり約3,000百万円、初年度606百万円である。

  (内訳)

  • 科学技術試験研究委託費 600,000千円(公募による委託の予定)
  • 非常勤職員手当 4,263千円
  • 諸謝金 676千円
  • 職員旅費 134千円
  • 委員等旅費 1,331千円
  • 庁費 45千円

2.アウトプット

  本事業では、達成年度までに、複数の要素技術から成る実験用デモシステムを構築することを目指す。
  初年度は、産学官の研究機関及び博物館等によるコンソーシアムを形成し、コンテンツのコンセプト検討およびデモシステム全体の構成の検討を行い、各要素技術の開発を進める。3年目終了時には、中間アウトプットとして、機能を限定したデモシステムの完成を目指す。中間アウトプットの評価結果も踏まえてさらに要素技術開発を進め、達成年度には高機能化されたデモシステムの構築が実現する予定である。

3.事業スキームの効率性

  本事業は、単独の機関では実施が難しい要素技術のシステム化のための研究開発を、個々の要素技術の高度化を図りつつ戦略的に行うものであり、現在個々に行われている要素技術開発を研究者に任せて順次統合する方法や、現在公開されている要素技術のレベルに合わせてシステム化する方法よりも、高度なシステム構築を効率的に行うことができる。

4.代替手段との比較

  本事業で取り組む個々の技術開発の一部は、現在大学/民間等様々な機関でも実施されている。これに対し、本事業は、個々の機関で取り組むことが困難な、個別の研究理論を組み合わせた複合情報処理技術の研究開発や、統合システム構築に関する研究開発を目指している。異なる機関が一体となって取り組まなければ推進が難しいという点において、単なる投資増では解決が困難であり、現状代替手段は存在しないと言える。

E.公平性の観点

  本事業は、公募により提案を募り、専門家の審査を経て実施機関を決定する予定であり、公平性は担保できると判断する。

F.優先性の観点

  本事業は、映像のみならず五感や感覚情報等をも統合したより先進的な文化発信システムの構築を目指すものである。他国に先駆けて本研究を実施することにより、わが国の次の競争力の源泉となりうる重要な技術の創出につながるものであり、また、既に失われつつある有形/無形の日本の文化の保存と発信にも貢献することが期待できることから、高い優先度で実施すべきものである。

G.総括評価と反映方針

  21年度概算要求に反映
  21年度機構定員要求については、デジタル・ミュージアムについての企画・立案、関係機関等との連絡調整、公募・採択及び評価等を担当する新領域推進係長を新規要求している。

指摘事項と対応方針

指摘事項

1.事業に対する総合所見(官房にて記載)

  評価結果は妥当。ただし、関連する要素技術を有する機関や関連施策と連携して進める必要がある。また、5年後/10年後の出口を見定めつつ、具体的かつ定量的な指標を設定して進める必要がある。

2.外部評価、第三者評価等を行った場合のその概要等

「新しいデジタル文化の創造と発信(報告書)」(平成19年6月19日 デジタルミュージアムに関する研究会)

  次世代のデジタル技術を用いて時空間の制約を受けずに文化の鑑賞・体験を可能とする、デジタルミュージアムに関する研究開発構想を検討。人々を感動させるよりリアルな「体験」を提供するために、超高精細映像等によるコンテンツの視覚的な再現だけでなく、五感情報やインタラクティブ性の付加及び各感覚情報を統合的に扱う技術が不可欠とした。

指摘に対する対応方針

  • コンソーシアムを形成することで、関連する要素技術を有する機関との連携を図る予定である。また、総務省等関連省庁との連携については、現在検討を進めている。
  • 5年後にはデモシステムの構築、10年後にはニーズも踏まえたシステムの最適化を目標として技術の確立を目指すが、定量的な指標は、具体的なシステムの設計時に検討する予定である。

お問合せ先

大臣官房政策課評価室

-- 登録:平成21年以前 --